【2024年上半期】ニューメタルコアの名盤10選 アルバムレビュー

2024年の上半期にリリースされたアルバム (EPを含む) を中心に、素晴らしかった作品を10枚ピックアップし、アルバムレビューしました。「ニューメタルコア」というメタルコアのサブジャンルの中心的存在であるAlpha WolfやDarko US、Diamond ConstructやDefocusといった新たなトップバンド達の待望の新作に加え、デビューしたばかりの新しいバンドのEPなど、良質なリリースが盛りだくさんでした。ぜひ新しいお気に入りを見つけてください。

RIFF CULTでは、ウィークリーで更新しているSpotifyプレイリストで毎週新しい楽曲をまとめたプレイリストを更新しています。この機会にぜひフォローして下さい。このプレイリストをフォローすれば、トレンドが必ず掴めます!

 


▶︎Alpha Wolf 『Half Living Things』

オーストラリア・メルボルンを拠点に活動するニュー・メタルコア・バンド、Alpha Wolfのサード・アルバム。大ブレイクのきっかけとなった前作『A Quiet Place to Die』から4年、「ニューメタルコア」というサブジャンルの草分け的存在としてシーンのトップを走り続けてきた彼らが、どれだけ驚異的なスピードで成長してきたかは日本のメタルコア・ファンが良く知っているのではないだろうか。セカンド・アルバム前、Emmureの『Look at Yourself (2017年)』を発端に本格的にニューメタルとメタルコアのクロスオーバー・ジャンルが立ち上がり、その後リリースされたEP『Fault』でAlpha Wolfはニューメタルコアを確立。リリースを記念したアジアツアーは2019年に行われ、Suggestionsが帯同し、ニューメタルコア・シーンの影響を国内で最も早く取り入れたPROMPTSやPaleduskなどが出演、ヘッドライナーツアーを盛り上げた。200-300キャパで行われたこの日本ツアーから4年が経ち、再来日を果たしたAlpha WolfはPaleduskの「INTO THE PALE HELL TOUR FINAL SERIES」に出演し、SiMFear, and Loathing in Las Vegas、coldrain、PROMPTSと共演を果たしている。この飛躍的な人気の拡大は決しては日本だけでは起こったものではなく、母国オーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも同様に起こった。

本作はニューメタルコアとしてシーンのトップを牽引し、後続に道筋を作り続けてきたAlpha Wolfが、更に独自性を拡大することにチャレンジした作品だと言えるだろう。いくつかの挑戦は、刺激を求めるメタルコア・リスナーにとっては受け入れられないものであったかもしれないが、ニューメタルコアというジャンルの成熟にとっても、Alpha Wolfが次のフェーズに進むためにも必要な挑戦であったと言えるだろう。中でもミュージックビデオになり、ヒップホップ・シーンの重鎮Ice-Tをフィーチャーした「Sucks 2 Suck」は、ニューメタルという音楽の核を見つめ直し、SlipknotLimp Bizkitといったクラシックなスタイルからの影響をバランスよく配合しつつも革新的なメタルコアを鳴らしている。同じくミュージックビデオにもなっている「Whenever You’re Ready」では、オーストラリアのメタルコア、Northlane初期Void of Visionの影響が色濃く反映された楽曲でニューメタルコアとは言えない楽曲にも挑戦している。

「Sub Zero」でAlpha Wolfを知り、ヘヴィでバウンシーなメタルコアを望むリスナーにとってはマイルドすぎる作品かもしれないが、彼らの現在地を考えれば、チューニングの重さとか、いかにワーミーを詰め込むかを追求かと、そういう立場にはない。このアルバムは、バンドにとって次のアルバムまでにこれまで以上の成長を遂げる、簡単に言えばスタジアムや大きなフェスティバルに出演出来る可能性を高めるものであるべきだ。そしてバンドの目的は達成されているように感じる素晴らしいフィードバックを得ているのはソーシャルメディアからも伝わってくる。どこへ辿り着くのか、彼らの初来日を企画させてもらったものとしても興味深いし応援したい。個人的な思いも含めて2024年上半期の印象的な作品。

 

▶︎Diamond Construct 『Angel Killer Zero』

2014年オーストラリア・ニューサウスウェールズ州で結成された4人組。2019年のバンド名を冠したサード・アルバム『Diamond Construct』から5年振りとなる本作は、間違いなく2024年のトップ・ニューメタルコア・アルバムに違いないだろう。2019年、Alpha Wolfが「Sub Zero」でやったこと、Dealerが「Grotesque」でやったことを、2024年にDiamond Constructが『Angel Killer Zero』でやっている。このアルバムの圧倒的な完成度、確立されたコンセプトとヴィジュアルイメージ、そして「これが2024年のニューメタルコア」だと誇示するような存在感は圧倒的だ。

アートワークは日本の漫画のようで、アルバムタイトルのロゴもカタカナでふりがながふってある。ガンダム、AKIRAなどは彼らの楽曲、ヴィジュアルイメージの重要な要素として「Switchblade OST」のミュージックビデオでも確認することが出来る。驚くべきはそれらのインプットをニューメタルコア/デスコアの感覚を非常に上手く融合出来ていることで、多彩な音楽からの影響をDiamond Construstらしく散りばめている。

もっとも優れた楽曲、といってもほとんどの楽曲がリードトラックと言っても過言でないほどのインパクトを放っているが、「I Don’t」はすべてのメタル・リスナーが聴くべき革新的な楽曲だ。エレクトロニックな装飾はもちろん、ほとんどダンス・ミュージックと言えるビートが次々と繰り出されていく。もっとも驚いたのはヘヴィ過ぎて完全にノイズとなったリフだ。Code OrangeCrystal Lakeの挑戦的なサウンド・プロダクションでさえ、ここまでノイズ化したリフは鳴らしてこなかったと思う。ずっと、メタルにとってノイズが重要になってくると思っていたが、「I Don’t」で証明されたと言っていいかもしれない。本当にこの曲を聴いた時は驚いた。アルバムすべて聴かなくても、この曲だけでもまずは聴いてほしい。そして私と同じように衝撃を受けたのであれば、今のDiamond Constructに夢中になるはずだ。

 

▶︎silverlake murder 『Still Unknown』 EP

スウェーデンの首都ストックホルムを拠点に活動する5人組、silverlake murderのデビュー作。わずか12分という短いトータルタイムの中に5曲のヘヴィなニューメタルコアが詰まっており、silverlake murderの魅力を端的に把握出来る名刺代わりの作品として100点の仕上がりだと思う。良い意味での物足りなさ、余白を感じるEPになっており、こうした作品でデビューするバンドはかなりの確率で優れたレーベルとの契約し、ステップアップしていくように感じている。先のAlpha Wolfがそうであったように。

Emmureを始祖とし、Alpha WolfやDealerをニューメタルコアの第1世代と捉えるのであれば、彼らは第3世代のトップに躍り出るポテンシャルを持ったバンドではないだろうか。Darko USやAlpha Wolf直系とも言えるDiamond Constructなどに比べれば、まだまだデビューしたばかりの新人だが、やってることはそれらのバンドに匹敵する才能溢れたものだと感じる。デスコアにも接近するヘヴィネス&ビートダウン、ほとんどハーシュノイズウォールにも聞こえる歪んだワーミー、Slipknotが下地にあることがほんのりと感じられるフレーズ、HAILROSEを彷彿とさせるハードコアテクノやガバ、ブレイクビーツといったエクストリームなエレクトロ・ミュージックからの影響など、ここ最近のニューメタルコアとタグ付けされるバンドの中では頭一つ抜きん出た才能溢れるアレンジが随所に施されている (やや一辺倒な感じがしなくもないが)。The Hate Projectのサポートとしてライブが決まっているなど、まだまだライブ・シーンにおいては始まったばかり。今後の成長が楽しみなバンドだ。今からチェックすべし。

 

▶︎Darko US 『Starfire』

Chelsea GrinのボーカリストTom BarberとドラマーJosh Millerによるユニット、Darko US。有観客のライブをしない音源制作メインの活動方針をとり、2020年のデビューから毎月のように音源リリースを続けてきた彼らのサード・アルバムとなる本作は、驚異の19曲入り、トータルタイムが71分と濃密過ぎる内容となっている。

Silent PlanetのGarrett Russellをフィーチャーした「Atomic Origin」やNorthlaneのMarcus Bridgeをフィーチャーした「Sora」、VolumesのMichael Barrやトラップメタル・シーンの代表格Scarlxrdなど、ゲストリストだけみてもニューメタルコアを軸に、さらに多くのジャンルからの影響をクロスオーバーさせていくエクスペリメンタルな側面が強いので、アルバムとしてのまとまり、ドラマ性はほとんどない。言い方を変えれば、19曲それぞれに違った魅力があり、ドラマ性がある。Darko USは度々、持ち前のヘヴィネスから完全に離れ、スローなバラードをやったりしてきた経験がある。彼らは自由であり、バンドという共同体では決して作り出せない楽曲をやるために存在している。Chelsea GrinでDarko USのような挑戦、または実験とも言うべき創作は出来ない。本作にも「Cry Baby」などといったアコースティック曲が収録されており、これはこれで素晴らしい。そうしてメタルとバラードを境なしに味わえるリスナーが2024年にはたくさんいる。Darko USが『Starfire』でやっていることが、もっとありふれたものになっていくだろう。

彼らに実験的な面白さを求めているのであれば、「Chrone Moon」をチェックしてみるのがいいだろう。微細にエディットされたチャギングリフとインダストリアルな装飾が生み出す不気味なアトモスフィアは、ミュージシャンには大きなインスピレーションを与えるはずだ。そしてScarlxrdをフィーチャーした「Virtual Function」は、メタルコアとダークなヒップホップの可能性が無限大であることを感じさせる印象的なトラックと言えるだろう。一気に全部聴くのもいいし、2,3曲ずつ聴いても楽しいアルバムだ。

 

▶︎UnityTX 『Playing Favorites』 EP

2014年にテキサス州ダラスで結成され、ボーカリストJay Webster、ギタリストAlberto Vazquez、ベーシストAustin Elliott、ドラマーMiguel Angelという不動のメンバーで活動を続けている。彼らはThe Story So Farなどが在籍するPure Noise Recordsに所属しており、「ニューメタルコア」というよりは「ラップメタル」とか「ラップコア」と呼ばれることが多い。

本作はシングル「Playing Favorites」と他3曲収録のEP (昔はこのくらいのボリュームならシングルだったかもしれない) で、プロデュースはA Day To Rememberの『Homesick』や『Common Courtesy』、そのほかThe Ghost InsideやWage Warを手掛けるAndrew Wadeが担当している。Andrewが手がけたことでも分かるように、ハードコアのパッション溢れるフックが彼らのヒップホップのDNAと化学反応を起こしている。「Playing Favorites」で言えば、ブルータル・デスコア・バンド、PeelingFleshをも彷彿とさせるヘヴィなリフとスクラッチ、クラシックなニューメタル・ワーミーを交えたシンプルでありながらブルータルなトラックの上でJayがラップする、極上のラップメタルに仕上がっている。ニューメタルコア・リスナーも見逃せないUnityTXから、ラップメタルも掘り下げてみると面白いだろう。

 

▶︎cohen_noise 『Some Things Aren’t Forever, But For A Reason: Vol. 1』 EP

アメリカ・ケンタッキー州の4人組、cohen_noise。2022年のデビュー・アルバム『HAPPY.wav』は耳の早いメタルコア・リスナーの間では話題となったが、まだまだアンダーグラウンドな存在と言えるだろう。この作品もさらっとすごいことをやってしまっていること、ソーシャルメディアでの神秘性を大事に”し過ぎている”ことから、ミュージックビデオの再生回数が公開から1ヶ月で1000回にも到達していないのは勿体無い。こうしたバンドはRIFF CULTのような小さなメディアでなく、大手メタルメディアこそ取り上げて評価するなりしなくてはいけない。しかしイメージを大切にし過ぎる昨今のソーシャルメディア戦略ではそこに届くには大金を払うかよっぽど刺激的でないと無理だ。

cohen_noiseはいわゆるニューメタルとメタルコアをクロスオーバーさせたニューメタルコアに加えて、LoatheIce Sealed Eyesといったオルタナティヴ・メタルコアの影響も感じさせてくれる。彼らのプレイスルー映像を見れば、音からだけでなく、ヴィジュアルや使用機材からもそれが感じられるだろう。「オルタナ」はずっとメタルコア・シーン全体を底上げするのに重要なキーワードであり続けているが、先にも使った神秘性を守り過ぎると、誰にも聴かれないまま終わってしまう。cohen_noiseにはその壁を打ち破れるポテンシャルがあるし、「Fantasy」のような楽曲はRise Records黄金期を感じさせるキャッチなクリーンパートがあり、とっかかりとしてキーと言える楽曲だ。次々登場する新しい、刺激的なバンドの勢いに押しつぶされないよう頑張ってほしい。かなり未来があるバンドだとこの作品で確信した。

 

▶︎Defocus 『there is a place for me on earth』

2019年ドイツ・アーレンを拠点にスタートしたDefocus、2021年の『In the Eye of Death We Are All the Same』以来、3年振りとなるセカンド・アルバム。本作はArising Empireからリリースされ、AvianaやAbbie Fallsといったヨーロッパのヘヴィ・メタルコア・バンドを多数手掛けるVojta Pacesnyによってプロデュースされた。10曲32分とコンパクトな仕上がりながら、その内容は非常に充実しており、想像以上の満足感が得られるはずだ。けばけばしいワーミーやベースドロップを削ぎ落とし、現行ユーロ・メタルコアのヘヴィネスを下地としたサウンドを展開している。だからこそ映えるブレイクビーツやエレクトロニック・パートがDefocusを特別なニューメタルコアたらしめる魅力を放っている。After the BurialCurrents、そしてPROMPTSといったバンドの系譜にあるようなヘヴィさがあり、多方面のメタルコア・リスナー、さらにはデスコア・リスナーにも引っかかるようなブレイクダウンを搭載した楽曲もいくつか収録されている。中でも「flatlines」のエンディングはブルータルだ。

シンプルでスタイリッシュな彼らのヴィジュアルが映える「crooked mind」は「flatlines」などと併せてDefocusとは一体どんなバンドかを把握するのにピッタリな入門的楽曲に仕上がっている。ドイツらしいメタルコアの伝統も感じさせつつ、何よりも新しさがある。確立したDefocusのスタイルがこれからどのように進化していくのか楽しみである。

 

▶︎SPLEEN 『It Can(‘t) Be Worse』 EP

2023年にデビューしたフランス出身の5人組。およそ1年掛けてじっくりと制作され、途中メンバーチェンジもありながら完成させたデビューEPとなる本作は、ニューメタルコアの中にプログレッシヴ/Djentな香りも忍ばせた、興味深い仕上がりで注目を集めた。

フランスでこの手のサウンドと言うと真っ先に思い浮かぶのはten 56.だろうか。ヨーロッパまで拡大すれば、thrownなどが思い浮かぶが、SPLEENは彼らよりもシンプルに「ニューメタルコア+プログレッシヴ・メタルコア/Djent」と言うクロスオーバー・サウンドを鳴らしている。本作リリース直前に公開された最後の先行シングル「Natra」は、本作の中でもプログレッシヴ感の強い楽曲で、クロスオーバーのバランス感覚も優れている。まだまだSpotifyのフォロワーやミュージックビデオの再生回数は少ないものの、オリジナリティがあるし、毎日のようにリリースされていくメタルコア・シングルの中でも印象に残ってリリースを楽しみにしていたくらい印象に残ったバンドなので、これから更なる進化が期待出来ると思う。

 

▶︎Dealer 『New Order Of Mind』

2018年にオーストラリア・メルボルンで結成され、Alpha Wolfと共にニューメタルコアのトップバンドとして注目を集めたDealerであったが、度重なるメンバーチェンジによって安定しない活動が続いた。彼らの諸問題については度々指摘されてきたものの、2024年にギタリストJack Leggett、ベーシストMatthew Brida、ドラマーBrad Lipsettが加わり遂にデビューアルバムとなる本作を発表した (これまでに11名のメンバーが脱退、再加入を繰り返していた) 。

『New Order Of Mind』は、2019年の『Soul Burn』や翌年の『Saint』 (*いずれもEP) のスタイルとほとんど一緒の楽曲構成、フックで満たされており、大きなサウンドプロダクションの変化などはない。「HYPERREAL DEATH SCENE」「THE HATE YOU TRY TO HIDE」といったリードシングルも2019年〜2020年のDealerからほとんど変わっていない。それだけ先進的なサウンドをコロナ禍前に作り出していたということも凄いが、ほとんど変わっていないにも関わらずやはり細やかなところにDealerのソングライティングの良さが感じられる。「THE HATE YOU TRY TO HIDE」は2分強の短い楽曲であるが、イントロの狂気じみたインダストリアル・サウンドからニューメタルへと自然に繋がっていくところや簡単にビートダウンしない、ひねくれたところは評価出来る。不安的な精神状況を描写するミュージックビデオの数々は見る人を選ぶが、やはり2024年、ニューメタルコア・シーンにとってDealerは無視できないと思う。

 

▶︎Bite Down 『Decolorized』 EP

2019年、スウェーデンのヨンショーピングで結成されたBite DownのサードEP。これまでアルバムリリースはなく、2020年に『Trial // Error』、2022年に『Damage Control』とコンスタントにEP (またはシングル) をリリースし続けている。常にシーンにおいて存在感があり、じわじわとその名を浸透させてきた彼らの最新作は、We Are Triumphantからのリリースされたこともあり、ヨーロッパのみならず、アメリカのアンダーグラウンド・メタルコア・シーンでも注目を集めた。

ミュージックビデオにもなっており、EPのオープニングを飾る「Ynoga」は、ファストで切れ味鋭いチャギングリフをハンマーのように打ち続けていく。そしてほとんどゼロを刻み、転調も全くしないスタイルは、同郷のHumanity’s Last BreathのようなThallっぽさがあるように感じる。「Beautiful Gloom」ではDrop Eのうねるリフに吸い込まれていくような錯覚さえ感じるが、ニューメタルコアとは言い難い、プログレッシヴメタルコアを鳴らしている。良い意味でスウェーデンらしいメタルコアであり、ニューメタルコア・フレーバーを程良くブレンドしているタイプと言えるだろう。

【年間ベスト】ONE BULLET LEFT開催記念企画 : Keita (Sable Hills)’s Best Albums & Songs of 2023


 
日本のメタルコアを牽引する存在として、2023年も精力的な活動でファンを楽しませてくれたSailing Before The WindとSable Hills。彼らがキュレーションするイベント「ONE BULLET LEFT」の開催を記念し、RIFF CULTでは、両バンドのメンバーに2023年の年間ベスト・アルバム、そして楽曲をピックアップしていただきました。
 
シーンの最先端にいるミュージシャンは、どのようなメタルを聴いていたのでしょうか。リストをチェックすれば、彼らの驚くべき音楽への探究心に驚くだけではなく、新しいお気に入りが見つかるかもしれません。
 
2024年1月28日 (日曜日) 東京・渋谷 club asiaで行われる「ONE BULLET LEFT」は、日本のメタルコアの現在地を体感できるイベントになるはずだ。これらのリストをチェックして、より深くイベントを楽しみましょう。
 

 
▶︎Sable Hills x Sailing Before The Wind “ONE BULLET LEFT”
 
開催日時 : 2024年1月28日 (日曜日)
場所 : 東京・渋谷 club asia
OPEN/START : 14:00/14:30
TICKET : 3,800yen (+1D) / DOOR : 4,800yen (+1D) / 20歳以下 : 2,000yen (+1D – *枚数限定)
 
チケットはこちらから : https://eplus.jp/sf/detail/4003190001


▶︎KEITA : BEST ALBUMS OF 2023

・Chamber 『A Love To Kill For』
・Gideon 『MORE POWER. MORE PAIN.』
・Dying Wish 『Symptoms of Survival』
・Silent Planet 『SUPERBLOOM』
・Mouth for War 『Bleed Yourself』
 
▶︎Chamber 『A Love To Kill For』

Stream & Download : https://lnk.to/ChamberTN
Official Site : https://chamber615.com/
 
他のSable Hillsのメンバーとは一味違ったアルバムをピックアップしていただけたことは興味深いことです。特にChamberはカオティック〜マスコアを通過したメタルコアでありながらオールドスクールな側面も持ち合わせたアルバムでサウンド・プロダクションも興味深いです。ドラマーとして、このアルバムの良さ、味わい深さはどんなところにあると思いますか?
 
本作もサウンド・プロダクションを手掛けたのが Randy Leboeuf ということもあり、ドライでヘヴィ、そしてモッシーな作品になっていると感じました。元々Chamberの作り出すサウンドが好きなのですが、本作はカオティックな側面とオールドスクールな側面の整合性が更に取れていて、そのバランスが素晴らしいと思いました。ブレイクダウン中のうねるような連続的なテンポチェンジは特筆すべきアプローチだと思います。

 

▶︎Dying Wish 『Symptoms of Survival』

Stream & Download : https://bfan.link/symptoms-of-survival
Official Site : https://dyingwishhc.com/
 
現在の国内メタルコア・シーンでも言えますが、Dying Wishのようなメロディック・スタイルは世界のメタルコア/ハードコアのトレンドになりつつあると感じています。Dying Withは現在の日本のメタルコア・シーンに与えている影響は非常に強いと感じていますので、KeitaさんなりにこのDying Wishの魅力は何か書いてみて欲しいです。
 
Dying Withは、90’s原点回帰の波が世界的に高まるきっかけを作った一つのバンドだと思っています。『Symptoms of Survival』に関して言うと、透き通るようなクリーンパートから血生臭いモッシュパートへの振り幅が大きくそこがとても好きなポイントです。ニュースクール・ハードコア好きであれば唸らないはずはないリフしかない点も素晴らしいと思います。

 

▶︎Gideon 『MORE POWER. MORE PAIN.』

Stream & Download : https://gideon.lnk.to/MOREPOWERMOREPAIN
Official Site : https://gideonal.com/
 
ドラマーとしてGideonのようなタフでヘヴィなグルーヴを持ち味とするサウンドを持つバンドが刺激的なのはとても良く理解出来ます。Sable HillsでのKeitaさんのプレイ・スタイルも確かな技術によって生み出される「グルーヴ」がキーだと思いますが、Gideonの『MORE POWER. MORE PAIN.』におけるグルーヴの心地良さがドラムにあるとして、どんなテクニックやフレーズにしびれましたか?
 
GideonのJakeは自分が最もリスペクトするドラマーの中の1人です。彼の持ち味として特徴的なポイントは、ビートの中に3連符と6連符をアクセントとして入れた上でゴーストノートを多用することで、シンプルなビートでも抑揚を最大限に生み出していくところにあると思っています。そこがGideonのグルーヴの根源になっていると感じますね。特に「Too Much is Never Enough」の0:19~のTrap-Hihat的アプローチは痺れました。

 

▶︎Silent Planet 『SUPERBLOOM』

Stream & Download : https://silentplanet.ffm.to/superbloom
Official Site : https://www.solidstaterecords.com/silent-planet
 
Silent Planetをピックアップされたことは、クラシカルなメタルをルーツに持つSable Hillsにとってあまり繋がりを感じませんが、どうしてこのアルバムをピックアップしたのでしょうか?彼らのほかにプログレッシヴ・メタルコア系のアーティスト聞きますか?加えて、ドラマー目線でこのアルバムを聴いた時、どんな魅力を感じますか?
 
確かにSABLE HILLSはエレクトロ的なアプローチをあまりしませんが、根幹にあるヘヴィネスに対しては親和性があると思っています。ドラマー的観点ですと、音の配置や音色のセンスがとにかく綺麗だと思いますね。音を入れすぎない抜きの美学を感じます。

Silent Planetを筆頭にメタルコアというカテゴリーから超越していく個性派が「エレクトロニック」をキーワードに発展しています。『SUPERBLOOM』も彼らの独自性のキーとも言えるアトモスフィアを、本作でエレクトロニックなものに大胆に置き換えていて、それはリズム、グルーヴにおいても顕著です。ほかにも多くのエレクトロニックなメタルコアを聴かれていると思いますが、Silent Planetの新作の中で衝撃を受けた楽曲などを挙げつつ、エレクトロニックなビートの中で「ドラム」はどんなアプローチが魅力であると思いますか?
 
「Antimatter」に一番衝撃を受けました。まず、バンドの曲なのにバンドのビートから始まらないんだってなりました。エレクトロでよくあるリフレイン的な曲展開の仕方をSilent Planet流に昇華しているのも印象的でしたね。エレクトロニックなビートの中でのドラムの立ち位置は他の音をどれだけ目立たせられるかにあると思っています。あえて叩かないのがイイってことですね。

 

▶︎Mouth for War 『Bleed Yourself』


 
Stream & Download : https://mouthforwarco.bandcamp.com/album/bleed-yourself-2
Official Site : https://www.instagram.com/mouthforwarco/
 
RictさんもMouth for Warの新作をピックアップしていました。バンド内で好きな音楽や最近聴いている音楽を共有したりしていますか?Mouth for Warの魅力と共に、普段のソングライティングでこうした他のバンドからの影響を参考にしていくとき、Sable Hillsらしさとどのようにしてクロスオーバーさせることを心がけていますか?
 
Mouth for Warの魅力はあくまでもメタルコア/ハードコアの枠から外れずともその暴力性がとても高いところにあると思います。ドラムアレンジメントをしていく際にアプローチ方法として参考にすることはありますが、自分がモッシュコア / ハードコアから受けている影響の方が大きいので、その曲に対して自分なりにアレンジしていった結果気づいたらクロスオーバーしているケースの方が多いかもしれません。


 

▶︎KEITA : BEST SONGS OF 2023

 
▶︎Boundaries 「Armageddon」


 
▶︎Dying Wish 「Torn From Your Silhouette」


 
▶︎Foreign Hands 「Conditioned for a Head-On Collision」


 
▶︎Mouth for War 「Saturate Me」


 
▶︎The Ghost Inside 「Death Grip」


 
Foreign HandsやMouth for WarなどのフレッシュなバンドからThe Ghost Insideまで幅広くタフなグルーヴを持つ楽曲がリストインしました。この中でドラマーとして最も驚くべきテクニックを持っていると感じた楽曲はありますか?
 
他パートとのユニゾンなどがあるので前提としてメタルコアやハードコアはドラムのフレージング的にある程度の型があるものなのですが、上記のドラマーは+α自分の色を出しているというか、何か新しいアプローチを試みてるのが感じられるのが素晴らしいと思いました。自分もその1人なので。
 

▶︎Keita : Social

https://x.com/KeitaSableHills
https://www.instagram.com/keita_sablehills/
 

【年間ベスト】ONE BULLET LEFT開催記念企画 : RYOICHI (Sailing Before The Wind)’s Best Albums & Songs of 2023


 
日本のメタルコアを牽引する存在として、2023年も精力的な活動でファンを楽しませてくれたSailing Before The WindとSable Hills。彼らがキュレーションするメタルコア・イベント「ONE BULLET LEFT」の開催を記念し、RIFF CULTでは、両バンドのメンバーに2023年の年間ベスト・アルバム、そして楽曲をピックアップしていただきました。
 
シーンの最先端にいるミュージシャンは、どのようなメタルを聴いていたのでしょうか。リストをチェックすれば、彼らの驚くべき音楽への探究心に驚くだけではなく、新しいお気に入りが見つかるかもしれません。
 
2024年1月28日 (日曜日) 東京・渋谷 club asiaで行われる「ONE BULLET LEFT」は、日本のメタルコアの現在地を体感できるイベントになるはずだ。これらのリストをチェックして、より深くイベントを楽しみましょう。
 

 
▶︎Sable Hills x Sailing Before The Wind presents “ONE BULLET LEFT”
 
開催日時 : 2024年1月28日 (日曜日)
場所 : 東京・渋谷 club asia
OPEN/START : 14:00/14:30
TICKET : 3,800yen (+1D) / DOOR : 4,800yen (+1D) / 20歳以下 : 2,000yen (+1D – *枚数限定)
 
チケットはこちらから : https://eplus.jp/sf/detail/4003190001


▶︎RYOICHI : BEST ALBUMS OF 2023

August Burns Red 『Death Below』
A Mourning Star 『A Reminder of the Wound Unhealed』
Dying Wish 『Symptoms of Survival』
Currents 『The Death We Seek』
Graphic Nature 『A Mind Waiting to Die』

▶︎August Burns Red 『Death Below』


 
Stream & Download : https://found.ee/DeathBelow
Official Site : https://augustburnsred.com/
 
August Burns Redの『Death Below』は、多くのメタル・メディアでも絶賛されています。長年に渡り世界のメタルコアを牽引する存在として、大きくスタイルを変えることなく活動を続けているところは、Sailing Before The Windの活動スタイルにも重なる部分があります。このアルバムで特に「August Burns Redらしい」と感じた楽曲、またはフレーズはありましたか?
 
文句無しの傑作だと感じました。楽曲というよりアルバム全体を通して彼らの矜持を感じます。August Burns Redはメロディックメタルコア+αでいう「+α」の塩梅を楽しむのがミソだと思うんですが(そこもうちのスタイルと重なりますし)、今回はその塩梅がアルバム全体で聞くとバランスがいい感じになってるのが面白いです。
 
序盤からプログレばりの長さの曲があったり、曲単位で存在する”ABRらしさ”は変わってないのに、もちろんクリーンボーカルの導入も大きいとは思いますが、どこかスルスル聞けてしまうキャッチーさも兼ね備えてるというか。結果August Burns Redらしさを損なう事なく、ちゃんと進歩進化してる感触があるのが単純に凄い。

 

▶︎A Mourning Star 『A Reminder of the Wound Unhealed』


 
Stream & Download : https://dazestyle.bandcamp.com/album/a-reminder-of-the-wound-unhealed
Official Site : https://www.instagram.com/amourningstar.vhs/
 
A Mourning Starの『A Reminder of the Wound Unhealed』からはSailing Before The Windが活動をスタートさせた2010年代初頭のころによく聴いた、懐かしいスタイルのメタルコアです。ボーカルのスタイルはRyoichiさんのスタイルにも重なるところがあるように感じます。ボーカリストとして、A Mourning Starの特筆すべきポイントなどはありますか?また、おすすめの楽曲などあれば併せて教えてください。
 
単細胞メタル小僧だった10代の時期に、地元・沖縄の諸先輩方に00年代初頭のニュースクール/メタルコアや90年代ミリタント系の音源を「メタラーならきっと気に入るよ」と沢山ピックアップしてもらって、そこでメタルとハードコアの補助線が引けて本格的に音楽を聞くのが楽しくなったので、今でもピンポイントで好物ですし、国内含めて昨今のリバイバルの雰囲気も嬉しいです。
 
ボーカルスタイルは特に意識した事はなかったんですが、言われてみたら自分の中のアングラ的原点なので、無意識の中で出てるのかもしれないですね。今作は前作のEPより更にメタルコア感と叙情派ニュースクール味が増してて、まさに”ジャンルのマップ作り途中”みたいな人にうってつけのアルバムだと思いました。と、それっぽく御託を並べましたが正直ほんとにただ好きなだけですね。トラック2の「Corruption」がお気に入りです。

 

▶︎Dying Wish 『Symptoms of Survival』


 
Stream & Download : https://bfan.link/symptoms-of-survival
Official Site : https://www.instagram.com/dyingwishhc/
 
Dying Wishの『Symptoms of Survival』はここ日本でも大きな話題となり、メロディック・メタルコア/ハードコアのムーヴメントのキーとも言える作品であると思います。実際に日本のメタルコアの中心で活動を続けている中で、Dying Wishの影響を感じる日本のバンドがいたりしますか?また、特に好きな曲などあれば教えてください。
 
いい意味でいいとこ取りのようなバンドで、ヘヴィーパートオンリーの曲、メロデスライク、もしくはフューリーエッジスタイルの単音リフで攻め攻め系の曲もあれば、不協和音リフワークにキャッチー過ぎないクリーンボーカルで初期Solid State Records系の雰囲気も醸したり、と思ったらブレイクダウンがモダンでソリッドになったりと、ごった煮系ってともすればダサかったり、あざとくなりやすいと思うんですけど、奇跡的にかっこよくまとまってるなと感じました。
 
こっからいい意味でも悪い意味でも垢抜けていくバンド多いと思うんですけど、このまま突き抜けて昇華してほしい感じです。見当違いだったら申し訳ないんですが、Graupelとか曲によっては近い事してる時たまにありませんでしたかね?もっとファストでメロディックだし、時期的に影響とかではないとは思いますが。モダンな部分と往年のスタイルをセンスよく行き来するバンドが日本でも更に増えてくれたら楽しいですね。「Watch My Promise Die」が特に好きな曲です。

 

▶︎Currents 『The Death We Seek』


 
Stream & Download : https://bfan.link/remember-me-2
Official Site : https://www.instagram.com/currents/
 
Currentsの『The Death We Seek』はSable Hillsのメンバー達もフェイヴァリットに挙げており、このアルバムは世界のメタルコア・リスナーを虜にしました。一概に「メタルコア」という言葉では形容できないほど、多様なアレンジや工夫が感じられる作品ですが、ミュージシャンとして彼らのサウンド・プロダクションなどで驚いたこと、学びがあったと思うところはありますか?
 
こういうヘヴィーシットメリハリ系モダンメタルコアは珍しくはなくなりましたけど、おっしゃるとおりその他大勢のワナビーバンドから頭抜けた感じがありまね。全体に薄っすらと鳴り続けてるエレクトロ、シンセエフェクトも何だか独特で、個人的にはむしろメリハリを希釈する方向に持っていってるように感じました。
 
この手のバンド特有のブルータリティーと綺麗なクリーンボーカルの極端さをあまり強調しないというか、そのお陰で独自の荘厳感も出ててかっこいいですね。ボーカルのスクリームも非常に乾いたテイストで好みです。流行ってて沢山似たタイプのバンドがいるのもあって飽きるのも早いバンドが多かったですが、このアルバムは長く聞けそうです。

 

▶︎Graphic Nature 『A Mind Waiting to Die』

Official Site, Stream & Download : https://music.ruderecords.com/amindwaitingtodie
 
Graphic Natureは発展し続けるニュー・メタルコア・シーンの中でも、正統派として高く評価されています。Ryoichiさんはヒップホップなどもお好きだと思いますが、メタルコアにないグルーヴを取り入れているバンドも近年は多く、Graphic Natureの『A Mind Waiting to Die』にもそういったパートが組み込まれています。この作品に惹かれた理由は何かありますか?
 
ニューメタルコアって超絶ざっくりLinkin Park系かSlipknot系に分けられると思うんですけど、彼らはもちろんSlipknot系で”初期Slipknotのブチギレ感をそのままに、UKっ子らしくインダストリアルデジタルバイブス濃いめにしてモダンメタルコアで割りました!”みたいな完全に開き直ったスタイルがとても好ましくて好きですね。申し訳程度に入ってるワーミーリフとかDJスクラッチ、ドラムンベースも素直というか、衝動とやってみたい事がまんま音に出てるので、小賢しいことは抜き!熱けりゃオッケー!という気持ちに。
 
もしかしたらこの中で1番自然と手が伸びる回数が多かったアルバムかもしれないです。とりあえず聞きながら家を出る、みたいな。

 

▶︎RYOICHI : BEST SONGS OF 2023

▶︎Texas In July 「False Divinity」

 

▶︎Balmora 「Under the Weight of a Blackened Sky」

 

▶︎Beartooth 「Riptide」

 

▶︎Morning Again 「Resignation」

 

▶︎Unearth 「The Wretched;The Ruinous」

Texas In July、UnearthといったSailing Before The Windにも通ずるメロディアスなメタルコアからBalmora、Morning Againといったクラシックなスタイルを鳴らすバンドの中にBeartoothといったバンドの楽曲がリストインしているのは非常に面白いと思いました。これらの楽曲について (またはリスト全体について) 、それぞれ感想を教えてください。
 
Texas In Julyはもはや聞く前から良かったですね。良かったというか嬉しかったというか。新曲出たのがとにかく嬉しいです。
 
Balmoraは前述のA Mourning Starがニュースクールリバイバルの優等生系なら、こっちはいい意味でドタドタしてて特にこの曲はリフがかなり臭メロデスで好きです。
 
ご指摘の通り毛色の違う選出ですが、Beartoothはずっと好きなバンドなので入れました。
ハードロックのバイブスを醸すポストハードコアバンドにAsking Alexandriaがいますけど、こっちはよりアメリカンなテイストで、チューニングは低いのに陽性味の強いスケールワークでテキサスいノリ
(テキサス出身じゃないしこんな言葉存在しないですが)思い切りのいいシンプルなブレイクダウンはそのままに、キャッチーでフックのある歌メロが更に進化しててやばいです。
 
Morning Againは復活して以降割とヘヴィーハードコアに傾倒してる感じある中、この曲が特別フューリー感強めで即やられました。ニヤニヤ系です。
 
Unearthに関して僕が今更何か言う事なんてホントはないんですが、デスラッシュ成分とメタルコア成分の塩梅がアルバムによって変わるのはAILDと似てますけど、彼らは一貫してハードコア成分強めの展開で必ず割り算してくるので毎度安心して聞けます。
 

▶︎RYOICHI : Social

https://linktr.ee/ryoichisuemori

メタルコア 2023年下半期の名盤TOP10

2023年上半期のメタルコア名盤TOP10を読む

2023年の下半期にリリースされたメタルコアのアルバム、EPの中から優れた作品をピックアップし、アルバムレビューしました。下半期は、2024年以降のメタルコアがどのように進化していくかを少し読み取れるような作品がたくさんリリースされましたので、それを意識しながら有名無名問わず印象に残った作品が中心になっています。

上半期はAugust Burns RedやFor I Am Kingといったメロディック・メタルコアに加え、その流れにありながらもハードコア/デスコアともリンクしてくるCurrentsやC-GATE、そしてGraphic NatureやSoul Keeper、from joyといったモダン・メタルの可能性を拡大してくれるクリエイティヴなバンドをリストアップしました。下半期も基本的にはそういった全体のバランスを見つつ、「エレクトロニック」をキーワードに重要な作品を意識的にリストに組み込みました。順位はそこまで重要ではないですので、第1位から第10位まで (余裕があれば、文末の次点の10枚まで) チェックしてみてください。

 


▶︎第10位 : Dying Wish 『Symptoms of Survival』

Stream & Download : https://bfan.link/symptoms-of-survival
Official Site : https://dyingwishhc.com/

アメリカ・オレゴンの女性ボーカル・メタリック・ハードコア・バンド、Dying Wish (ダイイング・ウィッシュ)。2021年にSharpTone Recordsと契約し『Fragments of a Bitter Memory』をリリースしてから、本作までに彼/彼女らの状況は劇的に変化した。グローバルな人気を獲得、ライブは毎度カオスな盛り上がりを見せ、急激な人気の高まりを遠く離れた日本からも見てとれた。

あえてDying Wishに関してはメタルコアではなく、メタリック・ハードコアと言いたい。ハードコア成分が非常に高く、Knocked Looseといった2020年代最高峰のフックを効かせたキーリング・スタイルを取り込んでいるのも面白いし、ScowlやGelといった女性フロントマン擁するハードコアの系譜として見ても、最近のミュージックビデオに見られる、ファッショナブルなフロントマンをメインに据えたヴィジュアルに通ずるものを感じる。メタルコアから見れば、こうしたバンドはハードコアのモッシュやマイクジャック、ステージダイブといった盛り上がりをライブで見られることから、”急激にブレイク中”であるというイメージをシーンに植え付けることが出来ている。

彼/彼女らがハードコア成分について前作以上に精密な構築を施していることからもその狙いは明らかだ。もちろん、これは悪いことではなく、SharpTone Recordsという現代メタルコア中心の所属アーティスト・ラインナップの中で目立ち、自分たちに目を向けさせる為に最大の努力している証拠であり、現代をサバイヴするアーティストとして間違っていない。Knockled Looseも、そのサウンドはもちろん、日々アップされるカオスなライブ・パフォーマンスビデオの影響で、とんでもないところまで行ってしまったのだから、フロアの熱気、活気というのも実力以上に大事というのが2023年だったと思う。この手のサウンドを復興させ、日本でもView from the Soyuzに見られるライブの盛り上がりを見れば、このスタイルのバンドが今、どこでどう勝負すべきかは自ずと導かれていくだろう。ミュージックビデオにもなっている「Watch My Promise Die」は新しいDying Wishが2024年以降に作っていく道筋を感じられる1曲に仕上がっていると言えるだろう。

 

▶︎第9位 : Avalanche Effect 『Of Wired Hearts And Artificial Prophecies』

Stream & Download : https://open.spotify.com/intl-ja/artist/1lhzMZn54qAGcj8hdoMCCb
Official Site : https://www.instagram.com/avalancheeffect

ドイツ・ミュンスターの7人組プログレッシヴ・メタルコア・バンド、待望のEPは、2023年上半期の個人的大ヒット・メタルコア曲「Manipulating Sky」で幕を開ける。メンバーに不幸があったものの、新体制として動き出した彼らのAvalanche Effectというバンドにかける強い覚悟は随所に伝わってくる。シーンにおけるバンドのポジションはまだまだこれからという具合であるが、じわりと盛り上がってきたエレクトロニック・メタルコアのカテゴリーに分類出来るようなアレンジも随所にある。ただ、このバンドの最も優れたところはツイン・ボーカルの巧みな掛け合いによって楽曲を通して貫かれる光と影のコントラスト、それを美しく色彩豊かに表現するプログレッシヴなクリーントーンのメロディだ。プログレッシヴ・メタルコアとしては、特筆して個性的なところはないものの、この個性を伸ばしていけるような楽曲構成を固め、ドラマ性を高め続けていけば、間違いなくその名はドイツだけでなく、グローバルなものへと成長していくに違いない。そして意外とヘヴィなのも良い。大半の楽曲の後半にはデスコアにも接近していくようなヘヴィ・パートがあり、クリーン・パートの力強さを浮き彫りにしてくれる。2024年、更なる活躍を期待したい、隠れた逸材と言えるだろう。今からチェックしておいてほしい。

 

▶︎第8位 : Resolve 『Human』

Stream & Download : https://arisingempire.com/humanalbum

Official Site : https://resolveofficial.co

フランス・リヨン出身のメタルコア・バンド、Resolveのセカンド・アルバム。世界がパンデミックに見舞われた2020年は、Resolveにとって勝負の年になるはずであった。しかし彼らはあえて派手な動きはせず、静かに『Human』に繋がる世界観をイメージし、デビュー・アルバム、そして本作を完成させるまでストイックに創造を続けてきた。そのメンタリティは非常に評価出来るし、コロナ禍で立ち止まったまま動けなくなった多くのメタルコア・バンドがいたからこそ、Resolveの劇的な進化には驚き感激した。

「New Colors」はシンプルにResolveとして打ち出し続けてきたスタイルの結晶であり、アルバムの中でもキーと言える楽曲だ。そして印象的な収録曲「Older Days」には、同郷のten56.からAaron Matts、そしてPaleface SwissのZelliがゲスト・ボーカリストとして参加しており、ユーロ・メタルコア/ポスト・ハードコア全体が育んできたドラマ性の高いメロディとスタイリッシュなメタルコア、そしてヒップホップのエレメンツも交え、また少し違ったResolveの魅力が垣間見えるもの面白い。この曲はミュージックビデオのディレクションも素晴らしく、モダンでミニマルなヴィジュアルが非常にスタイリッシュだ。これはアメリカのバンドには無い。Holding Absence、LANDMVRKSに次いでグローバル・ブレイクするのは、Resolveだろう。

 

▶︎第7位 : Beartooth 『The Surface』

Stream & Download : https://beartooth.ffm.to/surface
Official Site : http://beartoothband.com

Beartoothも気付けば結成から10年を超え、ベテランの域に差し掛かってきました。メタルコア・バンドには珍しくRed Bull Recordsからアルバムをリリースし続け、本作が通算5枚目のフル・アルバム。Caleb Shomoのカリスマ性をサウンド面、そしてヴィジュアル面でもこれでもかと味わえる作品に仕上がっており、プロデュースもCalebが担当しています。

Calebの雰囲気がだいぶ変わってきたというか、明らかにキャラクターが変わってきている。鍛え抜かれた肉体美を誇示するかのようなパフォーマンスはライブでもミュージックビデオでも貫かれていて、ソーシャル・メディアの投稿もCaleb単体のライブ・フォト、セッション・フォトが散見されます。フロントマンの強烈な個性はバンドにとって非常に重要で、特にBeartoothのようなCalebのカリスマ性を際立たせることにフォーカスしたバンドは、これくらいド派手にやってしっくりくるなと思います。

もちろんOshie BicharやConnor Denisというバッキング・ボーカルを務める存在が随所に輝きを放っており、HARDYをフィーチャーした「The Better Me」や「Sunshine!」といった楽曲はBeartoothというバンドの良さが全て詰め込まれた新しいライブ・アンセムになっています。Issuesがバンドとして終わりを迎え、Woe, is Meが復活したものの全盛期のような輝きまでは届かず、無論Attack Attack!はトップ・シーンにいない今、Beartoothは2010年代、メタルコアがヘヴィにそしてダークに変わりつつあったトレンドを個性として残しながら、ここまでキャッチーなスタイルへと成長。この『The Surface』の構想から完成まで、本当に多くの苦労、挑戦があっただろうし、Calebも今が一番ノリにノってるぞと言わんばかりのエネルギーを発奮しているのを見るともう一つ上のステージへと階段を登るきっかけになる作品ではないかと思う。これから続くBeartoothの歴史においても、この作品は一つ分岐点になるものとして印象に残り続けるに違いない。

 

▶︎第6位 : Artemis Rising 『Vibe Sampler』

Stream & Download : http://fanlink.to/VIBE-SAMPLER-EP
Official Site : http://artemisrising.de/

元Death of an EraのDanielがフロントマンを務めている事で話題となったArtemis Risingですが、革新的なエレクトロニック・メタルコアは時代の先を行き過ぎていたのが、デビュー・シングルで大きなブレイクとまでは行きませんでした。しかし2022年代から次第に増え始めた”エレクトロニック・メタルコア”は、例えばAttack Attack!やElectric Callboy、とは違い、本格的なクロスオーバーを始めています。これは、Attack Attack!の登場以降、メタルコア+キーボディストというバンド編成によってシーンに植え付けられたエレクトロニック・メタルコアとは根底が違い、マシーン・ドラム/エレクトロニック・ビートとドラマーの鳴らすビートが交互に展開されたり、時に交わっていくなど、メロディだけでないことが印象的だと思います。

例えば、本作収録の「Scales of Justice」では、ハードコア・テクノ、ガバといったタイプのエレクトロニック・ビートが楽曲の大黒柱となり、プログレッシヴなギターのリフやタイトなドラミングというものが交わるように展開されていくというスタイルへエレクトロニック・メタルコアを進化させています。この作品のヴィジュアライザーがマーブル模様の色彩と電子基盤のレイヤーで構成されているのも、視覚的にArtemis Risingを表現するのに重要な役割を担っていると言えるでしょう。2020年代以降のエレクトロニック・メタルコアについては、独立した音楽ジャンルとして意識しておくと、ダンス・ミュージック・シーンとの関わりなどへもその魅力を波及させられるきっかけに繋がるかもしれません。Sullivan Kingのようなアーティストがとんでもないブレイクを果たして、Artemis Risingなどといったバンドをビッグ・ステージへ引っ張り出して欲しいですね。

 

▶︎第5位 : Spiritbox 『The Fear of Fear』

Stream & Download : https://spiritbox.lnk.to/TFOF
Official Site : https://spiritbox.com/

カナダの女性ボーカル・メタルコア・バンド、SpiritboxのEP『The Fear of Fear』は、昨年のEP『Rotoscope』でエレクトロニックなビートを踏んだんに盛り込みつつ、革新的なデビュー・アルバム『Perfect Blue』を見事にアップデート。現代メタルコアのキーパーソンと言えるプロデューサーDaniel BraunsteinとSpiritboxの世界観を司るコンポーザーであるMike Stringerによる共同プロデュースとなった本作は、『Perfect Blue』と『Rotoscope』の間に位置する。

特筆すべき楽曲は「Angel Eyes」であろう。デスコアへも接近しようかというヘヴィネスへの探究心、Courtney LaPlanteのカリスマ性溢れるボーカル、そして不気味に漂う『Rotoscope』で見せた深いエレクトロニック・ダーク・アンビエントのアトモスフィア。次曲「The Void」のメロディアスさも相まって、EP中盤に絶頂を迎える『The Fear of Fear』の作品としての驚くべきコンパクトなクリエイティヴィティには感心させられる。この二つのEPを経てドロップされるセカンド・アルバムでどのようなチャレンジを見せてくれるのか、高く期待している。

 

▶︎第4位 : Silent Planet 『SUPERBLOOM』

Stream & Download : https://silentplanet.ffm.to/superbloom
Official Site : https://www.solidstaterecords.com/silent-planet

カリフォルニアを拠点に活動するプログレッシヴ・メタルコア・バンド、Silent Planetの通算5枚目となるフル・アルバム。プロデューサーには前作に引き続きSpiritboxやDayseeker、Invent Animateといったアーティストを手がけるDaniel Braunsteinを起用し、ミックス/マスタリングはBuster Odeholmが担当している。アルバム・タイトルの『SUPERBLOOM』は、アメリカの乾燥地帯で野草がいっせいに開花する伝説的な現象のことを指し、その言葉の持つ神秘性は、Silent Planetがこれまで、そして本作で打ち出すサウンド、そしてアートワークからも感じ取ることが出来るだろう。

アルバムの中でキーとなっている楽曲は「Anunnaki」と「Antimatter」だろうか。「Anunnaki (アヌンナキ)」という不思議なタイトル、これは古代シュメール神話の中に登場するパンテオン (ある人々によって信じられている神々をひとまとめにして呼ぶための言葉) の中で最も強力な神々の名前で、人間の運命を司ったとされる。この古代シュメール神話の物語をコンセプトとしたリリック、そしてミュージックビデオのヴィジュアル・イメージは、『SUPERBLOOM』におけるSilent Planetの最もヘヴィで、抑えることのできない狂気性を見事に現している。カリスマ・ボーカリストGarrett Russellが上裸で赤く燃える森の中を歩くミュージックビデオのワンシーンはいささか映画のようである。何度も注意深くこの楽曲を聴きながらふと頭をよぎったのは、先日Grayscale Recordsとのグローバル契約を発表した日本のメタルコア・バンド、Promptsの存在だ。彼らの楽曲のうねりにはどこかプログレッシヴという言葉だけでは形容の出来ないものがあるが、「Anunnaki」におけるSilent Planetのヘヴィネスもこれと似たものが渦巻いているように感じる。

そして「Antimatter」では、今年多くのバンドが挑戦したエレクトロニックなビートに乗せて幕を開けていく。こうしたスタイルはヨーロッパ、個人的にはデンマークのSiameseが先駆者であると思うが、楽曲がエンディングに向かうにつれ、彼ららしく昇華していく。一聴しただけではこのアルバムの全体像は掴めないかもしれない。上記に挙げたキー曲の前後にも、神秘性の高い雰囲気が漂い続けている。掴もうとすればそれは霞となって消えていく。Silent Planetの元来大切にしてきた魅力は、音楽的な野心に消し去られることなく、現在も漂い続けリスナーを虜にしていく。

 

▶︎第3位 : Ice Sealed Eyes 『Vol.2: Fragments』

Stream & Download : https://open.spotify.com/intl-ja/artist/0eVDo1w1SoyNP0xswwFYi7?si=gasq05qAQ7u5vMGFH2kNWQ
Official Site : https://www.instagram.com/icesealedeyes/

2023年上半期に書いた「超個性派! メタルコア 2023年上半期のベスト・シングル」という記事の中でも彼らをピックアップしていますが、EPという形で新しい作品が出ました。LoatheやThornhillが起こしたオルタナティヴ・メタルコアという概念を捉えアップデートさせるベルギー出身の彼らは、本作でシューゲイズやオルタナ、アンビエントのアトモスフィアをまとったオルタナティヴ・メタルコアの奥深い世界観をまた一つ先に進めたと言えるでしょう。

5曲入りの作品ですが、作品のおける間奏として挿入される「Forlorn」ではサッド・ラップ/サッド・ローファイとも捉えられるIce Sealed Eyesの新たな一面を垣間見ることが出来ます。この楽曲を分岐点とし、後半の冒頭を飾る「Deadweight」では、Humanity’s Last Breathを彷彿とさせるThallなリフが限りなくノイズに近い形状へと変形しビートダウンを続けていきます。打ちつけるリフ、キックの波動が波打ちながら、霧のようなシンセと溶け合っていくこのスタイルは、Invent Animate、Silent Planetといったこの手のサウンドの先駆者よりも刺激的なダイナミズムに溢れています。Deftones影響下のメタルコアが好きなら彼らはフォローしておくべきでしょう。

 

▶︎第2位 : Hollow Front 『The Fear Of Letting Go』

Stream & Download : https://hollowfront.lnk.to/TFOLG
Official Site : https://unfdcentral.com/artists/hollow-front/

アメリカ・ミシガンのメタルコア・バンド、Hollow Frontのサード・アルバム。2021年にUNFDと契約後、毎年アルバムをリリースするという多作っぷりでありながら、作品毎に確実にレベルアップし、アメリカを中心にグローバルな人気を誇る彼ら。RIFF CULTで行った国内メタルコア・バンドらへの年間ベスト・インタビューにも『The Fear Of Letting Go』は数多くリストインされていたのが印象的だった。

彼らと比較されるバンドといえば、ErraやPolaris、Northlaneといったところであろうが、Hollow Frontが本作で打ち出した”Hollow Frontらしさ”は、ミュージックビデオにもなっておりアルバムのキー曲である「Over The Cradle」にある。リリックやビデオのコンセプトになっているのは、Hollow Frontのソングライター自身が経験したネグレクトであり、育児放棄、感情の混乱を鮮明に表現している。この歌は、母親への赦し (*ゆるし)の歌であるが、現在も続く痛みが入り混じった言葉がリリックの中で巨大なインパクトを放っている。母親は自分たちに命を与えてくれたが、生き方を教えることができなかった……。母親を許したとはいえ、過去の経験の傷跡がまだ残っていることを表現している。自身が経験した辛い思い出を非常に分かりやすく、そしてメタルコアという音楽の怒りの塊のようなエネルギーを巧みにストーリーに落とし込んだ本楽曲は、Hollow Frontの知的な芸術性が爆発したキラーチューンと言えるだろう。細かなパートについても、エレクトロニックなビートをさらりと組み込んだり、ブレイクダウン・パートの切れ味と歌詞の鋭さがリンクしながら展開していくところも、意図的に作られているのであれば、これはもう、非常に優れた高等芸術であり、メタルコア文化遺産にしたいくらいだ。

優れているのは先行シングルとして発表されたものだけでなく、「Stay With Me」というバラードもHollow Frontの魅力を解き放つ印象的な楽曲だ。メロディック・ハードコアをルーツに感じさせながらも、彼らの直接的な影響源であるだろうErraやNorthlaneといったバンドの楽曲構築の典例を参考に、力強いスクリームと張り裂けるようなクリーン・ボーカルを交互に展開させていく。実はこの曲がアルバムの中で一番凄いかもしれない。確実にトップ・シーンへと躍り出たHollow Front。このアルバムをライブ・パフォーマンスでどこまで繊細にドラマティックに表現できるかが2024年代ブレイクの鍵になってくるだろう。持ってるセンスは一級品。

 

▶︎第1位 : Polaris 『Fatalism』

Stream & Download : https://bfan.link/fatalism
Official Site : https://www.polarisaus.com/

2023年はPolarisにとって、激動の年となった。すでに『Fatalism』を完成させ、キャリア最大のヘッドライン・ツアーとリリースを控えていた彼らであったが、バンド創設期から中心メンバーの一人であったギタリストのRyan Siewが26歳と若さでこの世を去った。この訃報は世界のメタルコア・シーンを深い悲しみに包み、奇しくもアルバムの全体的なコンセプトとしてテーマになっている数年間に世界を巻き込んだ絶望とディストピアの感覚、そしてそれに付随する圧倒的な「自分たちは道を変えることができない」という感覚が、このアルバムのメッセージをより現実的なものにしている。

いくつもアルバムを象徴する楽曲はあるが、”In loving memory of Ryan Siew”という追悼の意を込め、生前のRyanも撮影に参加している楽曲「Overflow」は、ドラマーDanielによって書かれたものだ。Danielはこの楽曲の歌詞について、自身のパニック発作と闘うことの葛藤と、その葛藤が他人に与えることの影響について歌っていると説明している。悲しみと絶望に満ちた歌詞、「The earth is spinning much too fast for me」という詩的なフレーズのインパクトが強烈であったし、その中からもわずかながら、希望の光を感じさせてくれるところも、世界に多くのファンを持つ彼らの優しさであり、トップ・シーンを走るバンドが歌うことの責任であると感じる。

とても暗いアルバムだと思う。サウンドだけで言えば、オーストラリアン・メタルコアらしさもしっかりと根底にありつつ、Jamie HailsとJake Steinhauserのシャウト、クリーンのコンビネーションの織りなすドラマ性豊かでプロダクションも一級品。加えて、やはり、詩的な魅力というのも、しっかりと捉えていく必要がありそうだ。歌詞の一つ一つ、言葉の選び方も壮絶な時代を生きる若者の代弁者として優れた才能を見せてくれている。

 

上半期&下半期それぞれのTOP 10には入れなかったものの、本当に毎年メタルコアの素晴らしい作品がリリースされている。もし下記のリストに聴いていない作品があれば、ぜひチェックしてみてください。

Atreyu – The Beautiful Dark of Life
Texas In July – Without Reason
Prospective – Reasons to Leave
Of Virtue – Omen
The Callous Daoboys – God Smiles Upon The Callous Daoboys
Of Mice & Men – Tether
Wolves At The Gate – Lost In Translation
Heart Of A Coward – This place only brings death
Johnny Booth – Moments Elsewhere
Soul Despair – Crimson

KNOSISを聴いた海外の人たちのリアクション

Crystal Lakeからの脱退からしばらく経ち、日本のメタルコア・シーンを代表するボーカリストであるRyo Kinoshitaが新たにKnosis (ノーシス) というバンド/プロジェクトで音楽シーンに戻ってきたことは記憶に新しい。Knosisは、RyoとSurvive Said The ProphetのYosh、そしてMade in Me.のDaikiによって構成されており、彼らの音楽プロダクション・チーム The Hideout Studios によるプロジェクトとして活動を開始した。

このRyoの再始動には、日本国内だけでなく、海外も注目した。一体Knosisがどんなサウンドを鳴らすのか、メタルコアなのか、メタルコアじゃないのか…… 。さまざまな憶測が飛び交い、遂にリリースされた楽曲を聴いた海外のファンはどのような反応をしたのでしょうか。YouTubeにたくさんアップされているリアクション動画の中から、いくつか面白かったものをピックアップしてみた。

 

「Ryo Kinoshita (Crystal Lake) is back!! 」というタイトルからも分かるように、Crystal Lakeのファンであった、チャンネル登録者数13万人を誇るリアクションYouTuber 「Ohrion Reacts」は冒頭からテンション高め。この動画では「星砕 [SEISAI]」を聴いており、その独特の楽曲展開に体を揺らしながらも、Ryoのクリエイティヴさに驚きを隠せないようです。最終的には後半に押し寄せる怒涛のボーカルに興奮しつつも、聴き終えたあとはRyoのカムバックに感謝しつつ、Knosisのこれから、挑戦的な姿勢を支持しています。

 

メタルコアYouTuberとして、現在は多くのアーティストとしてコラボしながら未知の領域へと突入しているNik Nocturnal。彼がデイリーで行っているTwitchでの配信をまとめたチャンネル「Nik Nocturnal Twitch Clips」で、Knosisについてリアクション動画をアップしています。彼はRyoのカリスマ性に驚きつつ、この楽曲のプロダクションについても興味を示しています。特にイントロとラップのパートが気に入ったようで、彼のエクスペリメンタル・メタルコアへの冒険を応援しているようですが、言葉を選びつつ、Crystal Lakeから彼が脱退したことを悲しがっているようにも感じますね。ただ、最も重要なことは彼がシーンに返ってきたことだと話しています。

 

チャンネル登録者数7万人、少しずつリアクションYouTuberとして登録者数を増やし続けているMacRyanMacは、メタル専門のリアクションYouTuberではなく、日本のロック、メタル、さらにはK-Popまでをリアクションしている、いわゆるアジア音楽のファン。この動画では冒頭から「すでにKnosisのファンだ」、「彼のボーカルが本当に好きだ」とCrystal Lakeからのファンであることを話しながら、不思議な楽曲展開に驚きながら、最後まで聴き進めていく。そしてこの動画ではEP全曲をチェックし、同様に驚く場面が多い。聴き終えてすぐの段階で「全く頭が整理できていない!」、「一体、これはなんなんだ」とポジティヴな混乱を起こしながらも冷静に「ロゴがカッコ良すぎる」と言い放っているのは面白い。Knosisの更なる新しい音楽を楽しみにしているようであった。

 

チャンネル登録者数6万人、主にTwitchで配信を行っているNewovaは、かなり熱心なメタルコア・ファン。デスコアまでに精通しつつ、時に辛辣なコメントも。今回はKnosisの「Seisai」をスピンし、冷静に楽曲を聴いています。時折、この楽曲の独創性に混乱しながら楽曲を一時停止し、「この曲がどうなっているのか、メタルコアなのかデスコアなのか理解することが出来ないが、嫌いになることが出来ない。どうして自分が好きだと感じるのかわからない!」と頭の中を整理している。最終的にはやはり、Crystal Lakeを彷彿とさせるヘヴィなパートがお気に入りだと話している。

 

彼らの他にも多くのリアクションYouTuber、特にCrystal Lakeを聴いてきたファンたちがKnosisを聴き、時に混乱しつつもRyo Kinoshitaがシーンに戻ってきたことを歓迎している。グローバルなカリスマ性を持ち、Knosisのエクスペリメンタルな挑戦、実験性も受け入れるファンがこれほどまでに多くいることに驚いた。多くのリアクションYouTuberたちは「彼がこれから何をするのか想像がつかない、しかしそれを楽しみにしている」とコメントしていることからも分かるように、Knosisの一挙手一投足に世界中から注目が集まっている。

 

Instagram https://instagram.com/knosisofficial
Twitter https://twitter.com/knosis_official

 

プログレッシヴ・メタルコア最前線 (2023年上半期のベスト・シングルス)

モダン・プログレッシヴ・メタルコア (Modern Progressive Metalcore) は、メタルコアの中でもプログレッシヴ・メタル/ロックの影響を持つアーティストの中で、モダンなスタイルを追求するバンドを指す。メタルコアにおけるプログレッシヴ・スタイルの導入で最も印象的なのは Djent で、Peripheryなどがトップ・バンドとして挙げられる。彼らの登場から10年以上が経ち、プログレッシヴ・メタルコアと呼ばれる音楽も日々進化し、周辺ジャンルと関わり合いながら成長し続けている。私が執筆した『Djentガイドブック』は2020年までのプログレッシヴ・メタルコアの歴史についてまとめたもので、2020年以降のフレッシュなサウンドを鳴らすバンド、または楽曲などについて「モダン・プログレッシヴ・メタルコア」として個人的にタグ付けして出版以降もウォッチし続けてきた。

この記事では、2023年1月から6月までにリリースされた多くのモダン・プログレッシヴ・メタルコアのシングル/アルバムから気になるものをピックアップして紹介する。RIFF CULTのSpotifyアカウントで「Best of Modern Progressive Metalcore 2023」というプレイリストを通じて日々ディグの結果を反映させているのでぜひチェックしてもらいたい。

2023年6月現在、40曲近い楽曲がリストインされているこのプレイリストを元に、紹介しておきたい楽曲を下記にまとめておく。さらに知りたい、聴きたいという方はぜひプレイリストをフォローし聴いていただければと思う。

 

Sailing Before The Wind 「Vanishing Figure (feat. Sean Hester of Life Itself)」

この記事で最初に紹介したいのはやはり日本が誇るプログレッシヴ・メタルコア・バンド、Sailing Before The WindがLife ItselfのSeanをフィーチャーした楽曲「Vanishing Figure」だ。彼らのトレードマークと言えるメロディック・ハードロック/プログレッシヴ・ロックを通過した流麗なギターのメロディがふんだんに盛り込まれており、近年のSailing Before The Windが新たなキーリングとして楽曲のメインに据えたボーカルのクリーン映えるサビパートも過去最高の輝きを放つ。モダンだと思うのは、メタルコアのクラシカルな魅力溢れるスタイルに挿入されるフックの効いたブレイクダウンだ。Seanがフィーチャリングしているこの強力なパートは、多くのリアクションYouTuberによって切り抜かれ拡散していったことも印象的だった。これに次ぐ楽曲でSailing Before The Windが何をするのか、非常に興味深い。

 

そして、この2023年上半期には「Sailing Before The Wind系」と呼びたくなるモダン・プログレッシヴ・メタルコアな楽曲がいくつもリリースされた。それらはSailing Before The Windから直接的な影響を受けたかどうかは分からないが、もし似ているバンドを探しているという方がいたら、下記のバンドをチェックしてみて欲しい。

最もSBTWに近いスタイルを鳴らしていたのは、カナダ・トロントを拠点に活動するFeyn Entityだ。プロデューサー/コンポーザーとして活動するK.L.によるプロジェクトとしても活動していて、これはFeyn Entity名義でのデビューEP。テーマはデジタル化されたサイバー世界における分断された社会、人間同士の距離感に対し、コロナウイルスによるロックダウン中のバンドメンバーの考えや気持ちを表現したもの。この楽曲はインストであるが、Clintn Watsをフィーチャーした「Dissolve (The Dream Is A Lie)」も素晴らしいのでぜひチェックして欲しい。

Sailing Before The Windの「Futurist」を彷彿とさせるメロディックなスタイルを得意とするアメリカ出身のIn Search of SightのEPも素晴らしく、リードトラックである「Left Behind」は特におすすめ。Spotifyの月間リスナーはまだまだ少ないが、アメリカのローカル・メタルコアの雰囲気たっぷりなので、コア・リスナーはチェックしておいても損はないと思う。

 

 

Avalanche Effect 「Manipulating Sky」

ドイツ出身のAvalanche Effectは大幅なメンバーラインナップの変更を経て、この「Manipulating Sky」を発表している。ドラマーのJannick Pohlmannを亡くし、新メンバーを迎え7人体制として動き出したAvalanche Effectの「Manipulating Sky」は、2023年上半期最も優れたモダン・プログレッシヴ・メタルコアだった。現代デスコアの影響も見え隠れするブレイクダウンはすっきりとプログレッシヴの美的感覚になぞらえて表現し、Invent AnimateやA Scent Like Wolvesを彷彿とさせる浮遊感のあるメロディをふわりと燻らせている。再び動き出した彼らの動向は逐一チェックしていくべきだろう。

 

Traveller 「Homesick」

2017年から活動を続けるドイツのプログレッシヴ・メタルコア Traveller がリリースしたEP『Imprint』はプログレッシヴ・メタルコアの何がシーンで評価されているのかを正しく理解し、自身のスタイルとして昇華することに成功したTravellerの画期的な作品だ。ここに辿り着くまでのTravellerも非常にスタイリッシュで魅力的なバンドであったが、この作品で一気に隠れていた魅力が花開いた。ミュージックビデオにもなっている「Homesick」では、Invent Animateを彷彿とさせる浮遊感溢れるメロディとピアノの音色が醸し出すドラマ性の高さに驚くだろう。エンディングは特に凄まじい。

 

 

Breakdown of Sanity 「Collapse」

 

スイスを拠点に活動しているメタルコア・バンド、Breakdown of Sanityは、ほぼ休止状態でありながら「バンドが恋しい」という理由で2020年から毎年シングルをリリースしている。本格的な復活が切望されるが、2016年のアルバム『Coexistence』以来、本格的な再開には至っていない。ただ、これらのシングルはアルバム1枚に匹敵するほどの濃密さがあり、どれもリスナーに深く印象付けるものとなっている。ずっしりと詰まった至高の刻みは全盛期の輝きのまま、全てのメタル・ヘッズをヘッドバンギングさせるバウンシーな仕上がり。流石の貫禄。

 

Everghost 「Instinct」

デトロイトからとんでもないバンド Everghost が登場。「Instinct」は彼らのデビュー・シングルで、ミュージックビデオがDreamboundから公開されている。全編に渡って流れるアンビエントなアトモスフィアと細部にまで詰め込まれたリフは新人とは思えないクオリティ。特に最後のブレイクダウンは強烈で、Invent Animate〜I Prevail辺り、さらにResolveなどまで感じられる雰囲気があり、最初聴いた時はかなり驚きました。Spotifyの月間リスナーも5000未満とまだまだこれからと言えるEverghost、今からチェックしてください。

 

 

After the Burial 「Nothing Gold」

USプログレッシヴ・メタルコアの代表的な存在であるAfter The Burialが、2019年のアルバム『Evergreen』以来となる新曲「Nothing God」と「Death Keeps Us From Living」の2曲を発表。ちょうどAfter The Burialくらいのレベルにあるメタルコア・バンドにとって、新型コロナウイルスによるパンデミックは経済的な打撃が大きかったに違いない。ライブが出来ない中オンラインで制作を続けたバンドも多いが、それは簡単なことではなかっただろう。今回の新曲についてボーカルのAnthonyは、この2曲がCOVIDのロックダウンの経験から書かれたもので、Anthony自身にとって人生で最も辛い時期に書いたものであるとコメントしている。ルーツに立ち返り、好きなものを作るとして書かれたこの楽曲はまさにAfter The Burialらしさが凝縮されており、2010年代初頭から中期にかけてプログレッシヴ・メタルコアが大きく盛り上がり始めた頃のヴァイブスを感じることが出来る。

 

As Within So Without 「Burn With The Sun」

2016年からニューヨークを拠点に活動する As Within So Without の最新シングル。このシーンを何年も追いかけているリスナーであれば、このバンド名を見ただけでそのサウンドが想像出来るかもしれない。今回公開された「Burn With The Sun」は、彼らの出世作であるアルバム『Salvation』から1年振りのニュー・シングルで、大きな期待を背負って発表された。その期待を大きく超えるこの「Burn With The Sun」は、昔のThe Word Aliveをプログレッシヴに仕立てたような耳馴染みの良いキャッチーさがあり、多くのメタルコア・リスナーが知っておくべきバンドであると思う。このシングルから次のアルバムが間違いなく素晴らしいものになることが分かるだろう。

 

 

Straight Shot Home 「Developer」

近年のメタルコア/デスコアのプロモーションに欠かせないものと言えば「リアクション動画」だ。それで爆発的なヒットになったバンドと言えば、Lorna Shoreが最も記憶に新しいだろう。私もいくつかのリアクションYouTuberをフォローして、主に彼らのショートから優れたブレイクダウンを持つバンドの最新曲に巡りあうことが出来た。個人的に最も気に入っているOhrion Reactsはチャンネル登録者数11万人を誇る、アンダーグラウンド・メタル・シーンの中ではフォロワーの多いYouTuberで彼が紹介するバンドは”当たり”が多い。そんな彼が「Architects と Dayseeker が一緒にバンド組んだらこんなサウンドになるのでは」とキャッチを付けて紹介したバンド Straight Shot Home はこの上半期何度も聴いていたバンドのひとつだ。ポスト・ハードコアのとろけるようなクリーンと相性の良いメロディアスな楽曲は、Erraにも通ずる美しさがある。バンドは自身のサウンドを「80年代のシンセポップとモダン・メタルコアの融合」と形容していて、その表現にピンときたリスナーは迷わず彼らをチェックしてほしい。

 

Soul Despair 「Crimson」

ポルトガルとアメリカを拠点に持つSoul DespairをRIFF CULTでは何度も取り上げてきた。ただ反応はイマイチで、記事へのアクセスは平均以下……。複雑な魅力を持つバンドの魅力を発信するのは非常に難しいが、彼らに関しては今季よくRIFF CULTでも取り上げていきたいと思う。彼らのサウンドにはSentinelsやOceans Ate Alaskaといったマスコアのエレメンツがスパイス程度にふんわりと漂っており、それが魅力的なクセになっている。「Crimson」はクセとなるアクセントは少ないものの、Soul Despairというバンドが目指すサウンドとして完成されており、比較的キャッチーに魅力が伝わる楽曲であると思う。この記事を読み込んでいただけている方なら間違いなくヒットすると思う。

 

 

Polaris 「INHUMANE」

2023年6月19日、PolarisのギタリストであるRyan Siewが急逝したというニュースにメタル・シーンは深い悲しみに暮れた。彼はまだ26歳で、Polarisで過ごした10年もの間、メタルコアのゲームチェンジャーとしてそのアーティスティックな才能を発揮してきた。2023年9月1日にリリースされることが決まっているアルバム『FATALISM』からの先行シングル第1弾として公開された「INHUMANE」のミュージックビデオではRyanの姿もあり、観ていると複雑な感情が込み上げてくる。モダン・メタルコアのトップを走る彼らの現在地が垣間見える「INHUMANE」ではRyanを筆頭に綿密に作り込まれたリフが織り成すグルーヴに圧倒され、その世界観が今後メタルコア・シーンに与える影響を考えると計り知れないものがあるだろう。このアルバムのリリースを待つ気持ちはどのように表現すべきか分からないが、Ryanにとって遺作となってしまった『FATALISM』がモダン・メタルコアの頂点にある作品になっていることが紛れもない事実であることを「INHUMANE」で証明した。

 

The Artificials 「Warrior Of Light」

プログレッシヴ・メタルコア/メタルのディープなディガーであれば、彼/彼女らの魅力は古くから知っているだろう。Tragic Hero Recordsから2017年にリリースしたアルバム『Heart』に収録されていた「Warrior Of Light」のリマスター・バージョンは、上半期良く聴いた楽曲の一つで『Heart』を聴きかえすきっかけにもなった。完全に独立した手法でバンド活動を続ける彼/彼女らの自由な創作にはいつも驚かされる。

 

Vanitas 「Eventum」

The Artificialsと共にチェックしてほしいのが、2022年にイングランドで結成されたばかりの女性ボーカル・プログレッシヴ・メタル/メタルコア・バンド、Vanitasだ。ミュージックビデオとして公開された「Eventum」は、シンフォニック・メタル/プログレッシヴ・メタルをベースにしながら、メタルコアのバウンシーなリフを取り入れ、広範囲のメタル・リスナーへアプローチしたキラーチューンだ。中盤から後半にかけてのドラマティックな展開は魅力的。大手、例えばNapalm Recordsなんかと契約して売り出されたらビッグ・ステージも時間の問題だと感じる。

 

 

最後に

「モダン・プログレッシヴ・メタルコア」というキーワードを持ってシーンを追いかけてみると、いくつもこのキーワードの持つ特徴に気付く。全体的なヴィジュアルイメージの統一性、楽曲タイトルやバンド名に使われる単語……。グローバルに点在する彼らを一つのジャンルやシーンにまとめて考えることは出来ないが、具体的になっていない共通する要素は他のメタルコアやデスコアに比べると分かりやすいものがあると思う。

Spotifyの月間リスナーが1万を超えるアーティストは珍しいが、決してマイナーなカテゴリーではないと思うし、広く親しまれる要素があるので、誰が筆頭になって「プログレッシヴ・メタルコア」を分かりやすく打ち出し牽引していくかが重要だと思う。また、リアクションYouTuberによって注目を集める要素もこのジャンルにはあるので、「プログレッシヴ・メタルコア系リアクションYouTuber」がかつてのレーベルやYouTubeチャンネルのような役割を果たしていくのかなとは思う。そこの力がどのくらいまで巨大なものになっていくのかは想像出来ない。何となしに、シーンとしてのまとまりはないにしても、これらを「モダン・プログレッシヴ・メタルコア」としてまとまった場所で紹介されるべきではあると思う。

今回この記事で紹介したバンドの3倍近い楽曲をRIFF CULTのSpotifyプレイリスト「Best of Modern Progressive Metalcore 2023」では紹介している (他の特集記事で別途紹介したモダン・プログレッシヴ・メタルコアもあります)。 ぜひフォローしてランダム再生したりしながら、新しいお気に入りを見つけたり、プログレッシヴ・メタルコアの現在地を感じてみてください。

 

Architects、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=MkQy80FgNRc

 

UKメタルコア・バンド、Architects が2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

【RIFF CULT Spotifyプレイリスト】

RIFF CULTのSpotifyプレイリストでは、日々世界中でリリースされるメタルコア、デスコア、デスメタル、プログレッシヴ・メタルなどを更新するプレイリストを公開しています。ぜひお気に入りに登録して日々のディグに役立てて下さい。

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Code Orange、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=f-cuPbNVv0Q

 

メタルコア/ハードコア・バンド、Code Orange がが2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

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Today is the Day、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=ChB_r3dPMJY

 

アメリカのノイズ ロック/エクスペリメンタル・メタル・レジェンド、Today is the Day が2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

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Parkway Drive、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=rxXVR-4gJGA

 

オーストラリアのメタルコア/ヘヴィ・メタル・バンド、Parkway Drive が 2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

 

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Powerwolf、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=MvB4dRJCQZs

 

ドイツ出身のパワーメタル・バンド、Powerwolfが 2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

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Municipal Waste、「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=l3A8s3Hr-68

 

クロスオーバー・スラッシュ・メタル・バンド、 Municipal Waste が、2023年6月15日から2023年6月18日にフランス・クリッソンで行われたフェスティバル「Hellfest 2023」でのフルセット・ライブ映像をYouTube arte concert のチャンネルから公開しました。

 

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Electric Callboy、「Pinkpop 2023」でのフルセット・ライブ映像が公開に

https://www.youtube.com/watch?v=b0–G1IYw7E

 

エレクトロニック・メタル・バンド、Electric Callboy が オランダ・ランドグラーフにて、2023年6月16日(金) – 2023年6月18日(日)に開催されている「Pinkpop 2023」に出演。プロショットによるフルセット・ライブ映像が公開されています。

 

 

ELECTRIC CALLBOY、改名後初となるニュー・アルバム『Tekkno』リリース!

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DEXCORE の「Savior」を聴いた海外の人たちのリアクション

 

DEXCORE は、ブレイクダウンを多用したメタルコアサウンドを基調にした楽曲と、そのサウンドとは対称的なPOPなアプローチとメロディを昇華した”デクスサウンド” で、V系シーンのみならず、メタル・シーンとの繋がりもあるバンドとして幅広く支持されているバンドだ。そんなDEXCORE が2023年4月14日にニュー・シングル「Savior」のサブスクを解禁し、国内外で大きな話題となっている。今回、そんな「Savior」を聴いた海外のリスナーたちの反応をまとめてみたいと思う。

 

 

チャンネル登録者数9.73万人 (2023年4月現在)、日々、世界中のメタルコアのリアクション動画を投稿する Ohrion Reacts は、DEXCOREの新曲を非常に楽しみにしていたようで、再生する前から高い期待を抱いている様子が伺える。ヘヴィなブレイクダウンや転調に対して耳の肥えた人物であるが、DEXCOREのヘヴィさにはやはり驚きを隠せないようだ。同時期にリリースされたPeripheryのアルバムと比べて「さらに面白い」とコメントし、ブレイクダウンとクリーンの対比の美しさに特に反応しています。過去にはDEXCOREを「日本で最も素晴らしいメタルコア」として評している。

 

チャンネル登録者数 1.49万人 (2023年4月現在) を誇るJeff Paugeは、このリアクション動画のタイトルに「Heaviest Breakdown of 2023?!」という副題をつけている。やはりDEXCOREのブレイクダウンはグローバルなメタルコア・シーンにとってもヘヴィで洗練されているものであることが分かる。そしてその美しい楽曲構成に言葉を失いつつも、盛り上がりと共に興奮していく様子が面白い。最もヘヴィなブレイクダウンが繰り出されるとガッツポーズをして踊り出す様は、多くの人が共感できる反応ではないだろうか。

 

 

チャンネル登録者数 5.46万人 (2023年4月現在) を誇るHardcore Keemはメタルコア・シーンのリアクション動画をする人物として有名であり、言ってしまえば現代ソーシャルメディアにおけるメタルコア・インフルエンサーだ。彼は比較的ヘヴィなメタルコア、そしてデスコア、ビートダウン・ハードコアに興味を示す傾向にあるが、DEXCOREにも同様の反応を示しているのが面白い。最もヘヴィなブレイクダウンが繰り出されるパートでは思わず笑ってしまいながらもヘッドバンギングが止められないようでこっちまで血圧が上がってしまう。

 

 

チャンネル登録者数 3.06万人 (2023年4月現在) 、これまでに4000以上のリアクション動画を投稿するLocal Band Smokeout は、冒頭からボーカルの素晴らしさにフォーカスしながら聴き進めていく。ブレイクダウンを際立たせるオーケストレーションもポイントとし、冷静に最後まで丁寧に聴いていくと、10点満点中9.5点を付け、DEXCOREに高評価を与えている。

 

 

チャンネル登録者数2.54万人 (2023年4月現在) を誇るRoguenjosh。公開されて1ヶ月が経過した動画は、彼が最近アップされたものの中では最も多くの再生回数を誇る。彼らはDEXCOREの強烈なブレイクダウンに衝撃を受けたようで、時折笑みを浮かべながら、真剣に動画をチェックしています。

 

いかがでしたでしょうか?この他にもたくさんのリアクションビデオがアップされているので、チェックしてみてください。

 

Website:https://dexcore.jp
Twitter:http://twitter.com/dexcore_info
Instagram:https://www.instagram.com/dexcore_official
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40nyh2463z

メタル・リスナーが聴くべきMerzbowの名盤 TOP5

 

Merzbow (メルツバウ) というアーティスト名を目にしたことがあるメタル・リスナーは多いはずだ。Relapse Recordsのカタログで『Pulse Demon』や『Venereology』のデラックス盤を見かけたり、BORISとのコラボレーションなど、コアなメタル・リスナーであれば Merzbowが世界を代表するノイズ・ミュージシャンであることも知っているだろう。今回は「Merzbowをどの作品から聴いていいのか分からない」、「興味があるけど、ノイズをどうやって聴いたら良いのか分からない」という メタル・リスナー に向けて Merzbowの名盤を5つピックアップしてみました。

 

まず初めに、簡単にMerzbowとはどんなミュージシャンなのかを説明したいと思います。

 

Photo by : Seth Tisue

 

Merzbowは、秋田昌美によるヴィーガン・ストレイト・エッジ・ノイズ・プロジェクト。80年代初頭のノイズ・インダストリアル・シーンに参加し海外のレーベルを中心にリリースを始める。90年代にはグラインドコアの影響を受けデスメタルのレーベルRelapseからアルバムをリリース。2000年代にはmegoの「punkなcomputer music」に共鳴、ラップトップによるライブ手法を採用した。2003年頃から「動物の権利」(アニマルライツ)の観点からヴィーガン(完全菜食主義)を実践している。「捕鯨反対」「イルカ漁反対」「毛皮反対」等をテーマに作品を制作している。近年はアナログ機材を主体にした音作りを行っている。(Merzbow Official Siteより)

 

メタル・リスナーにとってのMerzbowの魅力は、そのサウンドのヘヴィさ、そしてヴィーガン、アニマルライツを長年貫き続けるパンクな姿勢だ。年間数十枚とリリースされる多くのアルバムのアートワークの芸術性も高く、メタル・リスナーを惹きつける魅力のひとつ。また、日本だけでなく海外のミュージシャンらからの人気も高く、コラボレーション・アルバムも多数リリースされている。その中にはFull of HellやIgorrrといったメタルの第1線で活躍するミュージシャンもいる。

 

日本が誇るミュージシャンとして名が挙がることも多いMerzbow。その多作っぷりからどのアルバムから聴けばいいか分からない音楽好きにおすすめの作品をまとめていきたいと思います。気に入ったら、様々なアルバムを入手してみて下さい。

 

https://merzbow.net/

 

StereoAkuma (2020, ROOM 40)

2020年にLawrence Englishが運営するオーストラリアのレーベルRoom40からリリースされたこのアルバムは、2019年7月5日オーストラリア/ニューポートのThe SUBSTATIONで行われたRoom40主催イベント「Open Frame」でのライブ・パフォーマンスが収録された作品で、売上収益をオーストラリアの森林火災で被害を受けた野生動物の回復を支援する野生動物保護団体WIRESに寄付している。こうして作品を購入することでアニマルライツ活動に参加することが出来るというのは、Merzbowを聴く理由の一つとしても大きい。

 

金属的な冷ややかさが朧げなビートを硬くし、そこに覆い被さるようにボリュームがアップしていくハーシュ・ノイズ・ウォールが没入感を加速させ、やがてその重低音はビートを飲み込んでいく。水面に浮かび上がる水泡が弾けるような微かなアクセントや、ヘヴィ・サウンドの中で浮かび上がる金切ノイズは動物たちの叫び声のようにも錯覚する。他のMerzbowのアルバムの中でもローが効いているので、現代的なニューメタルコアやインダストリアル・メタルの重みと感覚的に似ているものがある。

 

 

 

Venereplogy (1994, Relapse Records)

MerzbowをSpotifyやApple Musicといったプラットフォームで検索すると、大体TOP3で表示されるのが、『Venereplogy』だ。このアルバムがトップ・アルバムとして紹介される理由は紛れもなくこの強烈なノイズ・アルバムがメタルの名門Relapse Recordsからリリースされたことに由来する。Relapse Records以外にメタル・レーベルがノイズ・アーティストのリリースを手掛ける事例はほとんどなく、このアルバムの後に発表された『Pulse Demon』はMerzbowの最も有名な作品となり、アートワークはMerzbowの難解さを表したネットミームにもなっている。

 

このアルバムは楽曲によって様々な表情があるが、あらゆる生き物の悲鳴のようなものが継ぎ接ぎされたようなコラージュが興味深く、スピード感のあるうねりが、次々と繰り出されるノイズの塊に躍動感を与えている。その忙しなさはどこか手数の多いドラムがキーのテクニカル・デスメタルを聴いているよう。

 

 

Pulse Nostril (2017, Not On Label)

Igorrrとのコラボ・アルバムで、互いの代表的な作品である『Nostril』と 『Pulse Demon』をマッシュ・アップしたもの。オリジナル・アルバムではない為、それぞれのディスコグラフィーにおいて重要作品として名前が挙がることは少ないが、Merzbowのハーシュ・ノイズがビートの上でどんな役割を果たすことができ、またどんな効果をもたらしてくれるかをじっくりと味わうことが出来る作品のため、メタルのような音楽ファンがMerzbowの入門作品として聴くのは面白いかもしれない。

 

Igorrrの近年の作品の中でメタル・リスナーが最も親しみを感じる楽曲は、Cannibal CorpseのGeorge Fisherをフィーチャーした「PARPAING」だろう。プログレッシヴ・デスメタルがアナログのモジュラーシンセから繰り出される奇怪なビートとオーガニックにクロスオーバーしていた。この作品は『Nostril』が醸し出すビートの旨みの中で異質な輝きを放つ『Pulse Demon』のエネルギーが不気味に混ざり合う。

 

 

Arijigoku (2008, Vivo)

 

『Arijigoku』は元々サイケデリック、プログレッシヴ・ロック・ドラマーというルーツを持つ秋田昌美が、そのサウンドをMerzbow単独名義に持ち込んだ最初の作品と言われている。自分自身、Merzbowに心酔し始めたきっかけになった作品が2007年にCold Springからリリースされた『Anicca』だったこともあり、ドラムを組み込んだMerzbowの作品が好きだ。近年『Arijigoku』はスローダウン・レコーズによるメルツバウ・アーカイブ・シリーズの第12弾として『Arijigoku (Test Mix)』として新しくリリースされており、久しぶりにその魅力に引き込まれていた。bandcampページの説明によると、この”ドラムとノイズ”というスタイルが生まれたきっかけは、2008年4月、ロンドン公演の翌日、MerzbowがイギリスのCold Springからリリースするニュー・アルバムのレコーディングを行っていたTin Pan Alley Studiosでの出来事だそうで、この時、生ドラムをスタジオで録音し、コンピューターノイズと合成したのが、彼らの本格的なドラム使用の始まりとなったとのこと。このスタイルは、メタルやグラインドコアだけでなく、サン・ラーやフリージャズなど、音楽的背景において共通点の多いドラムのサウンドが、Merzbowの「デュオとしてドラムを取り入れたスタイルを追求したい」という思いにつながっていった。

 

グラインドコア、その中でもノイズ・グラインドはその名の通りノイジーなグラインドであり、メタル・リスナーよりハードコア・パンクのシーンで人気があるかもしれないが、そんなノイズ・グラインド・リスナーにも引っ掛かるのがこの『Arijigoku』だと思う。アートワークをそのまま音像としたようなハーシュ・ノイズの中でハイピッチ・スネアをキーリング・アクセントとして熱気たっぷりに叩き込まれるドラムのビートが入り乱れる様は、まるで暗闇より暗い漆黒に吸い込まれていくような錯覚に陥るパンキッシュさに溢れている。例えばLast Days of Humanityなど近いものがある。

 

 

 

Full of Hell & Merzbow (Profound Lore Records / Daymare Recordings)

ハーシュノイズとボーカルを兼任するDylan Walkerが在籍するグラインドコア/パワーヴァイオレンス・バンド、Full of Hellが熱望したというMerzbowとの共演は、ダブル・アルバムという形で実現した。ディスク1はFull of Hellを主体とした楽曲で、ディスク2はMerzbowを主体とした楽曲が収録されており、多角的にコラボレーションが味わうことができ、ノイズ側からもグラインドコア側からも面白さが感じられる作品と言えるだろう。Dylanはノイズ・ミュージックの熱狂的なファンでもあり、プレイヤー。Merzbowとの共演が多いBalázs Pándiと共にRamuhというプロジェクトもやっているので、メタル・シーンとノイズ・シーンを繋ぐ存在として重要人物かもしれない。

 

「ノイズ」はメタルをはじめとしたエクストリームな音楽において、簡単に言葉では言い表せない魅力を与えてくれる。怒りや苦しみ、悲しみといった感情を音で表現する時、やはり大きな音であることが多いし、言葉にならない感情は複雑に交差しているから言葉にならないのであって、混沌としている。ノイズのある音楽というのは、そんな混沌とした感情を表現するのに相応しい。ノイズのある音楽が美しく、心を開放する理由はそこにあり、グラインドコアやメタルといった音楽との親和性は高い。決してポピュラーになることはないだろうが、時代と共に進化を続けるメタルという音楽にはMerzbowという存在は大きな刺激であり、いつだって未来的だ。Full of Hellをはじめとする若きヘヴィ・ミュージシャン達がMerzbowを通じてノイズの手法を最新のメタルに持ち込むことは、Merzbowが存在する限り起こり続けるはずだ。