アメリカ・オレゴンの女性ボーカル・メタリック・ハードコア・バンド、Dying Wish (ダイイング・ウィッシュ)。2021年にSharpTone Recordsと契約し『Fragments of a Bitter Memory』をリリースしてから、本作までに彼/彼女らの状況は劇的に変化した。グローバルな人気を獲得、ライブは毎度カオスな盛り上がりを見せ、急激な人気の高まりを遠く離れた日本からも見てとれた。
彼/彼女らがハードコア成分について前作以上に精密な構築を施していることからもその狙いは明らかだ。もちろん、これは悪いことではなく、SharpTone Recordsという現代メタルコア中心の所属アーティスト・ラインナップの中で目立ち、自分たちに目を向けさせる為に最大の努力している証拠であり、現代をサバイヴするアーティストとして間違っていない。Knockled Looseも、そのサウンドはもちろん、日々アップされるカオスなライブ・パフォーマンスビデオの影響で、とんでもないところまで行ってしまったのだから、フロアの熱気、活気というのも実力以上に大事というのが2023年だったと思う。この手のサウンドを復興させ、日本でもView from the Soyuzに見られるライブの盛り上がりを見れば、このスタイルのバンドが今、どこでどう勝負すべきかは自ずと導かれていくだろう。ミュージックビデオにもなっている「Watch My Promise Die」は新しいDying Wishが2024年以降に作っていく道筋を感じられる1曲に仕上がっていると言えるだろう。
▶︎第9位 : Avalanche Effect 『Of Wired Hearts And Artificial Prophecies』
元Death of an EraのDanielがフロントマンを務めている事で話題となったArtemis Risingですが、革新的なエレクトロニック・メタルコアは時代の先を行き過ぎていたのが、デビュー・シングルで大きなブレイクとまでは行きませんでした。しかし2022年代から次第に増え始めた”エレクトロニック・メタルコア”は、例えばAttack Attack!やElectric Callboy、とは違い、本格的なクロスオーバーを始めています。これは、Attack Attack!の登場以降、メタルコア+キーボディストというバンド編成によってシーンに植え付けられたエレクトロニック・メタルコアとは根底が違い、マシーン・ドラム/エレクトロニック・ビートとドラマーの鳴らすビートが交互に展開されたり、時に交わっていくなど、メロディだけでないことが印象的だと思います。
例えば、本作収録の「Scales of Justice」では、ハードコア・テクノ、ガバといったタイプのエレクトロニック・ビートが楽曲の大黒柱となり、プログレッシヴなギターのリフやタイトなドラミングというものが交わるように展開されていくというスタイルへエレクトロニック・メタルコアを進化させています。この作品のヴィジュアライザーがマーブル模様の色彩と電子基盤のレイヤーで構成されているのも、視覚的にArtemis Risingを表現するのに重要な役割を担っていると言えるでしょう。2020年代以降のエレクトロニック・メタルコアについては、独立した音楽ジャンルとして意識しておくと、ダンス・ミュージック・シーンとの関わりなどへもその魅力を波及させられるきっかけに繋がるかもしれません。Sullivan Kingのようなアーティストがとんでもないブレイクを果たして、Artemis Risingなどといったバンドをビッグ・ステージへ引っ張り出して欲しいですね。
カナダの女性ボーカル・メタルコア・バンド、SpiritboxのEP『The Fear of Fear』は、昨年のEP『Rotoscope』でエレクトロニックなビートを踏んだんに盛り込みつつ、革新的なデビュー・アルバム『Perfect Blue』を見事にアップデート。現代メタルコアのキーパーソンと言えるプロデューサーDaniel BraunsteinとSpiritboxの世界観を司るコンポーザーであるMike Stringerによる共同プロデュースとなった本作は、『Perfect Blue』と『Rotoscope』の間に位置する。
特筆すべき楽曲は「Angel Eyes」であろう。デスコアへも接近しようかというヘヴィネスへの探究心、Courtney LaPlanteのカリスマ性溢れるボーカル、そして不気味に漂う『Rotoscope』で見せた深いエレクトロニック・ダーク・アンビエントのアトモスフィア。次曲「The Void」のメロディアスさも相まって、EP中盤に絶頂を迎える『The Fear of Fear』の作品としての驚くべきコンパクトなクリエイティヴィティには感心させられる。この二つのEPを経てドロップされるセカンド・アルバムでどのようなチャレンジを見せてくれるのか、高く期待している。
アメリカ・ミシガンのメタルコア・バンド、Hollow Frontのサード・アルバム。2021年にUNFDと契約後、毎年アルバムをリリースするという多作っぷりでありながら、作品毎に確実にレベルアップし、アメリカを中心にグローバルな人気を誇る彼ら。RIFF CULTで行った国内メタルコア・バンドらへの年間ベスト・インタビューにも『The Fear Of Letting Go』は数多くリストインされていたのが印象的だった。
彼らと比較されるバンドといえば、ErraやPolaris、Northlaneといったところであろうが、Hollow Frontが本作で打ち出した”Hollow Frontらしさ”は、ミュージックビデオにもなっておりアルバムのキー曲である「Over The Cradle」にある。リリックやビデオのコンセプトになっているのは、Hollow Frontのソングライター自身が経験したネグレクトであり、育児放棄、感情の混乱を鮮明に表現している。この歌は、母親への赦し (*ゆるし)の歌であるが、現在も続く痛みが入り混じった言葉がリリックの中で巨大なインパクトを放っている。母親は自分たちに命を与えてくれたが、生き方を教えることができなかった……。母親を許したとはいえ、過去の経験の傷跡がまだ残っていることを表現している。自身が経験した辛い思い出を非常に分かりやすく、そしてメタルコアという音楽の怒りの塊のようなエネルギーを巧みにストーリーに落とし込んだ本楽曲は、Hollow Frontの知的な芸術性が爆発したキラーチューンと言えるだろう。細かなパートについても、エレクトロニックなビートをさらりと組み込んだり、ブレイクダウン・パートの切れ味と歌詞の鋭さがリンクしながら展開していくところも、意図的に作られているのであれば、これはもう、非常に優れた高等芸術であり、メタルコア文化遺産にしたいくらいだ。
優れているのは先行シングルとして発表されたものだけでなく、「Stay With Me」というバラードもHollow Frontの魅力を解き放つ印象的な楽曲だ。メロディック・ハードコアをルーツに感じさせながらも、彼らの直接的な影響源であるだろうErraやNorthlaneといったバンドの楽曲構築の典例を参考に、力強いスクリームと張り裂けるようなクリーン・ボーカルを交互に展開させていく。実はこの曲がアルバムの中で一番凄いかもしれない。確実にトップ・シーンへと躍り出たHollow Front。このアルバムをライブ・パフォーマンスでどこまで繊細にドラマティックに表現できるかが2024年代ブレイクの鍵になってくるだろう。持ってるセンスは一級品。
いくつもアルバムを象徴する楽曲はあるが、”In loving memory of Ryan Siew”という追悼の意を込め、生前のRyanも撮影に参加している楽曲「Overflow」は、ドラマーDanielによって書かれたものだ。Danielはこの楽曲の歌詞について、自身のパニック発作と闘うことの葛藤と、その葛藤が他人に与えることの影響について歌っていると説明している。悲しみと絶望に満ちた歌詞、「The earth is spinning much too fast for me」という詩的なフレーズのインパクトが強烈であったし、その中からもわずかながら、希望の光を感じさせてくれるところも、世界に多くのファンを持つ彼らの優しさであり、トップ・シーンを走るバンドが歌うことの責任であると感じる。
Atreyu – The Beautiful Dark of Life
Texas In July – Without Reason
Prospective – Reasons to Leave
Of Virtue – Omen
The Callous Daoboys – God Smiles Upon The Callous Daoboys
Of Mice & Men – Tether
Wolves At The Gate – Lost In Translation
Heart Of A Coward – This place only brings death
Johnny Booth – Moments Elsewhere
Soul Despair – Crimson
日本のメタルコアを牽引する存在として、2023年も精力的な活動でファンを楽しませてくれたSailing Before The WindとSable Hills。彼らがキュレーションするメタルコア・イベント「ONE BULLET LEFT」の開催を記念し、RIFF CULTでは、両バンドのメンバーに2023年の年間ベスト・アルバム、そして楽曲をピックアップしていただきました。
In Flames 『Foregone』
Spiritbox 『The Fear of Fear』
Hollow Front 『The Fear Of Letting Go』
Sylosis 『A Sign of Things to Come』
Currents 『The Death We Seek』
初めて聴いた作品は『Colony』(1999)で、当時はメタルコアという言葉も知らない時期だったし、彼らはメロディック・デス・メタルというイメージでした。そこから他のアルバムも掘ったりしていく内に『Reroute To Remain』(2002)と出会い、その概念も覆されました。彼らをジャンル分けするのは不可能だとは思いつつも、この作品が後続のメタルコア・バンドに与えた影響は計り知れないものだし、メロデスをルーツに持ったメタルコア」という一つのスタイルを確立した金字塔となったと言えます。
そんな音楽性の定義不可能な彼らが、自身の肉体がそう長くないと知りながらも、紆余曲折の末にリリースした『Foregone』が原点回帰を感じる一枚だったことは、複雑化しすぎたメタルシーンに一石を投じる様な、確かにそこにある漢気に感動させられました。Tr.3 Meet Your MakerやTr.2 State of Slow Decayを聴けば、私の言っている事が理解してもらえると思います。
比較的ヤングなバンドで自分好みのスタイルのメタルコアに久々に出会えて滾りました。ボーカルがスクリームとクリーン両刀使いなのですが、どちらも最高レベルで上手いしめちゃめちゃ歌が前に出てきます。『Will I Run?』のサビはリードギターと相まってエモーショナル極めてるので、メタルコアクリーンパート好きな全人類必聴です。レコメンドはLANDMARKS と Our Hollow, Our Home です。
Architectsを脱退してまでメタル貫こうとした漢が作る楽曲なんてもう良いに決まってますから、あとは自分の耳に合うかどうかだと思います。実際耳の肥えた玄人向けの楽曲ではありますので。「Crystal Lake Ankh Japan Winter Tour 2023」に参加していた時に、移動中このアルバムを聴いてましたが、「俺もずっとメタル貫こう」と思わされざるを得ませんでしたね。
最近、映画やゲーム業界ではリバイバルの波がきていますが、音楽シーンにも徐々にそれが近付いてると感じていて。その中でもBleeding Throughというバンドが20年経った今この楽曲を再録したという事実だけでご飯何杯でもいけます。音質がめちゃくちゃ聴きやすく、こもった感じが無くなりました。Texas In JulyやIt Dies Todayが復活して新曲をリリースしたりしてるのも、その流れがきてるなと感じざるを得ません。
そんな昔のリバイバルが大好きな私ですが、Make Them Sufferの新曲はモダンでもヘッドバンギング不可避でした。ヘヴィすぎます。
「”The Void”は、とても早くできた曲なんです。書くために何かと戦う必要はなかったし、そうなったら反論もしない。ずっと書きたいと思っていたタイプの曲で、もう何百回も聴いていますが、聴くたびにとても幸せな気持ちになります。Eternal Blue Tourでこの曲を演奏し、初めてこの曲を聴く人たちをリアルタイムで見ることができたのは、本当に素晴らしい経験でした」。
この10歳の少女、Harper が、Rise Records傘下のレーベルでかつてSpiritboxも所属したPale Chordからデビュー曲「Falling」をリリースしました。この楽曲は、Shadow of IntenctやCurrentsでの活動で知られるChris Wisemanによってプロデュース、制作され、AcresのBen Lumberがバックで演奏しています。
Harper (10yr old sensation who covered Spiritbox on America's Got Talent) has released new single Falling, their first since signing to Pale Chord Records!https://t.co/PHyjVDWksr
ニューアルバム『Eternal Blue』が話題沸騰中のメタルコアバンド、Spiritboxが、リードトラック「Circle With Me」をCourtnyがワンテイクで録ったビデオを公開しました。バンドの顔としてシーンで抜群の存在感を放つ彼女のボーカリストとしての実力を感じられる素晴らしい映像です。
もう一つ先行公開された「Circle With Me」も素晴らしいが、ArchitectsのSam Carterがフィーチャーした「Yellowjacket」も今のSpiritboxらしさを感じられる良曲だ。ソリッドなリフ、そしてSamのボーカルが上手くSpiritboxサウンドに馴染みながらも、しっかりSpiritboxの楽曲に仕上がっている。