
2026年、オーストラリアのデスコアを代表するThy Art Is Murderに新たなフロントマンが加わった。名前はJerry Grimefeld。Honest Crooks、Vengeanceでの活動歴を持ち、メタルだけでなくラッパーとしても音楽活動を続けてきた人物だ。
Thy Art Is Murderは7月29日にルーマニアで開催されたRockstadt Extreme FestでGrimefeldを新ボーカリストとしてステージに迎え、その後、本人が正式な新ボーカリストであることも明らかになった。
YouTubeに公開された「Who the F**k Is Jerry Grimefeld!? Interview With the New Thy Art Is Murder Vocalist」では、まだ多くのメタルファンにとって謎の多いGrimefeld本人にインタビュー。11歳頃から始めたスクリーム、Parkway Driveから受けた影響、ラップとの関係、突然数万人規模のステージに立つことになった現在、ボーカルコンディションの管理、そしてThy Art Is Murderのフロントマンとして今後改善していきたい部分について語っている。
「Jerry Grimefeldって一体誰なんだ?」
Thy Art Is Murderの新体制がスタートすると、Grimefeldはステージ上で「WHO THE F**K IS JERRY GRIMEFELD?」と書かれたシャツを着用していた。
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実際、それは多くのファンが抱いていた疑問でもあった。長年世界的なデスコア・バンドとして活動してきたThy Art Is Murderの新たなフロントマンでありながら、これまで彼の名前を知らなかったリスナーも少なくなかった。
インタビューで「一体何者なのか」と聞かれたGrimefeldは、自分についてオーストラリアのラッパーであり、Grimeをやっていて、同時に「メタル・ボーイ」でもあると説明する。つまり彼の音楽的なバックグラウンドは、デスコアだけではない。
幼い頃からラップとスクリームの両方に取り組んできたというGrimefeldは、自身が育った音楽環境をEminemと映画『The Matrix』のサウンドトラックが混在したようなものだったと振り返っている。ラップを始めた時期とスクリームを始めた時期はほぼ同じで、本格的に声を使い始めたのは11歳頃。15歳になる頃にはすでにバンドで活動していたという。
11歳でスクリームを始めたきっかけはParkway Drive
Grimefeldがエクストリーム・ボーカルを始める直接的なきっかけになったのがParkway Driveだった。
友人からParkway Driveを聴かされ、その激しさに衝撃を受けた。当時の彼が音楽について感想を述べると、友人から「何を歌っているのか分かっていないだろう」と言われたという。その一言が、彼を自分自身でスクリームする方向へ向かわせた。
現在29歳と話しているため、インタビュー時点ですでに約18年間エクストリーム・ボーカルに取り組んできたことになる。突然現れた新人ボーカリストのように見える一方、声そのものについては10代になる前から長い時間をかけて試行錯誤してきた人物だ。
自身の発声についてGrimefeldは、専門的な名称を正確に説明できるわけではないとしている。その感覚は胸や喉を完全にリラックスさせた状態から出す「ため息」に近く、それを長年かけて横隔膜のコントロールとともに強力な音へ発展させてきたと説明している。
体系的な理論から発声方法を組み立てたというより、長期間実践を重ねながら自分の身体に合う方法を身につけてきたタイプのボーカリストであることが分かる。
2,000人規模から、一気に5万人規模のステージへ
Thy Art Is Murder加入以前、GrimefeldはオーストラリアでHonest CrooksやVengeanceのフロントマンとして活動していた。しかし、Thy Art Is Murderで経験するライブの規模はそれまでとは大きく異なる。本人によれば、それ以前に経験した最大規模のライブは2,000人程度だった。それが今回のヨーロッパ・フェスティバル・ツアーでは、数万人規模の会場へ一気に飛び出すことになった。
インタビューが行われたSummer Breezeでは、フェスティバル全体で4万5,000~5万人規模になるという話を聞き、本人もその差の大きさに驚いている。ただし、大きなステージに萎縮している様子はない。
Grimefeldは広いステージについて「遊び場」のようなものだと表現している。走り回ることが好きで、自分の好きな曲を歌いながら巨大なステージを自由に動けることを楽しんでいるという。実際、現在の彼のステージパフォーマンスでは客席へウォーターガンを撃ったり、長いキャットウォークがあればすぐに走っていったりする姿も見られる。それらは事前に綿密に計算した演出ではないらしい。
インタビューでは、ステージ上で警備員がウォーターガンを持っているのを見つけ、その場で「それをくれ」と頼み、そのまま客席へ水を撃ち始めたというエピソードを紹介。「大きな計画があるわけではなく、ただその場で色々やっている」と話している。
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自分に怒っている観客も「もっと怒らせればいい」
新ボーカリストの加入となれば、当然すべてのファンがすぐに受け入れるとは限らない。しかしGrimefeldは、そのプレッシャーについてかなり独特な向き合い方をしている。
自分に対して不満を持っている人が客席にいることについて、「そういう人たちなら、もっと怒らせてもいい」と冗談交じりに語り、もしその人の顔にウォーターガンの水が当たれば面白いとも話している。
一方、それ以外の観客については暑い会場で水が必要だったから撃っていたとも説明しており、敵対的な姿勢だけでステージへ立っているわけではない。
Thy Art Is Murderという長い歴史を持つバンドへ途中から加入し、既存ファンの評価を一身に受ける状況でも、必要以上に自分を守ろうとせず、むしろステージそのものを楽しもうとしている。その奔放さは現在のGrimefeldを特徴づける要素の一つになっている。
睡眠不足、故障したバス、砂埃――ツアーで直面した過酷な現実
この日のインタビューでは、本来であればGrimefeldが実際にスクリームを披露し、発声について詳しく解説する予定だった。しかし、彼は声を温存する必要があり、実演できない状態だった。その背景には過酷な移動があった。
前日のライブは本人が「人生で一番埃っぽかった」と表現するほど砂埃の激しい環境で、その後14時間ほどバスで移動する予定だった。しかしツアーバスが故障し、さらにエアコンも停止。非常に暑い車内で眠ることができず、インタビュー時点までほとんど睡眠を取れていなかったという。
それでも数時間後にはThy Art Is Murderとして巨大なフェスティバルのステージへ立たなければならない。Grimefeld自身、この日の自分が理想とするパフォーマンスをできる状態ではないことは理解していた。しかし、バスの故障や気温、前日の砂埃は自分ではコントロールできない。「こういうことは起こる。これがツアーだ」と受け止め、与えられた状態の中でステージへ立とうとしている。
巨大なフェスティバルへ出演する華やかな部分とは対照的に、長距離移動、睡眠不足、気候、会場環境などと付き合いながら毎日一定水準のパフォーマンスを求められる、ツアーミュージシャンの厳しい側面も見えてくる。
声を守るために「できるだけ話さない」
コンディション管理について、Grimefeldが最も基本的な方法として挙げているのが休息だった。
ライブを控えた日は可能な限り話さず、声を使わないようにする。十分に休み、水分を取り、自分に合った温度の水を使いながら、一日かけて少しずつ本番へ向けた状態へ持っていくという。
ツアー序盤には決められたウォームアップも行っていた。一方、今回のツアーではこれまで経験したことのない長時間のセットを10日間ほど連続で演奏しており、本人は冗談交じりに「もう十分ウォームアップされている」と話している。
インタビューでは、水の中へストローを入れて息を吐き、声帯周辺へ適度なバックプレッシャーを与えるボーカルウォームアップ用の器具についても紹介される。Grimefeld自身はそれまで知らなかったようで、その場で興味を示していた。
こうした会話からも、18年間スクリームを続けてきた人物でありながら、現在も新しい方法を学びながら自分のボーカルを改善していることが分かる。
水、蜂蜜、カフェイン――ボーカルケアをめぐるゲーム
動画中盤では、さまざまな飲食物や行動を「声に良いもの」「悪いもの」「ステージでの燃料」に分類するゲームも行われる。Grimefeldは水を非常に重要なものとして扱い、特にこの日のようなコンディションでは積極的に水分を取っている。また蜂蜜についても強く好意的な反応を見せている。
一方、エナジードリンクは避ける方向に分類し、現在のツアーでは基本的にカフェインを控えるようにしていると説明する。コーヒーについても、乳製品など他のものにつながりやすいことを理由に否定的に扱っている。
ただし、このコーナーにはGrimefeld自身のかなり強いジョークも含まれている。
例えば喫煙について「スクリームを始めた頃から吸っている」と話して肯定側へ置いたり、アルコールについても冗談を交えたりしている。本人も最後には「自分はきちんと健康管理しているわけではない」と笑っており、このゲームでの分類を医学的なボーカルケアの推奨として受け取るべきものではない。
むしろ、インタビュー全体を通じて実際に一貫しているのは、休息、水分補給、声を使いすぎないこと、そして本番へ向けて一日を通してコンディションを整えることだった。
Thy Art Is Murder加入は「新しい章の始まり」
インタビュー終盤では、Thy Art Is Murderのボーカリストとして現在の自分に満足しているのかと尋ねられる。
Grimefeldの答えは「まだ自分がなりたいところには到達していない」というものだった。
現在はヨーロッパで巨大なフェスティバルへ出演しているものの、アメリカをはじめ、まだ経験していない地域のステージにも立ちたい。さらにライブの回数を重ね、自分自身で把握できていない部分を理解していく必要があると考えている。
今回の活動は、これまで経験したことのない長さのセットを連日演奏し、これまでで最も多くの観客と接し、最も忙しいスケジュールを経験するものでもある。メディアのインタビューについても、これまでほとんど経験がなかったという。
つまりGrimefeldにとって現在は、完成されたボーカリストとしてThy Art Is Murderへ加入したというより、これまで積み重ねてきた18年間の経験を、突然世界規模の環境で試している段階でもある。
ハイトーン、ガテラル、そして「走り回りながら歌う」という課題
具体的なボーカル面では、今回のツアーへ向けてハイトーンのスクリームをかなり練習してきたという。
インタビュー当日には新曲を披露する予定もあり、その楽曲ではハイのボーカルを多く使用していることを明かしている。
同時に、自身のガテラルや、より極端な発声についても現在進化させている段階だという。
しかし、彼が現在最も難しいと感じているのは単純な発声技術だけではない。
Thy Art Is Murderの曲には非常に多くの歌詞があり、長時間にわたってボーカルを出し続ける必要がある。その一方でGrimefeld自身は、ステージ上を全力で走り回り、ウォーターガンを持って観客へ突っ込み、思いついたことを次々と実行するタイプのフロントマンだ。
そこで必要になるのが、パフォーマーとして自由に暴れ回ることと、「自分には歌うという仕事がある」ことのバランスだという。
新しい環境で自分らしさを消すのではなく、そのエネルギーを維持したまま、Thy Art Is Murderの要求する高いレベルのボーカルを毎晩安定して届ける。それが現在のGrimefeldにとって大きな課題になっているようだ。
Thy Art Is Murderの新時代を担うJerry Grimefeld
Jerry Grimefeldは、突然何万人もの観客の前へ現れた「謎の新ボーカリスト」のように見える。
しかし、その背景をたどれば、11歳頃から約18年間スクリームを続け、15歳からバンド活動を経験し、Honest CrooksやVengeanceでオーストラリアのヘヴィ・ミュージック・シーンを歩いてきた人物だ。同時にラッパーとしてのバックグラウンドを持っていることも、従来のThy Art Is Murderのボーカリストとは異なる要素になる可能性がある。
2026年7月にThy Art Is Murderの新ボーカリストとして姿を現した時点では、その正体すら多くのファンに知られていなかった。しかし8月には、Grimefeldが正式にバンドの新たなフロントマンであることが確認されている。
2,000人規模だった自身のライブ経験から、一気に数万人規模のフェスティバルへ。そこでは過酷なツアー環境に耐えながら、長時間のセットを連日歌い、新しい楽曲にも対応しなければならない。
本人もまだ完成したとは考えていない。
むしろ「世界を一周するくらい走らなければ、自分が行きたい場所には到達しない」という感覚で、これから経験を積もうとしている。
客席へウォーターガンを撃ちながらステージを走り回る自由さと、18年間積み上げてきたエクストリーム・ボーカル。その両方をThy Art Is Murderの新しい音楽へどう結び付けていくのか。
「Jerry Grimefeldって一体誰なんだ?」
現在はまだ、その問いに対する答えそのものを本人が作り始めたばかりなのかもしれない。
参照元動画
「Who the F**k Is Jerry Grimefeld!? Interview With the New Thy Art Is Murder Vocalist」