オーストラリアを代表するメタルコア・バンドの一つ、Polarisが3年ぶりとなる新曲「Without You」を発表した。しかし、これは単純に「待望の新曲」と呼ぶには、あまりにも大きなものを背負った一曲だ。
2023年6月19日、PolarisのギタリストRyan Siewが26歳で亡くなった。バンドは彼を、10年間を共に過ごした親友であり、音楽におけるかけがえのないパートナーとして追悼。その約2カ月後に発表された3rdアルバム『Fatalism』はRyanが生前に制作へ参加した最後のアルバムとなり、結果的に彼がPolarisへ残した音楽的な足跡を刻む作品にもなった。それから約3年。2026年9月3日に届けられた「Without You」は、Ryanを失った後のPolarisが初めて世に送り出した新曲だ。
Jamie Hails、Rick Schneider、Jake Steinhauser、Daniel Furnariの4人が作曲者としてクレジットされており、Ryanが残した演奏を世に送り出すのではなく、彼のいない現在を生きる4人が新しく生み出した楽曲であることにも、この曲の大きな意味がある。
Polaris自身は「Without You」について、3年が経った今も大きな喪失と、その後に残されたものを理解しようとしている途中だと説明している。彼らがこの曲に込めたのは、喪失、ショック、悲嘆、心の痛み。そして、それを初めて外の世界と共有しようとする行為そのものだった。
今回、海外で公開された複数のリアクション動画を追ってみると、興味深い共通点が見えてくる。誰もがこの曲の背景に胸を痛めているが、同時に、単に「悲しい曲」「Ryanへの追悼曲」として評価しているわけではない。むしろ多くのリアクターが驚いていたのは、これほど個人的な悲しみを扱いながら、Polarisがバンドとして持っている攻撃性、グルーヴ、メロディ、演奏の緻密さを一切失っていないことだった。
「Without You」は悲しみを説明するための曲ではない。悲しみそのものを、Polarisの音楽へ変換した曲なのだ。
Ryan Siewを失ってからの3年間
Ryanの死が発表されたのは2023年6月28日。Polarisは、彼が同月19日の朝に亡くなったことを明らかにした。
当時26歳だったRyanは、若くしてPolarisのサウンドを形作る重要人物となっていた。『The Mortal Coil』『The Death Of Me』、そして完成済みだった『Fatalism』に残されたテクニカルかつ感情的なギターワークは、バンドの音楽にとって欠かせないものだった。
『Fatalism』はその後予定通りリリースされ、オーストラリアのARIAチャートで1位を獲得。2024年のAIR AwardsではBest Independent Heavy Albumを受賞するなど、Polarisのキャリアでも大きな成功を収めた。しかし作品を聴けばそこにはRyanの演奏があり、ツアーを続けるバンドにとっても、前へ進むこととRyanの不在を受け入れることは、簡単に切り離せるものではなかった。
そして「Without You」が生まれた。
公式発表では、この曲を「喪失から生まれた作品」と明確に位置付けている。公開されたミュージックビデオも、空虚な大聖堂で演奏する現在のメンバーの姿と、バンドの過去を想起させるイメージを交錯させ、Ryanがいた時間と、その後に続いていくPolarisを同時に映している。
重要なのは、Polarisがこの3年間を「乗り越えた」とは表現していないことだろう。悲しみが消えたから新曲を出したわけではない。まだ理解できないものを抱えたまま、それを音楽として誰かと共有できる地点まで来た。「Without You」は、そうした曲として始まっている。
悲しみをバラードにはしなかった
「Without You」の最も強い魅力は、このテーマを静かなバラードへ置き換えなかったことにある。
冒頭からPolarisらしい鋭いリフとドラムが前へ出る。浮遊するような不穏な空気の中へグルーヴが入り、Jamie Hailsの叫びとJake Steinhauserのメロディが交差する。そこから感情を大きく開くコーラスへ進み、ギターソロを経て、最後には楽曲そのものが崩壊していくような強烈なヘヴィ・パートへ突入する。
オーストラリアの音楽メディアDestroy All Linesもこの曲について、激しいボーカル、重いビートとリフ、伸びやかなメロディック・コーラス、胸を締め付けるギターソロ、そしてPolaris史上でも最もヘヴィな部類に入るアウトロが共存していると紹介している。一方、同じくオーストラリアの音楽メディアWall Of SoundのGeorgia Haskinsは、特に最後の暴力的な展開に注目している。
悲しみについて誰かに話したからといって、痛みがその瞬間に消えるわけではない。前へ進む準備ができたことは、過去を忘れたことを、ここでは意味していない。穏やかに収束せず、最後に再び感情が噴き出す「Without You」の構成を、悲嘆が一直線には進まないことを表したものとして捉えている。
この見方は、曲を聴いたときの感覚ともよく重なるだろう。Ryanを思い出し、悲しみを言葉へ変え、少し光が差し込んだように感じても、感情は突然また襲ってくる。その不安定さを、Polarisは曲のダイナミクスそのものにしているように聴かせている。
ギターソロが持つ特別な意味
そして当然、この曲で最も意識せずにはいられないのは、ギターだ。
RyanはPolarisにおけるリードギタリストであり、複雑なリフだけではなく、旋律そのものに感情を持たせるプレイヤーだった。「Without You」にも明確なギターソロが置かれており、それは単に「Ryanがギタリストだったからソロを入れた」と説明できるほど単純なものではない。曲全体が重い感情に沈む中で、ギターだけが少し上の方へ抜けていくような瞬間を作り、そこから再び激しい終盤へと向かっていく。暗い楽曲の中へ一瞬の光を持ち込んでいるようにも聴こえ、多くのリスナーもそれを感じているとビデオにコメントが書き込まれている。
Ryan本人の演奏ではないことに、このフレーズに別の意味が生まれている。彼から大きな影響を受け、一緒に音楽を作ってきた人間たちが、Ryanの不在を意識しながら鳴らしている音。Polarisがその部分を避けず、むしろ曲の大きな感情的ポイントとして使ったことに、バンドの創造性が表れているのではないだろうか。
歌詞にある「残された側」の感情
歌詞もまた、亡くなった人物を美しく思い出すだけの追悼文とはかなり違っている。そこにあるのは、喪失だけではなく、生き残った側に残る罪悪感、信じていたものを失う感覚、繰り返し思い出してしまう記憶、誰にも見えない場所で抱える痛みなど、残された側の感情について綴られたフレーズが盛り込まれている。特に「Your echo never fades (あなたの残響 (または影響?、そのままエコーと受け取っても良い)は決して消え去らない」という短い言葉は、この曲の中心にある感情を強く表している。
いなくなった人の声や存在は消えない。それは温かな記憶であると同時に、何度もその不在を認識させるものでもある。「Without You」はRyanの人生や死について外側から説明するのではなく、「残された自分たちは今どのような状態なのか」を曝け出している。そのため、個人的な背景を知らないリスナーにも、誰かを失った経験そのものと結びつく余地が残されているのではないだろうか。
さて、ここからは、実際にこの曲を初めて聴いた海外のリアクターたちが何を感じたのかを見ていきたい。今回は、否定的な評価を取り上げるのではなく、この曲がどの部分で人の感情を動かし、Polarisの音楽的な強みがどのように受け止められているかに焦点を当てていく。
METALBIRB――「Ryanがいなくても、まだPolarisの音がする」
METALBIRBは、曲が始まった直後からPolaris特有のバウンス感に反応し、チャグ、グルーヴ、リフ、ボーカル、ドラムが噛み合っている点を評価している。しかし聴き進めるにつれ、意識は自然と歌詞へ移っていく。
特に彼が感じ取ったのは、Ryanを失った悲しみだけではなく、若くして大切な人物を失ったことで信じていたものまで揺らいでいく感情だった。そして、バンドがその悲しみを抱えながら活動を続けなければならないという複雑さにも触れている。
興味深いのは、ArchitectsとTom Searleの喪失を思い出したと話している点だ。
音楽性が同じという単純な比較ではなく、大切なギタリスト/ソングライターを失ったバンドが、その後の音楽で悲しみを表現するという部分に共通するものを感じたのだろう。そのうえでMETALBIRBは、「Without You」が背景を知らなくても成立する曲であることも高く評価している。
Polarisのファンにとって歌詞は非常に重い。一方で、初めてPolarisを聴く人であっても、グルーヴのあるリフ、歌えるコーラス、暗さを増していく後半、強烈なブレイクダウンを持つメタルコアとして楽しめる。「追悼曲だから評価される」のではなく、まず一曲のPolarisとして強い。そこが重要なのだと話す。
そしてMETALBIRBにはRyanに対する個人的な記憶もあった。
RyanがPolaris以前からYouTubeへギターカバーを投稿していた頃、その映像を見ていたという。当時自身もギターカバーを投稿していたことから、Ryanは「有名バンドのギタリスト」になる以前から、自分にとってインターネット上の音楽コミュニティに存在していた人物だった。最後にはこの曲を美しいトリビュートでありながら強烈な一曲と評価し、8.5/10を付けた。
「A+」と即答したリアクター――Dan Furnariのドラムに宿る感情
こちらのリアクターは、再生前から「これはつらいものになる」と覚悟を決めている。しかし実際に曲を聴き終えた直後に出た評価は、「悲しい」だけではなかった。「オーストラリア最高峰のバンドが、どうやってさらに良くなるんだ?」という驚きとともに、即座にA+と評価している。
特に注目していたのがDan Furnariのドラムだ。一度曲を最後まで聴いたあと、わざわざ冒頭へ戻り、「一発一発に全身をぶつけているように聞こえる」とドラムへ耳を向けている。Ryanへのトリビュートと聞けば、どうしてもギターや歌詞に注意が集まりやすい。しかし「Without You」の感情を作っているのは、特定の楽器だけではない。ドラムの一打にも、曲を前へ押し進める切迫感がある。
このリアクターはギターワーク、ソロ、ボーカルも絶賛しているが、中でも楽曲全体から「メンバーが身体ごと感情を叩き込んでいる」ような印象を受けていたことが面白い。終盤の急激な変化にも強く反応し、この曲をPolarisの「powerful return」と表現している。
大きな喪失を経験したバンドが、慎重に小さな一歩を踏み出したというより、「自分たちはここにいる」と全力で示した曲として受け取っていた。
Ohrion Reacts――「悲しみと怒りが低音そのものから聞こえる」
Ohrion Reactsも、Ryanへの曲であることを理解した状態で再生を始めている。現在公開されている動画情報からも、Ryanを失って以降初の新曲として「Without You」を取り上げていることが確認できる。リアクション中にはブレイクダウン、リフ、ギターソロへ素直に興奮しながらも、聴き終わる頃にはかなり言葉を選びながら感想を話している。
彼自身Polarisを以前から追いかけており、Jamie Hailsと話した経験もある。Ryanが亡くなった直後にもJamieと接する機会があったものの、そのときはあえてRyanの話題には触れなかったという。だからこそ、3年後にバンド自身が音楽としてその感情を外へ出してきたことへ、特別な重みを感じている。
音楽面で強く評価しているのはJamieのボーカルだ。
近年さらに表現力が増したと感じており、叫びと低音が単純な「ヘヴィさ」のためではなく、悲しみと怒りを直接引き出していると捉えている。特に最後のブレイクダウンでは、低くチューニングされたギターとJamieのローが重なり、喪失によって生まれた怒りまでが音になっていると評価した。一方、ギターソロについてはRyanを想起させるショーケースのように感じたと話している。
彼にとってPolarisは、パンデミック期を支えてくれた個人的にも重要なバンドだった。そのため「Without You」を新しいスタートとして喜びながらも、手放しに「復活だ」と騒ぐのではなく、Ryanの家族、友人、メンバーへ思いを寄せながら話を終えている。
「Polaris Have Done It」――“音が重い”ことと“感情が重い”ことは違う
このリアクションでは、曲の作曲とプロダクションにかなり細かく耳を向けている。
最初に気にしていたのは、Ryanという重要なソングライターを失った後もPolarisらしさが残るのか、それとも大きく方向を変えるのかという点だった。答えは、どちらか一方ではなかった。
Jamieの声、Danのドラム、鋭いリフなど、確実にPolarisの核は残っている。そのうえで、楽器が一度引き、ボーカルを前へ出す瞬間や、空間を大きく取った音像、静寂を効果的に使う展開など、細かなダイナミクスによって感情を引き出していると評価している。そして、このリアクターが非常に的確な指摘をしている。
低いチューニングのギターを使うこともでき、ブレイクダウンを入れることもできる。それだけでも音楽を「ヘヴィ」にすることはできる。しかし、本当に伝えなければならない感情を持っている人間が、心の底から曲を作ったときの重さは、それとは違う。「Without You」にはその違いがあると感じている。
今回集めたリアクションの中でも、この評価は「Without You」の魅力をかなり正確に表しているように思う。この曲が重いのは、チューニングが低いからだけでもなく、ブレイクダウンが激しいからでもない。音を鳴らしている理由そのものに重みがある。だから、同じギター、同じドラム、同じスクリームでも、いつもとは違う切迫感が生まれているのではないか。非常に意味深い考察である。
「HEARTBREAKING song」――最後の爆発を“悲嘆の形”として受け止める
このリアクターは、冒頭から楽曲の猛烈なエネルギーに驚き、歌詞の悲痛さ、リフ、2番で増していく攻撃性、穏やかになるコーラス、そして終盤へ向かうにつれて何度も感情を揺さぶられている。
特に強く反応したのが最後だ。
ギターソロを終えた後、そのまま静かに曲が終わるのではないかと予想していた。しかしPolarisはそこで終わらない。もう一度すべてを爆発させている。映像と音が一体になったその部分を、このリアクターはトリビュートとして非常に強い瞬間だと捉えている。
聴き終えた後には、バンドが仲間を失った後、どうやって「次の音楽を作る」と決断するのかという問題についても考えている。もちろんRyan本人が何を望んでいたかを外部の人間が決めることはできない。その点には本人も注意しながら、それでも「アーティストが残したものは生き続ける」という考えを語った。
PolarisがRyanの代わりを作るのではなく、Ryanが作ってきた歴史を抱えたまま次の作品を生み出す。そのこと自体に意味を感じている。
音楽的には、今回のボーカルを特に高く評価しており、カタルシスのように感じられたという。暗く、悲痛で、非常にヘヴィ。それでも明確にPolarisの曲であることに驚きを込めて評価した。その両立について、このリアクターは「quintessential Polaris」と捉えている。
5つのリアクションに共通していたもの
今回参照した5本のリアクション動画には、それぞれ着目する場所に違いがあった。ドラムに心を奪われた人がいたし、Jamieのボーカルに悲しみと怒りを感じた人もいる。ギターソロをRyanへの献辞のように受け取った人もいれば、最後のブレイクダウンこそが悲嘆の不安定さを最も表していると感じた人もいた。
しかし根底にある評価はほぼ同じだ。これはRyanへのトリビュートであると同時に、非常に優れたPolarisの新曲でもある。そこが「Without You」の重要なところだろう。もしこの曲が背景だけに依存していたなら、Ryanのことをよく知るファンにしか届かない作品になっていたかもしれない。
しかし実際には、曲として、RyanのいないPolarisのこれからに続いていく曲として、非常に優れていることへのリアクションが強かったようにも感じる。
背景を知らない人がSpotifyで偶然出会っても、一曲のメタルコアとして楽しめる。背景を知ったあとにもう一度聴けば、同じ音がまったく違って聞こえる。それだけの奥行きが「Without You」にはある。
Ryanの代わりを作るのではなく、RyanがいたPolarisの続きを作る
メンバーを失ったバンドについて語るとき、「代わり」という言葉が使われることがある。しかし、Ryan Siewについて考えるなら、その表現だけでは足りないように思う。Ryanのギターも、Ryanがバンドの中で持っていた感覚も、メンバーとの関係も、そのまま誰かが埋めることはできないし、完璧に代わりというものが登場することはない。だから、これからのPolarisに求められているのは、「Ryanがいた頃とまったく同じ音」を再現することではないはずだ。
一方で、RyanのいたPolarisが作ってきたPolarisを捨てる必要もない。
「Without You」を聴いて感じるのは、その二つを同時に成立させようとするバンドの創造性だ。鋭いギター、複雑なグルーヴ、激しさと大きなメロディの共存というPolarisの核を保ちながら、今の4人にしか書けない感情を入れている。過去をコピーするのではなく、過去を自分たちの一部として次の音へ変える。新しいPolarisにとって、その最初の答えが「Without You」なのだろう。前へ進むことは、決して忘れることではない。
Polarisの場合、Ryanとの時間を持ったまま前へ進むからこそ、次の音楽にもRyanの存在が残り続けるのではないだろうか。Without You」は、Ryanがいないことをこれほど痛烈に歌いながら、同時にRyanがPolarisから完全に消えることはないと感じさせる。その矛盾のような感覚こそ、この曲がこれほど胸を打つ理由なのかもしれない。
これほど大きな喪失を無理に美しい物語へ変えることなく、痛みも怒りも混乱もそのまま音楽へ変換したPolarisの創造性に、最大限の敬意を送りたい。
Ryan Siewへ心よりご冥福をお祈りします。
