2013年にマンチェスターで結成された4人組、Visions of Disfigurementの前作『Aeons of Misery』から4年振りとなるサード・アルバム。デスコア・バンドHymn for the Fallenの解散と共に活動を本格化したドラマーBenとベーシストAdam、Begging for IncestやChainsaw Castrationでライブ・ボーカルを務めたDan Bramleyに、DanとThe Mythic Dawnというバンドで共に活動していたギタリストTom Cahillが2019年に加入している。
磐石の体制で制作された本作、オープニングの「Absence of Remorse」から現代スラム最高峰とも言える切れ味鋭いヘヴィネスを見せてくれる。それだけでも満足なのだが、多彩なシンバルワークとスラムのパンチ力を増幅させる小技も満載で、ドラミングだけ見るとその影響はNileなどといったテクニカル・ブルータル・デスメタルからKnocked LooseやSnuffed on Sightといったハードコア/ビートダウンからの影響も感じる。Danのガテラルもピッグスクイールから、先ほども名前を挙げたKnocked Looseにあるような”Arf Arf”といったフレーズを巧みに繰り出しながら、サウンドの中心の座を他に譲らない。全体的には同じような楽曲で構成されているが、OrganectomyのAlex Paulが参加した「Secreted and Eated」やEmbrace Your PunishmentのVivien Rueが参加した「Epitaph of the Seraphim」などゲストによって彩りが添えられた楽曲も間に組み込まれている。
2014年にSpice Mutated Corpseという名前でスタートし、2017年にManifesting Obscenityへと改名したユニットの、前身名義でリリースしたアルバム『Attempts To Death』のReimagined盤。先のExtermination Dismembermentの”Revamp”との違いは、楽曲はそのままで、それを再録した形になる。イントロとWalking The Cadaverのカバーを除く8曲が収録され、アートワークも新たにボーカルのGrigoryが描き下ろした。
Karl Sandersが手掛けた楽曲が大半を占めるが、KarlとGeorge Kolliasによって共作されたオープニング・トラック「Stelae of Vultures」や2017年に加入したギタリストBrian Kingslandが3曲を作曲、うち2曲の作詞も手掛けるなど、これまでNileの中心人物であるKarl以外のメンバーが楽曲制作を手掛けることはあったものの、Karl以外で作詞を行なったのはBrianが初だと思われる。とは言え、劇的にNileサウンドから逸脱したスタイルかと言えばそうでもなく、Brianが手掛ける楽曲もNileの伝統に沿ったダイナミックなデスメタルであり、ややグルーヴメタル気味な雰囲気のある「True Gods of the Desert」、エンディングにふさわしい、じわじわと盛り立てる「Lament for the Destruction of Time」はギタリストらしいソロパートの映えるフレーズが多めだ。
Nile (2024)
一貫した世界観は変わらぬNileの魅力だが、いつにも増してローの効いたブルータル・パートが多く、よってプログレッシヴなギターフレーズの数々が立ち上がってくる。リリックビデオにもなっている先行シングル「Under the Curse of the One God」はこのアルバムの中でもブルータル・デスメタルなNileが好きな方にオススメの楽曲で、George Kolliasのテクニカルなドラミングにダークなリフが絡み付いていく (途中のオペラ調のコーラスも素晴らしい!)。結成から30年を超え、さらにヘヴィになっていくNileに感動。
イタリアのミュージシャンは独特の美的感覚を持っている。それはブルータル・デスメタルだけでなく、パンクやメタルコアにも言えることで、ふわりとした芸術性を香らせる。それはメロディにもそうだし、デスメタルの場合、Putridityもそうだが、楽曲展開に感じることが多い。Vomit The Soulは前作でも見られたスラミング・スタイルが本作では大幅に増加しているが、元来のVomit The Soulらしいブラスティング・スタイルと、まるで溶接したかのような、いびつな連なりを見せている。
ミュージックビデオになっている「Bloodtime」や「Endless Dark Solstice」のような楽曲は、Vomit The Soulがこれから得意にしていくスタイルだと思う。ドラマーDavideのプレイが注目されがちだが、楽曲展開に隠された芸術性に着目して聴いてみると、さらに面白いと思う。
▶︎Theurgy 『Emanations Of Unconscious Luminescence』
このバンドは、まるで大腸のレントゲン写真のような奇怪なバンドロゴで一部のマニアの間でデビュー前から話題となっていたが、2021年のデモ音源で、ロゴ以上にそのサウンドでも多くのブルータル・デスメタル・ファンを釘付けにした。2023年に加入したBrandonの影響もあり、New Standard Eliteらしいブラスティング・ブルータル・デスメタルとプログレッシヴなギタープレイのクロスオーバーという新たなスタイルを創出。ドラマ性のある展開が感じられ、言うなれば「プログレッシヴ・ブラスティング・ブルータル・デスメタル」という超マイクロ・ジャンルを完成させた。「Miracles of Absolute Hedonism」はアルバムの中でもTheurgyがチャレンジしていることを理解しやすい楽曲なので、まずはこれを聴いてみて欲しい。
さて本作は、ここ最近メンバーラインナップが固定されてきたが、2019年から参加していたDan Richardsonの脱退前ラスト作となっている。これは、『Awaken to the Suffering』や『The Time of Great Purification』といったPathologyの人気作品でギターを担当したKevin Schwartzの復帰に伴うものなのかも知れない。
Kevin Schwartz
2018年に復帰したボーカリストObie Flettと共にOG Pathologyなラインナップとなり、アルバムツアーに出る模様。このアルバムはミックスをZack Ohren、マスタリングをAlan Douches、そしてアートワークはPär Olofssonが手掛けた、エクストリーム・メタルの凄腕エンジニア達と共に完成させられた1枚で、ピュアなブルータル・グルーヴが聴きどころだ。ミュージックビデオにもなっており、イントロ明けのオープニングトラックである「Cult of the Black Triangle」は、難しい小技をなるべく削ぎ落として、メインリフがあり、核となるパートでブラストビートが威力を発揮するような展開が組まれていて、ベテランらしい楽曲の良さを感じる。それがほとんど全ての楽曲に貫かれていることで、コアなリスナーを寄せ付けないところはあるものの、オーガニックなデスメタルの良さがあり、何度も聴きたくなる作品に仕上がっている。
AbnormallityのMallika Sundaramurthyがボーカルを務める全員女性メンバーによるブルータル・デスメタル・バンドEmasculatorのデビューEP。CartilageのギタリストTeresa Wallace、PoonTicklerのギタリストMorgan Elle (ベースも兼任)、フォークメタル・バンドOak, Ash & Thornに在籍するドラマーCierra Whiteによる4ピース。
オリエンタルなイントロで始まるリードトラック「Eradication of the Asuras」はミュージックビデオにもなっており、ドライでガリガリとしたリフワークに、オールドスクールなデスメタル・ドラミング、そしてMallikaのガテラルが渦巻のように展開していく。わずかに導入されるブレイクもセンス有。
2006年にイタリアで結成されたIndecent Excisionは、2011年に『Deification of the Grotesque』、2015年に『Aberration』と2枚のアルバムをリリースしており、本作が9年振りのサード・アルバムとなる。オリジナル・メンバーは不在だが、2008年から在籍するNeurogenicのMatteo Bazzanellaがボーカルを務め、Shockwave ExtinctionのHannes Gamperがギター、PutridityのGiancarlo Mendoがベース、UnkreatedのDavide Farabegoliがドラムというのが現在のラインナップ。
1994年に結成され、2024年に30周年を迎えたインドネシアン・デスメタルの重鎮、Lumpurのセカンド・アルバム。アルバムタイトルは「Me and my God」を意味する。2度の活動休止を挟んでおり、ファースト・アルバムも2003年の『Escape Your Punishment』でカセットテープフォーマットであった為、インドネシア以外に知る人は少ないかも知れない。
2000年に母体となるBloodwreathを結成してから24年。今では世界中にファンを持つ、ニュージーランドで最も有名なメタル・バンドとしても知られる存在へと成長したUlcerateの前作『Stare into Death and Be Still』から4年振りとなる通算7枚目のスタジオ・アルバム。本作はバンドのオリジナルメンバーでありドラマーのJamie Saint Meratがアートワーク、そしてレコーディング、ミックスを担当し、マスタリングはMagnus Lindbergが手掛けた。
観る人によっては非常に耐えがたい、幻覚のようなミュージックビデオとして先に発表されたアルバムのオープニングトラック「To Flow Through Ashen Hearts」は、柔らかく儚げなメロディと共にゆっくりとスタートし、激化していくというUlcerateとその周辺の類似スタイルを持つバンドの典型的なスタイルであるが、こうした楽曲の多くの空白には、聴こえないかのような音の連なり、破壊音などが詰め込まれている。UlcerateのブレインでもあるドラマーJamieの豊かなドラミングはプロダクションとしても素晴らしいが、そうでなかったとしても、やはりこの記事でレビューしている他のテクニカル・デスメタル・バンドには感じられない、技術以上の鳴りがある。
同じくミュージックビデオになっている「The Dawn is Hollow」も楽曲の仕組み自体は同じであり、貫かれてきたスタイルへの自信を感じる。私は今年、持病で大きな手術をしたのだが、医療麻薬の幻覚作用は本当に強烈で、そのタイミングでしか味わえない心地を、最初の手術からそれまでずっと引きずってきた、というかその時を楽しみにしていたのだが、Ulcerateのミュージックビデオに近い、物体が溶けて結合していく感覚が麻薬にはあって、このミュージックビデオらを観るたびに、あの感覚に近づく気がして妙に没入していってしまう。
スペイン・マドリードを拠点に活動するテクニカル・ブルータル・デスメタル・バンドWormedの前作『Krighsu』からおよそ8年振りとなる4枚目スタジオ・アルバム。2018年にスラッシュメタル・バンドCancerに在籍するドラマーGabriel Valcázar、2021年にギタリストDaniel Valcázarが加入。5人体制となったWormedは、プロデューサーにスラッシュメタルを得意とするEkaitz Garmendiaを起用、ミックス/マスタリングはColin Marstonが担当した。また、これまでのWormed、そして本作のコンセプトの大きな源となっているアートワークは、1998年からベーシストGuillermo Garciaと共にWormedのオリジナル・メンバーとして舵を取るJose Luis Rey Sanchezによってデザインされている。これは、これまでと同じでありアートワークはWormedの音楽と同様に重要な要素である。
これまでのWormedはプログレッシヴなスタイルを大きく打ち出してきたバンドで、ブルータル・デスメタルとしても、テクニカル・デスメタルとしても評価されてきた。本作においては、Sci-Fiというキーワード、他にもCosmic Death Metalなどと形容されるスタイルへと系統した雰囲気がある。類似バンドで言えば、Blood IncantationやVektorといったところから、近しいところで言えば、Rings of Saturn、Coexistenceなども名前があがってくるだろう。これはミックス/マスタリングを担当しているColin Marstonが得意としているスタイルであり、彼はGorgutsのメンバーであり、多くのアヴァンギャルド・デスメタルでプレイするマルチ・インストゥルメンタリストでもあり、Wormedのやりたいこと、作り上げたいものに対する大きな理解があったではと考えられる。
マサチューセッツ州ボストンを拠点に活動するテクニカル・デスメタル中堅、Replacireの前作『Do Not Deviate』から7年振りとなるサード・アルバム。Replacireはファースト、セカンドとBrendon Flynnという素晴らしい画家がアートワークを手掛けてきたが、本作はAndrew TremblayというImperial TriumphantやPestilent Empireなどとの仕事で知られる別の画家にシフト。Andrewはもちろん素晴らしいが、Replacireの持つ世界観のうち、アートワークが占めていた要素はかなり大きいし、今回の変更は残念。
前作からの変更点としてはボーカリストがBlack Crown InitiateやThe Facelessで知られるJames Dortonに変わったことも大きい。彼の加入は、Replacireのサウンドをダンサブルにし、トリッキーなプログレッシヴ・フレーズが増加したことにも影響しているだろう。肌感覚で近いのが、2010年代にマスコア・バンドとしてブレイクし、The Facelessとも交流があっただろうArsonists Get All The Girls。彼らのような、いうなら「変態」も言うようなフレーズの組み合わせに、元来の神秘性を持たせた、一見地味にも聴こえるが実はとても新しいと言えるスタイルのサウンドで全体感が構成されている。この組み合わせのバランスは、Black Crown Initiate的であるとも言えるし、それこそOpethのようなバンドのスタイリッシュな雰囲気にも似ている。Opethも新譜を出したし、その流れでReplacireまだチェックしていない人は聴いてみると面白いだろう。本当にしつこいが、アートワーカーはBrendonが良かった……。
2006年フロリダ州タンパで結成され、後にシカゴへと拠点を移したアヴァンギャルド/プログレッシヴ・テクニカル・デスメタル・バンド、Giganの前作『Undulating Waves of Rainbiotic Iridescence』から7年振りとなる通算5枚目となるスタジオ・アルバム。バンド名は1972年公開の日本映画「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」から名付けられた。これだけ聞くとやはり、ぜひ日本でフランスのGojiraと日本で一緒にツアーしてもらいたいと思ってしまう。
さて、本作だが前作『Undulating Waves of Rainbiotic Iridescence』と同じラインナップで制作されており、アートワークもほとんど同じコンセプト。サウンドもほとんどぶれていない。初期のGiganに比べると、この2作でGiganは完璧にGigan固有のスタイルを完成させ、それを強烈に表現していると言えるだろう。アヴァンギャルドさは単に忙しなく、トリッキーであるだけでは成立しないし、エクスペリメンタルな不協和音も、あちこちに散りばめるだけではまとまりのない、退屈なアルバムになってしまう。Giganはテクニカル・デスメタルであり、プログレッシヴでアヴァンギャルドなスタイルを、どのようにして組み込むかと言うところへの情熱を加速させ、構造的に分かりやすい不協和音の導入、ドラミングの強度の揺さぶり、全体的なバランス感覚と芸術的な感性を磨き続けているように感じる。中でもオープニングを飾る8分越えの楽曲「Trans-Dimensional Crossing of the Alta-Tenuis」で感じられるGiganの魅力は全編に貫かれている。『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』では彼らについては触れなかったが、彼らのプログレッシヴでアヴァンギャルドなスタイルにおける光り輝く才能はまた別の形で書きたいと思う。
▶︎Vale Of Pnath 『Between The Worlds Of Life And Death』
これまでUnique Leader Records に所属していたニュージャージー出身のCognitiveが名門Metal Blade Recordsと契約を発表してから初めてリリースするアルバムは、前作『Malevolent Thoughts of a Hastened Extinction』から3年振りとなる通算5枚目フルレングス。Cognitiveの評価がこれほど高まってきているとは驚きで、Unique Leader Records からMetal Blade Recordsへと移籍するルートはこれまでもあったと思うが、大出世と言えるだろう。前作からメンバーチェンジもなく、レコーディング/ミックスはドラマーのAJ Vianaが手掛け、マスタリングはBart Williamsが担当した。
『Malevolent Thoughts of a Hastened Extinction』のツアー中にはすでに本作の制作をスタートさせ、前作とは違うリフをとにかく書き続けたと言う。AJはドラマーとしての他に、レコーディングエンジニアとしての顔も持っており、HathなどMetal Blade Recordsと共に仕事をする機会もあったそうで、今回のMetal Blade Recordsとの契約は、そうしたAJのエンジニアとしての経験も大いに役立っただろう。
アルバムの中でも最も印象的だった楽曲は「Matter Of A Darker Nature」。楽曲構成、中途に差し込まれるクリーントーンのフレーズやベースラインの働きによって魅力を何倍にも放つメロディが心地良い。思わずデスメタルを聴いていることを忘れるような、不思議な感覚がある。Carnophageはこれまで大きなスタイルチェンジを続けてきたバンドではないし、今後もそのような変化には挑戦しないだろうが、そういうバンドの良さと言うのは、こういう形であっても伝えていきたいと思う。
グラインドコア・シーンにビッグバンが起こる事はそうそうないが、グラインドコアとは別軸でエクストリームを加速させ、スピードを追いかけてきたデスメタルから派生したマイクロ・ジャンルが、グラインドコアの真髄に接近することで、結果的にグラインドコア的なものが誕生することはある。例えば、2010年代にカオティック・ハードコア/マスコアを激化させ、スクリーモやメタルコア、デスコアにまで触手を伸ばしたSee You Next Tuesdayの存在は、グラインドコア・リスナーの間でも名の知れたものであり、彼らをグラインドコアとして自然に耳にしている2020年代の新規リスナーもいるだろう。
2023年に15年振りとなるニュー・アルバム『Distractions』をリリースしたSee You Next Tuesday。この作品を多くのゲストを迎えてエレクトロニックにリミックスしたのが『Relapses』だ。この作品は、1997年にリリースされたFear Factoryのリミックス・アルバム『Remanufacture』に大きなインスピレーションを受け、エクスペリメンタル・グラインドコア/マスコアの中でもエクストリームなスタイルを持つSee You Next Tuesdayの楽曲をインダストリアル、ノイズ、アヴァンギャルド/エクスペリメンタルなエレクトロニックな要素をブレンドさせることによって、さらにエクストリームなクリエイティヴィティを発揮すると言うのがこの作品の趣旨だ。
バンドのブレインでありマルチ・インストゥルメンタリストのDrew Slavikによって指揮が取られ、Thotcrime、ZOMBIESHARK!、John Cxnnor、Black Magnetなど多くのアーティストがリミックスに参加し、『Distractions』の持つポテンシャルをジャンルレスに拡張している。アルバムのエンディングを飾る「The Gold Room」は、Frontiererと共に制作した全く新しい楽曲で、See You Next Tuesday & Frontiererと共作名義になっている。See You Next Tuesdayが人気を集めたのも、グラインドコア・シーンからというよりは、2000年代後期のカオティック・ハードコア・ムーヴメントの中で、エモ、スクリーモが混ざり合う混沌の中から飛び出してきたという印象。今回参加しているアーティストは、それらを聴いて青年期を過ごしただろうし、このようにして新旧のエクストリーム・メタルを追求する異端児たちがSee You Next Tuesdayを通じて、その才能を発揮し世に放つと言うことは非常に有意義なことである。グラインドコアとして聴くには難しい作品であるが、グラインドコアのポテンシャルはこのように拡張される可能性を秘めていることにメタルの底知れなさを感じることが出来るだろう。
『Relapses』と言う、グラインドコア、See You Next Tuesdayの可能性を拡張させるようなリミックス・アルバムを完成させた後も、Drew SlavikはSee You Next Tuesdayとしての創作活動を止めなかった。See You Next Tuesdayの後継者とも言えるmeth.と共に共同で作品を作るというアイデアを思いつき、そしてそのレコーディングをかなり珍しい方法で作り上げた。
See You Next Tuesday
お互いが3曲書いてレコーディングし、ドラム・トラックだけを他のバンドと共有。 それぞれのバンドは、交換したトラックの上に新しい曲と歌詞を書いていく。一方のバンドが、もう一方のバンドに影響を与えないようにするため、すべてが完成するまで、どちらのバンドももう一方のバンドから何も聞くことはせず完成させる。See You Next Tuesdayもmeth.も最終的に完成した作品には驚き、興奮したという。この作品は4つのパートに分かれており、「THE ROAD TO DOOM (feat. Guy Kozowyk of The Red Chord)」と題された3曲のパート、「EUPHORIA」と題されたSee You Next Tuesdayのパート、「SNARE TRAP」と題されたmeth.のパート、そして「PSALMS OF PAIN (feat. Billy Bottom of Nights Like These)」と題されたmeth.のパート、合計12曲が収録されている。
2007年カリフォルニアで結成されたNailsの前作『You Will Never Be One of Us』から8年振りとなる通算4枚目のスタジオ・アルバム。長きに渡りNailsに在籍してきたドラマーTaylor Young、ベーシストのJohn Gianelliが脱退し、ギター/ボーカルのTodd Jones以外のメンバーが総入れ替えとなった。本作はブラック/デスメタル・バンドUltharをはじめ、多くのプロジェクトを持つギタリストShelby Lermo、Despise YouやApparitionに在籍するベーシストAndrew Solis (本職はギターのよう)、Skeletal RemainsやPower Tripのライブドラマーを務めた経歴を持つCarlos Cruzが加入し、4人体制となった。
プロデューサーも前作同様Kurt Ballouが担当しており、Toddがメインボーカルを務めており、ほとんど前作の延長線上にあるが、3人入れ替わるだけでかなり違う。これはNailsでやりたいことが変わったからと言うのもあるかも知れないが、本作のプロダクションはかなり良い。前作のNailsのソングライティングにMotörheadのヴァイブスを注入、一見無理矢理にも感じるが、これがかなり素晴らしい。『UNSILENT DEATH』のようなものを求めるリスナーも楽しめるパワーがあるし、新しいNailsも素晴らしいものになると感じさせてくれる。「Give Me The Painkiller」とかはギターソロで笑っちゃうけど、普通にカッコ良い。
2021年にドイツ・ボーフムで結成された彼らのセカンド・アルバム。2023年にリリースされたデビューEP『Moloch』は、2023年下半期のグラインドコア年間ベスト・アルバムとしてアルバムレビューしており、この作品への期待は特別高かった。ユニークなボーカルワークはメンバー全員がメインを張れる個性が溢れており、忙しない展開に拍車をかけていく。決してグラインドコアからだけの影響でなく、デスコア、マスコア、時にノイズへと接近したり、Dream Theater顔負けのプログレッシヴ/オペラ調のフレーズまでも差し込みながら (それはRuinsや高円寺百景、BAZOOKA JOEにも聴こえるのが最高! “Planet der Affen”を聴いてほしい)、トリッキーなグルーヴでエンディングまで全力疾走。See You Next TuesdayからWormmrotまで、かなりおすすめの一枚。(Ambulante Hirnamputationのイントロもすごい笑)
▶︎Houkago Grind Time 『Koncertos of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book by Andrew Lee』
2021年にRelapse Recordsからリリースした『Garden of Burning Apparitions』以来、3年振りとなる通算6枚目となるスタジオ・アルバム。これまでもNailsとのスプリット作品などを手掛けてきたClosed Casket Activitiesへと移籍してリリースされた本作は、聴く人によって抱く感覚がかなり異なる作品ではないだろうか。この作品に漂い続けるアトモスフィアは、いったいどこから来ていて、Full of Hellがどこに向かっているのかを分からなくさせる。そういう何者か分からなさが、彼らの魅力の一つかも知れないし、今年はシーンにこんなトレンドがあって〜とか、来年はこんなバンドがブレイクする!とか、そんな事を全く気にしない姿勢でバンドがキャリアを積み重ねていくことの大切さや魅力が感じられる作品になっていると言えるだろう。
「グラインドコア」と言う言葉だけでは彼らの音楽を捉えることはもちろん出来ない。ステージのど真ん中に巨大なエフェクトボードを置き、奇抜なエレクトロニック・ビートやノイズを構築しながら、ブラストビートの雪崩を起こしていく、私たちが知っているFull of Hellの姿もあれば、古めかしいニューウェーヴのようなビートの上に奇怪なノイズを覆い被せていったり、時にエモ・ヴァイオレンス的な悲哀なメロディを炸裂させたかと思うと、懐かしいマスコア的な楽曲をストレートにぶつけてくる。直球のハードコアパンクをやっているかと思えば、それはU.G. MANを思い起こさせる、どこか絶妙なクセがある。彼らがこのアルバムでやっていることに一つの明確なコンセプトはないだろうし、ファンは形容出来ないFull of Hellのサウンドの芸術性を楽しみにしているはずだ。そう言う好奇心からすれば、このアルバムは最初から最後まで、目が離せない作品に仕上がっていると言えるだろう。
2003年カリフォルニア州ロサンゼルスで結成され、キャリア20年が経過したパワーヴァイオレンス・バンド、ACXDCの前作『Satan Is King』以来、4年振りのサード・アルバム。スプリット作品やEPなどはたくさん出ていて、特にテープ・フォーマットがかなり流通しているイメージがある。グラインドコアというよりはハードコアパンク・シーンでの認知度が高い彼らだが、Prosthetic Recordsと言うメタル中心のリリースを行うレーベルからと言うこともあり、本作はグラインドコア・リスナーの食いつきも良さそうだ。
2019年にギリシャ・アテネで結成された4人組 (レコーディング当初はトリオ編成だった模様)、Vile Speciesの前作『Against the Values of Civilization』以来、2年振りとなるスタジオ・アルバム。アーティスト写真を見る限りかなりベテラン、ライブも精力的に行っているようだ。ところどころデスメタリックなリフの展開やドラミング (ほとんどブラストビートだが) もあり、”Deathgrind”とタグ付けされている作品が好きな人はチェックしてほしい作品だ。荒っぽいプロダクションでも分かる熱気、アートワークを見て、芸術派かなと思ったが、そのサウンドのストレートさとのギャップにやられた。
Graveyard Lurkerによるワンマン・グラインドコア・プロジェクト。2022年にそれまでに制作された楽曲をリマスターしたディスコグラフィー盤『Till Death Do We Start (Complete Discography Remastered)』をリリースしているが、それからは初となるアルバムで、アートワークからも分かるように、HaemorrhageやNecrony、Regurgitateや初期Carcassといったクラシックなゴアグラインド・サウンドに親近感が湧く。完全に腐敗し切ったボーカルが地を這うようにして、ノイズまみれのブラストビートに細菌をなすり付けていく。
2022年にセルフタイトル・アルバムをリリースした後、ギタリストのWyatt McLaughlin以外のメンバーが脱退してしまったものの、元々メンバーの入れ替わりが激しいバンドであったし、すぐに新体制となって動き出したのには驚いた。ボーカリストにはPromise BreakerのTyler Beam、ベーシストAndrew Petway、ドラマーDylan Pottsの4人体制となり、ペースを落とすことなく、10曲入りのフルアルバムをUnique Leader Records からリリースした。
DisgorgeやSuffocationでの活躍で知られるRicky Myersをフィーチャーした「Letania Ingernalis」やSanguisugaboggのDevin Swankが参加したアルバムタイトル曲「No Name Graves」など、The Last Ten Seconds Of Lifeのダウンテンポ・スタイルが復活したストレートな作風が心地良い。2015年に脱退したStorm Strope以降の作品は、ニューメタルをやってみたりとやや迷走気味であったが、ここへ来てこのスタイルに戻ってきたのは嬉しいことだ。本作は彼らの通算7枚目のフルアルバムだが、ここからリリースペースも上がってきそうな雰囲気もある。まだまだThe Last Ten Seconds Of LIfeはこれからだ。再びダークで不気味なダウンテンポ・デスコアがリバイバルしたら、面白いことになりそう。
Extortionist 『Devoid of Love & Light』
アイダホ州カー・ダレーンを拠点に活動するデスコア・バンド、Extortionistのサード・アルバム。2019年にリリースした『Sever the Cord』から5年も経過していたとは……。それまでにEPやシングルリリースはあったものの、ここ数年はあまり名前を聞かないと思っていた。コロナ禍でメンバーラインナップに大きな変化があり、オリジナルメンバーであるBen Hoaglandがボーカルを務め、2022年にギタリストClayton Blue、2024年にドラマーVince Alvarezが加入している。
ダークで不気味な不協和音を静かに漂わせながら、オルタナティヴ/ニューメタルに通ずるクリーンパートを導入してExtortionistらしい世界観を見事に作り出している。本作のタイトルトラック「Devoid Of Love & Light」は間違いなく2024年上半期のデスコアの中でも印象に残った楽曲だ。
TraitorsやThe Last Ten Seconds Of LIfeといった2010年代初頭にデスコアを過激化した重鎮達が2024年も元気なことは素晴らしい。血が沸くような危険な香りが漂うデスコアがExtortionistのように独自性を持ちつつ現れ続けてくれたらデスコアは面白いものであり続けると思う。
Filth 『Southern Hostility』
ノース・カロライナ州シェルビーを拠点に活動する4人組、Filthのサード・アルバム。前作『The Ignorance』から3年、Gutter Music RecordsからCrowdKill Recordsへと移籍した彼らは、初期のダウンテンポ・デスコアスタイルを保ちながらもヒップホップのエレメンツを盛り込んだり、ニューメタルコアにヒントを得たり、実験的な要素も随所に組み込んだ。しかし、持ち前の狂気的なモッシュの熱狂を生むバウンシーなパートは健在で、フロントマンDustin Mitchellの存在感も抜群だ。
ジョージア州アトランタを拠点に活動するNuclear Blast Records所属のAlluvialのファーストEP。これまでに2枚のアルバムをリリースしており、初期はプログレッシヴ・デスメタルであったが、現在までにプログレッシヴ・デスコアへとそのスタイルを変化させてきた。バンドの中心人物であるギタリストのWes Hauchは、元The Facelessのメンバーであり、過去にはBlack Crown InitiateやThy Art Is Murderのライブ・ギタリストとして活躍し、現在はAlluvialの他に、Glass Casketにも在籍している。ベーシストのTim Walkerは元Entheosのライブメンバーで、ボーカルのKevin Mullerはブルータル・デスメタル・シーン出身で元Pyrexia、Suffocationのライブでサポートを務めた経歴も持つ。2022年にドラマーZach Deanが新加入し、現在のようなスタイルを確立した。
Alluvial自体はプログレッシヴ・デスメタルとしてスタートしたが、Wesの経歴と続々と新加入するタレント・ミュージシャンの経歴から考えて、現在のスタイルは彼らにぴったりなものであると言えるだろう。「Bog Dweller」のような現代デスコアのスタンダードとも言えるものから、EPのタイトル曲「Death Is But A Door」のようにプログレッシヴ・デスメタルの名残とも言える楽曲もあり、その魅力は多彩だ (“Death Is But A DoorのMVは必見です) 。Nuclear Blast Records所属ということを考えれば、このままヘヴィなデスコアへと変貌していく姿は想像しにくいが、ピュアなプログレッシヴ・メタルをそのままデスコアに注入したようなサウンドは貴重なので、Alluvialがその先頭に立ってシーンを切り開いていってほしい。
And Hell Followed With 『Untoward Perpetuity』 EP
2022年に12年振りとなるセカンド・アルバム『Quietus』をリリースし、長いブランクから復活を遂げたミシガン州デトロイトのAnd Hell Followed With、本作は4曲入りであるが、ブラッケンド・デスコアの影響を受けつつもクラシックなデスコアの構築美を持つ作品に仕上がっており、全てがリード曲といっていいほどの完成度を誇る。
最も印象的なのは3曲目の「Kaleidoscope of Tenebrosity」だ。ブラッケンド・デスコアへとやや接近しつつも予測不可能な展開を繰り広げていきつつも、雷のようなブレイクダウンを打ち付けていくという、玄人向けの楽曲。ただ、テクニカルなベース、ブラストビート、ヒロイックなギターソロはテクニカル・デスメタル/メロディック・デスメタル・リスナーも楽しめると思う。地味な存在であることは変わりないが、アメリカのアンダーグランド・デスコア・シーンでは誰よりも長いキャリアを持ち、ブランクを感じさせない完成度を誇る本作、チェックしておくべき1枚だ。
Bonecarver 『Unholy Dissolution』 EP
スペイン出身のBonecarverのEPが凄いことになっていた。彼らがUnique Leader Records と契約した時には気づかなかったが、彼らはかなりテクニカルなことをやっている。そして、Brand of Sacrificeのようなブルータル・デスコアに影響を受けつつも、ブラッケンド/メロディックなアプローチにも磨きをかけ、「テクニカル・ブラッケンド/メロディック・デスコア」とも形容したくなる、容赦ないEPを作り上げた。トータルは15分であるが、内容の濃さは1時間のアルバムと変わらないくらいではないだろうか。
収録されている5曲全てにゲストが参加しており、The Last Ten Seconds Of LifeのTyler、VulvodyniaのKris、DistantのAlan、AngelmakerのMike、Signs Of The SwarmのDavidといったデスコア・トップシーンの人気者達がBonecarverサウンドをさらにユニークなものに仕立ててくれる。特にDistantのAlanが参加している「Purgatory’s Embrace」はシンプルな作りながらデスコアの旨みだたっぷりと詰まった楽曲で、ブルータル・デスメタル、テクニカル・デスメタルも好きならたまらない楽曲だろう。さまざまな装飾によってダイナミズムを増すバンドが多いが、Bonecarverのようにシンプルに楽曲の良さで勝負してくるバンドは好感が持てる。ソングライティングも良ければ尚更だ。かなり聴き込む価値のあるEPであると言えるだろう。
Drown in Sulphur 『Dark Secrets Of The Soul』
イタリア・ロンバルディア州を拠点に活動するデスコア・バンド、Drown in Sulphurの2021年にリリースしたデビュー・アルバム『Sulphur Cvlt』以来3年振りのセカンド・アルバム。かなりの頻度でシングル・リリースを続けてきたこともあり、3年という時間が空いたようには感じられないほど、彼らの名前はデスコア・リスナーの間では身近なものではないだろうか。
本作は、彼らはデスコアから脱却を図っているかのようなサウンドで話題になった。もちろん、切れ味鋭いブレイクダウン、ダウンテンポ・デスコアに接近するかのような強烈なブレイクはあるものの、最も注目したいのが、シンフォニック・ブラックなオーケストレーションだ。それは全編に渡って重厚で、『Dark Secrets Of The Soul』のムードを担う重要な要素と言える。Anorexia NervosaやDimmu Borgirのようなブラックメタルからの影響が顕著であることは、デスコアという小さなジャンルだけでなく、さらに多くのファンベースへアプローチ出来る可能性を秘めているということである。アートワーク、タイトル、ヴィジュアル、Drown in Sulphurがデスコア・バンドとしてではなく、シンフォニック・ブラックメタル・バンドとして広く認知される日も近いかもしれない。イタリア出身というのも、今後のブレイクやバンドの方向性の鍵となってくるだろう。
「Lotus」といった6分越えのバラード調の楽曲から、デビュー当時のデスコア・スタイルと今のスタイルを上手くクロスオーバーさせた「Eclipse of the Sun of Eden」など、アルバム通してDwon in Sulphurの過去と未来が感じられる作品に仕上がっていると言えるだろう。ぜひ一度じっくりと聴き込んでみて欲しい作品だ。Lorna ShoreファンからDimmu Borgirファンまで、受け入れられる作品。
Nights Of Malice 『Unholy Genesis』 EP
2009年にニュージャージー州で結成されたNights of MaliceのセカンドEP。2019年にセカンド・アルバム『Sonnets of Ruin』をリリースしてからはグッとブラッケンド・スタイルへと移行し、メンバーラインナップもボーカリストBrendan McGrath、ギタリストXavier Quiles、ベーシストRick Smith、ドラマーJoe Capassoの4人組へとチェンジ。結成から15年、『Sonnets of Ruin』以降はメンバーは全員黒いマントをまとい、雰囲気たっぷりのミュージックビデオでファンを魅了してきた。
『Unholy Genesis』はメロディックデスメタルとしても優れており、ミュージックビデオになっている「Hell Stirs For Me Below」ではツインリードをエンディングに据え、ドラマ性の高い楽曲に仕上げている。先行シングルとして発表された「Hubris and Retribution」もセンチメンタルなメロディを爪弾くアルペジオから幕を開け、荘厳さを纏いながらダイナミックなデスコアをプレイしている。メロディック/ブラッケンド・デスコアでありながら、メロディック・デスメタルでもあり、ブラックメタルでもあるNights of Maliceは、その多様性からか大ブレイクとまでいかない存在であるが、彼らのソングライティングの良さは本物だ。
一つは、このジャンルのトップを走ってきたToo Close To TouchのシンガーKeaton Pierceの訃報、そしてそれに伴うバンド活動の終焉だ。このあとアルバムレビューをしているが、やはり訃報によるバンドの活動終了のニュースはダメージが大きい。Keatonが残した音楽を文章という形でこれから残していくことが重要であることは間違いないが、やはり、生きている時にその魅力を広げていくことがこのブログの役割なのではないだろうか。そういう意味でもToo Close To Touchをはじめ、ポストハードコアの魅力を出来る限り文字で残していくことを決めた。
もう一つの理由としてはRIFF CULTのチームが運営しているRNR TOURSで積極的に招聘しているポストハードコア・バンド達の存在だ。今年はSoftspokenといった現行アメリカン・ポストハードコア・シーンで高い注目を集めているバンドから、Tidebringer、Across The White Water Towerなどメタルコア/ポストハードコア・バンドなど、とても良いバンドに恵まれ、良いツアーが出来た。今でこそ、毎月のように多くの「メタルコア」バンドが来日しているが、ポストハードコア・バンドはある程度人気が確立されているバンドでないと、来日しない。共演するアーティストも国内のポストハードコア、と呼べるシーンがないことから、難しい。でも、難しいからやらないのか?RNR TOURS、RIFF CULTが良いと思ったミュージシャンならオファーがあればやるべきではないのか?その下地をしっかり作っていく意味でも、日々ポストハードコアという音楽ジャンルの今について、発信していくべきではないのか。RIFF CULTに出来ることをやってないのに、言い訳じみたことは言いたくない。個人的な思いで申し訳ないが、こうした二つの出来事がきっかけで、しっかりRIFF CULTでもポストハードコアという音楽ジャンルについて発信し直していこうと決めた。その第1弾として、2024年の上半期にリリースされたポストハードコアに分類可能な音楽の中から優れた作品をレビューしていきたいと思う。長くなってしまったが、毎日少しずつでも、レビューの作品を聴いてみて、新しいお気に入りを見つけて欲しい。
Hands Like Houses 『STRATO』 & 『TROPO』
オーストラリアを代表するポストハードコア・バンド、Hands Like Housesが2024年上半期だけで、2枚のEPをリリースした。それぞれ4曲入りの作品で、Hands Like Housesの新章幕開けに相応しい作品として印象に残っている。
2023年にオリジナル・ボーカリストとして長年に渡ってHands Like Housesのフロントマンを務めたTrenton Woodleyが脱退。バンドは新たにThe FaimというバンドのボーカリストJosh Ravenをフロントマンに迎え、活動を継続することを発表した。15年のキャリアを経て、このタイミングで新しいフロントマンを迎えるというのは、バンドにとって大きな決断であったことは間違いない。同年12月にJoshとの最初のシングル「Heaven」を発表。Hands Like Housesはこのシングル・リリースに際し「Joshとの出会いは、私たちの魂の探求の重要なポイントであり、彼は私たちの中にポジティブな変化をもたらしてくれた。 私たちは、ここに辿り着くまでの道のりを深く掘り下げ、この新鮮なエネルギーと熱意によって、どのような姿とサウンドになるかを想像した。 私たちは、創造することへの深い愛と、アイデアを共有するための前向きな環境を再発見した。 私たちは一歩引いて、そもそもなぜこれを始めたのかという根本に立ち返りました。 次の章では、私たちにインスピレーションを与え、やる気を起こさせるようなサウンドやアイデアを探求し、このプロセスを皆さんと共有できることを楽しみにしています」とコメントしており、Joshとの出会いをきっかけに更なる想像を続けたいというクリエイティヴな想いが伝わってくる。
3月に『Tropo』、6月に『Strato』とリリースされたこれらのEPは、バンドのコンポーザーであるギタリストAlexander Pearsonとオーストラリアを代表するプロデューサーでTrophy Eyes、Deez Nuts、Tonight AliveからStepsonまでを手掛けた経歴を持つCallan Orrがタッグを組んで制作された。UnderoathのAaron Gillespieをフィーチャーした「Better Before」、RedHookの女性ボーカリストEmmy Mackをフィーチャーした「BLOODRUSH」、The Getaway PlanのMatthew Wrightをフィーチャーした「Paradise」など、伝統的なHands Like Housesのエレクトロニックなポストハードコア・サウンドに彩りを添えるようなゲストが参加しており、Hands Like Housesの未知なる魅力が垣間見える楽曲がずらりと並んでいる。アルバムという形式をとらなかったのも、これらゲストの個性をより際立たせるのが狙いだったのかもしれない。それほど、楽曲ごとの個性が違った煌めきを放っているのが、『Strato』と『Tropo』だ。Joshのボーカルは、Trentonと比べるとかなり違ったタイプだが、例えばBeartoothのCalebなどにも似た声質でありながら、Hands Like Housesらしい滑らかなポストハードコアにもマッチしている。バンドが創造できる音楽性の幅もグッと広がり、これからさらに多くの音楽を生み出してくれるに違いない。彼らの再出発を歓迎したい。
Too Close To Touch 『For Keeps』
ケンタッキー州レキシントンで2013年に結成されたToo Close To Touchのファイナル・アルバム。2022年3月、フロントマンであるKeaton Pierceが急逝、Epitaph Recordsに所属し、ポストハードコア・リスナーで知らない人はいないという程の有名シンガーの訃報に、シーンはどよめき悲しみに包まれた。本作のタイトル『For Keeps』は、残されたメンバーであるギタリストのMason Marble、ドラマーKenny DowneyがKeatonのニックネーム「Keeps」をもじって名付けたもので、未完成の楽曲などに彼らの友人である仲間達をフィーチャーして作り上げられた、Too Close To Touchからファンへの「最後の贈り物」だ。
このアルバムは、従来のアルバムのようなものとして聴くことは難しいだろう。2023年秋、Keatonの誕生日に合わせてリリースした本作からの先行シングル「Hopeless」には、The Word AliveのTelle Smithが参加、他にもアルバムのオープニングを飾る「Novocaine」にはBad Omens、「Designer Decay」にはCane Hillがゲスト参加し、未完だったToo Close To Touchの楽曲に新たな息吹を吹き込んでいる。これまでBillboard Chartへラインクイン、さまざまなフェスティバル、ツアーでファンを魅了してきたToo Close To Touchはこのようにして活動を終了することはとても悲しいが、彼らが残してくれた音楽をこれからも大切に聴いていきたい。Keatonの書いてきた歌詞をこれからもじっくりと味わい、彼らの存在を忘れないように胸に刻みたい。R.I.P. Keaton Pierce。
Sienna Skies 『Only Change Is Permanent』 EP
2007年シドニーで結成され、これまで実直に活動を続けてきている実力派ポストハードコア・バンド、Sienna Skiesの久しぶりの新作。2016年にアルバム『A Darker Shade of Truth』をリリースしてからは作品のリリースがなかったので実に8年振りのカムバックとなる。個人的には、彼らの初来日ツアーを担当させてもらい、Sailing Before The Windとの全国ツアーなど2度一緒にツアーさせてもらったが、オーストラリア人らしい周りをポジティヴな気持ちにさせてくれる陽気なメンバー達で深く思い出に残っている。あれからメンバーチェンジもなく、厳しいコロナ禍を乗り越えてリリースされた『Only Change Is Permanent』はEPでありながら、これまでリリースしてきたアルバムにも引けを取らない充実感がある作品だ。
ThomasはSienna Skiesのボーカリストとして加入してから今年で10年ということで、オリジナル・ボーカリストのキャリアも超えて完璧なバンドのフロントマンへと成長した。そんな彼の歌声の持つ力強さ、繊細さが感じられるのがミュージックビデオになっている「Mess」「Don’t Let Me Go」の2曲だろう。どちらもタイプの違う曲であり、「Mess」は初期Sienna Skiesが多くのバンドと一緒に作り上げてきたオーストラリアン・ポストハードコアのクラシック・スタイルを下地にしつつ、ベテランらしいドラマ性溢れる一曲で、「Don’t Let Me Go」は胸を打つバラードだ。もちろんEP収録の全ての楽曲が素晴らしく「Cut Me Off」「Let It Burn」といったハードな楽曲もあるが、Sienna Skiesはやっぱりバラードが上手いと思う。これは、ベテラン・ポストハードコア・バンドにしか出せない魅力だ。Sienna Skiesは今年で結成17年。オージー・エモ/ポストハードコアのパイオニアとしての影響力はこれからさらに高まっていくはずだ。
Imminence 『The Black』
2009年スウェーデン最南端の町トレレボリで結成され、今年結成15年目を迎えるベテラン・ポストハードコア・バンド、Imminenceの前作『Heaven in Hiding』からおよそ3年振りとなる通算5枚目のフルアルバム。Arising Empireを離れ、自主制作で発表された本作は、バンドの中心人物であるギタリスト/バックボーカルのHarald Barrett、そしてボーカル/ヴァイオリンを担当するEddie Bergのタッグでプロデュースされている。
Imminenceと言えば、「Eddieのヴァイオリンの音色によって立ち上がる美麗なポストハードコア/メタルコア」というイメージが強いが、やはりメタルコア・バンドとしても非常に優れたソングライティングをしているということが、本作では今まで以上に伝わってくる仕上がりとなっている。そして、歌詞がめっぽう暗いのも印象的だった。アルバムタイトルの「The Black」は、一貫した本作のヴィジュアルイメージであり、歌詞においてもキーとなる単語である。「Desolation」ほか、この「Black」というイメージを通じて苦しみ、悲しみ、怒りなどさまざまな感情を吐き出していく。そしてそれは自然とダークで深みのある激情的なものとなり、これまで以上にパワフルなメタルコア・サウンドが占める割合も増えている。「Death by a Thousand Cuts」はアルバムの中で最も胸を打つ歌詞とサウンドで、ファンからもこの曲がアルバムの中で最も気に入っているというコメントがソーシャルメディアでも散見される。絶望の淵から、痛みや苦しみを嘆きながら、生きるとは、死ぬとは、そういう答えのない問いを溢れ出てくる感情のまま詩的に表現する歌詞世界には思わず息をのむ。
If Not for Me 『Everything You Wanted』
ペンシルベニア州ハリスバーグを拠点に活動するメタルコア/ポストハードコア・バンド、If Not for Meのセカンド・アルバム。前作『Eulogy (InVogue Records)』から2年振りとなる本作は、ボーカリストPatrick Glover、ベーシストZac Allen、ギタリストHayden Calhoun、ドラマーCody Frainという新ラインナップで制作され、プロデュースはIce Nine Killsのギタリストでありペンシルベニアの多くのバンドを手掛けるRicky Armellinoが担当している。
Patrickの伸びやかなクローンボーカルをスタイルのメインに据え、Until I WakeやCatch Your Breathなどと比べられることが多いが、いわゆる2010年代Rise Records以降に育まれたきたサウンドがベースとなっており、If Not for Meの特徴としては、ヘヴィなメタルコア・ブレイクダウンと滑らかなクリーンパートのバランス感覚が優れていることにあるだろう。ドラマーのCodyはA Scent Like Wolvesのドラマーとしても知られ、SoftspokenやEyes Set To Killらが在籍するアメリカ屈指の美メロ・ポストハードコア・レーベルとして知られるTheoria Recordsのヘッドを務めている。InVogue RecordsからThriller Recordsへと移籍しても、同レーベルのDark DivineやRain City Driveなどと肩を並べる存在として、現在人気急上昇中だ。甘いハイトーンとヘヴィなメタルコア、どちらも好きならIf Not for Meはおすすめ。
A Scent Like Wolves 『Distant Dystopia』
ペンシルバニア州ランカスターのメタルコア/ポストハードコア・バンド、A Scent Like Wolvesの3年振り通算4枚目のフルアルバム。来日経験も豊富で、本作のエンディングを飾る「Escape Hatch」にはフィーチャリング・アーティストとしてSailing Before The Windがクレジットされていたり、過去にはRyo Kinoshitaをフィーチャーしたシングルをリリースしている。コロナ禍前後でメンバーチェンジが相次ぎ、一時期7人組になったりしたものの、現在は5人体制で落ち着いている。ツインボーカルのBoltz兄弟は二人ともラインナップされているが、シャウト・ボーカルを担当するNickがランカスターを離れた為、本作はオンラインベースで制作され、最近はなかなかライブも出来ていないようだ。ドラムのCodyもIf Not For MeのブレイクやTheoria Recordsの仕事で忙しそうである。
メンバーそれぞれに状況が変わりながらも、A Scent Like Wolvesが続いていることは幸せなことだ。アメリカン・メタルコアのリアルさは彼らのようなバンドにこそあるし、アンダーグラウンドであっても情熱を絶やさずにバンド、レーベル、そして友人のバンドのサポート (A Scent Like WolvesのAlは先日、Softspokenのカナダ公演でSam不在の穴を見事に埋めた) にも積極的なのは見習うべき姿勢だろう。
さて肝心の『Distant Dystapia』だが、彼らが得意とするプログレッシヴ・メタルコアのアトモスフィアと力強いブレイクダウン、そして突き抜けるようなクリーンは健在でリードシングルとしてミュージックビデオにもなっている「Sunscape」や「Spell Caster」は必聴である。特に「Spell Caster」はこれまでにないA Scent Like Wolvesのメロディメイカーとしての才能が表れた良曲であり、アルバムのプレ・エンディングを飾るに相応しい楽曲と言えるだろう。彼らが元気に活動しているということだけでも嬉しいが、やはり本作も素晴らしい出来で、とても楽しんで聴くことが出来た。「Reach Into Hell」で友情フィーチャーしているZOMBIESHARK!は彼らの地元の仲間で、初来日時に帯同していつもクルーを笑わせてくれたナイスガイ。
Eidola 『Eviscerate』
2011年ユタ州ソルトレークシティを拠点に結成されたEidolaの通算5枚目のフルアルバム。前作『The Architect (2021年)』から引き続きRise Records / Blue Swan Recordsからのリリースで、プロデュースはGrayWeatherのギタリストとして知られるMike Sahmが担当している。
本作は、これまでEidolaが鳴らしてきたスワンコアに、元来Eidolaが持っていたプログレッシヴメタルのパワフルなアンサンブルを復活させ、高次元融合させた快作である。オリエンタルな音色が印象的なイントロ「Atman: An Introduction to Suffering」で幕を開けると、「A Bridge of Iron and Blood」「No Weapon Formed Shall Prosper」とテクニカルなタッピングフレーズが飛び交うパワフルな楽曲が続いている。続く「Who of You Will Persevere」は本作の中でも最も優れた楽曲であり、Andrew WellsとMatthew Dommer のボーカルの掛け合いも素晴らしく、エレクトロニックなエレメンツやダンサブルなビートを交えながら、ライブ映えする展開がエンディングまで途切れない。「Fistful of Hornets」「Kali Yuga」と個性的な楽曲がいくつも収録されている。特に「Kali Yuga」では女性ボーカリストChantelle Wellsをフィーチャーし、力強いボーカルワークに引き込まれる。ほとんどがDance Gavin Danceクローンとも言えるマイクロジャンル「スワンコア」の持つ可能性を拡大するEidolaの溢れんばかりの創造性が感じられる一枚だ。
アートワーク、そしてヴィジュアル、ミュージックビデオに至るまで一貫したホラーテイストで貫く彼らだが、そのサウンドは逆にバラエティに富んだもので、ポストハードコアからニューメタルコアに接近するかのようなヘヴィな楽曲まで『Good Days, Dead Eyes』には収録されている。Saving Viceのバンドサウンドの根底に流れているのは、一聴すれば分かるようにMy Chemical RomanceやAlesanaといったバンドであり、それはTyler SmallとChase Paparielloのクリーンとシャウトのツインボーカルの掛け合いにも表れている。「Cry, Wolf」や「Haec Est Ars Moriendi」といった楽曲では、彼らが目指している世界観が細部に至るまで作り込まれており、特に「Haec Est Ars Moriendi」はアルバムの中でもキーリングになっていると言えるだろう。「Blood or Wine?」のようなヘヴィなテイストの楽曲も粗っぽい部分はあるものの彼らの既存曲のラインナップを考えれば、ライブで光り輝く楽曲だと言えるだろう。まだまだ彼らはこんなもんじゃないだろう。『Good Days, Dead Eyes』は、アメリカン・メタルコア/ポストハードコアの過去と未来を繋ぐ、そんな作品であるように感じる。
アリゾナ州フェニックスのデスメタル・バンド、AtollがUnique Leader Records からリリースした通算5枚目のフルアルバム。Avarice、Eyes of Perdition、Grofbólに在籍するボーカリストWade Taylor、元IconocaustのMatt MarkleとSpencer Fergusonがギター、ベースはCameron Broomfieldで、Rising Pain、Searching for Reasonにも在籍するAndy Luffeyがドラマー、という一見そこまで有名とは思えない経歴からなるバンドであるが、何故かUnique Leader Records と前作から引き続き契約してアルバムをリリースしている。
本作でまず目を引くのがFrancisco Fez Leivaというチリ出身のアーティストが担当したアートワークだ。巨大なミキサーに向かって人間が悲鳴をあげながら降り注いでいる様はなんとも残酷な描写だ。これはYouTubeにアップされているヴィジュアライザーでも多くのブルータル・デスメタル・リスナーを惹きつける。
Between the Killings、Necessary Death、Severed Headshopといったバンドで一緒に活動するベーシストのIan DygulskiとドラマーJustin Wallisch、Apophatic、Solar Flare & the Sperm Whales of Passionなど、幾つものアンダーグラウンド・バンドを兼任する、同じくアメリカ出身のボーカリストKyle Messick、そして前述のMass Killingsにも在籍するイギリス出身のTom Hughesがギタリストを務めるウェブベースの4人組”Maimed”によるデビュー・アルバム。コロナ禍でこうしたプロジェクトは一気に増えて、10を超えるバンドを兼任するような、創作意欲溢れるデスメタル・ミュージシャン達が一気に増えたように感じる。彼らに関連するバンドをいくつもリリースしているレーベルSewer Rot Recordsからリリースされた本作は、紫と青を基調としたけばけばしいアートワークが目を引く。こうしたアートワークはオールドスクールなデスメタル・バンドの近作に多く見られる。彼らもそうしたオールドスクールな流れの中にあるように感じるフレーズが随所に感じられる。
1998年結成、テネシーのブルータル・デスメタル・レジェンドであるBrodequinの20年振りとなるニュー・アルバムはSeason of Mistからのリリースとなった。ドラマーJon Engmanが健康問題からドラムを長時間叩くことが出来なくなってしまい、一時期サンプラーを使用しそれをハンドドラムでプレイするというライブ・パフォーマンスをしていたが、残念ながらJonは2016年に脱退してしまった。
2020年にバンドとほぼ同い年、弱冠27歳のドラマーBrennan Shacklfordが加入。彼はLiturgyやNacazculにも在籍し、元Cesspool of Corruptionのメンバーでもあり、Brodequinのブラスティング・スタイルを引き継ぐにはぴったりの技巧派だ。Brodequinの伝統的スタイルはほとんど変わっていないものの、メロディック・ブラックメタルの影響を感じさせる「Of Pillars and Trees」やオペラ調のサンプリングを施した「Theresiana」など新しい試みも感じられる。古代の拷問、というバンドの長年のコンセプトはそのまま。
マサチューセッツ州ボストン在住のColin J. Buchananによるソロ・プロジェクトで、2020年に活動を開始してわずか4年足らずで32枚もアルバムをリリースしている狂人。これに加えておかしな量のEPやシングルも発表している。ブルータル・デスメタルというジャンルは10年単位でアルバムをリリースするバンドもごろごろいる中、彼の創作意欲には驚くばかりだ。
オーストラリア・メルボルンを拠点に活動するニュー・メタルコア・バンド、Alpha Wolfのサード・アルバム。大ブレイクのきっかけとなった前作『A Quiet Place to Die』から4年、「ニューメタルコア」というサブジャンルの草分け的存在としてシーンのトップを走り続けてきた彼らが、どれだけ驚異的なスピードで成長してきたかは日本のメタルコア・ファンが良く知っているのではないだろうか。セカンド・アルバム前、Emmureの『Look at Yourself (2017年)』を発端に本格的にニューメタルとメタルコアのクロスオーバー・ジャンルが立ち上がり、その後リリースされたEP『Fault』でAlpha Wolfはニューメタルコアを確立。リリースを記念したアジアツアーは2019年に行われ、Suggestionsが帯同し、ニューメタルコア・シーンの影響を国内で最も早く取り入れたPROMPTSやPaleduskなどが出演、ヘッドライナーツアーを盛り上げた。200-300キャパで行われたこの日本ツアーから4年が経ち、再来日を果たしたAlpha WolfはPaleduskの「INTO THE PALE HELL TOUR FINAL SERIES」に出演し、SiMやFear, and Loathing in Las Vegas、coldrain、PROMPTSと共演を果たしている。この飛躍的な人気の拡大は決しては日本だけでは起こったものではなく、母国オーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも同様に起こった。
本作はニューメタルコアとしてシーンのトップを牽引し、後続に道筋を作り続けてきたAlpha Wolfが、更に独自性を拡大することにチャレンジした作品だと言えるだろう。いくつかの挑戦は、刺激を求めるメタルコア・リスナーにとっては受け入れられないものであったかもしれないが、ニューメタルコアというジャンルの成熟にとっても、Alpha Wolfが次のフェーズに進むためにも必要な挑戦であったと言えるだろう。中でもミュージックビデオになり、ヒップホップ・シーンの重鎮Ice-Tをフィーチャーした「Sucks 2 Suck」は、ニューメタルという音楽の核を見つめ直し、SlipknotやLimp Bizkitといったクラシックなスタイルからの影響をバランスよく配合しつつも革新的なメタルコアを鳴らしている。同じくミュージックビデオにもなっている「Whenever You’re Ready」では、オーストラリアのメタルコア、Northlaneや初期Void of Visionの影響が色濃く反映された楽曲でニューメタルコアとは言えない楽曲にも挑戦している。
Emmureを始祖とし、Alpha WolfやDealerをニューメタルコアの第1世代と捉えるのであれば、彼らは第3世代のトップに躍り出るポテンシャルを持ったバンドではないだろうか。Darko USやAlpha Wolf直系とも言えるDiamond Constructなどに比べれば、まだまだデビューしたばかりの新人だが、やってることはそれらのバンドに匹敵する才能溢れたものだと感じる。デスコアにも接近するヘヴィネス&ビートダウン、ほとんどハーシュノイズウォールにも聞こえる歪んだワーミー、Slipknotが下地にあることがほんのりと感じられるフレーズ、HAILROSEを彷彿とさせるハードコアテクノやガバ、ブレイクビーツといったエクストリームなエレクトロ・ミュージックからの影響など、ここ最近のニューメタルコアとタグ付けされるバンドの中では頭一つ抜きん出た才能溢れるアレンジが随所に施されている (やや一辺倒な感じがしなくもないが)。The Hate Projectのサポートとしてライブが決まっているなど、まだまだライブ・シーンにおいては始まったばかり。今後の成長が楽しみなバンドだ。今からチェックすべし。
▶︎Darko US 『Starfire』
Chelsea GrinのボーカリストTom BarberとドラマーJosh Millerによるユニット、Darko US。有観客のライブをしない音源制作メインの活動方針をとり、2020年のデビューから毎月のように音源リリースを続けてきた彼らのサード・アルバムとなる本作は、驚異の19曲入り、トータルタイムが71分と濃密過ぎる内容となっている。
2014年にテキサス州ダラスで結成され、ボーカリストJay Webster、ギタリストAlberto Vazquez、ベーシストAustin Elliott、ドラマーMiguel Angelという不動のメンバーで活動を続けている。彼らはThe Story So Farなどが在籍するPure Noise Recordsに所属しており、「ニューメタルコア」というよりは「ラップメタル」とか「ラップコア」と呼ばれることが多い。
本作はシングル「Playing Favorites」と他3曲収録のEP (昔はこのくらいのボリュームならシングルだったかもしれない) で、プロデュースはA Day To Rememberの『Homesick』や『Common Courtesy』、そのほかThe Ghost InsideやWage Warを手掛けるAndrew Wadeが担当している。Andrewが手がけたことでも分かるように、ハードコアのパッション溢れるフックが彼らのヒップホップのDNAと化学反応を起こしている。「Playing Favorites」で言えば、ブルータル・デスコア・バンド、PeelingFleshをも彷彿とさせるヘヴィなリフとスクラッチ、クラシックなニューメタル・ワーミーを交えたシンプルでありながらブルータルなトラックの上でJayがラップする、極上のラップメタルに仕上がっている。ニューメタルコア・リスナーも見逃せないUnityTXから、ラップメタルも掘り下げてみると面白いだろう。
▶︎cohen_noise 『Some Things Aren’t Forever, But For A Reason: Vol. 1』 EP
2019年ドイツ・アーレンを拠点にスタートしたDefocus、2021年の『In the Eye of Death We Are All the Same』以来、3年振りとなるセカンド・アルバム。本作はArising Empireからリリースされ、AvianaやAbbie Fallsといったヨーロッパのヘヴィ・メタルコア・バンドを多数手掛けるVojta Pacesnyによってプロデュースされた。10曲32分とコンパクトな仕上がりながら、その内容は非常に充実しており、想像以上の満足感が得られるはずだ。けばけばしいワーミーやベースドロップを削ぎ落とし、現行ユーロ・メタルコアのヘヴィネスを下地としたサウンドを展開している。だからこそ映えるブレイクビーツやエレクトロニック・パートがDefocusを特別なニューメタルコアたらしめる魅力を放っている。After the BurialやCurrents、そしてPROMPTSといったバンドの系譜にあるようなヘヴィさがあり、多方面のメタルコア・リスナー、さらにはデスコア・リスナーにも引っかかるようなブレイクダウンを搭載した楽曲もいくつか収録されている。中でも「flatlines」のエンディングはブルータルだ。
『New Order Of Mind』は、2019年の『Soul Burn』や翌年の『Saint』 (*いずれもEP) のスタイルとほとんど一緒の楽曲構成、フックで満たされており、大きなサウンドプロダクションの変化などはない。「HYPERREAL DEATH SCENE」「THE HATE YOU TRY TO HIDE」といったリードシングルも2019年〜2020年のDealerからほとんど変わっていない。それだけ先進的なサウンドをコロナ禍前に作り出していたということも凄いが、ほとんど変わっていないにも関わらずやはり細やかなところにDealerのソングライティングの良さが感じられる。「THE HATE YOU TRY TO HIDE」は2分強の短い楽曲であるが、イントロの狂気じみたインダストリアル・サウンドからニューメタルへと自然に繋がっていくところや簡単にビートダウンしない、ひねくれたところは評価出来る。不安的な精神状況を描写するミュージックビデオの数々は見る人を選ぶが、やはり2024年、ニューメタルコア・シーンにとってDealerは無視できないと思う。
▶︎Bite Down 『Decolorized』 EP
2019年、スウェーデンのヨンショーピングで結成されたBite DownのサードEP。これまでアルバムリリースはなく、2020年に『Trial // Error』、2022年に『Damage Control』とコンスタントにEP (またはシングル) をリリースし続けている。常にシーンにおいて存在感があり、じわじわとその名を浸透させてきた彼らの最新作は、We Are Triumphantからのリリースされたこともあり、ヨーロッパのみならず、アメリカのアンダーグラウンド・メタルコア・シーンでも注目を集めた。
ミュージックビデオにもなっており、EPのオープニングを飾る「Ynoga」は、ファストで切れ味鋭いチャギングリフをハンマーのように打ち続けていく。そしてほとんどゼロを刻み、転調も全くしないスタイルは、同郷のHumanity’s Last BreathのようなThallっぽさがあるように感じる。「Beautiful Gloom」ではDrop Eのうねるリフに吸い込まれていくような錯覚さえ感じるが、ニューメタルコアとは言い難い、プログレッシヴメタルコアを鳴らしている。良い意味でスウェーデンらしいメタルコアであり、ニューメタルコア・フレーバーを程良くブレンドしているタイプと言えるだろう。