Bring Me The Horizonはなぜ『Count Your Blessings』を作り直したのか? Oli Sykesが語る再制作の裏側

Bring Me The Horizonの原点となったデスコア・アルバム『Count Your Blessings』。長年、初期ファンから強烈な支持を受け続けてきた一方、Oli Sykes本人にとっては複雑な感情を持つ作品でもあった。

Nick NocturnalとのインタビューでOliは、『Count Your Blessings Repented』として作品を新たに作り直した理由、オリジナル版の制作環境、約20年前の歌詞を現在の自分がどう受け止めたのか、そして現代的なメタル作品へ変えてしまわないために行った細かな調整について語っている。

重要なのは、今回の制作が単純なリマスターではないことだ。

当時のマルチトラック素材が残っていないため、実質的には作品全体を一から再構築する「完全なリメイク」だった。

 

「嫌いだった」のではなく、音に満足していなかった

Bring Me The Horizonが長年『Count Your Blessings』の楽曲をあまり演奏しなかったことから、バンド自身が作品を嫌っている、あるいは恥ずかしがっていると思っていたファンもいた。

しかしOliによれば、本当の理由は作品の内容ではなく「音」だった。

当時のBring Me The Horizonは小さなバンドで、制作予算も少なかった。メンバー自身もクリックトラックやギターのパンニングなど、基本的なレコーディングの知識すらほとんどなかったという。メンバーがそれぞれ自分のパートを録音し、他のメンバーの演奏について確認し合うような制作体制でもなかった。

Oli自身も途中で体調を崩し、さらにバンドは頻繁に酒を飲んでいた。

完成したCDを車で初めてまともに聴いた際、All Shall Perishなどを聴いていた自分のオーディオ環境で『Count Your Blessings』を再生し、「これは音が良くない」と強く感じたという。その後、長年ほとんどアルバムを聴き返さなかったほどだったそうだ。

 

約20年前の歌詞を「今の自分」がもう一度歌う

再録するうえでもう一つ大きな問題になったのが歌詞だった。

Oliは16歳頃に書いた歌詞を読み返し、一部については現在の視点から見れば女性蔑視的だと解釈される可能性があると認めている。

当時はGlassjawをはじめ、自分たちが聴いていた音楽から表現を吸収し、「格好いい」と思ったものを深く考えず使用していた部分もあった。

そこで最初は歌詞を変更したり、一部を自主規制したりすることも考えたという。

しかし、アルバムにはさらに過激なテーマの楽曲が数多く存在する。人間そのものを消滅させるような内容もあり、一部分だけ変更し始めれば「どこまで直せばいいのか」という問題になる。

結果的に作品全体の性質を別のものへ変えてしまう可能性があった。

 

「良くする」のではなく「記憶の中の音」を守る

再録当初、Oliは現在の自分の方がスクリーム技術も高く、演奏もより正確にできるのだから、当然オリジナルより良いものにできると考えていた。しかし実際に録り始めると、わずかに違うだけでも強烈な違和感が生まれた。

Oli自身、昔から好きなバンドがEPの曲をアルバム用に再録した際、スネアの位置や小さなバックグラウンド・ボーカルが変わっただけで嫌だった経験があるという。

そこで、ファンが20年間聴いてきた『Count Your Blessings』も同じなのだと気付いた。

音程が半音違う、スクリームの形が少し変わる、タイミングが変わる。その程度でも、長年作品を愛してきた人には重要な違いになる。

Repented (=悔い改めた) 盤では、明らかに修正した方が良い部分を除いて、可能な限りオリジナルを再現する方針が取られた。

 

Buster Odeholmにも「2026年のメタルにしないでほしい」と依頼

新しい音作りを担当したのは、現代のヘヴィ・ミュージックを代表するプロデューサーの一人であるBuster Odeholm (*Buster Odeholmは、スウェーデン出身のミュージシャン、プロデューサー、オーディオエンジニアで、Humanity’s Last BreathとVildhjartaのメンバーとしても知られる)。

しかしBring Me The Horizonが求めたのは、現代的な超低音チューニングや巨大なキック、極端に洗練されたプロダクションへ作り替えることではなかった。

最初に提示されたミックスは現代的で非常に良い音だったものの、バンド側は「これは今のバンドの音になりすぎている」と感じたという。

目標は、2026年のメタルへアップデートすることではなく、「2006年にこの作品を最高の環境で作れていたら、こう鳴っていた」というサウンドだった。

キックには当時らしいクリック感が必要で、スネアにもあの時代特有の硬い響きが必要になる。そして何より『Count Your Blessings』はリフそのものが中心となる作品であるため、ギターが明確に聞こえなければ意味がない。

現代の音圧を使いながら、2006年の美学を維持する。そのバランスがRepented制作の重要な課題だった。

 

メンバーは世界各地からリモートで再制作

興味深いのは、約20年前のアルバムを再現する作業が、当時とはまったく異なる環境で行われていることだ。

制作時、Oliはブラジルにおり、Matt NichollsとLeeらはイングランドのシェフィールド、Matthew Keanはロサンゼルスにいた。それぞれが個別に作業し、Matt Nichollsはドラム、Leeはギター、Oliはボーカルを担当した。

Oliは育児の合間、朝の数時間を利用して歌入れを進めていたという。

さらに当時の自分がどのような発声をしていたのか分からない部分もあり、ファンがオンライン上にアップロードしていたボーカル抽出音源を利用。それをLogicへ読み込み、10~15分単位で細かくループしながら、昔の自分の発音や声の形を再現していった。

本人ですら「自分は何と言っているんだ」「どうやってこの声を出しているんだ」と感じるほど、初期の発声は現在とは異なっていた。

 

当初は「小さな20周年企画」のつもりだった

バンド側は当初、今回の企画をキャリアの中の小さな記念企画程度に考えていたという。

新しいアルバム制作も予定しており、『Count Your Blessings』20周年は一年の中の小さな出来事になると思っていた。しかし発表すると、予想を大きく超える反応が起きた。

長年「Pray for Plaguesをやってほしい」と言い続けていたファンだけでなく、オリジナル発売当時には知らなかった世代まで作品に強い思い入れを持っていることをOliは改めて知ることになる。

本人は以前、「昔の曲を要求する若いファンは、古参のように見せたいだけなのではないか」と考えていた部分もあったという。しかし今回の反応を見て、それが本当の愛情だったのだと実感した。

 

「今なら自分でもこのアルバムを聴ける」

Repented完成後、Oli自身の『Count Your Blessings』に対する感情も変化した。

以前は完成版をほとんど聴き返したことがなかったが、新バージョンについては何度も再生し、「これは良い」と感じられるようになったという。

完璧なアルバムではない。インタールードが少し多い、もっと曲数があっても良かったなど、現在から見れば改善したかった部分もある。

それでも16歳頃から書き始め、何も分からない状態で作った作品として振り返ると、今では自分たちを誇らしく感じるようになった。

そしてRepentedは新しいファンのためだけの作品でもない。

最大の目的は、2000年代からBring Me The Horizonを支えてきた人たちへ、「自分たちはこの作品と、自分たちが生まれた場所を誇りに思っている」と伝えることだという。

参照元動画

「OLI SYKES on Count Your Blessings Repented, Sempiternal & Deathcore Era」

亡きメンバーRyan Siewへ捧げた Polaris の新曲「Without You」は、なぜこれほど胸を打つのか? 5つのリアクションから見る楽曲の背景に迫る

オーストラリアを代表するメタルコア・バンドの一つ、Polarisが3年ぶりとなる新曲「Without You」を発表した。しかし、これは単純に「待望の新曲」と呼ぶには、あまりにも大きなものを背負った一曲だ。

2023年6月19日、PolarisのギタリストRyan Siewが26歳で亡くなった。バンドは彼を、10年間を共に過ごした親友であり、音楽におけるかけがえのないパートナーとして追悼。その約2カ月後に発表された3rdアルバム『Fatalism』はRyanが生前に制作へ参加した最後のアルバムとなり、結果的に彼がPolarisへ残した音楽的な足跡を刻む作品にもなった。それから約3年。2026年9月3日に届けられた「Without You」は、Ryanを失った後のPolarisが初めて世に送り出した新曲だ。

Jamie Hails、Rick Schneider、Jake Steinhauser、Daniel Furnariの4人が作曲者としてクレジットされており、Ryanが残した演奏を世に送り出すのではなく、彼のいない現在を生きる4人が新しく生み出した楽曲であることにも、この曲の大きな意味がある。

Polaris自身は「Without You」について、3年が経った今も大きな喪失と、その後に残されたものを理解しようとしている途中だと説明している。彼らがこの曲に込めたのは、喪失、ショック、悲嘆、心の痛み。そして、それを初めて外の世界と共有しようとする行為そのものだった。

今回、海外で公開された複数のリアクション動画を追ってみると、興味深い共通点が見えてくる。誰もがこの曲の背景に胸を痛めているが、同時に、単に「悲しい曲」「Ryanへの追悼曲」として評価しているわけではない。むしろ多くのリアクターが驚いていたのは、これほど個人的な悲しみを扱いながら、Polarisがバンドとして持っている攻撃性、グルーヴ、メロディ、演奏の緻密さを一切失っていないことだった。

「Without You」は悲しみを説明するための曲ではない。悲しみそのものを、Polarisの音楽へ変換した曲なのだ。

 

Ryan Siewを失ってからの3年間

Ryanの死が発表されたのは2023年6月28日。Polarisは、彼が同月19日の朝に亡くなったことを明らかにした。

当時26歳だったRyanは、若くしてPolarisのサウンドを形作る重要人物となっていた。『The Mortal Coil』『The Death Of Me』、そして完成済みだった『Fatalism』に残されたテクニカルかつ感情的なギターワークは、バンドの音楽にとって欠かせないものだった。

『Fatalism』はその後予定通りリリースされ、オーストラリアのARIAチャートで1位を獲得。2024年のAIR AwardsではBest Independent Heavy Albumを受賞するなど、Polarisのキャリアでも大きな成功を収めた。しかし作品を聴けばそこにはRyanの演奏があり、ツアーを続けるバンドにとっても、前へ進むこととRyanの不在を受け入れることは、簡単に切り離せるものではなかった。

そして「Without You」が生まれた。

公式発表では、この曲を「喪失から生まれた作品」と明確に位置付けている。公開されたミュージックビデオも、空虚な大聖堂で演奏する現在のメンバーの姿と、バンドの過去を想起させるイメージを交錯させ、Ryanがいた時間と、その後に続いていくPolarisを同時に映している。

重要なのは、Polarisがこの3年間を「乗り越えた」とは表現していないことだろう。悲しみが消えたから新曲を出したわけではない。まだ理解できないものを抱えたまま、それを音楽として誰かと共有できる地点まで来た。「Without You」は、そうした曲として始まっている。

 

悲しみをバラードにはしなかった

「Without You」の最も強い魅力は、このテーマを静かなバラードへ置き換えなかったことにある。

冒頭からPolarisらしい鋭いリフとドラムが前へ出る。浮遊するような不穏な空気の中へグルーヴが入り、Jamie Hailsの叫びとJake Steinhauserのメロディが交差する。そこから感情を大きく開くコーラスへ進み、ギターソロを経て、最後には楽曲そのものが崩壊していくような強烈なヘヴィ・パートへ突入する。

オーストラリアの音楽メディアDestroy All Linesもこの曲について、激しいボーカル、重いビートとリフ、伸びやかなメロディック・コーラス、胸を締め付けるギターソロ、そしてPolaris史上でも最もヘヴィな部類に入るアウトロが共存していると紹介している。一方、同じくオーストラリアの音楽メディアWall Of SoundのGeorgia Haskinsは、特に最後の暴力的な展開に注目している。

悲しみについて誰かに話したからといって、痛みがその瞬間に消えるわけではない。前へ進む準備ができたことは、過去を忘れたことを、ここでは意味していない。穏やかに収束せず、最後に再び感情が噴き出す「Without You」の構成を、悲嘆が一直線には進まないことを表したものとして捉えている。

この見方は、曲を聴いたときの感覚ともよく重なるだろう。Ryanを思い出し、悲しみを言葉へ変え、少し光が差し込んだように感じても、感情は突然また襲ってくる。その不安定さを、Polarisは曲のダイナミクスそのものにしているように聴かせている。

 

ギターソロが持つ特別な意味

そして当然、この曲で最も意識せずにはいられないのは、ギターだ。

RyanはPolarisにおけるリードギタリストであり、複雑なリフだけではなく、旋律そのものに感情を持たせるプレイヤーだった。「Without You」にも明確なギターソロが置かれており、それは単に「Ryanがギタリストだったからソロを入れた」と説明できるほど単純なものではない。曲全体が重い感情に沈む中で、ギターだけが少し上の方へ抜けていくような瞬間を作り、そこから再び激しい終盤へと向かっていく。暗い楽曲の中へ一瞬の光を持ち込んでいるようにも聴こえ、多くのリスナーもそれを感じているとビデオにコメントが書き込まれている。

Ryan本人の演奏ではないことに、このフレーズに別の意味が生まれている。彼から大きな影響を受け、一緒に音楽を作ってきた人間たちが、Ryanの不在を意識しながら鳴らしている音。Polarisがその部分を避けず、むしろ曲の大きな感情的ポイントとして使ったことに、バンドの創造性が表れているのではないだろうか。

 

歌詞にある「残された側」の感情

歌詞もまた、亡くなった人物を美しく思い出すだけの追悼文とはかなり違っている。そこにあるのは、喪失だけではなく、生き残った側に残る罪悪感、信じていたものを失う感覚、繰り返し思い出してしまう記憶、誰にも見えない場所で抱える痛みなど、残された側の感情について綴られたフレーズが盛り込まれている。特に「Your echo never fades (あなたの残響 (または影響?、そのままエコーと受け取っても良い)は決して消え去らない」という短い言葉は、この曲の中心にある感情を強く表している。

いなくなった人の声や存在は消えない。それは温かな記憶であると同時に、何度もその不在を認識させるものでもある。「Without You」はRyanの人生や死について外側から説明するのではなく、「残された自分たちは今どのような状態なのか」を曝け出している。そのため、個人的な背景を知らないリスナーにも、誰かを失った経験そのものと結びつく余地が残されているのではないだろうか。

さて、ここからは、実際にこの曲を初めて聴いた海外のリアクターたちが何を感じたのかを見ていきたい。今回は、否定的な評価を取り上げるのではなく、この曲がどの部分で人の感情を動かし、Polarisの音楽的な強みがどのように受け止められているかに焦点を当てていく。

 

METALBIRB――「Ryanがいなくても、まだPolarisの音がする」

METALBIRBは、曲が始まった直後からPolaris特有のバウンス感に反応し、チャグ、グルーヴ、リフ、ボーカル、ドラムが噛み合っている点を評価している。しかし聴き進めるにつれ、意識は自然と歌詞へ移っていく。

特に彼が感じ取ったのは、Ryanを失った悲しみだけではなく、若くして大切な人物を失ったことで信じていたものまで揺らいでいく感情だった。そして、バンドがその悲しみを抱えながら活動を続けなければならないという複雑さにも触れている。

興味深いのは、ArchitectsとTom Searleの喪失を思い出したと話している点だ。

音楽性が同じという単純な比較ではなく、大切なギタリスト/ソングライターを失ったバンドが、その後の音楽で悲しみを表現するという部分に共通するものを感じたのだろう。そのうえでMETALBIRBは、「Without You」が背景を知らなくても成立する曲であることも高く評価している。

Polarisのファンにとって歌詞は非常に重い。一方で、初めてPolarisを聴く人であっても、グルーヴのあるリフ、歌えるコーラス、暗さを増していく後半、強烈なブレイクダウンを持つメタルコアとして楽しめる。「追悼曲だから評価される」のではなく、まず一曲のPolarisとして強い。そこが重要なのだと話す。

そしてMETALBIRBにはRyanに対する個人的な記憶もあった。

RyanがPolaris以前からYouTubeへギターカバーを投稿していた頃、その映像を見ていたという。当時自身もギターカバーを投稿していたことから、Ryanは「有名バンドのギタリスト」になる以前から、自分にとってインターネット上の音楽コミュニティに存在していた人物だった。最後にはこの曲を美しいトリビュートでありながら強烈な一曲と評価し、8.5/10を付けた。

 

「A+」と即答したリアクター――Dan Furnariのドラムに宿る感情

こちらのリアクターは、再生前から「これはつらいものになる」と覚悟を決めている。しかし実際に曲を聴き終えた直後に出た評価は、「悲しい」だけではなかった。「オーストラリア最高峰のバンドが、どうやってさらに良くなるんだ?」という驚きとともに、即座にA+と評価している。

特に注目していたのがDan Furnariのドラムだ。一度曲を最後まで聴いたあと、わざわざ冒頭へ戻り、「一発一発に全身をぶつけているように聞こえる」とドラムへ耳を向けている。Ryanへのトリビュートと聞けば、どうしてもギターや歌詞に注意が集まりやすい。しかし「Without You」の感情を作っているのは、特定の楽器だけではない。ドラムの一打にも、曲を前へ押し進める切迫感がある。

このリアクターはギターワーク、ソロ、ボーカルも絶賛しているが、中でも楽曲全体から「メンバーが身体ごと感情を叩き込んでいる」ような印象を受けていたことが面白い。終盤の急激な変化にも強く反応し、この曲をPolarisの「powerful return」と表現している。

大きな喪失を経験したバンドが、慎重に小さな一歩を踏み出したというより、「自分たちはここにいる」と全力で示した曲として受け取っていた。

 

Ohrion Reacts――「悲しみと怒りが低音そのものから聞こえる」

Ohrion Reactsも、Ryanへの曲であることを理解した状態で再生を始めている。現在公開されている動画情報からも、Ryanを失って以降初の新曲として「Without You」を取り上げていることが確認できる。リアクション中にはブレイクダウン、リフ、ギターソロへ素直に興奮しながらも、聴き終わる頃にはかなり言葉を選びながら感想を話している。

彼自身Polarisを以前から追いかけており、Jamie Hailsと話した経験もある。Ryanが亡くなった直後にもJamieと接する機会があったものの、そのときはあえてRyanの話題には触れなかったという。だからこそ、3年後にバンド自身が音楽としてその感情を外へ出してきたことへ、特別な重みを感じている。

音楽面で強く評価しているのはJamieのボーカルだ。

近年さらに表現力が増したと感じており、叫びと低音が単純な「ヘヴィさ」のためではなく、悲しみと怒りを直接引き出していると捉えている。特に最後のブレイクダウンでは、低くチューニングされたギターとJamieのローが重なり、喪失によって生まれた怒りまでが音になっていると評価した。一方、ギターソロについてはRyanを想起させるショーケースのように感じたと話している。

彼にとってPolarisは、パンデミック期を支えてくれた個人的にも重要なバンドだった。そのため「Without You」を新しいスタートとして喜びながらも、手放しに「復活だ」と騒ぐのではなく、Ryanの家族、友人、メンバーへ思いを寄せながら話を終えている。

 

「Polaris Have Done It」――“音が重い”ことと“感情が重い”ことは違う

このリアクションでは、曲の作曲とプロダクションにかなり細かく耳を向けている。

最初に気にしていたのは、Ryanという重要なソングライターを失った後もPolarisらしさが残るのか、それとも大きく方向を変えるのかという点だった。答えは、どちらか一方ではなかった。

Jamieの声、Danのドラム、鋭いリフなど、確実にPolarisの核は残っている。そのうえで、楽器が一度引き、ボーカルを前へ出す瞬間や、空間を大きく取った音像、静寂を効果的に使う展開など、細かなダイナミクスによって感情を引き出していると評価している。そして、このリアクターが非常に的確な指摘をしている。

低いチューニングのギターを使うこともでき、ブレイクダウンを入れることもできる。それだけでも音楽を「ヘヴィ」にすることはできる。しかし、本当に伝えなければならない感情を持っている人間が、心の底から曲を作ったときの重さは、それとは違う。「Without You」にはその違いがあると感じている。

今回集めたリアクションの中でも、この評価は「Without You」の魅力をかなり正確に表しているように思う。この曲が重いのは、チューニングが低いからだけでもなく、ブレイクダウンが激しいからでもない。音を鳴らしている理由そのものに重みがある。だから、同じギター、同じドラム、同じスクリームでも、いつもとは違う切迫感が生まれているのではないか。非常に意味深い考察である。

 

「HEARTBREAKING song」――最後の爆発を“悲嘆の形”として受け止める

このリアクターは、冒頭から楽曲の猛烈なエネルギーに驚き、歌詞の悲痛さ、リフ、2番で増していく攻撃性、穏やかになるコーラス、そして終盤へ向かうにつれて何度も感情を揺さぶられている。

特に強く反応したのが最後だ。

ギターソロを終えた後、そのまま静かに曲が終わるのではないかと予想していた。しかしPolarisはそこで終わらない。もう一度すべてを爆発させている。映像と音が一体になったその部分を、このリアクターはトリビュートとして非常に強い瞬間だと捉えている。

聴き終えた後には、バンドが仲間を失った後、どうやって「次の音楽を作る」と決断するのかという問題についても考えている。もちろんRyan本人が何を望んでいたかを外部の人間が決めることはできない。その点には本人も注意しながら、それでも「アーティストが残したものは生き続ける」という考えを語った。

PolarisがRyanの代わりを作るのではなく、Ryanが作ってきた歴史を抱えたまま次の作品を生み出す。そのこと自体に意味を感じている。

音楽的には、今回のボーカルを特に高く評価しており、カタルシスのように感じられたという。暗く、悲痛で、非常にヘヴィ。それでも明確にPolarisの曲であることに驚きを込めて評価した。その両立について、このリアクターは「quintessential Polaris」と捉えている。

 

5つのリアクションに共通していたもの

今回参照した5本のリアクション動画には、それぞれ着目する場所に違いがあった。ドラムに心を奪われた人がいたし、Jamieのボーカルに悲しみと怒りを感じた人もいる。ギターソロをRyanへの献辞のように受け取った人もいれば、最後のブレイクダウンこそが悲嘆の不安定さを最も表していると感じた人もいた。

しかし根底にある評価はほぼ同じだ。これはRyanへのトリビュートであると同時に、非常に優れたPolarisの新曲でもある。そこが「Without You」の重要なところだろう。もしこの曲が背景だけに依存していたなら、Ryanのことをよく知るファンにしか届かない作品になっていたかもしれない。

しかし実際には、曲として、RyanのいないPolarisのこれからに続いていく曲として、非常に優れていることへのリアクションが強かったようにも感じる。

背景を知らない人がSpotifyで偶然出会っても、一曲のメタルコアとして楽しめる。背景を知ったあとにもう一度聴けば、同じ音がまったく違って聞こえる。それだけの奥行きが「Without You」にはある。

 

Ryanの代わりを作るのではなく、RyanがいたPolarisの続きを作る

メンバーを失ったバンドについて語るとき、「代わり」という言葉が使われることがある。しかし、Ryan Siewについて考えるなら、その表現だけでは足りないように思う。Ryanのギターも、Ryanがバンドの中で持っていた感覚も、メンバーとの関係も、そのまま誰かが埋めることはできないし、完璧に代わりというものが登場することはない。だから、これからのPolarisに求められているのは、「Ryanがいた頃とまったく同じ音」を再現することではないはずだ。

一方で、RyanのいたPolarisが作ってきたPolarisを捨てる必要もない。

「Without You」を聴いて感じるのは、その二つを同時に成立させようとするバンドの創造性だ。鋭いギター、複雑なグルーヴ、激しさと大きなメロディの共存というPolarisの核を保ちながら、今の4人にしか書けない感情を入れている。過去をコピーするのではなく、過去を自分たちの一部として次の音へ変える。新しいPolarisにとって、その最初の答えが「Without You」なのだろう。前へ進むことは、決して忘れることではない。

Polarisの場合、Ryanとの時間を持ったまま前へ進むからこそ、次の音楽にもRyanの存在が残り続けるのではないだろうか。Without You」は、Ryanがいないことをこれほど痛烈に歌いながら、同時にRyanがPolarisから完全に消えることはないと感じさせる。その矛盾のような感覚こそ、この曲がこれほど胸を打つ理由なのかもしれない。

これほど大きな喪失を無理に美しい物語へ変えることなく、痛みも怒りも混乱もそのまま音楽へ変換したPolarisの創造性に、最大限の敬意を送りたい。

Ryan Siewへ心よりご冥福をお祈りします。

 

REV3RENTはなぜ急成長したのか? MySpaceデスコア・リバイバルを牽引する10代バンド、その成功を生んだ理由に迫る

2000年代後半のMySpaceデスコアを、単なる懐古ではなく「現在進行形のシーン」として蘇らせようとする新世代バンドが登場している。その中でも急速に存在感を高めているのが、カリフォルニアを拠点とするREV3RENTだ。

Suicide Silence、初期Chelsea Grin、初期Bring Me The Horizonなどを思わせる荒々しいデスコア。極端なハイ・スクリームと低音ボーカル。クラブ規模の会場で観客へ真正面からぶつかっていくライブ。そして、2000年代のバンドがMySpaceやYouTubeで行っていたようなスタジオ映像やVlogまで含めたオンラインでの発信。YouTube動画「The Unexpected Rise of REV3RENT」では、REV3RENTがなぜ短期間でMySpaceデスコア・リバイバルの中心的存在へ浮上したのかを分析している。

動画の投稿者が特に注目しているのは、単に「昔のデスコアっぽい音」を作っているから人気になったのではないという点だ。サウンド、ボーカリスト、ライブ、ビジュアル、SNS、ファンとの距離感……。それぞれが一つの方向を向いたことで、REV3RENTというバンドそのものが強いキャラクターを持ち始めている。そして2026年現在、その勢いは動画公開時よりさらに大きくなっている。

 

始まりは約1分半の「Tormented Fate」

 

REV3RENTがシーンへ本格的に姿を現したのは2024年になる。初期シングル「Tormented Fate」は約1分半という短い楽曲ながら、2000年代後半のMySpaceデスコアを思わせるサウンドを真正面から打ち出していた。xYanの動画では、この曲を「2007年からそのまま届いたような音」と表現している。

現在のデスコアでは、極端な低音チューニング、巨大なシンフォニック・アレンジ、精密なプロダクションなどが珍しくなくなった。しかしREV3RENTが向かったのは、むしろ逆方向だった。荒々しいリフ、短く凶暴なブレイクダウン、高音と低音を激しく行き来するボーカル。そして、2000年代のデスコアにあった若さと衝動をそのまま再現するような「空気」。

MySpace時代のデスコアに存在した「生々しさ」を求めていたリスナーにとって、REV3RENTは非常に分かりやすい存在だったと動画では分析されている。

 

初EP『Last Trace』で一気に注目を集める

その後、REV3RENTは複数のシングルを経て、2024年7月に6曲入りEP『Last Trace』を発表した。「Smile! Wait For The Flash」「My Hand, Your Demise」「…Of Blood And Brutality」「If I Die Here First」「Tormented Fate」などを収録した作品で、初期REV3RENTの方向性がまとまった最初の作品となった。

動画の投稿者は、このEPをバンドにとって最初の大きな転換点と評価している。作品そのものの反響だけではなく、ライブ映像がオンラインで広がったことで、「音源が格好いい新しいデスコア・バンド」から「実際にライブを見たいバンド」へ変わっていったという。

MySpaceデスコア・リバイバルでは、2000年代らしい音を作ること自体は珍しくなくなりつつある。その中でREV3RENTが一段抜け始めた理由の一つが、このライブだった。

 

ボーカリスト交代という大きなリスク

『Last Trace』は、初代ボーカリストGabrielが参加した最後の作品となった。

バンドにとってボーカリスト交代は非常に大きな出来事だ。特にデスコアでは、声そのものがバンドの個性として認識されやすい。ある程度ファンが付き始めたタイミングでフロントマンが変われば、それまで築いてきた勢いを失う可能性もある。動画の投稿者も、当初はこの交代がREV3RENTにとって大きなリスクだったと捉えている。しかし結果的には、その後加入したJosh Bailey Guardがバンドの成長をさらに加速させることになった。

 

Josh Bailey Guardの加入がREV3RENTを変えた

動画の中でREV3RENT躍進の最大の要因として高く評価されているのが、Joshの存在だ。まず目を引くのがステージ上での動き。じっと立って極端なボーカルを披露するのではなく、ステージ全体を使って動き、観客へ直接圧力をかける。投稿者はその姿を、若き日のSuicide SilenceのMitch Lucker、とりわけ初期ライブ映像で見られたエネルギーと重ねている。

他のメンバーも、初期Chelsea Grinを思わせるような大きなヘッドバンギングを行うのも特徴だ。音だけではなく、ステージ全体が「MySpaceデスコア」というイメージを視覚的に成立させている。現在のREV3RENTが支持される理由を考えるうえで、このライブの見せ方はかなり重要な要素だ。

 

「格好よく見せようとするのをやめろ」

動画内で紹介されるREV3RENT側の発言も、そのステージに対する考えを象徴している。彼らが意識しているのは、格好よく立つことではない。ステージから強烈なエネルギーを押し出し、観客の目の前まで迫っていくような態度だ。

ブレイクダウンも過剰なほど重くする。

パフォーマンスも抑えない。

「これは少しやりすぎではないか」と感じる地点まで突き抜ける。

その過剰さこそ、観客がREV3RENTに求めているものではないかという考えだ。2000年代のデスコアでは、音楽だけでなくメンバーの動きやファッションまで含めてカルチャーだった。REV3RENTは、その感覚まで現在へ持ち込もうとしている。

 

17歳とは思えないJoshのボーカル

動画公開時、Joshはまだ17歳だったが、投稿者は、年齢以上に完成度の高いボーカリストとして評価している。特に特徴的なのが、鋭い高音と独特な低音の組み合わせだ。

MySpace時代のデスコアを再現するバンドは増えているが、その中で一度聴いただけでも判別できる声を持つことは大きな武器になる。REV3RENTの場合、単にMitch Luckerや初期デスコアの発声をコピーするのではなく、Josh自身の声として認識できる部分がある。それが、懐古的なデスコアの再現だけで終わらない理由の一つとして挙げられている。

 

「TikTokからデスコアを知ったっていい」

Joshの発言で特に興味深いのが、デスコアのゲートキーピングに対する考えだ。Lorna Shoreが好きでもいい、MySpaceデスコアが好きでもいい、TikTokで初めてデスコアを知ってもいい。重要なのは、「その人が何をきっかけにシーンへ入ってきたか」ではないという。

Joshは、誰かが大きな成功を収めているのであれば、自分がその音楽を好きではなかったとしても、少なくとも何を達成しているのかは評価できるはずだと考えている。そしてデスコアを小さな閉鎖的コミュニティのまま維持するのではなく、より多くの人へ届けたいという。

新しいリスナーを歓迎し、ヘヴィ・ミュージックが何をできるのかを世界へ見せたい。動画では、まだ10代のJoshがこうしたシーン全体についての視点を持っていることも、REV3RENTの将来性を感じさせる要素として評価されている。

 

MySpace時代を再現するだけでは足りない

新ボーカル体制で発表された作品が『Decimate』だ。ここでもREV3RENTの基本的な方向は変わっていない。初期Suicide Silence、Chelsea Grin、Bring Me The Horizonなど、MySpaceデスコア黄金期からの影響を感じさせる。しかし動画が重要視しているのは、単なる再現ではないという点だ。過去のバンドと同じリフ、同じブレイクダウン、同じボーカル。それだけなら、ノスタルジーとして一時的に注目されても長くは続かない。REV3RENTはそこへ自分たちなりの音色やキャラクターを加えている。Joshの極端なハイ・スクリームとグロウルも、その代表的な要素だ。

動画では、過去の公式を理解したうえで「REV3RENTの音」として提示できることが、他のリバイバル勢との差につながっていると分析している。

 

Noah Michelがサウンドの中心を担う

『Decimate』については、ギターのNoah Michelも重要人物として挙げられている。動画では、Noahが作品の多くを書き、プロダクションにも深く関わっていると紹介されている。REV3RENTのサウンドは一見すると非常に粗暴で、2000年代のDIYデスコアのように聞こえる。しかし実際には、その「古く聞こえる感覚」を現代の環境で作り出す必要がある。単純に音質を悪くすれば2007年になるわけではない。ギターの質感、ドラム、サブドロップ、ブレイクダウンの配置、ボーカルの処理。現代のリスナーが聴いても迫力を失わず、それでいて昔の空気を感じさせるバランスが必要になる。

REV3RENTがリバイバル勢の中で強く評価されている背景には、演奏だけでなく、このプロダクション面もある。

 

スタジオ・アップデートまで「復活」させた

REV3RENTの面白さは音楽だけではない。オンラインでの見せ方も、MySpace~初期YouTube時代を強く意識している。動画では特に、スタジオ・アップデートやVlogの復活を高く評価している。

2000年代には、バンドがスタジオでレコーディングしている様子、メンバー同士でくだらないことをしている映像、ツアー中の日常などを見ることもファン文化の重要な一部だった。完成したミュージックビデオだけではなく、「バンドの中にいるような感覚」をファンへ与えていた。REV3RENTも同じように、作品制作の裏側やメンバーのキャラクターを継続的に見せている。それによって、単にSpotifyで曲を聴くアーティストではなく、「次に何をするのか追いかけたいバンド」になっている。

 

ファンを「フォロワー」ではなくコミュニティにする

動画ではREV3RENTのファンについて、「cult following」と表現している。

もちろん文字通りのカルトという意味ではなく、バンドへ強い愛着を持ち、積極的に応援する固定ファンが早い段階から形成されているということだ。音源を聴く、ライブへ行く、動画を見る、SNSで拡散する、グッズを買う、新曲が出ればすぐ反応する。バンドが大きくなるうえで、単純な再生回数以上に重要なのが、こうしたコアなファンの存在だと動画では分析している。REV3RENTは若いバンドであることもあり、ファンと同じインターネット文化の中で活動している。その距離の近さも、強いコミュニティ形成につながっているのだろう。

 

Suicide SilenceのChris Garzaからも支持

REV3RENTがリバイバル・バンドとして信頼を獲得している象徴として、動画ではSuicide SilenceのChris Garzaからの支持も挙げられている。MySpaceデスコアを現在へ持ち帰る若いバンドが、その時代を実際に作った世代から認識される。これは単なるSNS上の数字とは別の意味を持つ。

さらにREV3RENTは、かつてMySpace時代を支えたバンドと同じステージに立つ機会も増えていった。動画では、その状況自体が短期間でバンドが獲得したシーン内での信頼を示していると評価している。

 

2026年、REV3RENTは次の段階へ

動画で語られていたREV3RENTの「急上昇」は、その時点で終わらなかった。

2026年9月、バンドは「She Let The World Run Rampant」を発表し、同名のデビュー・フルアルバムを10月30日にリリースすることを発表した。それまでのEPをリリースしてきたNUKEPOCALYPSEからさらに大きな環境へ進み、Deep Love Recordings / Atlantic Recordsからのリリースとなる。

つまり、MySpaceデスコア・リバイバルの小さなコミュニティから登場した若いバンドが、結成から数年でメジャー規模の流通へ進んだことになる。しかも彼らは、そのためにMySpaceデスコアらしさを捨てたわけではない。

現在もブレイクダウン、極端なスクリーム、クラブでの荒々しいライブ、crabcoreを思わせる動きなど、自分たちが最初に注目された要素を前面に残している。

 

REV3RENTの成功は「懐かしいから」だけでは説明できない

REV3RENTが人気になった理由を「2007年のデスコアが流行っているから」とだけ説明することは簡単だ。

確かに、MySpace時代へのノスタルジーは現在のデスコアにおける大きな潮流の一つになっている。しかし動画を通して見えてくるのは、それだけではない。昔の音を理解している、ライブでその世界観を視覚化できる、一度聴けば分かるボーカリストがいる、メンバー自身にキャラクターがある、スタジオ・アップデートやVlogによってファンとの距離を縮める、そして「古参だけのシーン」にするのではなく、新しいファンを積極的に歓迎する。これらが同時に存在している。2000年代のMySpaceデスコアが強かった理由も、音楽だけではなかった。

髪型、Tシャツ、ライブ映像、MySpaceページ、写真、メンバーの日常、ネット上での交流など、全部が一つのカルチャーになっていた。REV3RENTはその本質を理解しているように見える。

 

「MySpaceデスコアのコピー」から、その次へ

リバイバルには必ず一つの問題がある。最初は懐かしさそのものが魅力になるが、しかし、その先へ進めなければ「昔の方が良かった」で終わってしまう。

REV3RENTが今後さらに大きくなるうえで重要なのは、2007年をどれだけ正確に再現できるかではないだろう。そのサウンドを土台にして、どれだけ2020年代のREV3RENTにしか作れないものへ変えられるか、動画の中で投稿者が彼らを高く評価している最大の理由もそこにある。

OGのMySpaceデスコアから強く影響を受けながら、その公式をそのままコピーせず、自分たちのキャラクターを加えている。しかもメンバーは、その時代をリアルタイムで経験した世代ではない。

かつてMySpaceで生まれたデスコアを、後からインターネットで発見した世代が、今度はTikTok、Instagram、YouTubeを使って新しいシーンとして再構築している。その象徴的な存在の一つがREV3RENTなのかもしれない。

そしてデビュー・アルバムまで辿り着いた現在を見る限り、「The Unexpected Rise of REV3RENT」という動画タイトルにあった“rise”は、まだ途中にある。

参照元動画

「The Unexpected Rise of REV3RENT」

Turnstileの女性ギタリストMeg Millsはどのようにバンドへ加入したのか? 一人のファンからBlink-182ツアーへ、UKハードコアで歩んできた道を振り返る

現在Turnstileでギターを担当しているMeg Mills。しかし、彼女は突然巨大なステージへ現れたミュージシャンではない。

イギリスのハードコア・シーンでBig Cheeseを立ち上げ、Chubby and the Gangでも活動し、観客としてTurnstileを見ていた時代から、同じステージに出演するバンドへ。そして最終的にはBrendan Yatesから直接連絡を受け、Blink-182との約3カ月に及ぶアメリカ・ツアーへ参加することになった。

Knotfestのポッドキャスト「SHE’S WITH THE BAND」Episode 58では、Meg Millsが自身の音楽的な原点、リーズのハードコア・シーン、DIYツアー生活、Turnstileに参加するまでの経緯、巨大なアリーナへの適応、ハードコアとメインストリームの関係などについて詳しく語っている。

現在の姿だけを見れば華やかに映るかもしれない。しかしその背景には、窓もない地下室でのバンド練習、経済的に厳しい状態で続けたツアー、知らない人の家の床で眠った日々など、長いDIYハードコアでの経験があった。

 

リーズのハードコア・シーンに惹かれて19歳で移住

Meg Millsはロンドン出身だが、19歳頃にリーズへ移り住んだ。

その理由の大きな一つがハードコアだった。当時のリーズについてMegは、自分が好きだったハードコア・バンドが集まっている場所だったと振り返っている。

約10年前のリーズでは、The Flex、Higher Power、Shrapnelなどのバンドが登場し始め、イギリスだけでなくヨーロッパ各地から人々がライブへ訪れていた。Megによれば、街自体はそれほど大きくなく、自分たちで楽しみを作らなければならない環境だったことも、音楽シーンが発展した理由の一つだったのではないかという。

この時点のMegは、まだ中心的なバンドのメンバーとして活動していたわけではなく、一人の観客だった。

しかし2015~2016年頃、「Sick Of It AllやRest In Piecesのようなバンドをやりたい」と考え、自分から仲間を集める。それがBig Cheeseの始まりだった。

 

暗い地下室から始まったBig Cheese

Big CheeseはMegとボーカルのTomを中心にスタートした。Megがリフを書き、当時Higher Powerで活動していたLouisとAlexらが加わり、最初の練習はThe Flex周辺のメンバーが暮らしていた家の地下室で行われた。

そこは窓もなく、湿っぽいコンクリートに囲まれ、決して設備の整ったスタジオではなかったという。しかしMegは、そうした場所だからこそ重要だったとも振り返っている。

小さな地下室や自主運営の会場から生まれたバンドが、後に世界中で知られるようになる。その起点となった場所には、外側から見ただけでは分からない価値がある。

Meg自身も最近その家の前を通り、「自分の人生の方向を大きく変えたものが、ここで生まれたんだ」と感じたという。

 

My Chemical Romance、Paramore、The Damned――ハードコア以前の音楽的ルーツ

Megが音楽へ強く惹かれるようになったのは、さらに幼い頃だった。

12~13歳頃にはKerrang!やScuzzなどの音楽チャンネルを見ながら、My Chemical Romance、30 Seconds To Marsなどを発見。Paramoreも大好きで、12~13歳頃に購入した最初期のCDの一つだったという。

その後The Smithsを聴き、70~80年代のブリティッシュ・ニューウェーブやパンクへ進み、The Damnedがお気に入りのバンドとなった。

そこからさらに2010年代前半の新しいイギリスのハードコアへとつながっていく。ロンドンのカムデンにあるUnderworldでThe Rival Mobを観た経験もあり、興味深いことにMegが初めてTurnstileを見たのも同じ会場だった。

当時はメンバーと知り合いだったわけではない。純粋にTurnstileを観に来た一人のファンだった。

ギターを始めたのは10~11歳頃。Megは10代を通して、インディーロックからMidwest Emoまで「ギター・ミュージック」と呼べるものを幅広く聴いていたと話している。

 

ギターを始めるきっかけになった映画『Freaky Friday』

意外な原点として登場するのが映画『Freaky Friday』だ。

Megは9~10歳頃に同作を観て「脳の構造を変えられたような作品」と冗談交じりに表現している。特に強烈に記憶に残ったのが、女性がバンドでギターを弾き、ソロを演奏する姿だった。

地下室でバンド練習をする場面を見て「自分もこうなりたい」「ロック・ガールになりたい」と思い、親にギターを弾きたいと頼むようになったという。

後にハードコア・シーンへ進むMegにとって、最初に「女性がギターを持ってロックバンドで演奏する姿」を具体的に想像させてくれた作品の一つが『Freaky Friday』だった。

メタルやハードコアだけを聴いて育ったわけではなく、ポップカルチャーから受けた影響も隠さず語っている点は、Megの音楽に対する考え方をよく表している。

 

仕事に意味を感じられなかった時期、ハードコアが「光」だった

リーズへ移った当時、Megは決して順調な音楽人生を送っていたわけではない。本人は当時について、将来につながるように感じられない仕事をしながら生活しており、日常はかなり暗かったと振り返っている。

その中で大きな支えになったのが、週末にTemple Of Boomへ行くことだった。

自分のバンドで演奏する。ライブを観る。他のバンドのイベントを企画する。「自分は何をしているんだろう」と感じる日常の中でも、一日の終わりにはライブがある。それが人生に意味を与えるような存在だったという。

Big Cheeseはデモや7インチを発表し、ライブ活動を拡大。ロシアではモスクワ、サンクトペテルブルクでも演奏し、2018年にはTurnstileのイギリス・ツアーをサポートした。最初はTurnstileを観客として見ていたMegが、数年後には自分のバンドで彼らと同じツアーを回るようになっていた。

 

Chubby and the Gang、そして「フルタイムのミュージシャン」になるまで

Big Cheeseのメンバーはそれぞれ他の活動も抱えており、常に精力的にツアーできるバンドではなかった。その後MegはChubby and the Gangにも参加し、2作目ではベースを演奏してレコーディングにも参加した。

ロックダウン後、Chubby and the Gangで最初に演奏したライブはDownload Pilot。そこから約1年半にわたり、かなり継続的なツアー生活へ入っていった。

しかし「音楽だけで生活する」までの道のりは簡単ではなかった。

ツアーが多すぎて一般的な仕事を維持することが難しくなり、公的支援を受けたり、わずかな収入をつないだりしながら生活した時期もあったという。それだけ犠牲を払っても、最終的に音楽で生活できる保証はない。

それでも「いつかこれがフルタイムの仕事になるかもしれない」という可能性を信じ、非常に少ないお金で生活しながら活動を続けた。

 

ホテルではなく床で眠る――DIYツアーで得たもの

Megは、ハードコア・バンドで活動してきた人なら経験することとして、ヨーロッパ・ツアーで毎晩誰かの家の床に泊まったり、ときには犬用ベッドで寝たりするような生活についても語っている。

快適でも豪華でもない。

本人も振り返れば「そのときは普通に苦しんでいた」と認めている。

しかし、その経験があるからこそ生まれる関係もあった。

何週間も一緒に移動し、知らない土地で床に眠り、予想もしない状況を一緒に経験した仲間とは、生涯続くような結びつきが生まれる。そして各地で受けた人々からの親切によって、コミュニティや人間そのものへの信頼が強くなったという。

後にTurnstileの巨大なツアーへ参加するMegも、その出発点では「泊めてくれる人はいないか」と友人へ連絡しながらヨーロッパを回るDIYミュージシャンだった。

 

Brendan Yatesから突然届いた「ギターを弾かない?」という連絡

そして話はTurnstileへつながっていく。

Big Cheeseが2018年にTurnstileをサポートしたことでメンバーと知り合い、その後も連絡を取り続けた。Chubby and the Gangでも2022年のTurnstileのイギリス公演をサポートしている。

その後Chubby and the Gangでの活動が終了し、Megが再びツアーへ出たいと考えていた頃、Brendan Yatesと話す機会があった。「とにかくツアーへ行きたい」と話したことをBrendanは覚えていた。

それから約5カ月後、突然メッセージが届く。

「Turnstileでギターを弾くことに興味はある?」

というものだった。

Megは驚きながらも、ほぼ即答で参加する意思を伝えた。

さらにBrendanから知らされた最初の大仕事が、Blink-182との約3カ月間に及ぶアメリカ・ツアーだった。

あまりに大きな話だったため、Megは実際にアメリカへ向かう飛行機へ乗るまで、自分が本当にツアーへ参加するとは信じないようにしていたという。

周囲にもほとんど話さなかった。

誰かに「Blink-182とツアーする」と言ってしまえば、何かが起きて話自体がなくなってしまうのではないかと感じていた。

ビザが発行され、航空券を持ち、空港まで来たところで初めて「これは本当に起きるんだ」と実感した。

 

Turnstileでの初ライブはいきなり約15,000人のアリーナ

ツアー開始の約2週間前、Megはボルチモアへ渡り、Turnstileの練習場所でリハーサルを行った。

そして最初のライブはミネソタ州セントポール。

会場は約15,000人規模のアリーナだった。

それまでDIYハードコアや小~中規模の会場を中心に活動してきたMegにとって、環境はまったく異なっていた。

しかも最初の公演では照明の設定に問題があり、ステージ上へ最大出力に近い光が直接向けられていた。あまりに眩しく、演奏中に自分のアンプが見えず、つまずいてしまったほどだったという。

Megはその時点では、それが巨大アリーナで毎晩経験する普通の状態だと思っていた。

「これに慣れないといけないのか」と考えながらライブを終えたところ、実は他のメンバーも「今日の照明は何だったんだ」と感じており、通常の設定ではなかったことを知る。

そこでMegは逆に、「これを乗り越えられたなら、残りのツアーは大丈夫」と思えたという。

 

「歴史的な瞬間にいる」と感じるTurnstileのライブ

Turnstileのセットで特に好きな瞬間を聞かれたMegは、「ENDLESS」の終了部分を挙げている。

曲が突然終わり、すべての照明が完全な暗転へ入る。

その瞬間、毎回「これは歴史的なことなんじゃないか」という感覚になるという。

Turnstileがハードコアというジャンルに与えている影響や、自分たちが出演しているライブの規模を考えると、現在進行形で特別な瞬間を経験しているように感じる。

Meg自身はその状況について「自分はただ一緒に乗せてもらっているだけ」と謙虚に表現しているが、実際には幼い頃からギターを弾き、DIYハードコアで長い時間を過ごしてきた彼女自身も、そのステージを構成する一人になっている。

 

初めてのアジアツアー、日本は「今まで行った中でも最高の場所の一つ」

インタビューの直前には、Turnstileとしてタイ、インドネシア、日本、韓国を巡るアジア公演も経験していた。Megにとってアジアを訪れるのは初めてだった。

タイへ到着した際には夜行便の後にもかかわらず、眠るより街を見たいという気持ちが勝り、一人でボートに乗ったり寺院を巡ったりして一日中観光していたという。

ツアー中でもホテルにじっとしていることが難しく、可能な限り外へ出て、その土地を体験したくなるタイプだと話している。

その中でも特に気に入った場所として挙げたのが日本だった。

「日本は今まで行った中でも最高にクールな場所の一つ」と話し、街中で多くの人がバッグにつけているキャラクターのキーホルダーなどにも注目。「日本はtrinkets(小物)の国」と表現し、自身も同じように小物をバッグにつけるようになったという。

 

Turnstileの激しいライブへ身体を適応させる

Turnstileのライブは非常に運動量が多い。

Megも参加当初は、数公演を経験するまで自分がステージ上でどこまで動けるのか分からなかったと話している。

演奏しながら動き続けるためのスタミナを作ることは、本人によればワークアウトに近い。楽曲を確実に演奏する自信を身につけることに加え、広いステージで自分がどこを動くべきなのかを理解するまでにも時間が必要だった。

さらに、すでに完成されているTurnstileのステージ上の「流れ」の中で、自分の居場所を見つけなければならなかった。

しかし何度も一緒に演奏するうちに、他のメンバーが次に何をするのかを予測できる、ほとんどテレパシーのような感覚が生まれてくるという。

 

「ゲートキーピングはシーンを生かさない」

インタビューの中でも特に興味深いテーマとなったのが、Turnstileとメインストリームの関係だ。

Turnstileはハードコアをルーツに持ちながら、現在ではヘヴィ・ミュージックとは直接関係のないフェスティバルや巨大なポップ/ロック・アーティストとのツアーにも出演している。

Megは、この状況を非常に肯定的に見ている。

その一例として挙げたのが、マイアミで開催されたヒップホップ・フェスティバルRolling Loudだった。

Turnstileが出演するまでどのような反応になるのか予測できなかったが、実際には観客の至るところでサークルピットが発生し、一部のヘヴィ・ミュージック系フェスティバル以上に激しくモッシュする観客もいたという。

Megは現在について、異なるサブジャンルの境界を越えた交流をリスナーがこれまで以上に受け入れている時代ではないかと考えている。

そして、ハードコアを外部の人間から守ろうとするゲートキーピングについても否定的だ。

若い頃には、自分自身もハードコアを特別で神聖なもののように感じ、守りたいという気持ちがあったと認めている。

しかし現在は、「ゲートキーピングは、その文化が生き続けることを止めてしまうだけ」と考えている。

閉じたコミュニティが新しい人を拒絶し続ければ、最終的には人が来なくなり、ライブハウスが閉まり、シーンそのものが消えてしまうこともある。

一方、DIYシーンで長年活動し、その価値観を実際に経験してきたバンドが、より大きな観客をその世界へ連れてくるのであれば、それは素晴らしいことだという。

 

Turnstileがハードコアへの「入口」になっている

Megは実際に、普段はPost MaloneやImagine Dragonsなどを聴いている人のSpotifyに、ヘヴィなバンドとしてTurnstileだけが混ざっているような例も目にしているという。また、Spotifyのインディー系プレイリストからTurnstileを知ったというリスナーもいる。

Megはこれについて、Turnstileのソングライティングや創造性の証明ではないかと考えている。

最終的にはハードコア・バンドでありながら、さまざまな音楽から細い糸のように要素を取り込み、一つのサウンドへ織り込んでいる。

だからこそ、それまでハードコアを聴いていなかった人にも入口を作ることができる。

Turnstileをきっかけに別のハードコア・バンドを聴く人が増えれば、その成功は一つのバンドだけに留まらず、周囲のシーンにも広がっていく可能性がある。

 

地下室からBlink-182の巨大プロダクションへ

MegにとってTurnstile加入後に大きく変わったことの一つが、ライブ制作の規模だった。

以前は自分のギターアンプすら所有せず、その日の会場にある機材を借りたり、誰かからアンプヘッドを借りたりしながら演奏していた時期が長かった。

それが現在では、イヤーモニター、クリック、バックトラック、巨大な照明、LEDスクリーンなど、大規模なツアーを成立させるためのシステムを目の前で見るようになった。

特にBlink-182とのツアーでは、毎日巨大なステージが組み立てられ、多くのスタッフが公演を動かしている姿を間近で体験した。

MegはTurnstile自体については、こうした巨大ツアーの中では比較的シンプルな構成だと考えている。照明には大きなこだわりがあるものの、その中心にあるのはあくまで「バンドが音楽を演奏すること」だという。

窓のないリーズの地下室から、数十人のスタッフが一つのバンドを支えるアリーナ・ツアーへ。

Megのキャリアの変化を最も分かりやすく示す部分でもある。

 

失敗を引きずらず、「次はもっと準備する」

キャリア初期で最も大きな失敗は何だったかという質問に、Megは明確な出来事を思い出せないと答えている。

しかし、それには理由がある。

ライブを終えて「今日は自分ができる演奏より良くなかった」と感じることはある。それでも、その失敗を自分の中で必要以上に大きくしないようにしているという。

できなかったのであれば、次回もっと準備する。

それだけのこととして処理する。

失敗を「もう自分にはできない」と思う材料にしてしまえば、自信そのものを破壊してしまうからだ。

長いDIYツアー生活を経て、突然15,000人のアリーナへ立つという環境の変化にも対応できた背景には、このような考え方もあるのかもしれない。

 

Big Cheeseと、自身の新しい音楽も続いていく

Turnstileでの活動だけがMeg Millsの音楽人生ではない。

インタビューの最後ではBig Cheeseのライブ予定に加えて、自身が進めている別のレコードについても語っている。

インストゥルメンタル部分は2021年にすでに録音されており、最近になってボーカル制作を進めているという。

音楽的には初期PJ Harveyから強い影響を受けた作品を目指しており、フォーク、グランジ、ブルースなどを混ぜたロックに、スライドギターも取り入れている。

ハードコアだけでなく、幼い頃から幅広い「ギター・ミュージック」を聴いてきたMegらしいプロジェクトと言える。

 

一人のTurnstileファンから、その歴史の一部へ

Meg Millsのこれまでを並べてみると、現在のTurnstile参加へつながる出来事は一つだけではない。

10歳頃、『Freaky Friday』を観てギターを弾きたいと思った。

10代でMy Chemical RomanceやParamore、The Damnedを聴き、やがてハードコアへ辿り着いた。

ロンドンのカムデンにあるUnderworldでは、一人のファンとしてTurnstileを観た。

19歳でリーズへ移り、地下室でBig Cheeseを始めた。

2018年にはそのBig CheeseでTurnstileのツアーをサポートした。

Chubby and the Gangでも再びTurnstileと共演し、Brendan Yatesとの関係が続いた。

そして「またツアーへ行きたい」と話した数カ月後、Brendanから「ギターを弾かないか」という連絡が届いた。

最初に待っていたのは、小さなクラブツアーではなくBlink-182と回るアメリカの巨大アリーナだった。

こうして振り返ると劇的なサクセスストーリーに見えるが、その間には、仕事を続けられないほどツアーへ出ながらわずかな収入で生活した時期や、誰かの家の床を借りながら各地を回った年月が存在する。

Meg自身は、Turnstileが現在経験している巨大な瞬間について「自分はただ一緒に乗せてもらっている」と話す。

しかし、一人のファンとしてTurnstileを見ていた人物が、十年以上ハードコア・シーンで活動を続け、そのステージに立つところまで辿り着いた。

その歩みそのものもまた、DIYハードコアのコミュニティから世界規模へ成長した現在のTurnstileを取り巻く物語の一部と言えるだろう。

 

参照元動画

Knotfest「SHE’S WITH THE BAND Episode 58: Meg Mills (TURNSTILE, BIG CHEESE)」

Turnstileのルーツを作った音楽とは? Thin Lizzy、My Chemical Romance、Frank Ocean、Minor Threatらをメンバーが選び語る

ハードコアを出発点としながら、ロック、オルタナティヴ、ポップ、ソウル、ダンスミュージックなど幅広い要素を取り込み、独自の存在へ成長してきたTurnstile。その音楽的な幅広さがどこから生まれているのかを知るうえで、メンバー自身が愛するレコードを見ていくのは興味深い。

ARTE.tv Cultureの「Turnstile Record Box」では、ベルリンを訪れたTurnstileのメンバーがレコードを選び、それぞれの作品やアーティストにまつわる思い出を語っている。

登場するのはThin Lizzy、My Chemical Romance、Frank Ocean、Minor Threat、Angel Du$t、Blood Orangeなど。ハードコアだけに限定されない選曲からは、現在のTurnstileが非常に多様な音楽の上に成り立っていることが見えてくる。

 

Thin Lizzyへの深い愛情

最初に選ばれたのはThin Lizzyの作品だった。メンバーの一人は「史上最も好きなレコードの一つ」であり、Thin Lizzyの作品の中でも特にお気に入りだと語っている。インタビュー収録の少し前にはTurnstileのツアーがダブリンから始まっており、現地ではPhil Lynottの像も訪れたという。

さらに、以前在籍していたChubby and the GangでもThin Lizzyはメンバー共通のお気に入りだったと振り返る。友人から腕にThin Lizzyをモチーフにした小さなタトゥーを入れてもらったこともあり、単に好きなクラシック・ロック・バンドという以上の思い入れがあるようだ。

選ばれた楽曲は「Waiting for an Alibi」。Turnstileのサウンドとは直接結び付きにくいように見えるThin Lizzyだが、強力なギターメロディとロックバンドとしての存在感は、メンバーにとって重要な音楽的ルーツの一つになっている。

 

My Chemical Romanceを後から理解するようになった

続いて取り上げられたのがMy Chemical Romance。

メンバーの一人は、若い頃には最初からMy Chemical Romanceを好きだったわけではなく、むしろ少し否定的に見ていた時期があったと振り返っている。しかし後になって音楽を理解するようになり、メロディやギターパート、そして「バンドとして鳴っている」感覚に強く惹かれるようになったという。

その音楽には個人的な記憶も結び付いている。

Pizza Hutで働いていた頃、厨房を掃除しながらこの作品を聴いていたことを思い出すと話し、今では非常に大切なレコードとして評価している。映像で選ばれた曲は「Cemetery Drive」。

音楽を聴いた瞬間の評価が、そのまま一生変わらないとは限らない。若い頃には理解できなかった作品が、時間や経験を重ねることで突然重要なものになる。TurnstileのメンバーにとってMy Chemical Romanceは、そのような音楽の一つだったようだ。

 

Frank Ocean『Blonde』は日常生活に溶け込むレコード

Turnstileの幅広い音楽性を象徴する選盤の一つがFrank Oceanの『Blonde』だ。この作品について、メンバーは晴れた日の午後、家事をしながら聴くのが好きだと説明している。

激しいライブやハードコア・シーンとの思い出ではなく、日常生活の中で自然に流れている音楽として選ばれている点も興味深い。

Turnstileはハードコアをバックグラウンドに持ちながら、作品を重ねるにつれてメロディ、空間的なサウンド、ポップ的な感覚などを大きく広げてきた。今回のレコード選びからも、メンバーが日常的に聴いている音楽がハードコアだけに限定されていないことが分かる。

Frank Oceanのようなアーティストも、Turnstileのメンバーにとって特別な音楽の一部として存在している。

 

Minor Threatが教えた「仲間に反抗する」という考え方

Turnstileのルーツを考えるうえで、やはりハードコアは欠かせない。そこで登場するのがMinor Threatだ。

Turnstileはメリーランド/ワシントンD.C.周辺のシーンと強く結び付いており、Minor Threatについてメンバーは当然ながら非常に影響力の大きいバンドだと語っている。しかし、ここで注目されているのは単純な音楽性ではない。

Minor Threatについて最も好きな部分として語られたのが、「社会や権力に反抗するだけではなく、自分の周囲にいる仲間にも逆らう」という考え方だった。

政府や社会制度など巨大な存在に対して反抗的な姿勢を示すことは、パンクでは珍しいことではない。しかし、自分と同じシーンにいる仲間が全員同じ方向へ進んでいるときに、自分だけ違うことをするのははるかに難しい。

周囲に合わせるのではなく、自分が本当にやりたいことを選ぶ。

動画では、それこそがMinor Threatによってハードコアやパンクの精神性に持ち込まれた重要な要素だったのではないかと語られている。この考え方は、Turnstile自身の歩みにも重ねることができる。

ハードコア・バンドだから特定の音を出さなければならないという考えに従うのではなく、自分たちが面白いと思った音楽へ進む。その結果としてTurnstileは従来のハードコアの枠を大きく越えていった。

Minor Threatから受け継いだものは、単なる速いギターやハードコアの形式ではなく、「周囲に合わせない」という精神そのものなのかもしれない。

 

Angel Du$tとJustice Trippから受けた大きな影響

より直接的にTurnstileの歴史とつながっている存在として紹介されるのがAngel Du$tだ。特にJustice Trippについて、メンバーはTurnstileに最も大きな影響を与えた人物の一人ではないかと語っている。

まだ若く、ライブへ通い始めた頃からJusticeは年上の存在として彼らを気に掛け、ライブへ連れていったり、当時組んでいた地元のバンドを応援したりしていたという。

その後、Turnstileの複数のメンバーがAngel Du$tにも参加しており、両バンドの関係は単に同じシーンから生まれたという以上に深い。

Justiceについて、音楽の世界には時折「ユニコーン」のような特別な人物がいると表現し、彼が常に他の人より10歩ほど先を進んでいるように感じるとも語っている。同時に、Baltimoreを代表する存在であり、大切な友人でもある。

今回選ばれたAngel Du$tの作品については、Turnstileのメンバーが参加していない作品であるため、純粋にファンとして外側から楽しめることも嬉しいと話している。選曲は「Space Jam」。何年もさまざまな形で聴き続けている曲であり、本人にとって生命力のようなものになっているという。

Turnstileの歴史を考えるとき、影響は有名な過去のバンドだけから受けるものではない。自分たちと同じ地域にいて、実際にライブへ連れていってくれた人物や、活動を支えてくれた仲間もまた、そのバンドを形成する大きな存在になる。

 

Blood Orangeは「音楽を作る人として深く尊敬している」

最後に強い愛情が語られるのがBlood OrangeのDev Hynesだ。

メンバーは以前からBlood Orangeの音楽を知っていたものの、ある時期から本格的に夢中になったという。現在ではDev Hynesについて「音楽を作る人として最も好きな人物の一人」と表現している。

さらに、単に憧れているアーティストというだけではなく、現在は素晴らしい友人でもあると語っている。

ここでもAngel Du$tのJusticeと同じように、「ユニコーン」という表現が使われている。音楽の進化を追うこと自体が刺激になり、常にその作品へ惹き付けられる特別な人物だという。

動画収録時には新作『Essex Honey』についても触れ、現在最も好きなアルバムだと話している。一方で、その日の気分によってお気に入りの作品が変わること自体も、音楽ファンとして楽しいと語っている。

今回選ばれた曲は「Augustine」だった。

ハードコア、クラシック・ロック、エモ、R&B、オルタナティヴ・ポップなど、まったく異なる場所から生まれた音楽を同じように愛している。その姿勢は、Turnstileが特定ジャンルのルールに閉じ込められない理由とも重なって見える。

 

Turnstileの音楽がジャンルを越えていく理由

今回の「Record Box」で選ばれた音楽を見ると、Turnstileがなぜ現在のようなサウンドになったのか、その一端が見えてくる。

Thin Lizzyから受け取ったロックバンドとしてのメロディや存在感。

My Chemical Romanceの強烈なメロディとギターパート。

Frank Oceanの『Blonde』のように日常へ自然に入り込む音楽。

Minor Threatが示した、社会だけでなく同じ仲間に対しても自分自身の考えを貫くというパンクの精神。

Angel Du$tとJustice Trippを通じて経験したBaltimore周辺のコミュニティ。

そしてBlood Orangeの絶えず変化する音楽への憧れ。

これらは一見するとバラバラだ。

しかしTurnstileの音楽自体もまた、さまざまな要素が一つに結び付いている。

重要なのは、どのジャンルに所属するかではなく、自分たちが強く惹かれる音楽を受け入れることなのだろう。

その意味で特に象徴的なのが、Minor Threatについて語られた「仲間に逆らうことの方が難しい」という考え方だ。

ハードコアの中で育ったからこそ、ハードコアの中で期待される音楽を作り続けるという選択肢もあった。しかしTurnstileは、周囲から何と呼ばれるかより、自分たちが面白いと思うものを音楽へ取り込み続けてきた。

今回選ばれたレコードは、その自由な感覚が突然生まれたものではなく、メンバーが長い時間をかけて聴いてきた多様な音楽や、身近なコミュニティの中から育ってきたことを感じさせる。

Turnstileのサウンドを作っているのは、ハードコアだけではない。

むしろ、ハードコアを中心に置きながら、そこへまったく異なる音楽を自然に受け入れる姿勢そのものが、Turnstileというバンドの大きな特徴なのかもしれない。

参照元動画

ARTE.tv Culture「Turnstile Record Box」

父親になったOli Sykesが語る「20年かけて掴んだ成功」と家族――Bring Me The Horizonと人生をどう両立するのか

Bring Me The Horizonは現在、世界各地の大型フェスティバルでヘッドライナーを任される存在になった。しかし、バンドが約20年かけてその位置へ辿り着いたタイミングで、Oli Sykes自身の人生には大きな変化が起きている。

Nick Nocturnalとの長時間インタビューでOliが語ったのは、父親になったことで変化した価値観、長期間のツアーから家族のもとへ戻れない苦しさ、そしてBring Me The Horizonという「20歳の子供」と、自分自身の子供たちを同時に育てるような現在の葛藤だった。

さらに後半では、かつてバンドの成功と自分自身の価値を強く結び付けていた時期、ロックダウン中に再び精神的に不安定になった経験、そして「音楽は競争ではなく、人へ何かを与えるためのもの」という考えに辿り着くまでを振り返っている。

 

ブラジルで見つけた、バンドから離れられる生活

Oliにとってブラジルは、Bring Me The Horizonや「Oli Sykes」というパブリックイメージから距離を置き、生活の速度を落とすための場所になっている (*Oliの妻Alissaはブラジル人)。

イングランドにいると仕事を続けてしまい、バンドから精神的に離れることが難しい。一方、ビーチが身近にあり、生活そのものがゆっくり流れるブラジルでは、意識的に仕事から離れやすいという。

そして現在は子供たちもいる。

家族だけに集中し、外部の雑音から距離を置く環境としても、ブラジルでの生活はOliにとって重要になっているそうだ。

 

「もう1カ月もツアーしたくない」と感じるようになった

父親になったことで最も大きく変わったものの一つが、ツアーに対する感覚だった。

子供たちがまだ非常に幼かった頃にも家を離れることはつらかったが、成長して笑ったり遊んだり、自分の存在を認識するようになると、その苦しさはさらに大きくなったという。

今回の長期ツアーについてOliは、あまりにつらく「もう二度とこんなことはできないかもしれない」と感じるほどだったと明かしている。しかし、Bring Me The Horizonにとって現在は非常に重要な時期でもある。

20年活動してきた末に、ようやく大型フェスティバルで本格的なヘッドライナーとして信頼され始めた。MetallicaやSystem Of A Downのような長年巨大フェスティバルを支えてきた存在から、新しい世代へヘッドライナーの座を引き継ぐことは簡単ではない。

だからこそ、このタイミングで活動を減らすことにも葛藤がある。

せっかくフェスティバル主催者がBring Me The Horizonをヘッドライナーとして信頼し始めたのであれば、それを一度きりの出来事ではなく、確実なものにしたいという思いもあると話す。

 

お金を残すことと「そばにいること」は同じではない

Oliは父親として、子供たちの将来を経済的に支えたいという強い気持ちも持っている。

大きな出演オファーが届けば、それを受けることで家族へ経済的な安定を与えることができる。しかし同時に、将来子供たちが父親について振り返ったとき、本当に重要になるものはお金ではないのではないかとも考えるようになった。

20年後に子供たちが感謝するのは「たくさんのお金を残してくれたこと」ではなく、「自分のそばにいてくれたこと」なのではないか。

バンドを大切にする気持ちと、家族と過ごす時間。その両方が重要だからこそ、現在のOliにとって簡単な答えのない問題になっている。

 

Bring Me The Horizonの成功が「自分の価値」になっていた

インタビュー終盤では、Oliがさらに深い部分について語っている。

コロナ禍のロックダウン以前の彼は、自分が思っていた以上に、Bring Me The Horizonの成功から精神的な満足や自己肯定感を得ていたという。

Spotifyの月間リスナー数を確認し、ライブがソールドアウトしなければ十分ではないと感じる。グラミー賞などにノミネートされても受賞できなければ、「受賞したアーティストと自分たちの違いは何なのか」と考える。

バンドが小さな存在だった頃にはなかった考え方が、「次の巨大なロック・ヘッドライナーになるかもしれない」と言われ始めたことで徐々に入り込んできた。

成功が現実的になればなるほど、「どうすればさらに上へ行けるのか」を考えるようになり、それが自分自身の価値とも結び付いていった。

 

ロックダウンで「バンドがなければ自分は誰なのか」と気付く

しかしロックダウンによってライブもツアーも止まり、その外部から得ていた評価が突然消えた。Oliは再び薬物に陥り、非常に暗い状態になったという。

そこでセラピーを受けながら、「Bring Me The Horizonがなければ、自分は誰なのか」という問題と向き合うことになる。

バンドはいつか終わるかもしれない。人気が突然なくなる可能性だってある。

もし自分の価値をすべてバンドに預けてしまえば、バンドを失った瞬間に自分自身まで失ってしまう。そこからOliは、Bring Me The Horizonがなくても自分が幸せでいられる人生を作ることを意識するようになったという。

 

「20,000人でも10人でも同じ」――音楽は人に仕えるもの

その考えを大きく変えた経験の一つが、ブラジルでの時間だった。

Oliは妻の故郷近くにあるアシュラムを訪れ、僧侶や精神的な指導者たちの話を聞いたという。そこで印象に残ったのが、観客数についての考え方だった。

20,000人の前で演奏することに興奮してもいい。しかし10人しかいない場所でも、その10人に向けて同じように演奏する。

重要なのは自分が何人集めたかではなく、その場所にいる人へ自分の持っているものを届けることだという話だった。Oliはそこで、自分の音楽についても「人に仕えるもの」と考えるようになったという。ストリーミング数や他のバンドとの競争ではない。自分たちが巨大なバンドなのかどうかでもない。音楽によって誰かを助け、自分たち自身が本当に興奮できる作品を作る。それが重要なのだと考えるようになった。

 

 

Bring Me The Horizonを何で記憶してほしいのか

Oliは、10年後や20年後にBring Me The Horizonについて振り返ったとき、「一番大きなTikTokヒットを持っていたバンド」として記憶されたいわけではないと話している。残したいのは「とんでもない音楽を作ったバンド」という記憶だ。

自分自身がBring Me The Horizonの音楽を好きでいられること。本当に良いと思えるまで曲を完成させ、それを自分自身でも何度も聴きたくなること。現在のOliにとって、それが活動を続ける基準になっている。

20年かけて世界最大級のロック/メタル・バンドの一つへ辿り着いたタイミングで、彼はむしろ「最大になること」そのものから距離を置こうとしている。

父親としての人生を築き、バンドの外側にも自分自身を持ちながら、それでもBring Me The Horizonでは自分が最も興奮できる音楽を作る。

現在のOli Sykesにとって成功とは、以前とは少し違ったものになっているようだ。

 

 

## 参照元動画

「OLI SYKES on Count Your Blessings Repented, Sempiternal & Deathcore Era」

ArchitectsのSam Carterが語るMetallica、Linkin Parkとのツアー、Kornへの期待、そしてライブにおける観客との関係

世界各地の大型フェスティバルやアリーナへ活動規模を広げてきたArchitects。フロントマンSam Carterが、Sonic Temple Festival 2026でThe Jesea Lee Showのインタビューに登場し、アメリカでのフェスティバル出演、MetallicaやLinkin Parkとのツアー経験、これから始まるKornとのツアー、ライブでスマートフォンを使用する観客についての考え、楽曲のリミックス、そして自身が愛するニューメタルについて語った。

インタビューが公開されたのは2026年5月26日。番組ではArchitectsが巨大なUSフェスティバルについて語るほか、MetallicaやLinkin Parkとのツアーから学んだこと、ライブにおける「雰囲気」の重要性、ファンとの関係などが主要なテーマとなっている。

現在のArchitectsは、自分たちが憧れてきたバンドと同じステージへ立つだけではなく、その先輩たちから「大きなバンドがどのように振る舞うべきか」まで学ぶ立場になっている。なかでもSamがMetallicaとのツアーを振り返る場面からは、世界最大級のバンドがサポート・アクトへ向ける姿勢がArchitects自身にも大きな影響を与えていることが分かる。

 

アメリカの巨大フェスティバルで感じたArchitectsの成長

インタビューの冒頭では、その前週に出演したWelcome to Rockvilleについて話している。Samは同公演を「アメリカでやった中でもお気に入りのショーの一つ」と振り返り、集まった観客の大きさについても驚きを語っている。

特に印象的だったのは、アメリカでありながらヨーロッパでライブをしているような感覚があったことだった。Architectsは長年ヨーロッパの大型フェスティバルへ出演してきたが、近年のアメリカで開催される大規模なロック/メタル・フェスティバルにも、それに匹敵する巨大な観客が集まるようになっている。

Samはアメリカのフェスティバルについて、ヨーロッパでは3日間に分散していそうなほど豪華なラインナップが、一日に集まっているような感覚だとも話している。アメリカ国内で活動するバンドにとっては、週末だけフェスティバルへ飛んで出演し、その後帰宅するような動きも可能であり、それが強力なラインナップを作りやすくしているのではないかと分析している。

Welcome to Rockvilleでは悪天候によってArchitectsの出演時間が数時間後ろ倒しになったものの、結果的には暗くなってから演奏できたことで、むしろバンドの雰囲気には合っていたという。SamはArchitectsの音楽について非常にムーディーな側面があると話し、Sleep Tokenを例に挙げながら、明るい昼間よりも暗い時間帯の方が似合うタイプの音楽ではないかと語っている。

 

Bring Me The Horizon、Parkway Drive、Bad Omens――巨大化するライブ演出

現代の大型ロック/メタル公演では、音楽だけではなくステージ演出も年々巨大になっている。

インタビューでは巨大ビデオウォールなどの演出についても話題になり、SamはBring Me The Horizon、Parkway Drive、Bad Omensなどのプロダクションを高く評価している。

Architects自身はその公演でパイロを使用せず、大型のビデオウォールを中心とした演出を行っていた。一方で、大型フェスティバルでは多くのバンドが炎を使用するため、一日中見ていると次第に珍しさがなくなってしまうという冗談も飛び出した。

その中でもParkway Driveについては、ドラムセットそのものを炎に包みながら回転させるほど徹底しており、やるのであればそのくらいまで突き抜けるべきだという話になる。

Samは長年Parkway Driveと同じフェスティバルへ出演してきたなかで印象的だった光景として、Winston McCallが巨大なサークルピットの中心に立ち、その周囲を何千人もの観客が回っていた場面も振り返っている。自分だったら絶対にやりたくないと笑いながら話すほど、強烈な光景だったという。

 

次はKornと5週間――「ずっと大好きだったバンド」

Sonic Templeを終えたArchitectsは、短い休暇を挟んでヨーロッパでの活動へ入り、その後Kornと約5週間にわたるツアーを行う予定だと話している。

SamにとってKornは特別な存在だ。フェスティバルで同じラインナップになった経験はあるものの、本格的なツアーを一緒に行うのは初めてであり、オファーが届いた際には即座に喜んだという。

Architectsの友人でもあるSpiritboxがすでにKornとのツアーを経験しており、素晴らしい時間を過ごしたと聞いていることも安心材料になっている。数週間にわたって同じバンドと行動する以上、音楽的な憧れだけではなく、実際にどのような環境でツアーをすることになるのかは重要な問題だからだ。

近年のArchitectsはLinkin Park、Metallicaといった巨大なバンドのサポートも経験しており、Samはそれらのツアーで非常によく扱ってもらったと振り返っている。

 

Metallicaから届いた花とJames Hetfieldのケーキ

このインタビューで特に印象的なのが、Metallicaとのツアーについてのエピソードだ。

Samによれば、Metallicaはサポート・バンドへの接し方を非常によく理解していた。ツアー初日にはArchitectsへ花が届き、さらにJames Hetfieldからケーキまで贈られたという。Lars Ulrichは多くの日にArchitectsのメンバーと過ごし、Hetfield自身も彼らのもとへ顔を出していた。

さらにライブ終了後にはMetallicaから毎晩のように夕食へ招待され、貸し切られたレストランなどで一緒に食事をしたという。重要なのは、こうした行動が撮影やプロモーション目的ではなかったことだとSamは強調している。周囲にカメラがいるわけでもなく、SNSへ投稿するための演出でもない。ただ純粋にツアーへ参加したバンドを歓迎していた。

このエピソードはインタビュー公開後にも取り上げられ、SamはMetallicaがArchitectsを「100万ドルの気分」にさせてくれたと語っている。

Architects自身も以前からサポート・バンドに対してきちんと接することを心掛けていたという。しかしMetallicaの姿を見たことで、単に問題がないか確認するだけではなく、「本当に歓迎されていると感じてもらうこと」の重要性を学んだ。

世界最大級のバンドでありながら、自分たちより下の出演順にいるアーティストへ時間と気遣いを使う。それがSamにとって、今後自分たちがさらに大きなバンドになっていくうえでの一つの手本になったようだ。

 

Linkin ParkもArchitectsをすぐに仲間として迎えた

Linkin Parkとのツアーでも似た経験があった。

Samによれば、初日からLinkin ParkはArchitectsを楽屋へ招き入れ、Mike Shinodaから直接メッセージが届き、一緒に歌おうと誘われるような関係になった。

MetallicaとLinkin Parkはどちらも世界最大級のバンドであり、Architectsに対して特別な気遣いをする義務があるわけではない。それでも自然にコミュニケーションを取り、サポート・アクトをツアーの仲間として受け入れていた。

だからこそSamは、これから始まるKornとのツアーにも大きな期待を寄せている。

もしKornのステージで一曲歌えるとしたら何を選ぶかという質問には、「Blind」や「Here to Stay」を候補として挙げている。「Freak on a Leash」ももちろん好きだが、観客としてJonathan Davis本人のパフォーマンスを見たいというファン心理も語っており、SamにとってKornが単なるツアー相手ではなく、長年聴き続けてきた憧れのバンドであることがうかがえる。

 

観客にマイクを向ける理由――「自分たちの曲を歌ってくれるのが嬉しい」

話題はライブにおける観客との関係へ移っていく。

Samは「Animals」などの大きなシンガロングが生まれる曲で、頻繁にマイクを観客へ向ける。しかし妻から、観客は自分たちだけで歌いたいのではなくSam本人の歌も聴きに来ているのだから、少なくとも何度かは自分で歌った方がいいと指摘されたという。

Sam自身もその意見を理解している。それでもマイクを観客へ向けたくなる理由は、自分たちが作った曲が大勢の人々へ届き、その人々が一斉に歌っている光景を聴くことが純粋に嬉しいからだ。

楽曲を制作していた時点では存在しなかった何千人もの声が、ライブ会場で突然自分たちへ返ってくる。そこにはアーティストにしか経験できない特別な喜びがある。

一方で、観客側からすれば、その曲を作った本人のボーカルを聴くためにチケットを購入している。Samは両方の気持ちを理解し、「Animals」ではどこを観客に任せ、どこを自分で歌うかを意識するようになったと話している。

 

ライブ中のスマートフォンを禁止するつもりはない

現在のライブでは避けることのできないテーマとなったスマートフォンについてもSamは率直に語っている。

ステージへ出た瞬間、客席に大量のスマートフォンが掲げられている光景には、今でも不思議な感覚があるという。また、もし自分がスクリームを失敗すれば、それがすぐInstagramやTikTokへ投稿される可能性もあり、演奏者側には以前とは違ったプレッシャーも存在する。

それでもSamは、ライブ中のスマートフォンを否定する立場ではない。

Toolなどが採用しているような、スマートフォンを専用ケースへ入れて使用できなくする公演を経験した際には、ライブそのものへ完全に集中できて素晴らしかったと認めている。しかしArchitectsの観客に対して同じことを強制する考えはないという。

チケットを購入してライブへ来た人が、映像を撮りたい、写真を残したい、後で見返したいと考えるのであれば、それもその人なりの楽しみ方だと受け入れている。

そしてスマートフォンを持っているからといって、現在のArchitectsの観客がライブへ参加していないとも感じていない。スマートフォンを掲げながら歌う人もおり、シンガロングの大きさも失われていない。

Samにとってライブで最も重要なのは、観客から返ってくるエネルギーだという。

Architectsは観客から少しでも大きな反応が返ってくれば、それ以上のエネルギーをステージから返そうとする。Samは観客をライブの「心臓」のような存在として捉えており、観客が興味を示さなければ、そのライブ自体が成立しないと話している。

 

リミックスでArchitectsの楽曲に新しい生命を与える

近年Architectsは楽曲のリミックスも発表している。

きっかけは、ライブ映像などSNS用コンテンツに毎回同じ楽曲を使用することへメンバー自身が飽きを感じ始めたことだった。Dan Searleが楽曲のリミックスを制作するようになり、ライブ終了後のBGMなどとして使用したところ、ファンからフルバージョンやEPを求める反応が寄せられた。

「Everything Ends」のリミックスが好評だったことから、「Broken Mirror」でも別バージョンを制作し、オリジナルとは違った側面を楽しめる形で公開することになったという。

Samはこうしたリミックスについて、既存の楽曲へ新しい生命を与え、ファンが再びその曲を好きになるきっかけにもなると考えている。

バンドが同じ楽曲を別の文脈へ置き直すことで、作品そのものを長く生かすことができる。Architectsが現在もヘヴィ・ミュージックの枠内だけで自分たちを固定せず、新しい表現を試していることが分かるエピソードでもある。

 

DeftonesかLinkin Parkか――Sam Carterのニューメタル愛

インタビューの最後には、複数のバンドから一組を選び続けるゲームが行われ、Samはニューメタルを選択する。

最初に強烈な支持を見せたのがDeftonesだった。

Limp Bizkit、Slipknot、Korn、Mudvayne、Drowning Pool、Disturbedなどが次々と候補に登場するものの、Samはほとんど迷うことなくDeftonesを選び続ける。「Deftonesは自分にとってエリート」と表現し、ツアーが終われば『White Pony』のタトゥーを入れる予定だと話すほど強い思い入れを明らかにしている。

しかし、最後にDeftonesとLinkin Parkの二択になると大きく迷う。

両方を非常に愛していると話しながら、最終的にはLinkin Parkを選択。その後はEvanescence、Papa Roach、P.O.D.、Staind、Sevendust、Kittie、System Of A Downなどを相手にしてもLinkin Parkを選び続け、最終勝者となった。

特にLinkin ParkはArchitectsが実際にツアーをともにし、Sam自身がステージで共演したバンドでもある。幼少期から愛してきた音楽が、現在では自分自身のキャリアと直接つながっていることも、このインタビューを象徴する部分の一つだろう。

 

巨大なバンドからArchitectsが受け継いでいるもの

今回のインタビューから見えてくるのは、単にArchitectsがMetallica、Linkin Park、Kornのような巨大なバンドとツアーできるまで成長したという事実だけではない。

Sam Carter自身は現在もKornやDeftones、Linkin Parkについて、一人のファンとして興奮しながら話している。一方でArchitectsもまた、次の世代から見ればすでに大きな影響力を持ったバンドになっている。

だからこそ、Metallicaから受けた扱いが強く心に残ったのだろう。

サポート・バンドへ花やケーキを送り、楽屋へ顔を出し、ライブ後には一緒に食事をする。それを誰かに見せるためではなく、ごく自然に行う。

Samはその経験から、自分たちもサポートするバンドへより意識的に気を配り、本当に歓迎されていると感じてもらうことの大切さを学んだ。

音楽そのものだけではなく、ツアーでの振る舞い方や、後輩のバンドとの接し方まで次の世代へ引き継がれていく。

Welcome to Rockvilleでヨーロッパと同じほど巨大な観客を前にし、MetallicaやLinkin Parkとのツアーを経験し、次は少年時代から愛してきたKornと長期ツアーへ向かうArchitects。その現在地は、長年メタルコアの中で歩んできた彼らが、新たな段階へ入っていることを感じさせる。

参照元動画

The Jesea Lee Show「Architects Interview – Touring With Korn, Linkin Park & Metallica (Sonic Temple Festival 2026)」

 

ArchspireのOliver Rae Aleronが教える「インヘイル・スクリーム」――高速デスボイスを支える呼吸、舌の使い方、リラックスの重要性

テクニカル・デスメタル・バンドArchspireで、驚異的なスピードのボーカルを披露するOliver Rae Aleron。その特徴の一つが、息を吐きながら発声する一般的なエクストリーム・ボーカルだけでなく、息を吸いながら声を出す「インヘイル (吸い込む)」を組み合わせていることだ。

YouTube動画「Archspire’s vocalist teaches me his insane inhale technique」では、Oliverが実際にインヘイルの発声方法を実演しながら、呼吸、喉の状態、舌の位置、高音と低音の作り分けなどを解説している。

Oliverはディジュリドゥ (オーストラリア先住民アボリジニの伝統的な管楽器で、世界最古の金管楽器の一つ)の演奏からサーキュラー・ブリージング (*循環呼吸。息を吐きながら同時に鼻から息を吸い、音や演奏を途切れさせずに出し続ける管楽器などの特殊な奏法)を身につけ、それをボーカルにも取り入れているという。

エクスヘイル (吐き出す)とインヘイル (吸い込む)を切り替えることで、ほとんど途切れることなくボーカルを続けられることが、Archspireの異常なまでに高速なボーカル・スタイルを成立させる要素の一つになっている。

ただし、動画の中でOliverが繰り返し強調しているのは「強く吸い込むこと」ではない。

むしろ重要なのは、その反対にある「リラックス」だった。

 

まずは声を出す前に「呼吸」を整える

Oliverが最初に行うのは、いきなりインヘイル・スクリームを出すことではない。

ウォームアップとして紹介しているのが、一般的なボックス・ブリージングに近い呼吸だ。

鼻から息を吸い、腹部や横隔膜周辺まで十分に膨らませる。その状態を少し保ったあと、口からゆっくり息を吐き切る。

本人は横隔膜周辺を意識的に膨らませることで、そこから発声するための力を得やすくなると説明している。

しかし、それ以上に重要なのが上半身を硬くしないことだという。

インヘイルでは喉周辺を力ませず、身体をリラックスさせることが重要になる。Oliverは「呼吸はあらゆることに役立つ」と話し、まず身体全体を落ち着いた状態へ持っていくところから練習を始めている。

 

インヘイルは「大量の空気を一気に吸う」ものではない

「息を吸いながら叫ぶ」と聞けば、大きく空気を吸い込むような発声を想像するかもしれない。

しかしOliverの説明は逆だ。

強く息を吸い込む必要はなく、身体をリラックスさせながら、非常に細い空気の流れを喉の中で共鳴させる。

Oliverは、完全な吸気と呼気のどちらかへ大きく振り切るのではなく、その中間に浮いているような感覚として説明している。

その小さな空気の流れを維持できるようになると、そこから力を加えたり、高音や低音へ変化させたりできる。

最初から最大音量を出そうとするのではなく、まず空気が共鳴する場所を探すことが基本になるという。

 

基本形は「O」の口と、後ろへ引いた舌

Oliverが最初に実演する基本的なインヘイルでは、口を「O」のような形にする。

舌は後方へ引き、その両側を通すような感覚で非常にゆっくり空気を取り込む。

ここでもポイントになるのは、一度に大量の空気を入れないことだ。

Oliverは、最初から高音も低音も完璧に出そうとする必要はないと説明する。まず自分が自然に出しやすい音域を見つけ、口と舌の形を確認しながら、力まず安定した音を作る。

動画内で実際に挑戦した側も、最初は高めの音が出やすい状態だった。そのためOliverは、空気量を制限したまま、もう少し低い共鳴位置を探すよう指導している。

 

低音と高音では「舌の形」が大きく変わる

Oliverのインヘイル解説で特に興味深いのが、音程を変える際の舌の使い方だ。

低い音を作る場合、胸を広げる感覚を持ちながら、舌をトンネルやチューブのような形にする。

一方、高い音では舌の両側を歯へ押し当て、舌先と歯の間に非常に小さな隙間を作る。

この隙間によって、笛のような高い音程を発生させるという。

実際、Oliverは身体側の発声を大きく変えなくても、舌の位置だけを変化させることで音程を上下させている。

インヘイルの高音について本人は、かなり「口笛」に近い仕組みとして説明している。

 

高音と低音を同時に鳴らすこともできる

さらにOliverは、高い笛のような音と低い共鳴音を組み合わせることで、二つの音程が同時に鳴っているようなサウンドも実演している。

口の前方では舌と歯の小さな隙間から高音を作りながら、身体側では低い共鳴を維持する。

結果として、一つの声でありながら高音と低音が重なったような異様な響きになる。

Archspireのボーカルが単純な低音ガテラルや高音スクリームだけでは説明しにくい理由の一つは、こうした細かな音色の操作にあるのかもしれない。

Oliver自身も、身体全体を大きく変えるというより、舌を動かすことでさまざまな響きを作り分けている。

 

「喉で作ろうとしすぎない」

動画での練習中、挑戦者はインヘイルの振動を強く喉に感じていた。

それに対してOliverは、エクスヘイル・ボーカルを覚え始めた頃と似ていると説明している。

初心者はどうしても「喉から音を出している」感覚が強くなる。しかし慣れるにつれて、口や胸など別の場所に共鳴を移していくことができる。

Oliverはインヘイルでも同様に、喉の一点だけへ集中するのではなく、胸側から音が出ているようなイメージを持つことを勧めている。

さらに「もっと強い音を出そう」と大量の空気を取り込むのではなく、吸う量そのものを減らすことも指摘している。

大きな音=大量の空気ではないという考え方が、この動画では何度も登場する。

 

「Red Goliath」ではコーラス部分をインヘイルで歌っている

単純な音を出せるようになった後、次の課題になるのが「言葉」だ。

Oliverによれば、インヘイルで言葉を発音することはさらに難しい。

一方で、既に発音を知っている単語を使うことで、口の中をどう変化させればよいのか理解しやすくなる可能性もあるという。例として使われるのが、Archspireの「Red Goliath」である。

Oliverは同曲のコーラスにあたる部分で、多くのインヘイルを使用していることを説明し、実際のフレーズを使って練習を行っている。

発音を明確にするためには、舌だけでなく口や頬を使って子音や母音を強調することも必要になる。つまり、インヘイルの音を出せるだけではArchspireのようなボーカルにはならない。その状態を維持しながら言葉を発音し、さらに高速な楽曲の中で使えるようにする必要がある。

 

「引っかき傷」のような感覚があれば問題かもしれない

実演の中でOliverは、自分がインヘイルを行っている際、「喉にスクラッチ感がない」と説明している。

もし引っかくような違和感があれば、それは良くない状態かもしれないという認識を示している。

また本人は蒸気を吸うことも好んでおり、痰などがあるとインヘイルの空気の流れを邪魔して、喉がざらつくような状態になることがあると話している。

ただし、これはOliver自身の経験と発声方法についての説明であり、医学的な安全基準を示しているものではない。

インヘイルを含むエクストリーム・ボーカルは身体を楽器として使うため、痛みや強い違和感が出た状態で無理に続けるべきではないだろう。

 

横隔膜が震えるほど頑張るより、まず「楽に出せる状態」を探す

練習を続けると、挑戦者は次第に高いスクリーチのような音を安定して出せるようになっていく。一方で、横隔膜が震えるほど身体を使っている場面もある。

Oliverは、まだ新しい発声を覚えているため身体に緊張が残っていると分析する。

同じ動作を繰り返し、構造を理解していけば、徐々に余計な力が抜けて安定したピッチを維持できるようになるという。ある音域へ入ることができれば、その後は舌を動かして音色を変化させる。

最終的にはギターで音を出すときのように、毎回「正しい場所に入れるだろうか」と考えなくても、身体がその感覚を覚えることを目指す。

 

Oliverが何度も繰り返した最大のポイントは「リラックス」

動画全体を通して、最も繰り返されている考えは技術名ではない。

「リラックスすること」だ。

Oliverは、緊張や不安がボーカルへ直接影響すると話している。身体そのものが楽器である以上、精神的な状態から完全に切り離すことは難しい。自宅では完璧にできることでも、ステージで緊張すれば同じように再現できないこともある。

そのため、自宅で練習するときから可能な限りリラックスした状態を作り、その感覚を身体に覚えさせることが重要になる。

 

ライブ中は「歌詞を覚える」のではなく、頭の中で映像にする

動画後半では発声技術から、ライブでのメンタルコントロールへ話が広がる。

Oliverが自身の歌詞を覚える際に使っている方法も興味深い。単語を順番に暗記するのではなく、歌詞から頭の中に風景や物語を作る。

本を読んでいるときに場面を想像するように、自分が歌っている内容を映画のような映像として頭の中で再生するという。そうすることで、「次の単語は何だ」「観客からどう見られている」と考える必要が少なくなり、歌詞の世界そのものへ集中できる。

結果的に緊張からも距離を置き、ボーカルをリラックスさせやすくなるという。

Oliverはこれを、俳優が台詞を単なる単語の羅列として覚えるのではなく、その場面で実際に起きている出来事として理解する方法に近いものとして説明している。歌詞を「記憶」ではなく、架空の経験として頭の中に作る。

Archspireほど情報量の多い高速ボーカルをライブで再現するうえでは、発声だけでなく、こうした記憶と集中の方法も重要になっているようだ。

 

Archspireの異常なボーカルは「力」だけで作られているわけではない

Archspireの音楽を初めて聴けば、Oliver Rae Aleronのボーカルはとにかく速く、激しく、身体へ大きな負荷をかけているように聞こえる。

しかし今回の解説から見えてくる考え方は、それとは少し違う。

強く吸い込まない。

喉を固めない。

必要以上の空気を使わない。

舌の位置によって音程を変える。

そして何よりリラックスする。

もちろん、数分の解説を見ただけでArchspireのボーカルを再現できるわけではない。Oliver自身も、練習によって身体が音の場所を覚えていく必要があると説明している。

エクスヘイルとインヘイル、サーキュラー・ブリージング、口腔内での細かな音色操作、そして高速な歌詞を処理するためのメンタル・イメージ。

一見すると力任せに聞こえるArchspireのボーカルは、実際には「どれだけ無駄な力を抜けるか」という考え方によって支えられていることが分かる映像となっている。

 

※本記事は動画内でOliver Rae Aleron本人が紹介した発声方法と経験を整理したものです。インヘイルを含むエクストリーム・ボーカルの安全性を医学的に保証するものではありません。発声時に痛みや強い違和感がある場合は無理に続けないよう注意してください。

 

参照元動画

「Archspire’s vocalist teaches me his insane inhale technique」

Crabcoreはなぜ衰退したのか? Attack Attack!から始まったMySpace時代の熱狂、その衰退と現在のリバイバル

2000年代後半のメタルコアを振り返るうえで、Crabcoreほど当時のインターネット・カルチャーと密接に結び付いた言葉は少ないかもしれない。極端に腰を落としてギターを弾くステージアクション、派手なシーンヘア、スキニージーンズ、エレクトロニック・サウンド、オートチューンを多用したクリーンボーカル、そして強烈なブレイクダウン。当初は一部のメタルコア・バンドを馬鹿にするためのジョークとして使われた言葉だったが、やがて一つの時代を象徴する存在になっていった。

YouTubeに公開された「What Killed CRABCORE?」では、Attack Attack!を起点としてCrabcoreが誕生し、MySpaceやYouTubeを通じて急速に拡大した過程、そしてなぜ2010年代半ばまでに勢いを失っていったのかを振り返っている。

動画が描くCrabcoreの歴史は、単純な「流行した音楽が飽きられて消えた」というものではない。シーンそのものの過飽和、ファンの成長、SNSの変化、バンド側がより成熟した音楽を求め始めたこと、そして次の世代のオルタナティヴ・ミュージックが台頭したことなど、複数の変化が同時に起きた結果として、その時代は終わっていった。しかし現在、そのサウンドや美学は再び新しい世代から注目され始めている。

 

Attack Attack!「Stick Stickly」から生まれたCrabcore

動画では、Crabcoreの誕生をAttack Attack!の「Stick Stickly」ミュージックビデオと結び付けている。ギタリストたちが極端に腰を落として演奏する姿が「カニのように見える」と揶揄され、それをきっかけにCrabcoreという呼び名が広がった。

興味深いのは、Attack Attack!自身がその呼び名に抵抗しなかったことだ。動画内で紹介される過去のインタビューでは、誰かがバンドを馬鹿にするためにWikipediaへ書き込んだ言葉だったのではないかと振り返りながら、「面白いからそのまま受け入れた」という姿勢を見せている。後にはCrabcoreを冠したTシャツまで制作しており、自分たちに向けられた嘲笑を逆にバンドのアイデンティティの一部へ変えていった。

しかし、Attack Attack!が物議を醸していたのはステージアクションだけではなかった。アルバム『Someday Came Suddenly』では、ハイトーンのスクリーム、パニックコード、チャグを主体としたブレイクダウンへ、派手なシンセサイザー、エレクトロニック・パート、オートチューンを強く使用したクリーンボーカルを組み合わせた。

当時の伝統的なメタルファンから見れば、あまりにも突飛な組み合わせだった。批評家から冗談のような作品として扱われることもあった一方、この音楽を必要としていたのは必ずしも既存のメタルファンではなかった。

動画では、当時エモやシーン・カルチャーからメタルコアへ足を踏み入れようとしていた新しい世代にとって、Attack Attack!が「入口となるバンド」だったと捉えている。暗くシリアスであることが当然とされていたヘヴィ・ミュージックに、鮮やかな色彩、ポップミュージック、エレクトロニクス、遊び心を持ち込んだことで、それまでのメタルコアとはまったく異なる聴衆を呼び込んだ。

 

MySpaceがCrabcoreを世界規模のムーブメントへ変えた

Crabcoreの拡大を語るうえで欠かせないのがMySpaceとYouTubeだった。

「Stick Stickly」の公式ミュージックビデオは当時としては珍しい規模で拡散し、世界各地のシーンキッズがAttack Attack!を知るきっかけとなった。メタルコミュニティから強烈に嫌われる一方、それと同じくらい熱烈に支持する若いファンも存在していた。

その後、似た感覚を持ったバンドが次々と人気を獲得する。動画ではAsking Alexandria、Confide、Of Mice & Men、I See Stars、A Skylit Driveなどが、この時代を構成した重要なバンドとして取り上げられている。

Asking AlexandriaはAttack Attack!が提示した要素を、より攻撃的で完成された形へ進化させた存在として紹介され、Of Mice & MenではAttack Attack!を離れたAustin Carlileが新たなスターとなった。I See Starsは当時のElectronicoreを語るうえで重要な存在であり、Attack Attack!自身も彼らからの影響について語っていたという。

やがて「Crabcore」は単なるカニのような動きだけを意味するものではなくなっていった。シーンヘア、スキニージーンズ、派手なファッション、エレクトロニクス、メタルコア、独特なステージアクションなどをまとめた一つのカルチャーへと変化していった。動画ではAttack Attack!がその「設計図」のような存在になり、新しく登場するバンドがそのフォーマットを取り入れていったと振り返っている。

その拡大を可能にしたのがMySpaceだった。動画ではMySpaceについて、単なるSNSではなく、巨大企業や既存メディアが握っていた音楽発見の力をリスナーへ開放した存在として捉えている。ユーザーはプロフィールからプロフィールへ移動しながら、新しいバンドを次々と発見することができた。

シーンが急拡大すると、当然レーベルも動き始める。CrabcoreやElectronicoreが人気を集めれば、各社は「次のAttack Attack!」を探すようになる。こうして、もともとはインターネット上のジョークから生まれた言葉が、音楽産業からも無視できないムーブメントへと変わっていった。

 

Asking AlexandriaとOf Mice & Menがもたらした「ロックスター」

Attack Attack!がCrabcoreの設計図を作った一方、動画では彼らのピーク時に一つ欠けていたものがあったとも指摘している。それが、シーン全体を象徴する「ロックスター」の存在だった。

そこで登場したのがAsking AlexandriaのDanny WorsnopとOf Mice & MenのAustin Carlileだった。

@before_beyond From metalcore chaos to soulful solo sounds 🎤 Danny Worsnop’s journey is pure transformation. From Asking Alexandria to his country-blues solo career, he’s proven he can do it all. Which Danny era is YOUR favorite? 👇 Don’t miss this 12-moment evolution! 🔥 👉 Follow for more artist evolutions and epic music journeys! #DannyWorsnop #AskingAlexandria #ShadesOfBlue #MusicEvolution #RockIcon ♬ The Final Episode (Let’s Change Channel) – Asking Alexandria
@before_beyond From stage screams to survival—Austin Carlile’s story of resilience and rebirth in 12 moments. #AustinCarlile #OfMiceAndMen #MetalcoreLegend #MusicEvolution #MetalMusic ♬ Second & Sebring – Of Mice & Men

彼らはルックス、ファッション、ボーカル、カリスマ性、そして強烈なステージパフォーマンスを持っており、単なるバンドのフロントマンを超えて、若いファンが憧れるアイコンになっていった。

こうしたスターの誕生によってCrabcore周辺の音楽はさらに大きな注目を集め、レーベルや企業もその商業的な可能性を認識するようになる。Asking Alexandriaがテレビ番組「Jimmy Kimmel Live!」に出演するなど、かつて一部のインターネット・カルチャーだった音楽がメインストリームへと到達する場面も生まれた。

ジョークとして始まったCrabcoreは、一時期メタルコアの中でも最も目立つスタイルの一つとなった。しかし、急激に拡大したムーブメントには、やがて避けられない問題が起こり始める。

 

なぜCrabcoreは衰退したのか――最大の問題は「過飽和」

動画がCrabcore衰退の大きな理由として挙げているのが、フォーマットの過飽和だった。

人気ジャンルが生まれると、似たバンドが増える。それ自体は珍しいことではない。流行に便乗して利益を得ようとする者もいれば、その音楽に可能性を感じ、自分なりの形へ発展させようとする者もいる。

しかし、チャグを主体としたブレイクダウン、エレクトロニックなシンセサイザー、ハイトーンのクリーンボーカル、大量のオートチューンといった組み合わせが何度も繰り返されるうちに、かつて予測不能に感じられたサウンドが次第に定型化していった。

音楽だけではない。派手なシーンファッションや蛍光色を使用したマーチャンダイズなども大量に登場し、本来は目立つためのデザインだったものが、全員同じ方向へ進んだことで逆に目立たなくなっていった。

最初は「こんな音楽を作っていいのか」と思わせるほど異質だったCrabcoreが、数年後には「またこのサウンドか」と思われるものへ変化してしまったというわけだ。

 

Crabcoreと一緒に、シーンキッズも大人になった

Crabcore側の変化と同時に、聴いていたファン自身も成長していった。

2000年代後半にシーン・カルチャーへ夢中になっていた10代の若者たちは、数年後には学校を卒業し、仕事を始め、自分が何者なのかをシーンの外でも探す年齢になっていた。一部はそのままヘヴィ・ミュージックを聴き続けたが、完全に別の音楽へ移っていった人もいる。

動画では、Crabcoreが単なる音楽ジャンルではなく、特定の世代の「人生の一時期」と強く結び付いていたことを指摘している。だからこそ、その世代が成長すれば、同じ形の音楽を永遠に求め続けるわけではなかった。

さらにインターネット自体も変化した。MySpaceは自分の好きな曲、好きなバンド、友人、写真、派手なグラフィックなどを使い、自分自身のページを自由に作ることのできる場所だった。しかしSNSがFacebookなどへ移行すると、プロフィールは次第に統一され、よりシンプルで使いやすいものになっていった。

動画では、このインターネットの変化とCrabcoreの衰退を重ねている。派手で、騒々しく、過剰で、個性的だったMySpace。そして同じように派手で、騒々しく、過剰だったCrabcore。インターネット全体が整理され、均一化されていくなかで、Crabcoreは人々が過去に置いていこうとしていた時代そのものを象徴するようになっていった。

 

バンド自身も「Crabcoreから卒業」しようとした

Crabcoreを聴いていたファンだけではなく、演奏していたミュージシャン自身も若かった。

成功した当時はリスナーと数歳しか違わないメンバーも珍しくなく、彼らも当然成長していった。そこで生まれたのが、「自分たちは本当にこの音楽を一生作りたいのか」という問題だった。

さらにCrabcore系バンドは長年、一部の批評家やメタルファンから冗談のように扱われてきた。その結果、多くのバンドが「自分たちは本物のミュージシャンだ」と証明したいと考えるようになったのではないか、と動画では分析している。

シンセサイザーを減らす。派手な色をなくす。コミカルな要素を消す。よりシリアスで「成熟した」メタルを目指す。

しかし、その過程で最初に人々を惹きつけていた個性まで失ってしまったバンドもいた。技術的には成熟していても、新鮮さや楽しさがなくなり、結果として無難な音楽になってしまう。

動画では、この時代のメタルコアが「成熟しようとすること」に集中しすぎた結果、かつての魅力だった混沌やキャラクターまで失ってしまったと指摘している。

同時に、Danny WorsnopやAustin Carlileのような強烈な個性を持った人物が象徴していた「ロックスター性」も薄れていった。プロダクションは整い、ミュージシャンはよりプロフェッショナルになった。しかしステージ以外では存在し得ないような強烈な人物像を持つスターが減っていったという見方だ。

 

2010年代半ば、バンドはそれぞれ別の道へ

2010年代半ばになると、Crabcoreの中心にいたバンドやミュージシャンはさまざまな方向へ進んでいく。

Confide、That’s Outrageous!、Close to Homeなど解散するバンドがいる一方、別のプロジェクトで新しい成功を手にした人物もいる。動画ではAttack Attack!周辺から生まれたOf Mice & Men、Bilmuri、Beartoothを、その代表例として挙げている。

また、ニューメタル、オルタナティヴ・メタル、ハードロックなど、より長い商業的実績を持つスタイルへ移行するバンドも増えた。動画では、Crabcoreというフォーマット自体がすでに成長の限界へ到達していたため、さらに大きな成功を目指したバンドがラジオ向けのサウンドへ進んだ可能性にも触れている。

その結果、かつて旧世代のロックとはまったく違う音楽として登場したバンドたちが、徐々に自分たちが置き換えようとしていた従来型のハードロックへ近づいていくという皮肉な状況も生まれた。

その中で、動画が成功例として取り上げているのがCaleb ShomoのBeartoothだ。

BeartoothではAttack Attack!時代のコミカルさや強いエレクトロニクスを減らした一方、ブレイクダウンなど自分自身にとって重要だった要素は残された。さらに生々しいプロダクション、個人的な感情、強いフックを加えることで、単純に過去を否定するのではなく、Attack Attack!で得た経験から必要な部分だけを次の音楽へ持ち込んだ。

動画では、これは流行から抜け出す一つの理想的な方法だったのではないかと評価している。

 

次の世代となったポップパンク・リバイバル

Crabcoreの勢いが落ち始めた頃、Warped Tourでも別の新しい流れが存在感を強めていた。

2013年から2014年頃には、The Story So Far、State Champs、Neck Deepなど、次世代のポップパンク・バンドが若いオルタナティヴ・ミュージック・ファンから大きな支持を集めるようになった。

動画では、Crabcoreがあまりにも過剰な音楽だったからこそ、その次に注目されたポップパンクが対照的だった点を興味深い変化として挙げている。複雑なエレクトロニクスや極端なブレイクダウンを重ねるのではなく、パワーコードとキャッチーなコーラスを中心としたシンプルな音楽が、新しい世代にとって新鮮な存在になった。

つまりCrabcoreには、ある日突然「死んだ瞬間」があったわけではない。

フォーマットが使い尽くされ、ファンが成長し、ミュージシャン自身も別の音楽を求め、新しいシーンが登場した。優れたアーティストは新しい方向へ進み、単純なコピーだったバンドは消えていく。その積み重ねによって、Crabcoreというムーブメントは徐々に姿を消していった。

 

MySpaceへのノスタルジーとCrabcore再評価

しかし、時間が経つと、それまで恥ずかしい過去だと思っていたものが再び魅力的に見えることがある。

現在、MySpace時代の美学そのものが再発見され始めている。ストレートアイロンで作った髪型、スネークバイト・ピアス、ネオンカラーの服、極端な角度から撮影した写真など、2000年代後半のシーン・カルチャーを知らない新しい世代までが、そのスタイルを取り入れている。

音楽でも同様の現象が起きている。特にMySpace Deathcoreではリバイバルの動きが強く、動画ではREV3RENT、Slamwich、Psycho-Frameなど、2007年前後のデスコアを思わせるサウンドを持った新世代のバンドを紹介している。

現代のメタルが高度に洗練され、技術的にも完璧なプロダクションへ向かってきた反動として、荒々しく、不完全で、MySpace時代からそのまま出てきたような音楽が逆に新鮮に響いているという。

Crabcoreでは同規模のリバイバルはまだ少ないものの、動画ではAshes At Lastを一例として紹介している。過去のElectronicore/Crabcore的な要素を再び取り入れる新しいバンドが存在し、実際に支持を伸ばしていることは、このサウンドに再び需要が生まれている証拠ではないかと捉えている。

 

Electric Callboyは「進化したCrabcore」なのか

一方、動画ではCrabcoreそのものが完全に消えたわけではなく、その基本的な発想は現代の音楽へ進化して残っているとも考えている。

その代表として名前が挙げられるのがElectric Callboyだ。

エレクトロニックなプロダクション、巨大なクリーンコーラス、ブレイクダウン、複数ジャンルの衝突、派手な衣装、ユーモア。そして何より「楽しさ」を失っていない。

クラシックなCrabcoreとの大きな違いは、その馬鹿馬鹿しさが完全に意図されたものとしてコントロールされている点だと動画では分析している。

初期Crabcoreでは、さまざまな要素が無秩序に詰め込まれたように感じられる楽曲も多かった。それに対してElectric Callboyは、自分たちがどのようなバンドなのかを理解したうえで、カオスを計算されたエンターテインメントとして成立させている。

動画では、これは「成熟=シリアスで退屈になること」と考えなければ、初期Crabcoreのバンドたちが進むことのできた未来の一つだったのではないかと見ている。

そして興味深いことに、復活したAttack Attack!も似た結論へたどり着いている。

現在の彼らは『Someday Came Suddenly』をそのまま再現するのではなく、現代的なメタルコア、EDM、ポップ、Electric Callboy以降のパーティー・メタル的な要素を取り入れている。同時に、かつては嘲笑の対象だったCrabcoreという言葉から逃げることをやめ、ユーモアやエレクトロニクスを再び自分たちのアイデンティティとして利用するようになった。

Electric Callboyや現在のAttack Attack!はCrabcoreの「進化した形」を提示し、Ashes At Lastのような新しいバンドはオリジナルに近いサウンドそのものの復活を試みている。

 

Crabcoreは「ただの流行」ではなかった

Crabcoreが再び2000年代後半と同じ規模でメタルコアを支配する可能性は高くないのかもしれない。それでも、長い間多くの人が距離を置こうとしていたCrabcoreを、新しい世代が積極的に探し始めているという変化は興味深い。

MySpace Deathcoreのリバイバルは当時のブルータリティを復活させ、ファッションのリバイバルは当時の美学を取り戻した。そしてCrabcoreの再評価は、メタルコアから失われていった「楽しさ」をもう一度取り戻そうとしているのかもしれない。

動画の最後では、若者から生まれた流行には次の若い世代が必要だという考えも語られている。かつてCrabcoreを作ったミュージシャンや聴いていたファンは年齢を重ねた。それ自体は自然なことであり、無理に昔の姿へ戻る必要もない。

重要なのは、次の世代が過去から影響を受けながら、自分たちなりの新しいものを作ることだ。

深く真剣な音楽と、馬鹿馬鹿しいほど楽しい音楽は同時に存在できる。ヘヴィ・ミュージックだからといって、常に自分自身を深刻に見せ続けなければならない理由はない。

もともと一つのジョークから生まれたCrabcore。しかし、それは最終的に世界各地の若者を巻き込み、メタルコアのサウンド、ファッション、ライブパフォーマンス、そしてインターネット上の音楽カルチャーそのものに影響を残した。

単なるギミックでも、一時的な流行だけでもない。

動画が最後に表現しているように、Crabcoreは一つの「時代」だったのだ。

 

参照元動画

「What Killed CRABCORE?」

Thy Art Is Murderの新ボーカル”Jerry Grimefeld”とは何者なのか? 11歳から始めた音楽活動、ラッパーとしてのキャリア、小さなライブハウスから突然5万人規模のステージへ… これまでの経歴に迫る

2026年、オーストラリアのデスコアを代表するThy Art Is Murderに新たなフロントマンが加わった。名前はJerry Grimefeld。Honest Crooks、Vengeanceでの活動歴を持ち、メタルだけでなくラッパーとしても音楽活動を続けてきた人物だ。

Thy Art Is Murderは7月29日にルーマニアで開催されたRockstadt Extreme FestでGrimefeldを新ボーカリストとしてステージに迎え、その後、本人が正式な新ボーカリストであることも明らかになった。

YouTubeに公開された「Who the F**k Is Jerry Grimefeld!? Interview With the New Thy Art Is Murder Vocalist」では、まだ多くのメタルファンにとって謎の多いGrimefeld本人にインタビュー。11歳頃から始めたスクリーム、Parkway Driveから受けた影響、ラップとの関係、突然数万人規模のステージに立つことになった現在、ボーカルコンディションの管理、そしてThy Art Is Murderのフロントマンとして今後改善していきたい部分について語っている。

 

「Jerry Grimefeldって一体誰なんだ?」

Thy Art Is Murderの新体制がスタートすると、Grimefeldはステージ上で「WHO THE F**K IS JERRY GRIMEFELD?」と書かれたシャツを着用していた。

実際、それは多くのファンが抱いていた疑問でもあった。長年世界的なデスコア・バンドとして活動してきたThy Art Is Murderの新たなフロントマンでありながら、これまで彼の名前を知らなかったリスナーも少なくなかった。

インタビューで「一体何者なのか」と聞かれたGrimefeldは、自分についてオーストラリアのラッパーであり、Grimeをやっていて、同時に「メタル・ボーイ」でもあると説明する。つまり彼の音楽的なバックグラウンドは、デスコアだけではない。

幼い頃からラップとスクリームの両方に取り組んできたというGrimefeldは、自身が育った音楽環境をEminemと映画『The Matrix』のサウンドトラックが混在したようなものだったと振り返っている。ラップを始めた時期とスクリームを始めた時期はほぼ同じで、本格的に声を使い始めたのは11歳頃。15歳になる頃にはすでにバンドで活動していたという。

 

11歳でスクリームを始めたきっかけはParkway Drive

Grimefeldがエクストリーム・ボーカルを始める直接的なきっかけになったのがParkway Driveだった。

友人からParkway Driveを聴かされ、その激しさに衝撃を受けた。当時の彼が音楽について感想を述べると、友人から「何を歌っているのか分かっていないだろう」と言われたという。その一言が、彼を自分自身でスクリームする方向へ向かわせた。

現在29歳と話しているため、インタビュー時点ですでに約18年間エクストリーム・ボーカルに取り組んできたことになる。突然現れた新人ボーカリストのように見える一方、声そのものについては10代になる前から長い時間をかけて試行錯誤してきた人物だ。

自身の発声についてGrimefeldは、専門的な名称を正確に説明できるわけではないとしている。その感覚は胸や喉を完全にリラックスさせた状態から出す「ため息」に近く、それを長年かけて横隔膜のコントロールとともに強力な音へ発展させてきたと説明している。

体系的な理論から発声方法を組み立てたというより、長期間実践を重ねながら自分の身体に合う方法を身につけてきたタイプのボーカリストであることが分かる。

 

2,000人規模から、一気に5万人規模のステージへ

Thy Art Is Murder加入以前、GrimefeldはオーストラリアでHonest CrooksやVengeanceのフロントマンとして活動していた。しかし、Thy Art Is Murderで経験するライブの規模はそれまでとは大きく異なる。本人によれば、それ以前に経験した最大規模のライブは2,000人程度だった。それが今回のヨーロッパ・フェスティバル・ツアーでは、数万人規模の会場へ一気に飛び出すことになった。

インタビューが行われたSummer Breezeでは、フェスティバル全体で4万5,000~5万人規模になるという話を聞き、本人もその差の大きさに驚いている。ただし、大きなステージに萎縮している様子はない。

Grimefeldは広いステージについて「遊び場」のようなものだと表現している。走り回ることが好きで、自分の好きな曲を歌いながら巨大なステージを自由に動けることを楽しんでいるという。実際、現在の彼のステージパフォーマンスでは客席へウォーターガンを撃ったり、長いキャットウォークがあればすぐに走っていったりする姿も見られる。それらは事前に綿密に計算した演出ではないらしい。

インタビューでは、ステージ上で警備員がウォーターガンを持っているのを見つけ、その場で「それをくれ」と頼み、そのまま客席へ水を撃ち始めたというエピソードを紹介。「大きな計画があるわけではなく、ただその場で色々やっている」と話している。

 

自分に怒っている観客も「もっと怒らせればいい」

新ボーカリストの加入となれば、当然すべてのファンがすぐに受け入れるとは限らない。しかしGrimefeldは、そのプレッシャーについてかなり独特な向き合い方をしている。

自分に対して不満を持っている人が客席にいることについて、「そういう人たちなら、もっと怒らせてもいい」と冗談交じりに語り、もしその人の顔にウォーターガンの水が当たれば面白いとも話している。

一方、それ以外の観客については暑い会場で水が必要だったから撃っていたとも説明しており、敵対的な姿勢だけでステージへ立っているわけではない。

Thy Art Is Murderという長い歴史を持つバンドへ途中から加入し、既存ファンの評価を一身に受ける状況でも、必要以上に自分を守ろうとせず、むしろステージそのものを楽しもうとしている。その奔放さは現在のGrimefeldを特徴づける要素の一つになっている。

 

睡眠不足、故障したバス、砂埃――ツアーで直面した過酷な現実

この日のインタビューでは、本来であればGrimefeldが実際にスクリームを披露し、発声について詳しく解説する予定だった。しかし、彼は声を温存する必要があり、実演できない状態だった。その背景には過酷な移動があった。

前日のライブは本人が「人生で一番埃っぽかった」と表現するほど砂埃の激しい環境で、その後14時間ほどバスで移動する予定だった。しかしツアーバスが故障し、さらにエアコンも停止。非常に暑い車内で眠ることができず、インタビュー時点までほとんど睡眠を取れていなかったという。

それでも数時間後にはThy Art Is Murderとして巨大なフェスティバルのステージへ立たなければならない。Grimefeld自身、この日の自分が理想とするパフォーマンスをできる状態ではないことは理解していた。しかし、バスの故障や気温、前日の砂埃は自分ではコントロールできない。「こういうことは起こる。これがツアーだ」と受け止め、与えられた状態の中でステージへ立とうとしている。

巨大なフェスティバルへ出演する華やかな部分とは対照的に、長距離移動、睡眠不足、気候、会場環境などと付き合いながら毎日一定水準のパフォーマンスを求められる、ツアーミュージシャンの厳しい側面も見えてくる。

 

声を守るために「できるだけ話さない」

コンディション管理について、Grimefeldが最も基本的な方法として挙げているのが休息だった。

ライブを控えた日は可能な限り話さず、声を使わないようにする。十分に休み、水分を取り、自分に合った温度の水を使いながら、一日かけて少しずつ本番へ向けた状態へ持っていくという。

ツアー序盤には決められたウォームアップも行っていた。一方、今回のツアーではこれまで経験したことのない長時間のセットを10日間ほど連続で演奏しており、本人は冗談交じりに「もう十分ウォームアップされている」と話している。

インタビューでは、水の中へストローを入れて息を吐き、声帯周辺へ適度なバックプレッシャーを与えるボーカルウォームアップ用の器具についても紹介される。Grimefeld自身はそれまで知らなかったようで、その場で興味を示していた。

こうした会話からも、18年間スクリームを続けてきた人物でありながら、現在も新しい方法を学びながら自分のボーカルを改善していることが分かる。

 

水、蜂蜜、カフェイン――ボーカルケアをめぐるゲーム

動画中盤では、さまざまな飲食物や行動を「声に良いもの」「悪いもの」「ステージでの燃料」に分類するゲームも行われる。Grimefeldは水を非常に重要なものとして扱い、特にこの日のようなコンディションでは積極的に水分を取っている。また蜂蜜についても強く好意的な反応を見せている。

一方、エナジードリンクは避ける方向に分類し、現在のツアーでは基本的にカフェインを控えるようにしていると説明する。コーヒーについても、乳製品など他のものにつながりやすいことを理由に否定的に扱っている。

ただし、このコーナーにはGrimefeld自身のかなり強いジョークも含まれている。

例えば喫煙について「スクリームを始めた頃から吸っている」と話して肯定側へ置いたり、アルコールについても冗談を交えたりしている。本人も最後には「自分はきちんと健康管理しているわけではない」と笑っており、このゲームでの分類を医学的なボーカルケアの推奨として受け取るべきものではない。

むしろ、インタビュー全体を通じて実際に一貫しているのは、休息、水分補給、声を使いすぎないこと、そして本番へ向けて一日を通してコンディションを整えることだった。

 

Thy Art Is Murder加入は「新しい章の始まり」

インタビュー終盤では、Thy Art Is Murderのボーカリストとして現在の自分に満足しているのかと尋ねられる。

Grimefeldの答えは「まだ自分がなりたいところには到達していない」というものだった。

現在はヨーロッパで巨大なフェスティバルへ出演しているものの、アメリカをはじめ、まだ経験していない地域のステージにも立ちたい。さらにライブの回数を重ね、自分自身で把握できていない部分を理解していく必要があると考えている。

今回の活動は、これまで経験したことのない長さのセットを連日演奏し、これまでで最も多くの観客と接し、最も忙しいスケジュールを経験するものでもある。メディアのインタビューについても、これまでほとんど経験がなかったという。

つまりGrimefeldにとって現在は、完成されたボーカリストとしてThy Art Is Murderへ加入したというより、これまで積み重ねてきた18年間の経験を、突然世界規模の環境で試している段階でもある。

 

ハイトーン、ガテラル、そして「走り回りながら歌う」という課題

具体的なボーカル面では、今回のツアーへ向けてハイトーンのスクリームをかなり練習してきたという。

インタビュー当日には新曲を披露する予定もあり、その楽曲ではハイのボーカルを多く使用していることを明かしている。

同時に、自身のガテラルや、より極端な発声についても現在進化させている段階だという。

しかし、彼が現在最も難しいと感じているのは単純な発声技術だけではない。

Thy Art Is Murderの曲には非常に多くの歌詞があり、長時間にわたってボーカルを出し続ける必要がある。その一方でGrimefeld自身は、ステージ上を全力で走り回り、ウォーターガンを持って観客へ突っ込み、思いついたことを次々と実行するタイプのフロントマンだ。

そこで必要になるのが、パフォーマーとして自由に暴れ回ることと、「自分には歌うという仕事がある」ことのバランスだという。

新しい環境で自分らしさを消すのではなく、そのエネルギーを維持したまま、Thy Art Is Murderの要求する高いレベルのボーカルを毎晩安定して届ける。それが現在のGrimefeldにとって大きな課題になっているようだ。

 

Thy Art Is Murderの新時代を担うJerry Grimefeld

Jerry Grimefeldは、突然何万人もの観客の前へ現れた「謎の新ボーカリスト」のように見える。

しかし、その背景をたどれば、11歳頃から約18年間スクリームを続け、15歳からバンド活動を経験し、Honest CrooksやVengeanceでオーストラリアのヘヴィ・ミュージック・シーンを歩いてきた人物だ。同時にラッパーとしてのバックグラウンドを持っていることも、従来のThy Art Is Murderのボーカリストとは異なる要素になる可能性がある。

2026年7月にThy Art Is Murderの新ボーカリストとして姿を現した時点では、その正体すら多くのファンに知られていなかった。しかし8月には、Grimefeldが正式にバンドの新たなフロントマンであることが確認されている。

2,000人規模だった自身のライブ経験から、一気に数万人規模のフェスティバルへ。そこでは過酷なツアー環境に耐えながら、長時間のセットを連日歌い、新しい楽曲にも対応しなければならない。

本人もまだ完成したとは考えていない。

むしろ「世界を一周するくらい走らなければ、自分が行きたい場所には到達しない」という感覚で、これから経験を積もうとしている。

客席へウォーターガンを撃ちながらステージを走り回る自由さと、18年間積み上げてきたエクストリーム・ボーカル。その両方をThy Art Is Murderの新しい音楽へどう結び付けていくのか。

「Jerry Grimefeldって一体誰なんだ?」

現在はまだ、その問いに対する答えそのものを本人が作り始めたばかりなのかもしれない。

参照元動画

「Who the F**k Is Jerry Grimefeld!? Interview With the New Thy Art Is Murder Vocalist」

Turnstileはどのように始まったのか? Brendan Yatesが語る音楽との出会い、家族、Trapped Under Ice、そしてバンドという共同体

世界的な成功を収める現在のTurnstileからは想像しにくいかもしれないが、その始まりには、両親の家の地下室、子供の頃にもらったドラムセット、MySpaceを通じて決まった小さなライブ、そして父親が運転するバンで機材を運んだ日々があった。

TurnstileのBrendan YatesがIdentifiedのインタビューに登場し、自身の家族、幼少期に音楽へ興味を持ったきっかけ、初めて組んだバンド、Trapped Under Iceで経験したツアー、そしてTurnstileの初期について振り返っている。

インタビューの大きなテーマになっているのは「家族」だ。血のつながった家族から受けた影響だけでなく、長い時間をともに過ごすバンドもまた、Brendanにとって家族に近い存在だという。彼はバンドについて「5人で築く親密な関係」のようなものだと表現し、ツアー、成功、失敗、喪失まで共有する特殊な共同体について語っている。

 

音楽に囲まれて育ったBrendan Yates

Brendan Yatesには、姉、兄、妹の3人のきょうだいがいる。その中でも音楽との出会いに大きな影響を与えた人物の一人が姉だった。

Brendanが幼かった1990年代初頭、姉はミックステープを作ってくれたり、ボルチモア周辺のスケーターやバンドで活動する人々とBrendanをつないだりしていた。当時Brendan自身もスケートボードに夢中になっており、姉を通じて音楽と地元のカルチャーへ自然に触れていったという。

両親も家庭で音楽を流していたが、さらに直接的な音楽体験を与えたのが母方の祖父だった。祖父はピアノを弾き、多くのジャズ・レコードを所有していた。幼いBrendanは祖父の家に行くとピアノを叩いて遊びたがり、祖父がきちんと弾き方を見せようとしても、まだ子供だった彼は自由に音を鳴らすことの方に夢中だった。後に祖父のジャズ・レコード・コレクションはBrendanへ譲られている。振り返れば、祖父との時間は彼にとって誰かから音楽を教えてもらった最初期の経験の一つだったという。

ただし、Brendanが最初に本格的に夢中になった楽器はピアノではなくドラムだった。

 

10歳頃にもらったドラムセットがすべての始まりに

8歳か9歳頃にはすでにドラムへの強い興味を持ち、自分のドラムセットを欲しがるようになった。両親は、本当に続けるのかを確認するため、最初から本格的なセットを買い与えることには慎重だったという。その後、父親の親友が楽器店で働いていたこともあり、10歳頃に念願のドラムセットを手に入れる。

Brendanにとって、それは非常に大きな出来事だった。自分だけの楽器を手に入れ、好きなだけ向き合えるようになったからだ。クリスマスにもらったドラムセットを地下室に設置すると、その日の夜から何時間も演奏を続けた。あまりの音量に両親から休むよう言われたときには、世界が終わるような気持ちになったほど夢中だったという。その地下室は、やがてBrendanの音楽人生における重要な場所になっていく。

近所の友人たちとバンドを組むようになると、ギターアンプなどを持ち込み、地下室で練習を繰り返した。両親は大きな音にも耐えながら、友人たちが集まってバンドを練習できる場所を提供し続けた。Brendanは大人になった現在になって、それがどれほど大きな支援だったのかを実感しているという。

 

父親のバンで向かった、小さなライブ

家族のサポートは練習場所だけではなかった。

Brendanが地元でバンド活動を始めると、父親は彼らをライブへ連れていく役割も担った。観客がわずか2人しかいないようなペンシルベニアでの小さな公演にも、父親はバンへドラム、アンプ、その他の機材を積み込み、メンバー全員を乗せて会場まで運転した。

ライブが終われば再び機材を積み、家まで連れて帰る。

当時のBrendanたちには、本格的なツアーの仕組みも、ブッキングについての知識もなかった。MySpaceなどを通じて「このライブに出ないか」と連絡が届けば、それを両親に伝え、父親に会場まで連れていってもらう。そのような形で少しずつライブ活動の範囲を広げていった。

楽器を買い与えるだけでなく、時間を使い、機材を運び、遠くのライブまで送り届ける。Brendanの初期の音楽活動が続いた背景には、家族による非常に大きな支えがあった。

そして、その地下室は後にTurnstileの歴史にも直接つながっていく。

 

Turnstile初期の7インチも両親の地下室で録音

Brendanによれば、Turnstile初期の7インチ作品のいくつかは、彼が子供の頃からドラムを叩いていた両親の家の地下室でレコーディングされた。近所に住んでいた友人が録音方法を覚え、機材を地下室へ持ち込んで、自分たちで試行錯誤しながら作品を作っていったという。

現在のTurnstileは巨大なフェスティバルや会場に出演するバンドとなったが、その音楽の初期段階には、大きなスタジオや充実した制作環境があったわけではない。子供の頃から使っていた地下室に仲間が集まり、手元にある機材を利用して自分たちで録音するところから始まっていた。

Brendanが幼い頃から自由にドラムを演奏できた場所が、そのままTurnstile初期の作品を生み出す場所にもなったことになる。

 

Trapped Under Iceで初めて本格的なツアーを経験

Turnstile以前、BrendanはTrapped Under Iceでドラムを担当していた。

彼にとってTrapped Under Iceは、初めて本格的なツアーを経験したバンドだった。学校を途中で離れ、本格的にバンド活動へ踏み出すことになったのもこの時期だったという。

メンバーは友人であると同時に、Brendanより少し年上で、彼がライブへ通い始めた頃から憧れていた存在でもあった。その仲間たちがBrendanをバンドへ迎え、世界各地のツアーへ連れ出していった。

それまでのBrendanにとって「ツアー」といえば、父親の車で近隣の州へライブをしに行ったり、自分たちが運転免許を取得してから東海岸を移動したりする程度だった。地元ではコミュニティセンターやVFWホールなどでライブを行っていたが、Trapped Under Iceへの加入によって、その世界は一気に広がった。

自分が育った地域の外へ出て、世界各地を巡る。Brendanは、それによって人生そのものに対する見え方が変わったと振り返っている。

その経験を経て、2010年末頃にTurnstileが始動。最初のライブは2011年頃だったとBrendanは語っている。

 

「バンドは5人で築く親密な関係のようなもの」

インタビュー後半では、長期間バンドを続けることそのものについて話が広がっていく。

Brendanは「バンドには家族的な要素があるか」と尋ねられると強く同意し、バンドに所属することを「5人で築くロマンティックで親密な関係のようなもの」と表現している。

一般的な仕事とは違い、バンドメンバーは勤務時間だけ一緒にいるわけではない。ライブが終わっても同じバンへ乗り込み、長距離を移動し、同じ場所で眠り、翌日にはまた同じステージへ向かう。

特に活動初期には経済的な余裕もない。Turnstileがツアーを始めた頃もホテルを取ることはほとんどなく、一晩中運転するか、ライブ関係者や友人の家に泊まり、床で眠るような生活を続けていた。ホテルへ泊まれるようになってからも、一部屋だけを取り、メンバーが怪しまれないよう別々に入室し、全員で眠ることもあったという。

一人になれる時間はほとんどない。Brendanは冗談を交えながら、トイレにいるときですら他のメンバーが歯を磨くために入ってくるような生活だったと話している。

だからこそ、バンドでは自分自身よりも集団全体を優先しなければならない瞬間が生まれる。

 

バンドを続けるためには「犠牲」と「努力」が必要

長時間をともに過ごせば、関係が完璧になるわけではない。

むしろBrendanは、バンドの人間関係は「常に不完全」だと考えている。性格も状況も異なる人間が一つの共同体として活動する以上、関係を維持するためには仕事が必要であり、時には犠牲も必要になる。

必ず誰かが間違える。コミュニケーションがうまくいかないこともある。

重要なのは、問題を完全になくすことではなく、その関係を維持しようとする努力を続けることだという。誰かがコミュニケーションを失敗すること自体は避けられなくても、「理解しようとする努力」そのものを放棄した瞬間に関係は崩れ始める。

その感覚は、Brendanにとって血のつながった家族にも近い。

長期間連絡を取らなかったとしても、家族には簡単には消えないつながりがある。バンドも、長い時間や特殊な経験を共有することで、それに似た結びつきを持つようになると考えている。

 

成功だけでなく、喪失も一緒に経験する

30代になったBrendanは、年齢を重ねるにつれて人生の脆さを実感する場面が増えたという。

友人や家族を失うこと。死だけではなく、人生の変化によって大切だった人物と離れていくこと。それらを一人だけで処理するのは非常に難しい。そこで重要になるのが家族やコミュニティの存在だとBrendanは話す。

長く活動してきたバンドでは、成功やツアーだけを共有するわけではない。それぞれのメンバーが個人的な問題を抱えながら、ときにはバンド全体として問題に直面し、誰かの悲しみや喪失を全員で経験することもある。

メンバーは一つのチームでありながら、それぞれが独立した一人の人間でもある。その複雑な関係を維持するには、やはりコミュニケーションを続ける必要がある。

Brendanは、自分が現在存在している人間関係に感謝していると話す一方で、過去にはうまく機能しない人間関係も多く見てきたという。その経験があるからこそ、家族でもバンドでも友情でも、完璧さではなく「関係を維持しようとする意志」が重要なのだと考えている。

 

Brendan Yatesにとって「家族」とは何か

インタビューの最後に「あなたにとって家族とは何か」と尋ねられたBrendanは、自分を無理に演出する必要のない場所だと答えている。

何も話さず、完全な沈黙の中にいてもいい。誰かに見せるための自分を作らず、そのままの状態で存在できる。そして、それでも歓迎され、理解されていると感じられる場所。

10代の頃、コミュニケーションが難しく、世界の重さを強く感じていた時期でも、家族の集まりへ行けば何も話さずにそこにいることができた。機嫌が悪くても、誰かが大騒ぎするわけではなく、自然に食事が用意され、そこに存在することを許されていた。

Brendanにとって家族とは、そのような安心できる場所であると同時に、一方的に受け入れてもらうだけの関係でもない。自分も相手のためにそこにいる必要があり、時には自分のことを優先せず、難しい状況でも支える必要がある。

そして家族は、必ずしも血縁によって決まるものでもない。

出会ってわずか数日で、生涯続くような強い結びつきを感じる人物もいる。一方、永遠にそばにいると思っていた人物と、人生の流れによって離れていくこともある。

時間の長さだけで親密さが決まるわけではない。

それでも人生の周囲には、自分が安心して戻ることのできる「ホームベース」のような人々が存在する。間違えることを恐れず、自分の気持ちを話すことができ、そのままの自分でいることを許される場所。それがBrendan Yatesにとっての「家族」なのだという。

 

Turnstileの原点にあったもの

このインタビューから見えてくるTurnstileの原点は、一つの劇的な出来事ではない。

姉から渡されたミックステープ。祖父のピアノとジャズ・レコード。10歳頃にもらったドラムセット。友人たちと音を鳴らした地下室。観客がほとんどいないライブにも機材を積んで連れていってくれた父親。MySpaceを通じて届いたライブの誘い。そしてTrapped Under Iceで経験した初めての本格的なツアー。

そうした小さな経験が積み重なった先にTurnstileがある。

特に象徴的なのは、Turnstile初期の作品が、Brendanが子供の頃から音楽を続けてきた両親の家の地下室で録音されていたことだろう。

現在の規模だけを見れば、Turnstileは現代のロック/ハードコアを代表する世界的なバンドの一つとして映る。しかし、その根底にあるのは、仲間と集まり、自分たちで音を出し、自分たちで録音し、ライブのできる場所を探して動き続けたDIYな音楽体験だった。

そしてBrendanが長いバンド生活を経て語る「家族」という考え方も、その原点と無関係ではない。

バンドは完璧な関係ではない。長く続けるためには犠牲も必要であり、誰かが間違え、コミュニケーションが失敗することもある。それでも、互いに関係を維持しようとする。

Turnstileの始まりを振り返るこのインタビューは、バンドがどのように結成されたのかという歴史だけでなく、Brendan Yatesという人物が音楽を続けてきた背景にある家族、コミュニティ、そして人とのつながりまでを映し出している。

 

参照元動画

「Turnstile’s Brendan Yates on the Origins of the Band」

For Todayはなぜ特別だったのか? MySpace時代からメインストリームへ駆け上がったクリスチャン・メタルコアの軌跡

2000年代後半から2010年代前半にかけて、メタルコアが急速に拡大していった時代。その中でもFor Todayは、極めて明確な個性を持ったバンドだった。激しいブレイクダウン、メロディックなギター、感情的なパート、強烈なボーカル。そして何より、彼らは自らのキリスト教信仰を隠すことなく、音楽とライブの中心に据えていた。

YouTubeに公開された「How FOR TODAY changed metalcore forever (Myspace to Mainstream)」では、For TodayがどのようにMySpace時代から人気を拡大し、メタルコア・シーンを代表する存在の一つへ成長していったのか、その歴史を振り返っている。

キリスト教を前面に掲げたメタルバンドという存在に抵抗を感じるリスナーも少なくなかった。しかし、動画ではFor Todayについて、メッセージへの賛否を超えて「音楽そのものが素晴らしかった」ことこそが成功を支えた大きな理由だったと捉えている。

 

2005年に始まったFor Todayと転機となったMattie Montgomery加入

Mattie Montgomery

For Todayの始まりは2005年まで遡る。後に広く知られることになる姿とはまだ異なっていたものの、初期EP『Your Moment, Your Life, Your Time』を発表し、この作品をきっかけにFacedown Recordsとの契約へとつながった。当時のクリスチャン・メタルコアで広がっていたパニックコード、メロディックなリフ、荒々しいプロダクションなどを備えた作品であり、動画では当時のシーンを象徴するようなサウンドだったと振り返っている。

その後、バンドにとって大きな転機となったのがMattie Montgomeryの加入だった。以前Besiegedで活動していたMontgomeryは、強烈なボーカルとステージ上での存在感を持ち、For Todayの方向性を決定付ける重要人物となる。

For Todayにとってキリスト教は、当時人気を集めていた「クリスチャン・メタル」という流れに便乗するためのイメージではなかった。少なくとも動画では、メンバーたちは本心から信仰を持っており、それを音楽を通じて伝えようとしていたバンドだったと説明されている。

ライブで信仰について長く語るスタイルは、すべての観客に歓迎されたわけではない。しかし一方で、クリスチャンのメタルファンにとって、激しいライブやモッシュと、自分たちの信仰についてのメッセージが同じ場所に存在することは特別な体験でもあった。そして、その強いメッセージを成立させていたのが音楽そのものの説得力だった。

 

『Ekklesia』から『Portraits』へ、MySpace時代に爆発した人気

For Todayの初期を象徴する作品の一つとして動画で取り上げられるのが『Ekklesia』だ。強烈なブレイクダウン、メロディックなリフ、ブルータルなボーカル、そして感情的なパートを組み合わせたサウンドは、当時のメタルコアの空気と強く結び付いていた。動画では、彼らのブレイクダウンだけを集めたコンピレーション動画がYouTube上で作られるほど、その強烈さがファンに支持されていたことにも触れている。

しかし、For Todayがさらに大きな存在となったのは、その後の『Portraits』だった。動画によれば、この頃にはMySpace上で人気が大きく広がり、バンドの知名度は急上昇していた。『Portraits』はチャートでも結果を残し、Top Heatseekersで14位、Top Independent Albumsで40位を記録したと紹介されている。

興味深いのは、信仰が常に歌詞やライブの中心にありながら、For Todayがクリスチャンだけに支持されるバンドにはならなかったことだ。非クリスチャンのバンドとも数多く共演しており、宗教的なメッセージがこれほど強ければ、より広いメタルコア・シーンから拒絶される可能性もあった。

それでも支持された理由について、動画では独特なメロディ、楽曲に込められた感情、演奏のテクニカルさ、ボーカル、そしてブレイクダウンを挙げている。メッセージへの賛否とは別に、それを伝える音楽の強度が十分に高かったということだ。

For Todayは、信仰を穏やかに語るのではなく、メタルコアの攻撃性そのものを使って表現した。その結果、キリスト教的なテーマとヘヴィな音楽が対立するのではなく、「信仰のために戦う」というバンド独自のイメージとして結び付いていった。

 

Will Putneyと作り上げた『Breaker』、より重く攻撃的なサウンドへ

3枚目のスタジオアルバム『Breaker』では、For Todayのサウンドにさらなる変化が起きる。制作にWill Putneyが加わったことで、動画ではバンドが以前よりもさらにヘヴィで攻撃的なサウンドへ進化したと評価している。

重要なのは、単純に音圧が増しただけではなかったことだ。従来のFor Todayが持っていたメロディ、ブレイクダウン、力強いボーカルといった特徴を残しながら、それらをより強力なプロダクションで表現することに成功した。ギャング・チャントもサウンドに加わり、ライブで観客と一体になるFor Todayのスタイルとも強く結び付いていった。この頃には、バンド自身も「For Todayとは何なのか」を明確に理解していたと動画では分析している。彼らの目的は、単にクリスチャン・バンドとして活動することではなく、自らの信仰を積極的に伝えることだった。

ライブでMattie Montgomeryが語る言葉もその姿勢を象徴していた。パンク、ハードコア、ゴスなど、それまで伝統的な宗教から距離を感じていたような若者たちに対しても、自分たちの信仰を誇り、恐れずに生きることを訴えていた。

音楽とメッセージが完全に一体化したことが、For Todayを他のメタルコア・バンドとは異なる存在にしていった。

 

『Immortal』でキャリア最大級の成功へ

For Todayのキャリアにおいて大きな成功を収めた作品として、動画で重要視されているのが『Immortal』だ。

同作はBillboard 200で15位を記録し、初週で約15,000枚を売り上げ、Hard Rock AlbumsとTop Christian Albumsでは1位を記録したと紹介されている。動画では、これまでのFor Todayが築いてきた音楽性に、より現代的で聴きやすいアプローチを加えたことが成功につながったと分析している。

ヘヴィさを失わず、よりキャッチーで記憶に残る楽曲へ進化しながらも、バンドのメッセージ自体は変わらなかった。むしろ、より大きな聴衆へ届くようになったことで、そのメッセージの影響力も強くなっていった。

動画の制作者であるYan自身、初期作品への強い思い入れを語りながらも、『Immortal』の時期こそFor Todayがバンドとして最も完成された状態だった可能性があると評価している。一方、成功の裏側では大きな問題も発生した。

 

ギタリストの発言をめぐる批判とバンドの対応

『Immortal』期には、ギタリストMike ReynoldsによるTwitter上での同性愛者に関する発言が大きな批判を呼んだ。動画では、彼の発言が多くの人を傷つけ、オンライン上で大きな問題へ発展した経緯についても触れている (https://loudwire.com/for-today-guitarist-mike-reynolds-leaves-band-firestorm-anti-gay-comments/)。

この部分について動画の制作者Yanは、宗教的な立場そのものを論じることよりも、自分の信念を理由に他人の存在そのものを傷つけるようになれば、反発が起きるのは当然ではないかという見方を示している。

同時に、問題発生後にFor Today側が取った対応についても紹介している。バンドはオンライン上で謝罪し、ファンに対してその人自身を愛しているというメッセージを発信した。Mattie Montgomeryも当時この問題について動画を公開し、話をしたい人のために自身の電話番号まで公開したという。

その後、Reynoldsはバンドを離れ、新たなメンバーが加入。Sam PennerとDavid Puckettを迎えた新体制へ移行し、レーベルもRazor & Tie Recordsへと移った。2013年には新曲や「Fearless」のアコースティック版などを収めたEP『Prevailer』を発表し、大きな騒動を経験しながらもバンドは活動の勢いを維持していった。

 

「Break the Cycle」と『Fight the Silence』で再び頂点へ

その後のFor Todayを代表する楽曲となったのが「Break the Cycle」だった。動画では現在まで続く彼ら最大級の楽曲として取り上げられ、印象的なビデオ、コールアウト、ブレイクダウン、ゲストボーカルなど、For Todayの魅力が凝縮された曲として評価されている。

同曲を収録した『Fight the Silence』も、バンドのソングライティングがさらに進化した作品として紹介されている。チャートやセールスでも結果を残し、レビューでも高い評価を受けたと動画では振り返る。Yan自身が2014年にFor Todayのライブを観た経験も語っており、当時は「世界の頂点にいるように感じた」と表現するほど、バンドに大きな勢いがあったという。

初期のMySpace世代からスタートしたFor Todayは、この時点で一部のクリスチャン・メタルコア・ファンだけが知る存在ではなく、2010年代のメタルコアを代表するバンドの一つへと成長していた。しかし、大きな成功を手にしたバンドほど、その勢いを維持することは難しい。

 

『Wake』と突然発表された解散

『Fight the Silence』に続いて発表された『Wake』について、Yanは決して悪いアルバムではないと評価している。一方で、『Immortal』や『Fight the Silence』ほど強いインパクトを持った作品ではなく、多くのファンも以前と同じようには反応しなかったと振り返っている。動画では、過去2作で確立されたサウンドと比べると少し抑えられた印象があり、「For Todayが『Immortal』や『Fight the Silence』の音楽性を見つける前に作っていそうなアルバム」という個人的な感想も語られている。

それでもバンドはライブ活動を続けており、すぐに終わりが訪れるようには見えなかった。しかし2016年、For Todayは突然解散を発表する。動画によれば、バンドはメンバー間のトラブルによる解散ではないと説明しており、それぞれが人生の次の段階へ進み、家族や別のプロジェクトへ集中するための決断だった。

For Todayがいなくなったことについて、Yanは今でも「ほろ苦い」と表現している。それほどまでに当時のメタルコア・シーンで強烈な存在感を持ったバンドだったということだ。

 

For Todayはなぜ特別だったのか

For Todayの歴史を振り返ると、その成功を単純に「クリスチャン・メタルコアが人気だった時代のバンド」と説明することは難しい。むしろ動画で繰り返し語られているのは、流行だけで人気になったバンドではなかったという点だ。

ブレイクダウン、独特なメロディ、ブルータルなボーカル、感情的なパート、ギャング・チャント、そして時代とともに進化したプロダクション。それらを高いレベルで組み合わせた音楽があり、その上に一貫した信仰のメッセージが存在した。

そのメッセージは時に強烈で、ライブでの説教を嫌う人もいた。バンドを取り巻く発言が大きな批判を生んだこともあった。それでも、宗教的な部分に共感しないリスナーまで彼らの音楽を聴いていたという事実は、For Todayの楽曲そのものが持っていた力を示している。

MySpaceを中心にバンドが発見されていた時代から、Billboard 200上位へ作品を送り込むところまで成長したFor Today。その軌跡は、2000年代後半から2010年代にかけてメタルコアそのものが急速に大きくなっていった時代とも重なっている。

そして解散から年月が経った現在でも彼らについて振り返る動画が作られ、当時を知るファンが思い出を語り続けていること自体が、For Todayがあの時代のメタルコアに残した存在感の大きさを表しているのかもしれない。

 

参照元動画

「How FOR TODAY changed metalcore forever (Myspace to Mainstream)」
https://www.youtube.com/watch?v=8cZtQ3jJVh4

Slaughter To PrevailのAlex Terrible「人々は本当の僕を知らない」― Bloodstockで語った成功、デスコアの進化、そして人生観

現在のエクストリーム・メタルを代表する存在の一つへと成長したSlaughter To Prevail。そのフロントマンAlex Terribleが、イギリスのBloodstock Open Air 2026でBloodstock TVのインタビューに登場し、バンドの急速な成長、現代のデスコア・シーン、自身に対して世間が抱いているイメージ、そして人生そのものについて語った。

Slaughter To Prevailは8月8日、Bloodstock Open Airの25周年を記念する2026年大会でRonnie James Dio Stageのヘッドライナーを担当。Lamb Of God、Judas Priest、Saxonとともに同フェスティバルのヘッドライナーに名を連ねた。

インタビューでは、14歳頃からエクストリーム・ボーカルに取り組み、Oliver Sykes(Bring Me The Horizon)や故Mitch Lucker(Suicide Silence)に憧れていた少年時代から、巨大なフェスティバルのヘッドライナーを務める現在までを振り返る一方、「Demolisher」とLorna Shoreの「To the Hellfire」が現代のヘヴィ・ミュージックに変化をもたらしたという自負も明かしている。そして後半では、Alex Terribleという強烈なパブリックイメージの裏側にある、自身のアイデンティティや死生観についても踏み込んでいる。

 

「ロックスターになる」と信じていた14歳の少年

Bloodstockへの出演は今回が初めてであり、さらにイギリスのフェスティバルでヘッドライナーを務めることについてAlex Terribleは緊張していると話した。Slaughter To Prevailは以前Download Festivalにも出演しており、その際にも大きな観客から激しい反応を受けたが、今回はさらに上の立場でステージへ立つことになる。現在の状況についてAlexは、時折「マトリックスの中に生きているような感覚になる」と語っている。

彼がエクストリーム・ボーカルを始めたのは14歳頃。当時はBring Me The HorizonのOliver SykesやSuicide SilenceのMitch Luckerを見て、彼らのスタイルや生き方そのものに憧れていた。14~15歳頃には手首や指など目立つ場所にもタトゥーを入れ始め、母親から「普通の仕事に就けなくなる」と怒られたという。

しかしAlexは、その時点ですでに「普通の仕事には就かない。ロックスターになりたいし、ロックスターになる」と強く信じていた。

そして現在、かつて憧れていた世界の中心に自分自身が立っている。その現実が本人にとっても信じられないほど大きな変化であることが、インタビューから伝わってくる。

 

「Demolisher」と「To the Hellfire」がゲームを変えた

インタビュアーは、現在のヘヴィ/エクストリーム・ミュージックでは世代交代が進み、新しいバンドがより大きな観客を獲得するようになっていると指摘。その中でもSlaughter To Prevailは、新世代を象徴する重要なバンドの一つではないかと質問している。

これに対するAlexの答えは明確だった。

彼は、Slaughter To Prevailが「Demolisher」を発表し、Lorna Shoreが「To the Hellfire」を発表したことで「ゲームを変えた」と考えている。そして自分自身やLorna ShoreのWill Ramosをはじめ、現在エクストリーム・ボーカルを追求している新世代のボーカリストたちが、ジャンルへ新たなリスナーを呼び込んでいるという。

AlexはSuicide Silence、Whitechapel、Carnifexといった先人への敬意も強調している。自身も彼らを聴いて育った一人であり、伝説的なバンドだと認識している。そのうえで、現在のSlaughter To Prevailが販売できるチケット数や集めている観客の規模を考えれば、新世代がエクストリーム・ミュージックの市場そのものを広げることに貢献していると考えている。

2020年に公開された「Demolisher」は、Slaughter To Prevailの人気を大きく押し上げた重要曲として知られ、その後バンドは世界的な規模へと成長していった。さまざまな雑誌、メディアも2025年のアルバム『Grizzly』発売時、Slaughter To Prevailが100万を大きく超えるSpotify月間リスナーを獲得し、大型会場やフェスティバルで大規模な観客を集める存在になったことを紹介している。

Alexの見方では、ヘヴィ・ミュージックの人気には大きな周期がある。80年代や90年代にはメタルが巨大な存在だった。その後、音楽の中心がヒップホップなどへ移っていった時期を経て、現在は再び新世代のヘヴィ・ミュージックが急速に成長している。

そしてSlaughter To Prevailが目指しているのは、これまでアンダーグラウンドに存在していたエクストリームな音楽を、より大きなオーディエンスへ届けることだという。

 

Slaughter To Prevailは「デスコア」という枠を超え始めているのか

Slaughter To Prevailの人気が拡大するにつれて、「デスコア」というジャンル名だけでは彼らを説明しきれなくなっているのではないか、という質問も投げかけられた。しかしAlex本人は、そもそも自分自身を特定のジャンルに属する人間として考えたことがないという。

デスコア、デスメタル、あるいは別の名前で呼ばれても構わない。重要なのは、自分が好きな音楽を作ることだと話している。必要だと思えばクリーンボーカルを曲へ導入することにも抵抗はなく、ジャンルの境界線によって自分たちの表現を制限するつもりはない。

もちろん、結果的に自分自身がデスコア・カルチャーの一員であることは認めている。しかし「このジャンルだから、こうしなければならない」という発想ではなく、音楽的にやりたいことが変われば、それに合わせてSlaughter To Prevailも変化していく。

実際、最新アルバム『Grizzly』では従来の圧倒的なヘヴィネスを軸としながら、楽曲によって異なるアプローチも取り入れている。多くのメディアは同作について、Slaughter To Prevailが現代のヘヴィ・ミュージックを代表する存在へ成長した作品として紹介している。ジャンルの伝統を引き継ぎながら、その境界線には縛られない。この考え方も、Slaughter To Prevailが従来のデスコアより広いリスナー層へ届き始めている理由の一つなのかもしれない。

 

Alex Terribleという人物を「人々は知らない」

インタビューはここから、バンドではなくAlex Terrible個人へと話題を移していく。

強烈な低音ボーカル、全身のタトゥー、マスク、格闘技、SNSで見せる豪快な姿など、Alex Terribleは現在のメタルシーンでも非常に認知度の高い人物となっている。そのため、多くの人はSNSやステージでの姿を通じて、Alex Terribleという人間をすでに知っているように感じている。

「世間があなたについて最も誤解していることは何か」という質問に対して、Alexは「彼らは僕を知らない。個人的な僕のことを知らない」と答えている。彼自身、Alex Terribleという「キャラクター」を演じている部分があることも認めている。

ただし、それが完全な偽物という意味ではない。Instagramで見せるAlexも自分自身ではあり、そのキャラクターを楽しんでいる。しかし、それを自分という人間のすべてだとは考えていない。そこからAlexは、さらに深いアイデンティティの話へ進んでいく。

自分は夫としての役割を演じ、父親としての役割を演じ、息子としての役割を演じ、ステージではAlexとしての役割を演じている。しかし、それらすべてを取り除いたときに「本当の自分とは誰なのか」については、自分自身でもまだ分からないという。知名度の高いミュージシャンとして作られたイメージと、その人物の内面は必ずしも同じではない。Alex Terribleという強烈なキャラクターの裏で、本人もまた自分自身が何者なのかを探し続けていることが明かされた場面だった。

 

名声も金も音楽も、いつか終わる

Alexが現在重要視しているのは、名声そのものではない。インタビューでは、名声、金、音楽、家族、国、価値観など、人間が人生の中で重要だと思っているものも、最終的には永遠には続かないという自身の考えを語っている。

人間はいずれ死ぬ。その事実を前提として、自分の精神、意志、考え方を鍛え、「自分は何者なのか」「何のために生きているのか」を理解しようとしているという。

この考え方は、Slaughter To Prevailの近年の作品にも通じる部分がある。2026年に公開された「Koschei」のミュージックビデオについてAlexは、肉体が消滅したあとにも残る魂や精神、本質とは何なのかというテーマを説明していた。物質的なものに執着しても、それを死後へ持っていくことはできないという考えも語っている。ステージ上では圧倒的な力を誇示するAlex Terribleだが、今回のインタビューでは、その裏側で死や自己の存在について考え続けている一面が強く表れている。

 

Bloodstockのヘッドラインも「まだ始まりにすぎない」

25周年を迎えたBloodstockでヘッドライナーを務めることは、Slaughter To Prevailにとってキャリア上の大きな到達点である。Bloodstock公式でも、2026年8月8日にSlaughter To PrevailがRonnie James Dio Stageへ出演することが発表され、同年の主要ヘッドライナーの一組として位置付けられている。しかし、この巨大な舞台を「マイルストーンだと感じるか」と聞かれたAlexは、「これはただの始まりだと思っている」と答えた。

彼の人生哲学では、大型フェスティバルで演奏することと、家で汚れた服を洗うことの間に、根本的な違いはないという。ステージに立つときも、家族と過ごすときも、飛行機で偶然隣り合わせた知らない人物と話すときも、「これが人生で最後になるかもしれない」と考えて、その瞬間にできることを最大限にやりたい。いつ死ぬかは分からない。だから、どの瞬間も可能な限り完全な形で生きたい。

インタビュアーが「Carpe Diem(今を生きる)のような考え方か」と尋ねると、Alexは「Exactly」と答えている。14歳の頃に「ロックスターになる」と信じてタトゥーを入れ始めた少年は、やがて世界最大級のエクストリーム・メタル・バンドのフロントマンとなり、イギリスを代表する独立系メタルフェスティバルのヘッドライナーへ辿り着いた。それでも本人にとって、そこはゴールではない。

Slaughter To Prevailが現在のデスコアやエクストリーム・メタルをどこまで大きな場所へ連れていくことができるのか。そして、ジャンルの枠そのものを越えてどこまで成長していくのか。Alex Terribleにとって、現在の成功もまだ「始まり」にすぎないようだ。

参照元

Bloodstock TV「💀 ALEX TERRIBLE GETS REAL “PEOPLE DON’T KNOW ME” | BLOODSTOCK 💀」
https://www.youtube.com/watch?v=Pu7-PIHerzY

AI音楽は本物のバンドからリスナーを奪っている? 現代メタルに広がる「AIアーティスト」の問題

生成AIの普及は、文章や画像だけでなく音楽の世界にも急速に広がっている。AIを利用して楽曲を制作し、Spotifyなどのストリーミングサービスへ作品を公開する「AIアーティスト」も珍しい存在ではなくなった。しかし、その存在が実際のミュージシャンと同じ場所で再生数やリスナーを獲得するようになったことで、新たな問題も生まれている。

YouTubeチャンネルMETALBIRBが公開した「This AI Slop Is RIPPING OFF Real Bands」では、モダンメタル/ロック周辺で人気を集めている複数のAI音楽プロジェクトを実際に聴きながら、その状況について強い批判を展開している。

動画の冒頭では、Holding AbsenceのLucas WoodlandやDayseekerのRory Rodriguezといった実在するアーティストもAI音楽の問題について発言していることが紹介される。特に、Holding Absenceから影響を受けたとみられるAI音楽が、すでにHolding Absence本人たちを上回る規模の月間リスナーを獲得しているという状況が取り上げられている。

 

モダンメタルにも入り込み始めたAIアーティスト

動画では、現在ストリーミングサービス上で一定規模の人気を獲得しているAIプロジェクトを実際に取り上げ、その楽曲を聴いていく。

最初に登場するのがBleeding Verseだ。プロフィールには「心からの歌詞、AI-assisted instrumentation and vocals」と記載されており、AIによって楽器やボーカルを制作していることを明らかにしている。動画収録時点で代表曲「If You Loved Me Then」はSpotifyで310万回以上再生されており、さらに短期間のうちにアルバム、EP、アコースティック版など複数の作品を公開していた。

METALBIRBが特に問題視したのは、単にAIで音楽を作っていることだけではない。YouTube上の楽曲説明欄に「#dayseeker」というハッシュタグが使用されていたことだ。

Dayseekerとは直接関係のないAIプロジェクトが、実在する人気バンドの名前を利用して検索や推薦からリスナーを獲得しているのであれば、それは単なる「影響を受けた音楽」の範囲を超えているのではないか。動画ではこの行為について、Dayseekerを助けているのではなく、その知名度に便乗して再生数を得ようとしていると強く批判している。

 

数百万再生を記録しながら、実体が見えないプロジェクト

動画で続いて紹介されるのがSerinxの「Love Like War」だ。動画収録時点でSpotifyでは150万回以上再生されていたという。

しかし、METALBIRBが確認した範囲では通常のバンドのようなSNSアカウントが見当たらず、YouTubeではコメント欄も閉鎖されていた。音楽自体はエレクトロニックなビートとメタルコア的なコーラス、ギターソロなどを組み合わせた構成になっており、現代的なモダンメタル/メタルコアの特徴を再現しようとしている。

METALBIRBは終始かなり辛辣な表現で楽曲を酷評しているものの、一部のギターソロについては「悪くなかった」と認める場面もある。その一方で、歌詞や曲展開にはAI生成音楽にありがちな不自然さを感じているようだ。

さらにBeyond Disdainの「Everything We Gave」では、Selene Calderという人物をフィーチャリングした作品が紹介される。しかし、その人物について独立したInstagramアカウントなどを確認できず、METALBIRBはアーティストそのものの実在性を疑問視している。

ここで浮かび上がるのは、これまで音楽ファンが当然のように想定してきた「アーティストとは何か」という問題でもある。プロフィール写真があり、アーティスト名があり、楽曲がSpotifyに並んでいれば、多くのリスナーはそこに人間のミュージシャンが存在すると考える。しかし生成AIの登場によって、その前提そのものが成立しなくなりつつある。

 

24万人の月間リスナーを持つ「バンド」

続いて登場するObsidian Swingは、動画収録時点でSpotifyに約24万人の月間リスナーを持っていた。

Spotify上にはバンド写真のような画像も掲載されている一方、METALBIRBが確認した範囲ではInstagramなどの通常のバンド活動を示すSNSが見当たらない。また、複数のアルバムやEPが公開されているものの、それらが短期間に集中してリリースされていたことにも疑問を投げかけている。

楽曲「Every Moment」を聴きながら、AI生成のモダンロック/メタルに共通していると感じる特徴についても触れている。電子的なビートが頻繁に使用され、ボーカルは常に大きく、感情的で、極端なまでに「壮大」な方向へ向かうという。

もちろん、それだけでAIによる楽曲だと判定できるわけではない。しかし現在増えている生成AIによるモダンメタルでは、既存の人気ジャンルで頻繁に使われる要素が強調され、組み合わせられることで、ある種の共通したサウンドが生まれていると動画では捉えている。

 

The Velvet Sundownが象徴するAI音楽の拡大

最後に取り上げられるのがThe Velvet Sundownだ。

The Velvet Sundownについては、AIによって制作された音楽プロジェクトとして広く認識されるようになった一方、動画では当初AIであることを否定していた時期もあったとして紹介される。

METALBIRBは「Dust on the Wind」を実際に再生し、他の作品と同様に非常に厳しい評価を下している。動画全体を通して評価基準そのものが「AIで制作された音楽を支持しない」という立場に立っているため、通常の音楽レビューというより、AIアーティストの急増に対する批判的なリアクション動画として見る方が近い。

動画の最後でも明確に「AIアーティストをサポートしないでほしい」「本物の音楽をサポートしてほしい」と視聴者へ呼びかけている。

 

問題は「AIで音楽を作ること」だけなのか

この動画で特に興味深いのは、単純な「AI音楽は良いか、悪いか」という話だけでは終わらない点だ。

例えばBleeding Verseのようなプロジェクトがプロフィール上でAIを使用していることを明示しているのであれば、少なくともリスナーはそれを理解したうえで聴くことができる。

一方で、通常のバンドと同じようなアーティスト写真やプロフィールを作り、実在する人物のようなフィーチャリング・アーティストを設定し、大量の楽曲を公開するプロジェクトが増えれば、リスナー側から人間のアーティストとAIプロジェクトを見分けることは次第に難しくなる。

さらに大きな問題になり得るのが、実在するバンドの名前を利用したマーケティングだ。

「Dayseeker風」「Holding Absence風」といった音楽をAIで大量に制作するだけでなく、そのバンド名をハッシュタグや検索キーワードとして利用し、本来そのバンドを探していたリスナーをAIプロジェクトへ誘導するのであれば、生成AIの使用そのものとは別の問題が生まれる。

実在するミュージシャンは、メンバーを集め、楽器を練習し、スタジオで楽曲を制作し、ライブを行いながら長い時間をかけてファンを築いてきた。一方、生成AIを利用すれば、そのジャンルの特徴を取り込んだ大量の楽曲を短期間で公開できるようになっている。ストリーミングサービス上では、その両方が同じ一曲として並ぶ。

 

AIは「シーン」そのものを再現できるのか

現在の生成AIが模倣しているのは、単純な音色だけではない。モダンメタルやメタルコアで広く使われてきた楽曲構成、エレクトロニックな要素、壮大なクリーンボーカル、ブレイクダウン、感情的な歌詞といった要素を組み合わせることで、そのジャンルらしい作品を作ることができる。

そして、それを聴く側が「それらしい音楽」を求めているだけであれば、作者が人間なのかAIなのかを気にしないリスナーも出てくるだろう。

実際、動画内ではAIプロジェクトの楽曲に対して「Spotifyで見つけてアルバム全体にハマった」「ライブ映像を見たい」といったコメントをするリスナーも紹介されている。少なくとも一部のユーザーは、それがAIによるプロジェクトだと認識せず、通常のバンドとして受け取っている可能性がある。

ここには、これから音楽ストリーミングが向き合うことになる大きな問題がある。

AI音楽そのものを禁止するのか。

AIを利用した作品には明確な表示を求めるのか。

人間のアーティストと同じ推薦アルゴリズムの中で扱うのか。

そして、既存アーティストのスタイルや名前を利用してリスナーを獲得する行為をどこまで許容するのか。

生成AIによる音楽が一部の実験的な存在ではなく、数百万回のストリーミングを記録する規模になり始めたことで、こうした問題は無視できなくなっている。

 

「本物の音楽をサポートしてほしい」

METALBIRBの結論は非常に明確だ。「AIアーティストを支持せず、人間が作っている音楽をサポートしてほしい」。

動画では終始ジョークや過激な言葉を交えながらAI楽曲を酷評しているため、AI音楽を客観的に比較・検証する内容ではない。最初から生成AIによる音楽に否定的な立場を明示したうえで制作された動画である。しかし、その背景にある問題は現実的だ。

実在するバンドから影響を受けたAI音楽が大量に作られ、その一部が数百万回再生される。そして場合によっては、影響源となった人間のバンドを上回る規模のリスナーを獲得する。音楽ストリーミングでは、人間が何年もかけて作り上げた作品と、生成AIによって短期間で大量制作された作品が、同じ推薦欄、同じプレイリスト、同じ検索結果の中でリスナーの時間を競う可能性がある。

生成AIによって「音楽を作ること」が急速に簡単になっていくなかで、これから問われるのは単にAI音楽のクオリティだけではないのかもしれない。

誰が作った音楽なのかをリスナーが知ることができるのか。そして、人間のアーティストが作り上げてきたシーンや知名度を利用してAIプロジェクトが成長することを、音楽サービスやリスナーはどこまで受け入れるのか。AI音楽がストリーミングサービス上で本格的に数字を持ち始めた現在、その問いはすでに未来の問題ではなくなりつつある。

参照元動画

「This AI Slop Is RIPPING OFF Real Bands」

メタルメディアはもう必要ない? ジャーナリズムが消えた先に待っているもの

メタルのニュースを知るために、今でも音楽メディアを読んでいるだろうか。かつて新しいバンドやアルバムを知るためには、音楽雑誌や専門サイトを読むことが当たり前だった。しかし現在では、SpotifyやYouTube、Instagram、TikTokなどを開けば、アーティスト自身から直接情報が届く。新しいバンドを探したければ、好きなYouTuberやインフルエンサーのおすすめを見ることもできる。

そんな時代に、音楽ジャーナリストはまだ必要なのだろうか。

YouTubeチャンネルHeavy Metal Philosophyが公開した「Do We Still Need Journalists In Metal?」では、近年相次いでいるメタル/ロック系メディアの人員削減を出発点に、音楽ジャーナリズムを取り巻く現在の状況について考察している。動画で語られているのは単なるメタルメディアの衰退ではない。ゲーム、スポーツ、格闘技、政治などを含め、従来型メディアそのものが縮小しているという、より大きな変化だ。

メタルメディアで相次ぐ大量解雇

動画では、BrooklynVegan、Alternative Press、Revolverなど、ロック、メタル、パンクを扱ってきたメディアで大規模な人員削減が起きたことから話が始まる。さらに、それ以前にもMetal Injection、MetalSucks、Blast Beat Networkなどで大量解雇が行われていた。こうした状況からHeavy Metal PhilosophyのJohn Barbisは、今回の出来事を一つの企業の経営判断や一時的な問題ではなく、メディア業界全体で起きている構造的な変化として捉えている。

同じ現象は音楽以外でも起きている。動画ではMMAを例に、かつて格闘技人気が高まった時代には多くの専門メディアがあり、格闘技について書くことで生活するジャーナリストも数多く存在していたが、現在ではその数が大きく減っていると説明する。その理由の一部にはメディア自身による質の低い報道もあるとしながら、それ以上に根本的な問題として「人々が以前ほど記事を読まなくなった」ことを挙げている。

音楽メディアも同じ問題を抱えている。有給のライターを雇い、オフィスやウェブサイトを維持するメディアにとって、記事は一定以上のアクセスを生み出さなければならない。読者が減少すれば、その仕組みそのものを維持することが難しくなる。

 

音楽メディアからインフルエンサーへ

従来型メディアに代わって存在感を強めているのが、YouTube、Podcast、Instagram、TikTokなどを通じて情報を発信する個人だ。

動画では再びMMAが例として挙げられている。現在では多くの格闘家が自分自身のPodcastを持っている。ファンの立場から考えれば、格闘技について知るために記者の記事を読むよりも、実際に戦っている選手本人から試合や業界の裏側について直接話を聞く方が魅力的に感じられるかもしれない。

音楽でも同じことが起きている。新しいアルバムが完成すれば、バンド自身がSNSで発表できる。レコーディングの様子もYouTubeで公開でき、ツアー日程もInstagramからファンへ直接届けられる。新しい音楽を探す場合も、自分と趣味の近いYouTuberやプレイリストキュレーターをフォローすればいい。

ここには「媒体」から「人」への変化もある。YouTubeやPodcastの視聴者は、そのチャンネルそのもの以上に、そこで話している人物を信頼するようになる。「この人がおすすめしているなら聴いてみよう」という関係が生まれる。一方、大手音楽サイトの記事を毎日読んでいたとしても、その記事を書いたライターの名前までは知らないという読者は珍しくない。

こうした個人による発信は、アンダーグラウンドのアーティストを紹介するという点では大きな可能性を持っている。特定のジャンルに詳しい人物が新しい作品を取り上げることで、それまでバンドを知らなかった多数のリスナーへ音楽が届く可能性がある。

 

それでもジャーナリストが必要な理由

では、バンド自身が情報を発信でき、YouTuberやインフルエンサーが新しい音楽を紹介できるのであれば、音楽ジャーナリストは必要なくなるのだろうか。

動画が重要視しているのは、「音楽を紹介すること」と「ジャーナリズム」は同じではないという点だ。インフルエンサーは新しいバンドを紹介したり、アルバムについて意見を述べたり、ニュースを解説したりすることができる。しかし、業界そのものを監視する調査報道は別の仕事になる。

例えば大企業や業界団体に問題があると疑われた場合、本格的な報道を行うためには関係者への取材、企業へのコメント要請、複数の資料や証言の確認、法律や契約の調査、編集者によるチェックなどが必要になる。場合によっては訴訟などの法的リスクも伴う。そのため、従来型の報道機関には記者だけでなく、編集者や法務など、ジャーナリストの仕事を支える組織が存在してきた。

John Barbis自身も、この違いを明確にしている。過去にMetal Digestで働いていた時期には自分をジャーナリストだと考えていたが、現在は「メディアの人間ではあるが、ジャーナリストではない」と位置付けている。現在の活動はニュースについてコメントしたり、PR会社から届いた情報を紹介したりすることが中心であり、本格的な調査報道を行っているわけではないからだ。

もし今回のメディア大量解雇についてジャーナリストとして報道するのであれば、関係するメディアや企業へ直接コメントを求め、複数の情報源からデータを収集し、編集者とともに検証しながら一つの記事へまとめる必要があるという。カメラの前で調べた内容について意見を話すことと、取材と検証を重ねて報道することには大きな違いがある。

 

クリックベイトを生み出したのは誰なのか

クリックベイトとは…インターネット上でユーザーの興味や好奇心を過剰に煽るようなタイトルや画像(サムネイル)を使い、思わずリンクをクリックさせてアクセス数を稼ぐ手法

従来型のメタルメディアにも、多くの批判が向けられてきた。動画ではLoudwireなどが掲載してきた、有名ミュージシャンのちょっとした発言をニュースにした記事が例として挙げられている。

メタルファンからすれば、「有名バンドの細かな発言ばかり記事にするのではなく、もっとアンダーグラウンドのバンドを紹介してほしい」と感じることもあるだろう。しかし動画では、それについて読者自身の行動も考える必要があると指摘している。

メディアで働いているライター自身もメタルファンであり、新しいアンダーグラウンド・バンドについて書きたいと思っている。しかし、そうした記事を書いても読者がクリックしない。一方、有名アーティストについての記事には多くのアクセスが集まる。有給のライターを雇い、メディアという組織を維持するためには収益が必要になる以上、最終的には読まれる記事を増やさざるを得なくなる。

つまり、ファンが嫌っていたクリックベイトはメディアだけが一方的に作り出したものではない。読者が何をクリックしたのかという行動も、その方向性を作る一因になっている。メディアに対して「なぜアンダーグラウンドを取り上げないのか」と批判しても、実際にその記事が読まれなければ、ビジネスとして継続することは難しい。

 

ジャーナリズムの空白を埋めるもの

質の低い記事やクリックベイトに不満を持ってきた人の中には、既存の音楽メディアが衰退することを歓迎する人もいるかもしれない。しかし動画では、その消滅を単純に喜ぶべきではないと主張している。

なぜなら、既存メディアが消えた場所に、より優れたジャーナリストが現れるとは限らないからだ。その空白を埋める存在として考えられるのが、インフルエンサーとAIである。

動画では、人間のライターを大量に解雇したメディアが同じ規模で記事を公開し続ける場合、「では誰が記事を書くのか」という疑問を提示している。その選択肢としてボランティアのライターなども考えられるが、John BarbisはAIによる記事制作が増える可能性についても触れている。

ただし、この部分については注意が必要だ。動画内で彼自身が、特定のメディアの記事がAIによって制作されているという証拠を持っているわけではなく、あくまで自分自身の推測であることを明確にしている。一部の記事タイトルや著者名などを見てAIではないかと疑っているものの、それらが実在するライターによるものではないと断定しているわけではない。

それでも、人件費を削減しながら大量の記事を公開したい企業にとって、AIが魅力的な選択肢になる可能性があるという問題提起は残る。

 

エンゲージメントが情報を変えていく

インフルエンサーにも優れた発信者は存在する。自分で資料を調べ、情報を確認し、可能な限り正確な内容を伝えようとしている人物もいる。しかし、YouTube、Instagram、TikTok、Podcastなどには、従来の報道機関に存在していた編集部のような仕組みが基本的にはない。

さらにSNSの世界では、情報の正確さとは別の数字が重要になる。再生回数、コメント、シェア、フォロワー、そしてスポンサー契約などにつながる「エンゲージメント」だ。

ここから動画では、文化的・政治的な対立を利用したコンテンツの問題へと話が進む。複雑な問題を冷静に説明する記事や動画よりも、「あのバンドは差別的だ」「このバンドはwokeだ」といった極端な主張の方が、多くの反応を集める可能性がある。批判する人も擁護する人もコメントし、シェアするため、結果としてアルゴリズム上では強いコンテンツになる。

そのため、従来型ジャーナリズムが衰退したからといって、情報環境が自動的に改善するわけではない。むしろ正確な報道よりも、怒りや対立を生み出すコンテンツが優先される可能性がある。

 

メディアもインフルエンサーも完全には信用できない

動画後半では、従来型メディアにも別の問題があることが語られる。企業による所有や広告主との関係によって、報道内容に影響が生まれる可能性だ。

John Barbisは自分自身の番組で行ったブランド案件を例として取り上げている。実際に使用して良いと思った商品だけを紹介しているとしても、その企業から金銭的な利益を得ている以上、発信内容に何らかの影響が生まれる可能性は完全には否定できない。規模は異なっても、大手メディアと広告主の関係にも同じ問題が存在するのではないかと問いかけている。

つまり、この動画は「ジャーナリストなら信用できる」「インフルエンサーは信用できない」という単純な二項対立を提示しているわけではない。既存メディアにも問題があり、インフルエンサーにも問題がある。企業メディアも間違えるし、個人の発信者も間違える。

最終的にJohn Barbisが出す答えは、「誰も完全には信用できない」というものだ。彼は自分自身についても、間違える可能性のある一人の人間にすぎないと話している。

だからこそ、一つの情報源だけに依存するのではなく、多くのメディア、多くの記者、多くの個人発信者が存在することが重要になる。それぞれ異なる視点や主張を提示し、複数の情報源を比較しながら事実を確認できる状態が必要なのだ。

 

メタルメディアは本当に必要なくなるのか

おそらく、従来型の音楽メディアが縮小してもメタルという音楽そのものがなくなることはない。バンドは音楽を作り続ける。SpotifyやYouTube、SNSを通じてファンへ直接作品を届けることもできる。新しい音楽を発見するという役割だけを考えれば、YouTuber、Podcast、SNSアカウント、プレイリストなどが従来型メディア以上の力を持つ場面も増えていくだろう。

しかし、「音楽を紹介すること」と「音楽業界について報道すること」は同じではない。

新しいバンドを紹介するだけなら、ジャーナリストである必要はない。しかし、レーベル、プロモーター、ストリーミングサービス、チケット企業、大手興行会社などがどのようなビジネスを行っているのかを調査し、それがアーティストやファンにどのような影響を与えているのかを伝えるためには、別の役割が必要になる。

既存の音楽メディアには多くの問題があった。クリックベイトもあれば、読者を怒らせることを目的としたような記事も存在した。しかし、それらがなくなった場所に必ずより優れたものが現れるとは限らない。そこを埋めるのはAIによって大量生産された記事かもしれないし、エンゲージメントを最大化することを目的としたインフルエンサーかもしれない。あるいは、アーティストや企業自身によるPR情報だけが残る可能性もある。

Heavy Metal Philosophyの「Do We Still Need Journalists In Metal?」が投げかけているのは、単純に「音楽ジャーナリストは必要なのか」という問いだけではない。

これから私たちは、「誰から音楽の情報を受け取るのか。そして、その情報が正しいかどうかを誰が確認するのか」。

メタルメディアで相次ぐ人員削減は、音楽を伝えるメディアの役割そのものが変わり始めていることを示しているのかもしれない。

参照 : https://www.youtube.com/watch?v=0uPJ_7bw-gc (Do We Still Need Journalists In Metal?!)

【2024年上半期】ニューメタルコアの名盤10選 アルバムレビュー

2024年の上半期にリリースされたアルバム (EPを含む) を中心に、素晴らしかった作品を10枚ピックアップし、アルバムレビューしました。「ニューメタルコア」というメタルコアのサブジャンルの中心的存在であるAlpha WolfやDarko US、Diamond ConstructやDefocusといった新たなトップバンド達の待望の新作に加え、デビューしたばかりの新しいバンドのEPなど、良質なリリースが盛りだくさんでした。ぜひ新しいお気に入りを見つけてください。

RIFF CULTでは、ウィークリーで更新しているSpotifyプレイリストで毎週新しい楽曲をまとめたプレイリストを更新しています。この機会にぜひフォローして下さい。このプレイリストをフォローすれば、トレンドが必ず掴めます!

 


▶︎Alpha Wolf 『Half Living Things』

オーストラリア・メルボルンを拠点に活動するニュー・メタルコア・バンド、Alpha Wolfのサード・アルバム。大ブレイクのきっかけとなった前作『A Quiet Place to Die』から4年、「ニューメタルコア」というサブジャンルの草分け的存在としてシーンのトップを走り続けてきた彼らが、どれだけ驚異的なスピードで成長してきたかは日本のメタルコア・ファンが良く知っているのではないだろうか。セカンド・アルバム前、Emmureの『Look at Yourself (2017年)』を発端に本格的にニューメタルとメタルコアのクロスオーバー・ジャンルが立ち上がり、その後リリースされたEP『Fault』でAlpha Wolfはニューメタルコアを確立。リリースを記念したアジアツアーは2019年に行われ、Suggestionsが帯同し、ニューメタルコア・シーンの影響を国内で最も早く取り入れたPROMPTSやPaleduskなどが出演、ヘッドライナーツアーを盛り上げた。200-300キャパで行われたこの日本ツアーから4年が経ち、再来日を果たしたAlpha WolfはPaleduskの「INTO THE PALE HELL TOUR FINAL SERIES」に出演し、SiMFear, and Loathing in Las Vegas、coldrain、PROMPTSと共演を果たしている。この飛躍的な人気の拡大は決しては日本だけでは起こったものではなく、母国オーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも同様に起こった。

本作はニューメタルコアとしてシーンのトップを牽引し、後続に道筋を作り続けてきたAlpha Wolfが、更に独自性を拡大することにチャレンジした作品だと言えるだろう。いくつかの挑戦は、刺激を求めるメタルコア・リスナーにとっては受け入れられないものであったかもしれないが、ニューメタルコアというジャンルの成熟にとっても、Alpha Wolfが次のフェーズに進むためにも必要な挑戦であったと言えるだろう。中でもミュージックビデオになり、ヒップホップ・シーンの重鎮Ice-Tをフィーチャーした「Sucks 2 Suck」は、ニューメタルという音楽の核を見つめ直し、SlipknotLimp Bizkitといったクラシックなスタイルからの影響をバランスよく配合しつつも革新的なメタルコアを鳴らしている。同じくミュージックビデオにもなっている「Whenever You’re Ready」では、オーストラリアのメタルコア、Northlane初期Void of Visionの影響が色濃く反映された楽曲でニューメタルコアとは言えない楽曲にも挑戦している。

「Sub Zero」でAlpha Wolfを知り、ヘヴィでバウンシーなメタルコアを望むリスナーにとってはマイルドすぎる作品かもしれないが、彼らの現在地を考えれば、チューニングの重さとか、いかにワーミーを詰め込むかを追求かと、そういう立場にはない。このアルバムは、バンドにとって次のアルバムまでにこれまで以上の成長を遂げる、簡単に言えばスタジアムや大きなフェスティバルに出演出来る可能性を高めるものであるべきだ。そしてバンドの目的は達成されているように感じる素晴らしいフィードバックを得ているのはソーシャルメディアからも伝わってくる。どこへ辿り着くのか、彼らの初来日を企画させてもらったものとしても興味深いし応援したい。個人的な思いも含めて2024年上半期の印象的な作品。

 

▶︎Diamond Construct 『Angel Killer Zero』

2014年オーストラリア・ニューサウスウェールズ州で結成された4人組。2019年のバンド名を冠したサード・アルバム『Diamond Construct』から5年振りとなる本作は、間違いなく2024年のトップ・ニューメタルコア・アルバムに違いないだろう。2019年、Alpha Wolfが「Sub Zero」でやったこと、Dealerが「Grotesque」でやったことを、2024年にDiamond Constructが『Angel Killer Zero』でやっている。このアルバムの圧倒的な完成度、確立されたコンセプトとヴィジュアルイメージ、そして「これが2024年のニューメタルコア」だと誇示するような存在感は圧倒的だ。

アートワークは日本の漫画のようで、アルバムタイトルのロゴもカタカナでふりがながふってある。ガンダム、AKIRAなどは彼らの楽曲、ヴィジュアルイメージの重要な要素として「Switchblade OST」のミュージックビデオでも確認することが出来る。驚くべきはそれらのインプットをニューメタルコア/デスコアの感覚を非常に上手く融合出来ていることで、多彩な音楽からの影響をDiamond Construstらしく散りばめている。

もっとも優れた楽曲、といってもほとんどの楽曲がリードトラックと言っても過言でないほどのインパクトを放っているが、「I Don’t」はすべてのメタル・リスナーが聴くべき革新的な楽曲だ。エレクトロニックな装飾はもちろん、ほとんどダンス・ミュージックと言えるビートが次々と繰り出されていく。もっとも驚いたのはヘヴィ過ぎて完全にノイズとなったリフだ。Code OrangeCrystal Lakeの挑戦的なサウンド・プロダクションでさえ、ここまでノイズ化したリフは鳴らしてこなかったと思う。ずっと、メタルにとってノイズが重要になってくると思っていたが、「I Don’t」で証明されたと言っていいかもしれない。本当にこの曲を聴いた時は驚いた。アルバムすべて聴かなくても、この曲だけでもまずは聴いてほしい。そして私と同じように衝撃を受けたのであれば、今のDiamond Constructに夢中になるはずだ。

 

▶︎silverlake murder 『Still Unknown』 EP

スウェーデンの首都ストックホルムを拠点に活動する5人組、silverlake murderのデビュー作。わずか12分という短いトータルタイムの中に5曲のヘヴィなニューメタルコアが詰まっており、silverlake murderの魅力を端的に把握出来る名刺代わりの作品として100点の仕上がりだと思う。良い意味での物足りなさ、余白を感じるEPになっており、こうした作品でデビューするバンドはかなりの確率で優れたレーベルとの契約し、ステップアップしていくように感じている。先のAlpha Wolfがそうであったように。

Emmureを始祖とし、Alpha WolfやDealerをニューメタルコアの第1世代と捉えるのであれば、彼らは第3世代のトップに躍り出るポテンシャルを持ったバンドではないだろうか。Darko USやAlpha Wolf直系とも言えるDiamond Constructなどに比べれば、まだまだデビューしたばかりの新人だが、やってることはそれらのバンドに匹敵する才能溢れたものだと感じる。デスコアにも接近するヘヴィネス&ビートダウン、ほとんどハーシュノイズウォールにも聞こえる歪んだワーミー、Slipknotが下地にあることがほんのりと感じられるフレーズ、HAILROSEを彷彿とさせるハードコアテクノやガバ、ブレイクビーツといったエクストリームなエレクトロ・ミュージックからの影響など、ここ最近のニューメタルコアとタグ付けされるバンドの中では頭一つ抜きん出た才能溢れるアレンジが随所に施されている (やや一辺倒な感じがしなくもないが)。The Hate Projectのサポートとしてライブが決まっているなど、まだまだライブ・シーンにおいては始まったばかり。今後の成長が楽しみなバンドだ。今からチェックすべし。

 

▶︎Darko US 『Starfire』

Chelsea GrinのボーカリストTom BarberとドラマーJosh Millerによるユニット、Darko US。有観客のライブをしない音源制作メインの活動方針をとり、2020年のデビューから毎月のように音源リリースを続けてきた彼らのサード・アルバムとなる本作は、驚異の19曲入り、トータルタイムが71分と濃密過ぎる内容となっている。

Silent PlanetのGarrett Russellをフィーチャーした「Atomic Origin」やNorthlaneのMarcus Bridgeをフィーチャーした「Sora」、VolumesのMichael Barrやトラップメタル・シーンの代表格Scarlxrdなど、ゲストリストだけみてもニューメタルコアを軸に、さらに多くのジャンルからの影響をクロスオーバーさせていくエクスペリメンタルな側面が強いので、アルバムとしてのまとまり、ドラマ性はほとんどない。言い方を変えれば、19曲それぞれに違った魅力があり、ドラマ性がある。Darko USは度々、持ち前のヘヴィネスから完全に離れ、スローなバラードをやったりしてきた経験がある。彼らは自由であり、バンドという共同体では決して作り出せない楽曲をやるために存在している。Chelsea GrinでDarko USのような挑戦、または実験とも言うべき創作は出来ない。本作にも「Cry Baby」などといったアコースティック曲が収録されており、これはこれで素晴らしい。そうしてメタルとバラードを境なしに味わえるリスナーが2024年にはたくさんいる。Darko USが『Starfire』でやっていることが、もっとありふれたものになっていくだろう。

彼らに実験的な面白さを求めているのであれば、「Chrone Moon」をチェックしてみるのがいいだろう。微細にエディットされたチャギングリフとインダストリアルな装飾が生み出す不気味なアトモスフィアは、ミュージシャンには大きなインスピレーションを与えるはずだ。そしてScarlxrdをフィーチャーした「Virtual Function」は、メタルコアとダークなヒップホップの可能性が無限大であることを感じさせる印象的なトラックと言えるだろう。一気に全部聴くのもいいし、2,3曲ずつ聴いても楽しいアルバムだ。

 

▶︎UnityTX 『Playing Favorites』 EP

2014年にテキサス州ダラスで結成され、ボーカリストJay Webster、ギタリストAlberto Vazquez、ベーシストAustin Elliott、ドラマーMiguel Angelという不動のメンバーで活動を続けている。彼らはThe Story So Farなどが在籍するPure Noise Recordsに所属しており、「ニューメタルコア」というよりは「ラップメタル」とか「ラップコア」と呼ばれることが多い。

本作はシングル「Playing Favorites」と他3曲収録のEP (昔はこのくらいのボリュームならシングルだったかもしれない) で、プロデュースはA Day To Rememberの『Homesick』や『Common Courtesy』、そのほかThe Ghost InsideやWage Warを手掛けるAndrew Wadeが担当している。Andrewが手がけたことでも分かるように、ハードコアのパッション溢れるフックが彼らのヒップホップのDNAと化学反応を起こしている。「Playing Favorites」で言えば、ブルータル・デスコア・バンド、PeelingFleshをも彷彿とさせるヘヴィなリフとスクラッチ、クラシックなニューメタル・ワーミーを交えたシンプルでありながらブルータルなトラックの上でJayがラップする、極上のラップメタルに仕上がっている。ニューメタルコア・リスナーも見逃せないUnityTXから、ラップメタルも掘り下げてみると面白いだろう。

 

▶︎cohen_noise 『Some Things Aren’t Forever, But For A Reason: Vol. 1』 EP

アメリカ・ケンタッキー州の4人組、cohen_noise。2022年のデビュー・アルバム『HAPPY.wav』は耳の早いメタルコア・リスナーの間では話題となったが、まだまだアンダーグラウンドな存在と言えるだろう。この作品もさらっとすごいことをやってしまっていること、ソーシャルメディアでの神秘性を大事に”し過ぎている”ことから、ミュージックビデオの再生回数が公開から1ヶ月で1000回にも到達していないのは勿体無い。こうしたバンドはRIFF CULTのような小さなメディアでなく、大手メタルメディアこそ取り上げて評価するなりしなくてはいけない。しかしイメージを大切にし過ぎる昨今のソーシャルメディア戦略ではそこに届くには大金を払うかよっぽど刺激的でないと無理だ。

cohen_noiseはいわゆるニューメタルとメタルコアをクロスオーバーさせたニューメタルコアに加えて、LoatheIce Sealed Eyesといったオルタナティヴ・メタルコアの影響も感じさせてくれる。彼らのプレイスルー映像を見れば、音からだけでなく、ヴィジュアルや使用機材からもそれが感じられるだろう。「オルタナ」はずっとメタルコア・シーン全体を底上げするのに重要なキーワードであり続けているが、先にも使った神秘性を守り過ぎると、誰にも聴かれないまま終わってしまう。cohen_noiseにはその壁を打ち破れるポテンシャルがあるし、「Fantasy」のような楽曲はRise Records黄金期を感じさせるキャッチなクリーンパートがあり、とっかかりとしてキーと言える楽曲だ。次々登場する新しい、刺激的なバンドの勢いに押しつぶされないよう頑張ってほしい。かなり未来があるバンドだとこの作品で確信した。

 

▶︎Defocus 『there is a place for me on earth』

2019年ドイツ・アーレンを拠点にスタートしたDefocus、2021年の『In the Eye of Death We Are All the Same』以来、3年振りとなるセカンド・アルバム。本作はArising Empireからリリースされ、AvianaやAbbie Fallsといったヨーロッパのヘヴィ・メタルコア・バンドを多数手掛けるVojta Pacesnyによってプロデュースされた。10曲32分とコンパクトな仕上がりながら、その内容は非常に充実しており、想像以上の満足感が得られるはずだ。けばけばしいワーミーやベースドロップを削ぎ落とし、現行ユーロ・メタルコアのヘヴィネスを下地としたサウンドを展開している。だからこそ映えるブレイクビーツやエレクトロニック・パートがDefocusを特別なニューメタルコアたらしめる魅力を放っている。After the BurialCurrents、そしてPROMPTSといったバンドの系譜にあるようなヘヴィさがあり、多方面のメタルコア・リスナー、さらにはデスコア・リスナーにも引っかかるようなブレイクダウンを搭載した楽曲もいくつか収録されている。中でも「flatlines」のエンディングはブルータルだ。

シンプルでスタイリッシュな彼らのヴィジュアルが映える「crooked mind」は「flatlines」などと併せてDefocusとは一体どんなバンドかを把握するのにピッタリな入門的楽曲に仕上がっている。ドイツらしいメタルコアの伝統も感じさせつつ、何よりも新しさがある。確立したDefocusのスタイルがこれからどのように進化していくのか楽しみである。

 

▶︎SPLEEN 『It Can(‘t) Be Worse』 EP

2023年にデビューしたフランス出身の5人組。およそ1年掛けてじっくりと制作され、途中メンバーチェンジもありながら完成させたデビューEPとなる本作は、ニューメタルコアの中にプログレッシヴ/Djentな香りも忍ばせた、興味深い仕上がりで注目を集めた。

フランスでこの手のサウンドと言うと真っ先に思い浮かぶのはten 56.だろうか。ヨーロッパまで拡大すれば、thrownなどが思い浮かぶが、SPLEENは彼らよりもシンプルに「ニューメタルコア+プログレッシヴ・メタルコア/Djent」と言うクロスオーバー・サウンドを鳴らしている。本作リリース直前に公開された最後の先行シングル「Natra」は、本作の中でもプログレッシヴ感の強い楽曲で、クロスオーバーのバランス感覚も優れている。まだまだSpotifyのフォロワーやミュージックビデオの再生回数は少ないものの、オリジナリティがあるし、毎日のようにリリースされていくメタルコア・シングルの中でも印象に残ってリリースを楽しみにしていたくらい印象に残ったバンドなので、これから更なる進化が期待出来ると思う。

 

▶︎Dealer 『New Order Of Mind』

2018年にオーストラリア・メルボルンで結成され、Alpha Wolfと共にニューメタルコアのトップバンドとして注目を集めたDealerであったが、度重なるメンバーチェンジによって安定しない活動が続いた。彼らの諸問題については度々指摘されてきたものの、2024年にギタリストJack Leggett、ベーシストMatthew Brida、ドラマーBrad Lipsettが加わり遂にデビューアルバムとなる本作を発表した (これまでに11名のメンバーが脱退、再加入を繰り返していた) 。

『New Order Of Mind』は、2019年の『Soul Burn』や翌年の『Saint』 (*いずれもEP) のスタイルとほとんど一緒の楽曲構成、フックで満たされており、大きなサウンドプロダクションの変化などはない。「HYPERREAL DEATH SCENE」「THE HATE YOU TRY TO HIDE」といったリードシングルも2019年〜2020年のDealerからほとんど変わっていない。それだけ先進的なサウンドをコロナ禍前に作り出していたということも凄いが、ほとんど変わっていないにも関わらずやはり細やかなところにDealerのソングライティングの良さが感じられる。「THE HATE YOU TRY TO HIDE」は2分強の短い楽曲であるが、イントロの狂気じみたインダストリアル・サウンドからニューメタルへと自然に繋がっていくところや簡単にビートダウンしない、ひねくれたところは評価出来る。不安的な精神状況を描写するミュージックビデオの数々は見る人を選ぶが、やはり2024年、ニューメタルコア・シーンにとってDealerは無視できないと思う。

 

▶︎Bite Down 『Decolorized』 EP

2019年、スウェーデンのヨンショーピングで結成されたBite DownのサードEP。これまでアルバムリリースはなく、2020年に『Trial // Error』、2022年に『Damage Control』とコンスタントにEP (またはシングル) をリリースし続けている。常にシーンにおいて存在感があり、じわじわとその名を浸透させてきた彼らの最新作は、We Are Triumphantからのリリースされたこともあり、ヨーロッパのみならず、アメリカのアンダーグラウンド・メタルコア・シーンでも注目を集めた。

ミュージックビデオにもなっており、EPのオープニングを飾る「Ynoga」は、ファストで切れ味鋭いチャギングリフをハンマーのように打ち続けていく。そしてほとんどゼロを刻み、転調も全くしないスタイルは、同郷のHumanity’s Last BreathのようなThallっぽさがあるように感じる。「Beautiful Gloom」ではDrop Eのうねるリフに吸い込まれていくような錯覚さえ感じるが、ニューメタルコアとは言い難い、プログレッシヴメタルコアを鳴らしている。良い意味でスウェーデンらしいメタルコアであり、ニューメタルコア・フレーバーを程良くブレンドしているタイプと言えるだろう。