2000年代中頃から終わりにかけて、メタルコア/デスコアを巻き込んで盛り上がったマスコア (カオティック・ハードコア)。その頃夢中になっていた See You Next Tuesday が復活したと聞いて、グラインドコアの現状を把握しようとディグっていたのが今年の頭。昔はレーベルやディストロの商品レビューを片っぱしから読んでは気になるバンドをメモして横の繋がりを把握しつつ、グラインドコア・シーンの状況を把握しようとしていたが、今ではグラインドコアに特化したYouTubeチャンネルもあり、世界に点在するDIYグラインドコア・バンドたちの拠点としてかつてのレーベルのような役割を果たしてくれているので、どんなバンドがアクティヴで、どのくらいの規模で活動しているのが直感的に把握しやすくて助かる。

グラインドコアはSpotifyなどのプラットフォームにない作品も多く、シーンの追いかけ方を工夫しないと、思わぬ名作を聴き逃してしまう可能性の高い。Spotifyで好きなバンドをフォローするだけでなく、YouTubeチャンネルやBandcamp、そして世界中のあらゆるディストロをチェックするのがいいだろう。グラインドコアと一言に言っても、デスメタルと結びつきが強かったり、ノイズ・シーンで活躍するバンドもいたり様々。自分のお気に入りのタイプは何なのかを知ってディグると面白いと思います。

アルバムのチョイスに偏りがあるかも知れませんが、グラインドコアだけでなく、あらゆるジャンルを聴いている方でも引き込まれる要素を持ち合わせた作品を何個も混ぜ込んでいますので、ぜひ全部チェックしてみてください。このリストにない素晴らしい作品についてはぜひコメントで教えてください!

 

Birdflesh 『Sickness in the North』

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スウェーデンのグラインドコア・カルト、Birdflesh の通算9枚目のフル・アルバムは、2019年の『Extreme Graveyard Tornado』以来およそ4年振りにリリースされた。Birdlfeshは、結成から30年が経過しても、大きくペースを落とすことなくライブ活動、制作活動を続けている真のベテラン。彼らを知っているグラインダーなら、彼らがファニー・グラインドをプレイし、Obscene Extreme Festivalのステージで狂喜乱舞を繰り広げる様を想像出来るだろう。このアルバムも御多分に洩れず、毒舌のユーモアをたっぷりと詰め込んだ作品になっており、純粋なグラインドコアを基調としながらもスラッシュメタル、ゴアグラインド、ハードコアパンクとごちゃ混ぜで面白い。

このアルバムを日本語のメタル・サイトであるRIFF CULTが紹介する大きな理由は、アルバム・リリースに先駆けて発表された先行シングル「Hammer Smashed Japanese Face」にある。とにかくこのくだらないミュージックビデオを見て、そして歌詞を眺めてみてもらいたい。聴き終わった時、私はこの曲をRIFF CULTで紹介しないといけないという謎の使命感に駆られてしまった。

「Tokyo, I want to go, Yokohama, hammer hammer」、「Osaka, Nakatomi Hakodated and mutilated」、「Nunchaku attack Nintendo-san Ramen rama ding dong Hammer hammer smashed」といった小学生でも思いつかないようなチープなフレーズがカミソリのようにソリッドなグラインド・リフの上で吠えている様はなんとも可笑しい。特にYokohama Hammer Hammerというアホくさいフレーズは神がかっている。こういうくだらないアイデアに何時間も費やして、しかもそれを30年続けているというだけで、グラインドコア・ファンは彼らを好きになる必要がある。いや、嫌いになんてなれないだろう。

そのほか収録曲「Chainsaw Frenzy」にはMatt Harvey (Exhumed, Gruesome)がフィーチャーされており、ゴアメタル・ファンはもちろん、Macabre, Municipal Waste, Ghoul, Immortalといったバンドのファンにもおすすめ出来る本格派キラーチューンだし、エンディングの「Alive To Lose」はジャパコアにも似たサウンドスケープで驚く。日本のグラインダーなら2023年上半期はBirdfleshを聴くべきだ。

 

Rotten Sound 『Apocalypse』

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スウェーデンのお隣 フィンランド を拠点に、Birdfleshと同じく90年代初頭から活動を続けているのが、Rotten Soundだ。前作『Abuse To Suffer』からおよそ7年振りとなる本作は、通算8枚目のアルバムで、Season of Mistから発売された。

このアルバムは20分とグラインドコア・アルバムの中でも比較的短い収録時間であるが、18曲が収録されており、一度もブレイクすることなく、暴力的ともいうべきグラインドの塊が鼓膜に襲いかかってくる。オリジナル・メンバーであるボーカリスト Keijo Niinimaa と ギタリスト Mika Aalto のプレイに注目してアルバムを何度も聴き込むと、30年という時間をかけて培ったグラインドコアの美学というものが感じられる。Keijoのスクリームはデスメタルにあるようなローの効いたものでなく、高速で叩き込まれるビートの上を煙るように、喉を振り絞るようにして咆哮される (「Digital Bliss」のアウトロのスクリームは一級品)。

「Denialist」から「Fight Back」あたり、アルバムの中間に位置するこれらの楽曲は、アルバムの中で最も「グラインドコア・バンド Rotten Sound」としての輝きを放っている。ドゥーミーなリフから急速にアクセルを踏み込みつつ、巨大なフックを生み出すストップ&ゴーを絶妙なバランスで組み込んでいく。彼らの人気作品である『Exit (Willowtip Records』や『Cycles (Spinefarm Records)」と比べると、さらに装飾を削ぎ落としたサウンドが印象的。いくつか公開されたミュージックビデオは若干チープで何度も見るものではないが、このアルバムは何度も何度も聴いて、体の内側から熱くなれる傑作だと思う。

 

See You Next Tuesday 『Distractions』

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2008年に傑作『Intervals』を発表し散り去ったミシガンのエクスペリメンタル・グラインドコア/マスコア・カルト、See You Next Tuesday がシーンにカムバック。およそ15年振りとなるアルバム『Distractions』をGood Fightからリリースしたことは、個人的に2023年グラインドコア・ニュースの中で最も印象的であったし、かなり興奮した。

というのも、メタルコアやスクリーモが爆発的な人気を誇っていた2000年代後半のメタル・シーンにおいて、カオティック・ハードコア/マスコア・シーンやブルータル・デスメタル・シーンとの境界線をシカトして猛烈な人気を誇っていたのがSee You Next Tuesdayであったからだ。Rotten Sound、その他Napalm Deathなどどいったグラインドコア・バンドとは明らかに違う異質さは、恐ろしく長い楽曲名、カラフルでグロテスクな当時のエモファッションにも近いアパレルを身にまとったヴィジュアルからも漂っていた。iwrestledabearonceなどと同列に並べられがちであるが、そのサウンドはノイズに接近するほどラウドで難解であった。

復活後もそのスタイルを崩さず、わずか34秒の「Glad to Be Unhappy」では電気ショックのようなギターのフィードバックが恐ろしいほどの存在感を放ち、ミュージックビデオにもなっている「Day in the Life of a Fool」では、まるでEvery Time I DieやThe ChariotがLSDを喰らいながらブルータル・デスメタルを5倍速でプレイしたかのような混沌を表現している。これだけ奇天烈なことをやっておいて、テクニックは素晴らしいし、しっかりグラインドしている。ややデスコアやマスコアに理解がないと興味が湧きにくいバンドかも知れないが、グラインドコアの裾をさらに拡大するべく、彼らが再びシーンに戻ってきてくれたことを歓迎したい。

 

The HIRS Collective 『We’re Still Here』

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この記事に挙げられている他のグラインドコア・バンドと比べると、The HIRS Collectiveの存在は異端と言えるだろう。LGBTQIA+コミュニティから発生したフィラデルフィアを拠点に活動するThe HIRS Collectiveは、弱者の立場にある人たちのために戦い続けている。グラインドコアと呼ばれるカテゴリーでのみ活躍するようなバンドではなく (それはサウンドにおいても同様)、その幅広い交友関係は、このアルバムに参加しているゲスト・ミュージシャンのリストを見れば明らかだろう。

1. We’re Still Here (feat. Shirley Manson & AC Sapphire)
2. Sweet Like Candy (feat. Nø Man, Thou, & Jessica Joy Mills)
3. Burn Your House Down (feat. Jessica G.Z., and Gouge Away)
4. N.O. S.I.R. (feat. Justin Pearson & Nevada Nieves)
5. Waste Not Want Not (feat. Soul Glo & Escuela Grind)
6. Public Service Announcement (feat. Dan Yemin & Dark Thoughts)
7. Judgement Night (feat. Ghösh & Jessica Joy Mills)
8. Trust The Process (feat. Frank Iero & Rosie Richeson)
9. XOXOXOXOXOX (feat. Melt-Banana)
10. You Are Not Alone (feat. Lora Mathis & The Body)
11. Apoptosis and Proliferation (feat. Nate Newton & Full Of Hell)
12. So, Anyway… (feat. Geoff Rickly & Kayla Phillips)
13. A Different Kind of Bed Death (feat. Anthony Green & Pain Chain)
14. Neila Forever (feat. Jeremy Bolm & Jordan Dreyeri)
15. Last Kind Meets Last Preist (feat. Chris #2 & Derek Zanetti)
16. Unicorn Tapestry Woven in Fire (feat. Marissa Paternoster, Damian Abraham, & Pinkwash)
17. Bringing Light and Replenishments (feat. The Punk Cellist & Sunrot)

アルバムのタイトルトラック「We’re Still Here」は、オルタナティブロック・バンド Garbage のリードシンガーであるShirley Mansonをフィーチャーした印象的な一曲。歌詞はどれも意外とシンプルというか、伝えたいことをストレートにスクリームしている感じ。My Chemical RomanceのFrank Ieroが参加している「Trust The Process」もThe HIRS Collectiveらしさ溢れるカオティックなグラインディング・チューンで飾り気なしの清々しさに溢れている。参加するどのミュージシャンも本業のバンドでは見せない怒りやメッセージをここで発散しているように感じるというか、The HIRS Collectiveとのコラボなんだから叫んでもいいでしょというような雰囲気がある。シンプルに怒りや日頃の鬱憤を発散する音楽が私たちには必要で、グラインドコアはまさにうってつけの音楽であり、現代的な社会問題をテーマにしている彼らが特別な魅力を放つのは当然だ。

 

Smallpox Aroma 『Festering Embryos of Logical Corruption』

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2006年にタイ・バンコクで結成されたSmallpox Aromaのファースト・アルバム。活動がストップする2009年まではコンスタントにスプリット作品をリリースし続けていたが、メンバーそれぞれに本業バンドがあり、そちらを優先していたようだ。ドラマーのPolwach Beokhaimookは、タイを代表するブルータル・デスメタルのドラマーで、RIFF CULTでも彼が在籍しているEcchymosisの来日公演を手掛けたことがある。

グラインドコアというにはヘヴィなデスメタル・ブレイクダウンがあったりとピュアなスタイルではないが、彼らが在籍するブルータル・デスメタルでは出来ないことをやっているし (「Quest for the Missing Head」はブルータルなハードコアパンクみたいな曲)、アクセスとブレーキーの踏み分けのそれがグラインドコアと同じだ。2023年9月にははるまげ堂の招聘によって再来日が決まっている。彼らの良さはライブだと思う、見逃さないようにしておこう。

 

Sick Sinus Syndrome 『Swarming of Sickness』

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チェコ・オストラバを拠点に2020年に結成されたSick Sinus Syndromeの2年振りセカンド・アルバム。「Rot Ridden Pathological Grindcore」を自称する彼らの才たる魅力はCarcassやGeneral Surgeryを彷彿とさせる溺死ボーカルと血管がブチ切れるほどの熱量だ。

メンバーそれぞれにこの手のシーンの名手であり、ギター/ボーカルのBilosはMalignant Tumour、ベーシストのHaryはPathologist、ドラマーのJurgenは元Ahumado Granujo。2000年代のグラインドコア/ゴアグラインドの血生臭さ溢れるSick Sinus Syndromeのサウンドには懐かしさがたっぷりと詰まっている。「Psycho Pathology Mania」のミュージックビデオは必見。

 

Warfuck 『Diptyque』

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フランス・リヨンを拠点に2011年から活動するグラインドコア・デュオ、Warfuckの5年振り通算4枚目。YouTubeにアップされている「Obscene Extreme 2013」での彼らのステージを映像で見たことがある人も多いだろう。ユニット体制でありながら、他のバンドとなんら遜色のないグラインドコアのライブステージからは、2人のグラインドコアに対する才能を感じることが出来るはずだ。

アルバムからはユニット体制であることの魅力を感じることは出来ない (メンバーがベースなどをレコーディングしている) が、Napalm Deathの王道スタイルでダイナマイトを爆発させながら突進していく。グラインドコアのピュアさが清々しいとさえ感じる作品。

 

CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP 『We Live as Ghosts』

コネチカットを拠点に活動するワンマン・ノイズグラインド・プロジェクト、CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP CHOP。このイカれたプロジェクト名を本人も「CHOP 7times」と省略して使っているのですが、検索しにくすぎて不便では……。しかしバンド名を何気なく発見し、気になって再生ボタンを押してしまったので、それが彼の策略であったならば私はまんまとその策略にはまってしまっている。そして気になったのがCHOP7timesのアーティスト写真。これは彼のBandcampをぜひ見てほしい。ノイズ・ファンなら興味をそそられるはずだ。

このアルバム、全て打ち込みで作られており、リアルの楽器を一切使用していないんだとか。こうした怒れるエナジーを楽器を使って肉体的に表現してこそグラインドコアの魅力が輝きを放つのではないかと疑問に思うが、これはこれで素晴らしく、非人力だからこそのエクストリームな感情表現を完成させているようにも感じる。人間だと叩けないスピードのブラストビートであったり、不気味な転調にハーシュノイズの雑なカットアップ。こういうのが好きな人は結構いるし、自分もその一人。非常に引き込まれるアルバム。

 

2023年の上半期も素晴らしいグラインドコア・アルバムに出会うことが出来ました。皆さんのお気に入りは何でしたか?また、このリストにない素晴らしい作品を知っていたら、ぜひコメントで教えてください!

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