メタルメディアはもう必要ない? ジャーナリズムが消えた先に待っているもの

メタルのニュースを知るために、今でも音楽メディアを読んでいるだろうか。かつて新しいバンドやアルバムを知るためには、音楽雑誌や専門サイトを読むことが当たり前だった。しかし現在では、SpotifyやYouTube、Instagram、TikTokなどを開けば、アーティスト自身から直接情報が届く。新しいバンドを探したければ、好きなYouTuberやインフルエンサーのおすすめを見ることもできる。

そんな時代に、音楽ジャーナリストはまだ必要なのだろうか。

YouTubeチャンネルHeavy Metal Philosophyが公開した「Do We Still Need Journalists In Metal?」では、近年相次いでいるメタル/ロック系メディアの人員削減を出発点に、音楽ジャーナリズムを取り巻く現在の状況について考察している。動画で語られているのは単なるメタルメディアの衰退ではない。ゲーム、スポーツ、格闘技、政治などを含め、従来型メディアそのものが縮小しているという、より大きな変化だ。

メタルメディアで相次ぐ大量解雇

動画では、BrooklynVegan、Alternative Press、Revolverなど、ロック、メタル、パンクを扱ってきたメディアで大規模な人員削減が起きたことから話が始まる。さらに、それ以前にもMetal Injection、MetalSucks、Blast Beat Networkなどで大量解雇が行われていた。こうした状況からHeavy Metal PhilosophyのJohn Barbisは、今回の出来事を一つの企業の経営判断や一時的な問題ではなく、メディア業界全体で起きている構造的な変化として捉えている。

同じ現象は音楽以外でも起きている。動画ではMMAを例に、かつて格闘技人気が高まった時代には多くの専門メディアがあり、格闘技について書くことで生活するジャーナリストも数多く存在していたが、現在ではその数が大きく減っていると説明する。その理由の一部にはメディア自身による質の低い報道もあるとしながら、それ以上に根本的な問題として「人々が以前ほど記事を読まなくなった」ことを挙げている。

音楽メディアも同じ問題を抱えている。有給のライターを雇い、オフィスやウェブサイトを維持するメディアにとって、記事は一定以上のアクセスを生み出さなければならない。読者が減少すれば、その仕組みそのものを維持することが難しくなる。

 

音楽メディアからインフルエンサーへ

従来型メディアに代わって存在感を強めているのが、YouTube、Podcast、Instagram、TikTokなどを通じて情報を発信する個人だ。

動画では再びMMAが例として挙げられている。現在では多くの格闘家が自分自身のPodcastを持っている。ファンの立場から考えれば、格闘技について知るために記者の記事を読むよりも、実際に戦っている選手本人から試合や業界の裏側について直接話を聞く方が魅力的に感じられるかもしれない。

音楽でも同じことが起きている。新しいアルバムが完成すれば、バンド自身がSNSで発表できる。レコーディングの様子もYouTubeで公開でき、ツアー日程もInstagramからファンへ直接届けられる。新しい音楽を探す場合も、自分と趣味の近いYouTuberやプレイリストキュレーターをフォローすればいい。

ここには「媒体」から「人」への変化もある。YouTubeやPodcastの視聴者は、そのチャンネルそのもの以上に、そこで話している人物を信頼するようになる。「この人がおすすめしているなら聴いてみよう」という関係が生まれる。一方、大手音楽サイトの記事を毎日読んでいたとしても、その記事を書いたライターの名前までは知らないという読者は珍しくない。

こうした個人による発信は、アンダーグラウンドのアーティストを紹介するという点では大きな可能性を持っている。特定のジャンルに詳しい人物が新しい作品を取り上げることで、それまでバンドを知らなかった多数のリスナーへ音楽が届く可能性がある。

 

それでもジャーナリストが必要な理由

では、バンド自身が情報を発信でき、YouTuberやインフルエンサーが新しい音楽を紹介できるのであれば、音楽ジャーナリストは必要なくなるのだろうか。

動画が重要視しているのは、「音楽を紹介すること」と「ジャーナリズム」は同じではないという点だ。インフルエンサーは新しいバンドを紹介したり、アルバムについて意見を述べたり、ニュースを解説したりすることができる。しかし、業界そのものを監視する調査報道は別の仕事になる。

例えば大企業や業界団体に問題があると疑われた場合、本格的な報道を行うためには関係者への取材、企業へのコメント要請、複数の資料や証言の確認、法律や契約の調査、編集者によるチェックなどが必要になる。場合によっては訴訟などの法的リスクも伴う。そのため、従来型の報道機関には記者だけでなく、編集者や法務など、ジャーナリストの仕事を支える組織が存在してきた。

John Barbis自身も、この違いを明確にしている。過去にMetal Digestで働いていた時期には自分をジャーナリストだと考えていたが、現在は「メディアの人間ではあるが、ジャーナリストではない」と位置付けている。現在の活動はニュースについてコメントしたり、PR会社から届いた情報を紹介したりすることが中心であり、本格的な調査報道を行っているわけではないからだ。

もし今回のメディア大量解雇についてジャーナリストとして報道するのであれば、関係するメディアや企業へ直接コメントを求め、複数の情報源からデータを収集し、編集者とともに検証しながら一つの記事へまとめる必要があるという。カメラの前で調べた内容について意見を話すことと、取材と検証を重ねて報道することには大きな違いがある。

 

クリックベイトを生み出したのは誰なのか

クリックベイトとは…インターネット上でユーザーの興味や好奇心を過剰に煽るようなタイトルや画像(サムネイル)を使い、思わずリンクをクリックさせてアクセス数を稼ぐ手法

従来型のメタルメディアにも、多くの批判が向けられてきた。動画ではLoudwireなどが掲載してきた、有名ミュージシャンのちょっとした発言をニュースにした記事が例として挙げられている。

メタルファンからすれば、「有名バンドの細かな発言ばかり記事にするのではなく、もっとアンダーグラウンドのバンドを紹介してほしい」と感じることもあるだろう。しかし動画では、それについて読者自身の行動も考える必要があると指摘している。

メディアで働いているライター自身もメタルファンであり、新しいアンダーグラウンド・バンドについて書きたいと思っている。しかし、そうした記事を書いても読者がクリックしない。一方、有名アーティストについての記事には多くのアクセスが集まる。有給のライターを雇い、メディアという組織を維持するためには収益が必要になる以上、最終的には読まれる記事を増やさざるを得なくなる。

つまり、ファンが嫌っていたクリックベイトはメディアだけが一方的に作り出したものではない。読者が何をクリックしたのかという行動も、その方向性を作る一因になっている。メディアに対して「なぜアンダーグラウンドを取り上げないのか」と批判しても、実際にその記事が読まれなければ、ビジネスとして継続することは難しい。

 

ジャーナリズムの空白を埋めるもの

質の低い記事やクリックベイトに不満を持ってきた人の中には、既存の音楽メディアが衰退することを歓迎する人もいるかもしれない。しかし動画では、その消滅を単純に喜ぶべきではないと主張している。

なぜなら、既存メディアが消えた場所に、より優れたジャーナリストが現れるとは限らないからだ。その空白を埋める存在として考えられるのが、インフルエンサーとAIである。

動画では、人間のライターを大量に解雇したメディアが同じ規模で記事を公開し続ける場合、「では誰が記事を書くのか」という疑問を提示している。その選択肢としてボランティアのライターなども考えられるが、John BarbisはAIによる記事制作が増える可能性についても触れている。

ただし、この部分については注意が必要だ。動画内で彼自身が、特定のメディアの記事がAIによって制作されているという証拠を持っているわけではなく、あくまで自分自身の推測であることを明確にしている。一部の記事タイトルや著者名などを見てAIではないかと疑っているものの、それらが実在するライターによるものではないと断定しているわけではない。

それでも、人件費を削減しながら大量の記事を公開したい企業にとって、AIが魅力的な選択肢になる可能性があるという問題提起は残る。

 

エンゲージメントが情報を変えていく

インフルエンサーにも優れた発信者は存在する。自分で資料を調べ、情報を確認し、可能な限り正確な内容を伝えようとしている人物もいる。しかし、YouTube、Instagram、TikTok、Podcastなどには、従来の報道機関に存在していた編集部のような仕組みが基本的にはない。

さらにSNSの世界では、情報の正確さとは別の数字が重要になる。再生回数、コメント、シェア、フォロワー、そしてスポンサー契約などにつながる「エンゲージメント」だ。

ここから動画では、文化的・政治的な対立を利用したコンテンツの問題へと話が進む。複雑な問題を冷静に説明する記事や動画よりも、「あのバンドは差別的だ」「このバンドはwokeだ」といった極端な主張の方が、多くの反応を集める可能性がある。批判する人も擁護する人もコメントし、シェアするため、結果としてアルゴリズム上では強いコンテンツになる。

そのため、従来型ジャーナリズムが衰退したからといって、情報環境が自動的に改善するわけではない。むしろ正確な報道よりも、怒りや対立を生み出すコンテンツが優先される可能性がある。

 

メディアもインフルエンサーも完全には信用できない

動画後半では、従来型メディアにも別の問題があることが語られる。企業による所有や広告主との関係によって、報道内容に影響が生まれる可能性だ。

John Barbisは自分自身の番組で行ったブランド案件を例として取り上げている。実際に使用して良いと思った商品だけを紹介しているとしても、その企業から金銭的な利益を得ている以上、発信内容に何らかの影響が生まれる可能性は完全には否定できない。規模は異なっても、大手メディアと広告主の関係にも同じ問題が存在するのではないかと問いかけている。

つまり、この動画は「ジャーナリストなら信用できる」「インフルエンサーは信用できない」という単純な二項対立を提示しているわけではない。既存メディアにも問題があり、インフルエンサーにも問題がある。企業メディアも間違えるし、個人の発信者も間違える。

最終的にJohn Barbisが出す答えは、「誰も完全には信用できない」というものだ。彼は自分自身についても、間違える可能性のある一人の人間にすぎないと話している。

だからこそ、一つの情報源だけに依存するのではなく、多くのメディア、多くの記者、多くの個人発信者が存在することが重要になる。それぞれ異なる視点や主張を提示し、複数の情報源を比較しながら事実を確認できる状態が必要なのだ。

 

メタルメディアは本当に必要なくなるのか

おそらく、従来型の音楽メディアが縮小してもメタルという音楽そのものがなくなることはない。バンドは音楽を作り続ける。SpotifyやYouTube、SNSを通じてファンへ直接作品を届けることもできる。新しい音楽を発見するという役割だけを考えれば、YouTuber、Podcast、SNSアカウント、プレイリストなどが従来型メディア以上の力を持つ場面も増えていくだろう。

しかし、「音楽を紹介すること」と「音楽業界について報道すること」は同じではない。

新しいバンドを紹介するだけなら、ジャーナリストである必要はない。しかし、レーベル、プロモーター、ストリーミングサービス、チケット企業、大手興行会社などがどのようなビジネスを行っているのかを調査し、それがアーティストやファンにどのような影響を与えているのかを伝えるためには、別の役割が必要になる。

既存の音楽メディアには多くの問題があった。クリックベイトもあれば、読者を怒らせることを目的としたような記事も存在した。しかし、それらがなくなった場所に必ずより優れたものが現れるとは限らない。そこを埋めるのはAIによって大量生産された記事かもしれないし、エンゲージメントを最大化することを目的としたインフルエンサーかもしれない。あるいは、アーティストや企業自身によるPR情報だけが残る可能性もある。

Heavy Metal Philosophyの「Do We Still Need Journalists In Metal?」が投げかけているのは、単純に「音楽ジャーナリストは必要なのか」という問いだけではない。

これから私たちは、「誰から音楽の情報を受け取るのか。そして、その情報が正しいかどうかを誰が確認するのか」。

メタルメディアで相次ぐ人員削減は、音楽を伝えるメディアの役割そのものが変わり始めていることを示しているのかもしれない。

参照 : https://www.youtube.com/watch?v=0uPJ_7bw-gc (Do We Still Need Journalists In Metal?!)

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