AI音楽は本物のバンドからリスナーを奪っている? 現代メタルに広がる「AIアーティスト」の問題

生成AIの普及は、文章や画像だけでなく音楽の世界にも急速に広がっている。AIを利用して楽曲を制作し、Spotifyなどのストリーミングサービスへ作品を公開する「AIアーティスト」も珍しい存在ではなくなった。しかし、その存在が実際のミュージシャンと同じ場所で再生数やリスナーを獲得するようになったことで、新たな問題も生まれている。

YouTubeチャンネルMETALBIRBが公開した「This AI Slop Is RIPPING OFF Real Bands」では、モダンメタル/ロック周辺で人気を集めている複数のAI音楽プロジェクトを実際に聴きながら、その状況について強い批判を展開している。

動画の冒頭では、Holding AbsenceのLucas WoodlandやDayseekerのRory Rodriguezといった実在するアーティストもAI音楽の問題について発言していることが紹介される。特に、Holding Absenceから影響を受けたとみられるAI音楽が、すでにHolding Absence本人たちを上回る規模の月間リスナーを獲得しているという状況が取り上げられている。

 

モダンメタルにも入り込み始めたAIアーティスト

動画では、現在ストリーミングサービス上で一定規模の人気を獲得しているAIプロジェクトを実際に取り上げ、その楽曲を聴いていく。

最初に登場するのがBleeding Verseだ。プロフィールには「心からの歌詞、AI-assisted instrumentation and vocals」と記載されており、AIによって楽器やボーカルを制作していることを明らかにしている。動画収録時点で代表曲「If You Loved Me Then」はSpotifyで310万回以上再生されており、さらに短期間のうちにアルバム、EP、アコースティック版など複数の作品を公開していた。

METALBIRBが特に問題視したのは、単にAIで音楽を作っていることだけではない。YouTube上の楽曲説明欄に「#dayseeker」というハッシュタグが使用されていたことだ。

Dayseekerとは直接関係のないAIプロジェクトが、実在する人気バンドの名前を利用して検索や推薦からリスナーを獲得しているのであれば、それは単なる「影響を受けた音楽」の範囲を超えているのではないか。動画ではこの行為について、Dayseekerを助けているのではなく、その知名度に便乗して再生数を得ようとしていると強く批判している。

 

数百万再生を記録しながら、実体が見えないプロジェクト

動画で続いて紹介されるのがSerinxの「Love Like War」だ。動画収録時点でSpotifyでは150万回以上再生されていたという。

しかし、METALBIRBが確認した範囲では通常のバンドのようなSNSアカウントが見当たらず、YouTubeではコメント欄も閉鎖されていた。音楽自体はエレクトロニックなビートとメタルコア的なコーラス、ギターソロなどを組み合わせた構成になっており、現代的なモダンメタル/メタルコアの特徴を再現しようとしている。

METALBIRBは終始かなり辛辣な表現で楽曲を酷評しているものの、一部のギターソロについては「悪くなかった」と認める場面もある。その一方で、歌詞や曲展開にはAI生成音楽にありがちな不自然さを感じているようだ。

さらにBeyond Disdainの「Everything We Gave」では、Selene Calderという人物をフィーチャリングした作品が紹介される。しかし、その人物について独立したInstagramアカウントなどを確認できず、METALBIRBはアーティストそのものの実在性を疑問視している。

ここで浮かび上がるのは、これまで音楽ファンが当然のように想定してきた「アーティストとは何か」という問題でもある。プロフィール写真があり、アーティスト名があり、楽曲がSpotifyに並んでいれば、多くのリスナーはそこに人間のミュージシャンが存在すると考える。しかし生成AIの登場によって、その前提そのものが成立しなくなりつつある。

 

24万人の月間リスナーを持つ「バンド」

続いて登場するObsidian Swingは、動画収録時点でSpotifyに約24万人の月間リスナーを持っていた。

Spotify上にはバンド写真のような画像も掲載されている一方、METALBIRBが確認した範囲ではInstagramなどの通常のバンド活動を示すSNSが見当たらない。また、複数のアルバムやEPが公開されているものの、それらが短期間に集中してリリースされていたことにも疑問を投げかけている。

楽曲「Every Moment」を聴きながら、AI生成のモダンロック/メタルに共通していると感じる特徴についても触れている。電子的なビートが頻繁に使用され、ボーカルは常に大きく、感情的で、極端なまでに「壮大」な方向へ向かうという。

もちろん、それだけでAIによる楽曲だと判定できるわけではない。しかし現在増えている生成AIによるモダンメタルでは、既存の人気ジャンルで頻繁に使われる要素が強調され、組み合わせられることで、ある種の共通したサウンドが生まれていると動画では捉えている。

 

The Velvet Sundownが象徴するAI音楽の拡大

最後に取り上げられるのがThe Velvet Sundownだ。

The Velvet Sundownについては、AIによって制作された音楽プロジェクトとして広く認識されるようになった一方、動画では当初AIであることを否定していた時期もあったとして紹介される。

METALBIRBは「Dust on the Wind」を実際に再生し、他の作品と同様に非常に厳しい評価を下している。動画全体を通して評価基準そのものが「AIで制作された音楽を支持しない」という立場に立っているため、通常の音楽レビューというより、AIアーティストの急増に対する批判的なリアクション動画として見る方が近い。

動画の最後でも明確に「AIアーティストをサポートしないでほしい」「本物の音楽をサポートしてほしい」と視聴者へ呼びかけている。

 

問題は「AIで音楽を作ること」だけなのか

この動画で特に興味深いのは、単純な「AI音楽は良いか、悪いか」という話だけでは終わらない点だ。

例えばBleeding Verseのようなプロジェクトがプロフィール上でAIを使用していることを明示しているのであれば、少なくともリスナーはそれを理解したうえで聴くことができる。

一方で、通常のバンドと同じようなアーティスト写真やプロフィールを作り、実在する人物のようなフィーチャリング・アーティストを設定し、大量の楽曲を公開するプロジェクトが増えれば、リスナー側から人間のアーティストとAIプロジェクトを見分けることは次第に難しくなる。

さらに大きな問題になり得るのが、実在するバンドの名前を利用したマーケティングだ。

「Dayseeker風」「Holding Absence風」といった音楽をAIで大量に制作するだけでなく、そのバンド名をハッシュタグや検索キーワードとして利用し、本来そのバンドを探していたリスナーをAIプロジェクトへ誘導するのであれば、生成AIの使用そのものとは別の問題が生まれる。

実在するミュージシャンは、メンバーを集め、楽器を練習し、スタジオで楽曲を制作し、ライブを行いながら長い時間をかけてファンを築いてきた。一方、生成AIを利用すれば、そのジャンルの特徴を取り込んだ大量の楽曲を短期間で公開できるようになっている。ストリーミングサービス上では、その両方が同じ一曲として並ぶ。

 

AIは「シーン」そのものを再現できるのか

現在の生成AIが模倣しているのは、単純な音色だけではない。モダンメタルやメタルコアで広く使われてきた楽曲構成、エレクトロニックな要素、壮大なクリーンボーカル、ブレイクダウン、感情的な歌詞といった要素を組み合わせることで、そのジャンルらしい作品を作ることができる。

そして、それを聴く側が「それらしい音楽」を求めているだけであれば、作者が人間なのかAIなのかを気にしないリスナーも出てくるだろう。

実際、動画内ではAIプロジェクトの楽曲に対して「Spotifyで見つけてアルバム全体にハマった」「ライブ映像を見たい」といったコメントをするリスナーも紹介されている。少なくとも一部のユーザーは、それがAIによるプロジェクトだと認識せず、通常のバンドとして受け取っている可能性がある。

ここには、これから音楽ストリーミングが向き合うことになる大きな問題がある。

AI音楽そのものを禁止するのか。

AIを利用した作品には明確な表示を求めるのか。

人間のアーティストと同じ推薦アルゴリズムの中で扱うのか。

そして、既存アーティストのスタイルや名前を利用してリスナーを獲得する行為をどこまで許容するのか。

生成AIによる音楽が一部の実験的な存在ではなく、数百万回のストリーミングを記録する規模になり始めたことで、こうした問題は無視できなくなっている。

 

「本物の音楽をサポートしてほしい」

METALBIRBの結論は非常に明確だ。「AIアーティストを支持せず、人間が作っている音楽をサポートしてほしい」。

動画では終始ジョークや過激な言葉を交えながらAI楽曲を酷評しているため、AI音楽を客観的に比較・検証する内容ではない。最初から生成AIによる音楽に否定的な立場を明示したうえで制作された動画である。しかし、その背景にある問題は現実的だ。

実在するバンドから影響を受けたAI音楽が大量に作られ、その一部が数百万回再生される。そして場合によっては、影響源となった人間のバンドを上回る規模のリスナーを獲得する。音楽ストリーミングでは、人間が何年もかけて作り上げた作品と、生成AIによって短期間で大量制作された作品が、同じ推薦欄、同じプレイリスト、同じ検索結果の中でリスナーの時間を競う可能性がある。

生成AIによって「音楽を作ること」が急速に簡単になっていくなかで、これから問われるのは単にAI音楽のクオリティだけではないのかもしれない。

誰が作った音楽なのかをリスナーが知ることができるのか。そして、人間のアーティストが作り上げてきたシーンや知名度を利用してAIプロジェクトが成長することを、音楽サービスやリスナーはどこまで受け入れるのか。AI音楽がストリーミングサービス上で本格的に数字を持ち始めた現在、その問いはすでに未来の問題ではなくなりつつある。

参照元動画

「This AI Slop Is RIPPING OFF Real Bands」

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