2022年にリリースされたテクニカル・デスメタル (Technical Death Metal) の中から優れた作品をピックアップし、年間ベスト・アルバムとしてレビューしました。中にはプログレッシヴ・デスメタル、テクニカルだけどスラッシュ・メタルと呼ばれる作品も含まれていますが、それぞれのジャンルにおいてテクニカルさが際立つバンドはテクニカル・デスメタルとしてレビューしています。レビュー数が多いので、前編と後編に分けてお送りいたします。過去の年間ベスト記事と合わせてお楽しみ下さい!
シングルリリースのみのアーティストなどは、YouTube、Spotifyプレイリストにまとめていますので、そちらを聴き流しながら記事を読むのもオススメです!
- 1 Revocation — Netherheaven
- 2 Rings Of Saturn — Rings Of Saturn
- 3 Spire Of Lazarus — Soaked In The Sands
- 4 Fallujah — Empyrean
- 5 Aronious — Irkalla
- 6 Godless Truth — Godless Truth
- 7 Arkaik — Labyrinth Of Hungry Ghosts
- 8 Eciton — The Autocatalytic Process
- 9 The Last Of Lucy — Moksha
- 10 Gutsaw — All Lives Splatter
- 11 共有:
Revocation — Netherheaven
4年振りのリリースとなった通算8枚目フルレングス。ギタリストDanの脱退、そしてコロナウイルスによるパンデミックの影響はRevocationのソングライティング、レコーディングに大きな変化をもたらした。Davidはパンデミック期にエンジニアリングを研究、アルバム通じて初めて自身でプロデュースを行った。アートワークからも分かるようにサタニックなデスメタルを全面に押し出し、クラシックな「Diabolical Majesty」からミッドテンポの「Godforsaken」など、幅広いデスメタル・スピリットを聴かせてくれる。エンディングを飾る「Re-Crucified」はアルバムのキーとも言えるキラーチューン。
Rings Of Saturn — Rings Of Saturn
カリフォルニア州ベイエリアを拠点に活動するテクニカル/プログレッシヴ・デスメタル/デスコア・バンド、Rings of Saturn (リングス・オブ・サターン) 。オリジナル・アルバムとしては通算6枚目で、初期のアヴァンギャルドな超絶テクニカル・デスメタルからプログレッシヴ・スタイルへと大幅にスタイルチェンジ。どこかPolyphiaを彷彿とさせる流麗なサウンドをベースに、随所でソリッドなデスコア・エレメンツを散りばめる、Rings of Saturnの新たなチャプターを予感させる仕上がりとなっている。
Spire Of Lazarus — Soaked In The Sands
2016年前身バンドDayumを結成。2020年にSpire Of Lazarusへと改名している。Dayumから3枚目となる本作はDayumからのコンビであるギタリストJuliusとベーシストThomasに加え、Psalm of AbhorrenceのボーカリストJonが加入し、Juliusがドラムを兼任している。オリエンタルなオーケストレーションが嵐のように吹き荒ぶ中、目の覚めるようなブラストビートで駆け抜けていく。スウィープ、タッピングと満天の星空のようなメロディの煌めきも異次元だ。女性ボーカリストPipiをフィーチャーした「Farah」の豊麗多彩な世界観に圧倒される。
Fallujah — Empyrean
カリフォルニア・ベイエリアのテクニカル・プログレッシヴ・デスメタル・バンド、Fallujahの通算5枚目のスタジオ・アルバム。すっかり中堅となり、唯一無二の存在感を見せるFallujahであるが、Rob、Antonioが脱退するなどなかなかメンバーが固定出来ない時期が続く。本作では新たにArchaelogistのボーカリストKyle、そしてThe Faceless、Animosity、Entheos、Refluxと名だたるバンドに在籍してきた経歴を持つベーシストEvan Brewerが加入。暗雲を払拭するかのように力強く、そして正確に叩き込まれるドラミングとFallujahをFallujahたらしめるScottのしなやかなメロディックリフのコンビネーションに百戦錬磨のEvanのベースラインがどっしりと屋台骨を支える。
Aronious — Irkalla
2011年グリーンベイで結成したAroniousのセカンド・アルバム。2020年にデビュー・アルバム『Perspicacity』発表後、ボーカルBrandon、ギタリストのNickとRyan、ベーシストJason、そしてBenightedやGods of Hateなどでドラムを担当してきたKevin Paradisという5人体制となり、本作の制作を開始。不気味に渦巻く奇怪なバンドロゴが、彼らが一体どんなバンドなのかを的確に表現していると言っていい。ほとんど鬼気と呼んでよいほどの不気味な迫力溢れるアヴァンギャルドなドラミングとリフが得体の知れぬ異世界へと聴くものを誘う。
Godless Truth — Godless Truth
オリジナル・ギタリストPetrを中心に18年振りにシーンにカムバックした彼らのアルバムはバンド名を冠した堂々たる一枚だ。2017年に開催した同郷のデスメタル・バンドDissolution周りのミュージシャンが集い、ツインギターの5人体制となったことで、Petrのギターワークは浮き立つように存在感を放つ。「Scissors」や「Breathe Fire」のリフはこのアルバムのハイライトだ。Death以降の90年代テクニカル・デスメタルを上品さを持ってしてモダンにアップデートすることに成功、セルフタイトルとしてリリースした自信も感じ取れる。
Arkaik — Labyrinth Of Hungry Ghosts
The Artisan Eraへと移籍、Gregが脱退し、新たにドラマーとしてSingularityやAlterbeastで活躍したNathan Bigelow、過去にArkaikでライブ・ギタリストを担当した経歴のあるAlex Haddadが加入。ゲスト・ベーシストにInferiのMalcolm Pughを招き、レコーディングが行われた。前作『Nemethia』の延長線上にあるサウンドは迫力に磨きがかかり、プログレッシヴでありながらブルータルな仕上がりとなっている。「To Summon Amoria」ではヴァイオリン、フルート奏者をフィーチャー、NileやNecrophagistを彷彿とさせるサウンド・デザインにも挑戦している。
Eciton — The Autocatalytic Process
2004年、前身バンドIndespairが改名する形でコペンハーゲンを拠点にスタート。本作はボーカリストJesper von Holckを中心にギタリストのKristianとThomas、ベーシストGustav、そしてIniquityで活躍したドラマーJesper Frostの5人体制でレコーディングが行われた通算4枚目のスタジオ・アルバム。クラシックなデスメタルに精彩に添えられたテクニカル・デスメタルのエレメンツは自由で無駄がなく、それでいて豊かで洗練されている。強度のテクニカルでなく、高潔な芸術作品とでも言うべき一枚。謎めいたアートワークにもどこか惹かれる。
The Last Of Lucy — Moksha
2007年ハンティントン・ビーチでギタリストGad Gidonによって立ち上げられたThe Last Of Lucy。本作までにボーカルJosh、ギタリストChristian、ベーシストDerek、Ominous RuinのライブドラマーやTo Violently Vomitでもドラムを務めるJosef Hossain-Kayの5人体制になっている。摩訶不思議な地球外生命体のアートワークもそそられるが、そのサウンドもどこか不気味。ハードコア譲りのボーカルにきめ細やかなリフをメロディアスに展開。The Zenith Passageのようなジャリジャリとした質感の刻みに妙な心地良さを覚える。
Gutsaw — All Lives Splatter
2003年コロナで結成されたベテランであるが、2004年にリリースしたデビュー・アルバム『Progression of Decay』以来アルバムのリリースはなく、本作は18年振りに発表されたセカンド・アルバム。オリジナル・メンバーであるベース/ボーカルDavidとギター/ボーカルNecroに加え、Vampire SquidのドラマーMark Rivasが加わり制作された。ツインボーカルで絶え間なくガテラルを掛け合いながら、テクニカル・デスグラインドとも言うべきサウンドを爆速で繰り広げていく。時折挟み込まれるバウンシーなフレーズもフックが効いている。