【2024年上半期】ニューメタルコアの名盤10選 アルバムレビュー

2024年の上半期にリリースされたアルバム (EPを含む) を中心に、素晴らしかった作品を10枚ピックアップし、アルバムレビューしました。「ニューメタルコア」というメタルコアのサブジャンルの中心的存在であるAlpha WolfやDarko US、Diamond ConstructやDefocusといった新たなトップバンド達の待望の新作に加え、デビューしたばかりの新しいバンドのEPなど、良質なリリースが盛りだくさんでした。ぜひ新しいお気に入りを見つけてください。

RIFF CULTでは、ウィークリーで更新しているSpotifyプレイリストで毎週新しい楽曲をまとめたプレイリストを更新しています。この機会にぜひフォローして下さい。このプレイリストをフォローすれば、トレンドが必ず掴めます!

 


▶︎Alpha Wolf 『Half Living Things』

オーストラリア・メルボルンを拠点に活動するニュー・メタルコア・バンド、Alpha Wolfのサード・アルバム。大ブレイクのきっかけとなった前作『A Quiet Place to Die』から4年、「ニューメタルコア」というサブジャンルの草分け的存在としてシーンのトップを走り続けてきた彼らが、どれだけ驚異的なスピードで成長してきたかは日本のメタルコア・ファンが良く知っているのではないだろうか。セカンド・アルバム前、Emmureの『Look at Yourself (2017年)』を発端に本格的にニューメタルとメタルコアのクロスオーバー・ジャンルが立ち上がり、その後リリースされたEP『Fault』でAlpha Wolfはニューメタルコアを確立。リリースを記念したアジアツアーは2019年に行われ、Suggestionsが帯同し、ニューメタルコア・シーンの影響を国内で最も早く取り入れたPROMPTSやPaleduskなどが出演、ヘッドライナーツアーを盛り上げた。200-300キャパで行われたこの日本ツアーから4年が経ち、再来日を果たしたAlpha WolfはPaleduskの「INTO THE PALE HELL TOUR FINAL SERIES」に出演し、SiMFear, and Loathing in Las Vegas、coldrain、PROMPTSと共演を果たしている。この飛躍的な人気の拡大は決しては日本だけでは起こったものではなく、母国オーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも同様に起こった。

本作はニューメタルコアとしてシーンのトップを牽引し、後続に道筋を作り続けてきたAlpha Wolfが、更に独自性を拡大することにチャレンジした作品だと言えるだろう。いくつかの挑戦は、刺激を求めるメタルコア・リスナーにとっては受け入れられないものであったかもしれないが、ニューメタルコアというジャンルの成熟にとっても、Alpha Wolfが次のフェーズに進むためにも必要な挑戦であったと言えるだろう。中でもミュージックビデオになり、ヒップホップ・シーンの重鎮Ice-Tをフィーチャーした「Sucks 2 Suck」は、ニューメタルという音楽の核を見つめ直し、SlipknotLimp Bizkitといったクラシックなスタイルからの影響をバランスよく配合しつつも革新的なメタルコアを鳴らしている。同じくミュージックビデオにもなっている「Whenever You’re Ready」では、オーストラリアのメタルコア、Northlane初期Void of Visionの影響が色濃く反映された楽曲でニューメタルコアとは言えない楽曲にも挑戦している。

「Sub Zero」でAlpha Wolfを知り、ヘヴィでバウンシーなメタルコアを望むリスナーにとってはマイルドすぎる作品かもしれないが、彼らの現在地を考えれば、チューニングの重さとか、いかにワーミーを詰め込むかを追求かと、そういう立場にはない。このアルバムは、バンドにとって次のアルバムまでにこれまで以上の成長を遂げる、簡単に言えばスタジアムや大きなフェスティバルに出演出来る可能性を高めるものであるべきだ。そしてバンドの目的は達成されているように感じる素晴らしいフィードバックを得ているのはソーシャルメディアからも伝わってくる。どこへ辿り着くのか、彼らの初来日を企画させてもらったものとしても興味深いし応援したい。個人的な思いも含めて2024年上半期の印象的な作品。

 

▶︎Diamond Construct 『Angel Killer Zero』

2014年オーストラリア・ニューサウスウェールズ州で結成された4人組。2019年のバンド名を冠したサード・アルバム『Diamond Construct』から5年振りとなる本作は、間違いなく2024年のトップ・ニューメタルコア・アルバムに違いないだろう。2019年、Alpha Wolfが「Sub Zero」でやったこと、Dealerが「Grotesque」でやったことを、2024年にDiamond Constructが『Angel Killer Zero』でやっている。このアルバムの圧倒的な完成度、確立されたコンセプトとヴィジュアルイメージ、そして「これが2024年のニューメタルコア」だと誇示するような存在感は圧倒的だ。

アートワークは日本の漫画のようで、アルバムタイトルのロゴもカタカナでふりがながふってある。ガンダム、AKIRAなどは彼らの楽曲、ヴィジュアルイメージの重要な要素として「Switchblade OST」のミュージックビデオでも確認することが出来る。驚くべきはそれらのインプットをニューメタルコア/デスコアの感覚を非常に上手く融合出来ていることで、多彩な音楽からの影響をDiamond Construstらしく散りばめている。

もっとも優れた楽曲、といってもほとんどの楽曲がリードトラックと言っても過言でないほどのインパクトを放っているが、「I Don’t」はすべてのメタル・リスナーが聴くべき革新的な楽曲だ。エレクトロニックな装飾はもちろん、ほとんどダンス・ミュージックと言えるビートが次々と繰り出されていく。もっとも驚いたのはヘヴィ過ぎて完全にノイズとなったリフだ。Code OrangeCrystal Lakeの挑戦的なサウンド・プロダクションでさえ、ここまでノイズ化したリフは鳴らしてこなかったと思う。ずっと、メタルにとってノイズが重要になってくると思っていたが、「I Don’t」で証明されたと言っていいかもしれない。本当にこの曲を聴いた時は驚いた。アルバムすべて聴かなくても、この曲だけでもまずは聴いてほしい。そして私と同じように衝撃を受けたのであれば、今のDiamond Constructに夢中になるはずだ。

 

▶︎silverlake murder 『Still Unknown』 EP

スウェーデンの首都ストックホルムを拠点に活動する5人組、silverlake murderのデビュー作。わずか12分という短いトータルタイムの中に5曲のヘヴィなニューメタルコアが詰まっており、silverlake murderの魅力を端的に把握出来る名刺代わりの作品として100点の仕上がりだと思う。良い意味での物足りなさ、余白を感じるEPになっており、こうした作品でデビューするバンドはかなりの確率で優れたレーベルとの契約し、ステップアップしていくように感じている。先のAlpha Wolfがそうであったように。

Emmureを始祖とし、Alpha WolfやDealerをニューメタルコアの第1世代と捉えるのであれば、彼らは第3世代のトップに躍り出るポテンシャルを持ったバンドではないだろうか。Darko USやAlpha Wolf直系とも言えるDiamond Constructなどに比べれば、まだまだデビューしたばかりの新人だが、やってることはそれらのバンドに匹敵する才能溢れたものだと感じる。デスコアにも接近するヘヴィネス&ビートダウン、ほとんどハーシュノイズウォールにも聞こえる歪んだワーミー、Slipknotが下地にあることがほんのりと感じられるフレーズ、HAILROSEを彷彿とさせるハードコアテクノやガバ、ブレイクビーツといったエクストリームなエレクトロ・ミュージックからの影響など、ここ最近のニューメタルコアとタグ付けされるバンドの中では頭一つ抜きん出た才能溢れるアレンジが随所に施されている (やや一辺倒な感じがしなくもないが)。The Hate Projectのサポートとしてライブが決まっているなど、まだまだライブ・シーンにおいては始まったばかり。今後の成長が楽しみなバンドだ。今からチェックすべし。

 

▶︎Darko US 『Starfire』

Chelsea GrinのボーカリストTom BarberとドラマーJosh Millerによるユニット、Darko US。有観客のライブをしない音源制作メインの活動方針をとり、2020年のデビューから毎月のように音源リリースを続けてきた彼らのサード・アルバムとなる本作は、驚異の19曲入り、トータルタイムが71分と濃密過ぎる内容となっている。

Silent PlanetのGarrett Russellをフィーチャーした「Atomic Origin」やNorthlaneのMarcus Bridgeをフィーチャーした「Sora」、VolumesのMichael Barrやトラップメタル・シーンの代表格Scarlxrdなど、ゲストリストだけみてもニューメタルコアを軸に、さらに多くのジャンルからの影響をクロスオーバーさせていくエクスペリメンタルな側面が強いので、アルバムとしてのまとまり、ドラマ性はほとんどない。言い方を変えれば、19曲それぞれに違った魅力があり、ドラマ性がある。Darko USは度々、持ち前のヘヴィネスから完全に離れ、スローなバラードをやったりしてきた経験がある。彼らは自由であり、バンドという共同体では決して作り出せない楽曲をやるために存在している。Chelsea GrinでDarko USのような挑戦、または実験とも言うべき創作は出来ない。本作にも「Cry Baby」などといったアコースティック曲が収録されており、これはこれで素晴らしい。そうしてメタルとバラードを境なしに味わえるリスナーが2024年にはたくさんいる。Darko USが『Starfire』でやっていることが、もっとありふれたものになっていくだろう。

彼らに実験的な面白さを求めているのであれば、「Chrone Moon」をチェックしてみるのがいいだろう。微細にエディットされたチャギングリフとインダストリアルな装飾が生み出す不気味なアトモスフィアは、ミュージシャンには大きなインスピレーションを与えるはずだ。そしてScarlxrdをフィーチャーした「Virtual Function」は、メタルコアとダークなヒップホップの可能性が無限大であることを感じさせる印象的なトラックと言えるだろう。一気に全部聴くのもいいし、2,3曲ずつ聴いても楽しいアルバムだ。

 

▶︎UnityTX 『Playing Favorites』 EP

2014年にテキサス州ダラスで結成され、ボーカリストJay Webster、ギタリストAlberto Vazquez、ベーシストAustin Elliott、ドラマーMiguel Angelという不動のメンバーで活動を続けている。彼らはThe Story So Farなどが在籍するPure Noise Recordsに所属しており、「ニューメタルコア」というよりは「ラップメタル」とか「ラップコア」と呼ばれることが多い。

本作はシングル「Playing Favorites」と他3曲収録のEP (昔はこのくらいのボリュームならシングルだったかもしれない) で、プロデュースはA Day To Rememberの『Homesick』や『Common Courtesy』、そのほかThe Ghost InsideやWage Warを手掛けるAndrew Wadeが担当している。Andrewが手がけたことでも分かるように、ハードコアのパッション溢れるフックが彼らのヒップホップのDNAと化学反応を起こしている。「Playing Favorites」で言えば、ブルータル・デスコア・バンド、PeelingFleshをも彷彿とさせるヘヴィなリフとスクラッチ、クラシックなニューメタル・ワーミーを交えたシンプルでありながらブルータルなトラックの上でJayがラップする、極上のラップメタルに仕上がっている。ニューメタルコア・リスナーも見逃せないUnityTXから、ラップメタルも掘り下げてみると面白いだろう。

 

▶︎cohen_noise 『Some Things Aren’t Forever, But For A Reason: Vol. 1』 EP

アメリカ・ケンタッキー州の4人組、cohen_noise。2022年のデビュー・アルバム『HAPPY.wav』は耳の早いメタルコア・リスナーの間では話題となったが、まだまだアンダーグラウンドな存在と言えるだろう。この作品もさらっとすごいことをやってしまっていること、ソーシャルメディアでの神秘性を大事に”し過ぎている”ことから、ミュージックビデオの再生回数が公開から1ヶ月で1000回にも到達していないのは勿体無い。こうしたバンドはRIFF CULTのような小さなメディアでなく、大手メタルメディアこそ取り上げて評価するなりしなくてはいけない。しかしイメージを大切にし過ぎる昨今のソーシャルメディア戦略ではそこに届くには大金を払うかよっぽど刺激的でないと無理だ。

cohen_noiseはいわゆるニューメタルとメタルコアをクロスオーバーさせたニューメタルコアに加えて、LoatheIce Sealed Eyesといったオルタナティヴ・メタルコアの影響も感じさせてくれる。彼らのプレイスルー映像を見れば、音からだけでなく、ヴィジュアルや使用機材からもそれが感じられるだろう。「オルタナ」はずっとメタルコア・シーン全体を底上げするのに重要なキーワードであり続けているが、先にも使った神秘性を守り過ぎると、誰にも聴かれないまま終わってしまう。cohen_noiseにはその壁を打ち破れるポテンシャルがあるし、「Fantasy」のような楽曲はRise Records黄金期を感じさせるキャッチなクリーンパートがあり、とっかかりとしてキーと言える楽曲だ。次々登場する新しい、刺激的なバンドの勢いに押しつぶされないよう頑張ってほしい。かなり未来があるバンドだとこの作品で確信した。

 

▶︎Defocus 『there is a place for me on earth』

2019年ドイツ・アーレンを拠点にスタートしたDefocus、2021年の『In the Eye of Death We Are All the Same』以来、3年振りとなるセカンド・アルバム。本作はArising Empireからリリースされ、AvianaやAbbie Fallsといったヨーロッパのヘヴィ・メタルコア・バンドを多数手掛けるVojta Pacesnyによってプロデュースされた。10曲32分とコンパクトな仕上がりながら、その内容は非常に充実しており、想像以上の満足感が得られるはずだ。けばけばしいワーミーやベースドロップを削ぎ落とし、現行ユーロ・メタルコアのヘヴィネスを下地としたサウンドを展開している。だからこそ映えるブレイクビーツやエレクトロニック・パートがDefocusを特別なニューメタルコアたらしめる魅力を放っている。After the BurialCurrents、そしてPROMPTSといったバンドの系譜にあるようなヘヴィさがあり、多方面のメタルコア・リスナー、さらにはデスコア・リスナーにも引っかかるようなブレイクダウンを搭載した楽曲もいくつか収録されている。中でも「flatlines」のエンディングはブルータルだ。

シンプルでスタイリッシュな彼らのヴィジュアルが映える「crooked mind」は「flatlines」などと併せてDefocusとは一体どんなバンドかを把握するのにピッタリな入門的楽曲に仕上がっている。ドイツらしいメタルコアの伝統も感じさせつつ、何よりも新しさがある。確立したDefocusのスタイルがこれからどのように進化していくのか楽しみである。

 

▶︎SPLEEN 『It Can(‘t) Be Worse』 EP

2023年にデビューしたフランス出身の5人組。およそ1年掛けてじっくりと制作され、途中メンバーチェンジもありながら完成させたデビューEPとなる本作は、ニューメタルコアの中にプログレッシヴ/Djentな香りも忍ばせた、興味深い仕上がりで注目を集めた。

フランスでこの手のサウンドと言うと真っ先に思い浮かぶのはten 56.だろうか。ヨーロッパまで拡大すれば、thrownなどが思い浮かぶが、SPLEENは彼らよりもシンプルに「ニューメタルコア+プログレッシヴ・メタルコア/Djent」と言うクロスオーバー・サウンドを鳴らしている。本作リリース直前に公開された最後の先行シングル「Natra」は、本作の中でもプログレッシヴ感の強い楽曲で、クロスオーバーのバランス感覚も優れている。まだまだSpotifyのフォロワーやミュージックビデオの再生回数は少ないものの、オリジナリティがあるし、毎日のようにリリースされていくメタルコア・シングルの中でも印象に残ってリリースを楽しみにしていたくらい印象に残ったバンドなので、これから更なる進化が期待出来ると思う。

 

▶︎Dealer 『New Order Of Mind』

2018年にオーストラリア・メルボルンで結成され、Alpha Wolfと共にニューメタルコアのトップバンドとして注目を集めたDealerであったが、度重なるメンバーチェンジによって安定しない活動が続いた。彼らの諸問題については度々指摘されてきたものの、2024年にギタリストJack Leggett、ベーシストMatthew Brida、ドラマーBrad Lipsettが加わり遂にデビューアルバムとなる本作を発表した (これまでに11名のメンバーが脱退、再加入を繰り返していた) 。

『New Order Of Mind』は、2019年の『Soul Burn』や翌年の『Saint』 (*いずれもEP) のスタイルとほとんど一緒の楽曲構成、フックで満たされており、大きなサウンドプロダクションの変化などはない。「HYPERREAL DEATH SCENE」「THE HATE YOU TRY TO HIDE」といったリードシングルも2019年〜2020年のDealerからほとんど変わっていない。それだけ先進的なサウンドをコロナ禍前に作り出していたということも凄いが、ほとんど変わっていないにも関わらずやはり細やかなところにDealerのソングライティングの良さが感じられる。「THE HATE YOU TRY TO HIDE」は2分強の短い楽曲であるが、イントロの狂気じみたインダストリアル・サウンドからニューメタルへと自然に繋がっていくところや簡単にビートダウンしない、ひねくれたところは評価出来る。不安的な精神状況を描写するミュージックビデオの数々は見る人を選ぶが、やはり2024年、ニューメタルコア・シーンにとってDealerは無視できないと思う。

 

▶︎Bite Down 『Decolorized』 EP

2019年、スウェーデンのヨンショーピングで結成されたBite DownのサードEP。これまでアルバムリリースはなく、2020年に『Trial // Error』、2022年に『Damage Control』とコンスタントにEP (またはシングル) をリリースし続けている。常にシーンにおいて存在感があり、じわじわとその名を浸透させてきた彼らの最新作は、We Are Triumphantからのリリースされたこともあり、ヨーロッパのみならず、アメリカのアンダーグラウンド・メタルコア・シーンでも注目を集めた。

ミュージックビデオにもなっており、EPのオープニングを飾る「Ynoga」は、ファストで切れ味鋭いチャギングリフをハンマーのように打ち続けていく。そしてほとんどゼロを刻み、転調も全くしないスタイルは、同郷のHumanity’s Last BreathのようなThallっぽさがあるように感じる。「Beautiful Gloom」ではDrop Eのうねるリフに吸い込まれていくような錯覚さえ感じるが、ニューメタルコアとは言い難い、プログレッシヴメタルコアを鳴らしている。良い意味でスウェーデンらしいメタルコアであり、ニューメタルコア・フレーバーを程良くブレンドしているタイプと言えるだろう。