韓国出身のメンバーPKとPiguri、日本出身のMatsunoとHeavenの四人組メタルコアバンドPrompts。多国籍なメタルバンドは世界中に数多く存在するが、その中でもアクティヴにライブ活動を展開するバンドはほんの一握り。ましてや母国を出て、アーティスト活動の為に外国で活動しているミュージシャンは少ないだろう。世界的にも珍しい編成のPromptsに、韓国のメタルコア/ハードコアシーンを聞くと共に国境を超えてひとつのバンドとして活動する喜びや葛藤について、インタビューしてみました。想像以上に濃い内容になったので、2回に分けて公開。第一弾は、Promptsメンバーに、音楽遍歴と韓国シーンについて聞いてみました。
RIFF CULT : 韓国出身のPKさん、Piguriさんはどんな街で育ったんですか?
PK : ソウルの中心にある蚕室 (チャムシル)という街の出身です。ソウルのど真ん中にあり、大きなショッピングモールがあったり、遊園地があったり。ソウルで一番高いビルであるロッテワールドタワーなんかが有名なところですね。

蚕室 (チャムシル)
Piguri : 僕は京畿道の安山 (アンザン)という場所の出身です。工業地帯で日本で言うと川崎市?に似ていると思います。
安山 (アンザン)
RIFF CULT : おふたりは同い年ですか?
PK : 僕が24歳で、Piguriさんが3歳年上の27歳です。
RIFF CULT : 韓国は上下関係がしっかりしているイメージがありますが、二人の間柄はどうですか?
PK : Piguriさんと知り合って今年で6年になりますが、3歳年上だと普通に敬語ですね。韓国にいた頃から二人で遊んだり、音楽活動も一緒にしていて仲良しですが、やっぱり敬語になってしまいますね。韓国人の性 (さが) ですね。
RIFF CULT : 韓国でいうお兄さんという感じなんですね。せっかくなので、韓国出身のお二人には細かく音楽的ルーツを聴いてみたいと思います最初に聴いた音楽はなんですか?
Piguri : 最初に聴いた激しめの音楽で言うと、確かBlack Flagですかね。あんまり詳しく覚えていないですが (笑) メタルコアだと、For The Fallen Dreams?
Matsuno : いきなりFor The Fallen Dreamsは絶対うそでしょ (笑)
Piguri : いやーどうだったかな。
Matsuno : Hatebreedとか聴いてないの?
Piguri : あ、聴いてました。あとはMADBALLとかSICK OF IT ALLとか。
Matsuno : Piguriってそんなハードコアな人だったの? (笑)
Piguri : そうでしたね (笑)でも最近はあまり聴いてないですね。
PK : 僕は中学2、3年生の頃、友達にアコースティックギターをプレゼントしてもらった事がきっかけで音楽に興味を持つようになりました。最初はSTINGとかオールドポップとかが好きだったんですが、高校1年生の時に同じクラスメイトでサークルも一緒だった友人に、DisgorgeとかCannibal Corpseとかを教えてもらい、Deathとかオールドスクールなスラッシュメタルにもハマっていきました。メタルコア系だと、Lamb of Godなどから聴き始めて、Killswitch Engageあたりを一通り聴きましたね。高校3年生くらいにはAsking AlexandriaとかWe Came As Romansとかに興味が出るようになって、そちらをよく聴くようになりましたね。そこからバンドやってみたいと思いました。最初はKillswitch EngageやLamb of God直系のバンドだったんですけどね。
RIFF CULT : Disgorgeを聴いていたというのは驚きですね。
https://www.youtube.com/watch?v=i1FCVcWJW74
PK : むしろそういうジャンルのほうが聴いていた気がします。高校生のころはどっぷりメタル。Panteraとかも好きですね。
Matsuno : 2人ともぜんぜん違うね (笑)
RIFF CULT : はじめて買ったCDは何ですか?
PK : メタルだと中高校生の時にショッピングモールの中にあったレコードショップでいろいろ買いましたね。今もそのショップはあるんですが、ポピュラーなものばかりになってしまいました。メタル系のローカルなレコードショップ、日本で言えばNERDS RECORDSみたいなところもあって、そこにも行きましたね。
韓国のメタル/ハードコアを取り扱うレーベルとしてはDOPE RECORDSやTOWNHALL RECORDSが有名。TOWNHALL RECORDSオーナーのHwang KyuseokはTHE GEEKSのKi Seok Seoと共にVICEのインタビューにも登場している。
RIFF CULT : 新しい音楽との出会いは基本的にはインターネットでしたか?
PK : そうですね。CDも買ってましたが、基本はネットでいろんな情報を調べていました。みんなiPodだったり、もっと安いmp3プレーヤーだったりを使っていましたよ。
RIFF CULT : 二人はいつからバンド活動を始められたんですか?
Piguri : はじめてのバンドはEighteen Aprilです。18歳か19歳の時だったかな。
Matsuno : いきなりEighteen Aprilだったんだ。
RIFF CULT : Piguriさんはオリジナルメンバー?
Piguri : いや、途中で加入しました。ネットでみかけたメンバー募集で連絡しました。
RIFF CULT : 同じ時期の日本だと、mixiでみんなメンバー募集してましたね。
PK : 韓国のミュージシャン達は、基本的に2つのウェブサイトが交流の場になっていました。ひとつはFacebook、それと同じくらい利用されていたのが、Mule (ミュール)という楽器のメルカリのようなサイトです。そこでみんな楽器の売り買いをしていたんですが、そのサイトにはメンバー募集できるフォーラムがあったんです。こんなジャンルで、このパートを募集をしているみたいな投稿が掲示板 (BBS)みたいなところに書き込まれていました。たしか登録制じゃなかったはず、SNSみたいなものではなく、2ちゃんねるみたいなものだった覚えがあります。最近は人が減っているけど、当時、僕たちが学生時代に主流だった音楽コミュニティですね。
Matsuno : まさに日本でいうmixi的なサイトだね。中国だとWeiboとか、ロシアだとVKとか。世界各国に同じようなものがあるみたいですね。
PK : あ、話がそれてしまいましたね……。僕のはじめてのバンドは、Scarlet ForestというDjent系バンドでした。
Matsuno : 確か、Inlayerのメンバーもいたよね?
Inlayerは、韓国出身のDjent/Progressive/Instrumentalバンド。この手のバンドには珍しく東方神起 · SUPER JUNIOR · 少女時代など所属のK-POP大手SM entertainmentが運営するYoutubeチャンネルよりMVをアップしている。
PK : そうですね。最初に話したメタル好きな友人と一緒に高校生のころに始めました。彼とは小学校から一緒だったんですが、高校のサークルで一緒にバンドを始めることになったんです。最初はギタリストだったんですが、ボーカルが見つからず、彼とじゃんけんして負けてしまい、僕がボーカルを担当する事になりました。もともとはギタリストだったし、ギター/ボーカルでスタートしたんですが、Djent系のプレイスタイルとボーカルを両立できなかったので、ボーカルに専念する事にしました。もともと三人ではじまったけど、結局二人になりました。あともうひとつ、Paydayというバンドもやってました。Scarlet Forestとは違ったタイプのサウンドです。
Matsuno : PaydayはCounterpartsとか、初期CAPSIZE, Defeater的な叙情ハードコアっぽいバンドだよね、カッコ良かった記憶が。
あと掛け持ちで他のバンドやってるメンバーもいたような。
PK : All I HaveやTurn For Ourのメンバーと一緒にやっていましたね。
RIFF CULT : 掛け持ちが多いですね。
Matsuno : 確かにけっこう多いよね。そのTurn For OurのベースのHyeong DooってやつとかもTo My Last Breathってバンドを前やってたり。
To My Last Breathは韓国最初のデスコアバンドとして知られる存在。現End These DaysのフロントマンSang Yul Songがギター兼リーダーを務めていた。
Matsuno : To My Last Breathの最初の音源が2009年とかだからかなり早いよね。日本でいうHer Name In Blood的な存在だったのかなと。Turn For OurもTERRORやTRAPPED UNDER ICEのようなストレートなハードコアを鳴らしていて音源が凄くカッコ良かった。最初聴いたとき欧米のバンドかと思ったくらい。
PK : 日本のラウドシーンは世界の国に比べて小さいと聞きますが、韓国はもっと小さいですよ。韓国でツアーしようとしたら、ソウルと釜山しかない。日本みたいな全国ツアーはできないんです。BTSのようなビック・グループくらいしか成功させることは出来ないんじゃないでしょうか。彼らもソウルと釜山の間のエリアにはあまり行かないですしね。
RIFF CULT : ソウルと釜山の間のエリアというのは、音楽シーンそのものが無いんですか?
Piguri : ほとんど無いと思います。音楽をやりたいという人はだいたいソウルか釜山に移住します。確かに若者が少ないエリアではあるんですが、正直、なぜそんなに避けられるのかは理解出来ないです。
PK : 韓国のように小さなシーンを盛り上げようと思うと、自然と掛け持ちして、いろんなバンドが誕生しがちになりますよ。バンド同士がみんな知り合いですし。サポートし合ってます。
RIFF CULT : コミュニティの中心人物はいますか?
PK : 間違いなく、Watchout! Recordsを運営しているカントさん(Kangto Lee)だと思います。Day of Mourningというバンドでギターもやっていますね。一時期韓国のレジェンド的なバンドVASSLINEにも在籍していました。またDay Of Mourningのもう一人のギター のマンキさんはPromptsの最新作『Magenta Smile』のエンジニアもやってくれました。韓国の多くのメタルコア/ハードコアバンドを手掛けていて彼はシーンでは一番有名なエンジニアと言えますね。
PK : あとはやっぱりEnd These Daysのユルさん(Sang Yul Song)ですね。日本のバンドシーンと最も親交が深いのはユルさんだと思います。End These Daysが2017年にリリースした「Solace」という曲のMVでは、Crystal LakeのRyo Kinoshitaがゲストボーカルとして参加して話題になりました。来日も4回していて2018年にはPaledusk主催のBlue Rose Tourに出演したり、年末のNERDS FESTに出演したりしています。また、2017年には日本からPrompts、Infection、Will You Rememberを招いて韓国ツアーを企画したりしてくれました。
Matsuno : 僕もユルとは7~8年前くらいからFacebookを通して連絡を取り合うようになって、家に泊めたこともあるし今もずっと親交があります。End These Days初来日は確か、RNR TOURS主催で秋葉原音楽館だったかな。
PK : この三人が、Watchout! Recordsというレーベルを始めて、日本からもMirrorsなど、いろんなバンドを韓国に呼び始めて、大きな企画を打つようになりました。Born of OsirisとかPeripheryなどが韓国でライブできるように働きかけて、Watchout! Recordsからオープニングアクトをブッキングしたりもしていましたね。
PK : それからIn Your Faceも韓国シーンにおいて重要なバンドです。彼らはJUMP OVER THE LINEという企画をやっていて、6回目から日本のバンドが参加するようになりました。韓国のシーンは小さく、いつも同じラインナップだから、日本のバンドを呼ぶ事が自然と増えていった形だと思います。これまでにAbstracts, Paledusk, Victim of Deception, Foad, Sable Hillsなどを招致していて日本と韓国の繋がりを作ってくれた大きな存在です。Vo.のミナトは現在は東京在住でよくライブハウスに遊びに来ています。
Matsuno : ミナトもそうだけどビックリしたのはメタルコアやハードコアのシーンの中で日本語ちょっと話せます、みたいな人がちょくちょく居ること。日本のバンドマンで韓国語喋れる人って言われてもほとんどいないから、すごいな~と思いましたね。あとけっこう韓国から日本にライブ観にくる人も多いんだよね。SCREAM OUT FESTIVALとかBloodaxe Festivalとかで韓国から遊びに来てる人と仲良くなったりしたなぁ。
RIFF CULT : 韓国でライブをやる時によく使ってたライブハウスはありますか?
Piguri : CLUB AORかな。弘大(ホンデ)っていう日本でいう原宿みたいな場所にあるライブハウスは有名ですね。
弘大 (ホンデ)
Matsuno : AORはPromptsでも行ったことがあります。2017年にETD主催のツアーで初めて行って、去年の1月には自分たちで”HYBRID YOUTH TOUR”と銘打ってPROMPTS企画を行いました。
Matsuno : 日本からPaledusk、From the Abyss、韓国からETD, Eighteen AprilにR4-19というメタルコアバンドが出演してくれました。韓国のメタル系の中では大成功と言われる60人くらいのお客さんが来てくれてすごく楽しい一日でしたね。コロナが落ち着いたらまた韓国でも企画をやりたいし、逆に今度は韓国のバンドを日本に招集したりしてみたいですね。あとは釜山のCLUB REALIZEとかは?
PK : REALIZEは残念ながら2020年で閉店してしまいましたね…。End These Daysが拠点にしてたライブハウスで、釜山にあったんですが。メタルコア、ハードコアの聖地みたいな場所でした。
Matsuno : CDとかも売ってたよね。PROMPTSや日本のバンドもちょくちょく取り扱ってもらってました。
PK : さっきの続きになってしまいますがオーナーのJin-su Baeという人は、釜山のメタルコア/ハードコアシーンの中心人物ですね。GWAMEGIという硬派なメタルコアバンドのボーカリストでもあります。
RIFF CULT : 釜山のバンドでいうとAll I Haveはどうですか?
PK : もちろん超重要です。 ギタリストのLee Jung MinはPaydayのメンバーでもありますね。釜山のハードコアといえば、All I Have。みんながリスペクトしています。メンバーのGeon(ゴン)さんはみんなの兄貴的な存在で、REMNANTS OF THE FALLENなど韓国の色んなバンドのアートワークやマーチデザインを作ったりもしていますね。
REMNANTS OF THE FALLENは、ソウル出身でDOMと来日経験も有るメタルコア/メロデスバンド。2017年度と2021年度の「韓国大衆音楽賞」最優秀メタル/ハードコア賞を受賞している。アルバム『SHADOW WALK』収録の”MISERY INJECTION”ではPKもゲストボーカルで参加。
Matsuno : ゴンちゃんはたしか昔日本の大学に通っていたこともあって日本語が異常にペラペラですね。よく日本のハードコアのライブに行っていたことから日本の多くのハードコアのバンドマンともかなり親交があるみたいです。2015年には東京のOTUS, HOLLOW SUNSを招いて韓国ツアーをやっていましたね。
RIFF CULT : ソウルと釜山にシーンの違いはありますか?
PK : そうですね。今と昔とでは少し変わってきていますが、ソウルはメタルコアやポストハードコアが多く、タフなサウンドは釜山に集まっているイメージです。
インタビュー第二弾へ続く!