【2024年下半期】スラミング・ブルータル・デスメタルの名盤 6選 アルバムレビュー

2024年の6月から12月にかけて発表されたスラミング・ブルータル・デスメタル (スラミング・ビートダウン、スラミング・デスコアを含む) の中から、RIFF CULT的に高く評価した6枚の作品をアルバムレビューしました。今年は上半期に10枚のアルバムをすでにレビュー、記事として公開していますので、そちらも合わせて読んでみてください。新しいお気に入りのアーティスト、そして作品が見つかりますように。

📍【2024年上半期】スラミング・ブルータル・デスメタルの名盤10選 アルバムレビュー

 

▶︎Peeling Flesh 『The G Code』

Country : United States
Label : Unique Leader Records
Streaming : https://uniqueleaderrecords.bandcamp.com/album/the-g-code

オクラホマ出身のバンド、Peeling Fleshのデビュー・アルバム。「スラミング」の可能性を大きく拡大していく存在として、デスメタル、デスコア、ハードコア・シーンから絶大な人気を誇る彼ら、メンバーはSnuffed on Sightのライブサポートも務めたりビートダウン・ハードコアとの繋がりもありながら、ドラマーJoe Pelleterは元Strangledであり、Vile Impregnationにも在籍中というハードコアとデスコアを行き来する人気ドラマー。どちらのシーンにも密接な彼らだからこそ作り出されるスクラッチをフィーチャーしたスラムパートやピンスネアに合わせて挿入されるラップパートなど、斬新なパートでフロアを熱気を高めていく。

アルバムのタイトルトラック「The G Code」にはブルータル・デスメタル/デスコア、そしてハードコア・バンドの元祖とも言えるDespised IconからAlex Erian と Steve Marois をフィーチャーしているところからも、Peeling Fleshが2024年のブルータル・デスメタルとハードコアを未来的にクロスオーバーさせていることを象徴しているように感じる。これはこの楽曲のミュージックビデオのイントロでも視覚的に捉えられていて、ギターのヘッドアンプのローのつまみをMAXに振り切るところ、スケート、マリファナ、OGヒップホップ・デザインのヴィンテージTシャツ、スピーカーアンプに施されたスラミング・スタイルのPeelingFleshロゴとオンライン・スラムまたはゴアノイズ的とも呼べる別のロゴ (ゴールドで色調されているのも重要)、Ping Snareをさらに高く調整するドラマー……。ここに彼らのスタイルの全てが凝縮されていると言ってもいいかも知れない。

世界中のハードコア・モッシャーがフォローしているだろう197 MediaのYouTubeチャンネルで頻繁にフルセット映像が公開されているのもポイントだ。具体的にスラムとビートダウン、どちらの要素もこれほどまでに多様であり、クロスオーバーから生まれる可能性が無限であることを誇示するこの作品、間違いなく2024年以前以後で「スラミング・ビートダウン」の持つ意味まで変えてしまうかのような重要な一枚であると言えるだろう。

 

▶︎Extermination Dismemberment 『Butcher Basement (Revamp)』

Country : Belarus
Label : Unique Leader Records
Streaming : https://uniqueleaderrecords.bandcamp.com/album/butcher-basement-revamp

ベラルーシ・ミンスクを拠点に活動するスラミング・ブルータル・デスメタル・バンド、Extermination Dismembermentが、2010年にリリースしたデビュー・アルバム『Butcher Basement』を再構築したRevamp盤をUnique Leader Records からリリース。Revampは元々の楽曲を元に新たに改良するという意味があり、この作品は2017年にMorbid Generation Recordsからリイシューされていたが、アートワークも新たにUS TOUR前に発売となった。

元々アルバムをコンスタントにリリースするバンドではなかったし、2023年に10年振りとなるアルバム『Dehumanization Protocol』をUnique Leader Records からリリースしたばかりであったが、ここ数年の活発さを見ると、何か動きを見せたかったのかも知れない。Extermination Dismembermentはスラミング・ブルータル・デスメタルというマイクロジャンルありながら、(あくまでメタルにおける) メインストリームを意識したPRや映画のようなミュージックビデオ制作という取り組みにもここ数年熱心だったし、一気にキャリアアップを目指している可能性が高いし、過去作の再構築ではあるものの、ほとんど新譜と言っていい仕上がりとなっている。スラミング・スタイルの持つ魅力を彼らなりに追求していく中で、ブレイクダウンの導入に挿入されるベースドロップを他のパートの楽曲をかき消すようにして炸裂させるソニックブームは間違いなく武器と言える。そしてこのRevamp盤でも通常ではあり得ないベースドロップを組み込んでいる。

オリジナル・バージョンと聴き比べてみれば一聴瞭然、スラムパートの破壊力が増し、メロディックなフレーズもダイナミズムを増し、スラミング・ブルータル・デスメタルというジャンルでは収まりきらない魅力を放っている。そして7分にもなる「SLAUGHTERER CHAINSAW」は、スプラッター映画ファンも唸らせる仕上がりで、こちらも必見。国外ツアーをこなし、メキメキ成長していく彼らの未来は明るい。そしてこれからどんな景色を見せてくれるのか、ワクワクさせてくれる。

 

▶︎Visions Of Disfigurement 『Vile Mutation』

Country : United Kingdom
Label : Reality Fade Records
Streaming : https://realityfade.bandcamp.com/album/vile-mutation-2

2013年にマンチェスターで結成された4人組、Visions of Disfigurementの前作『Aeons of Misery』から4年振りとなるサード・アルバム。デスコア・バンドHymn for the Fallenの解散と共に活動を本格化したドラマーBenとベーシストAdam、Begging for IncestやChainsaw Castrationでライブ・ボーカルを務めたDan Bramleyに、DanとThe Mythic Dawnというバンドで共に活動していたギタリストTom Cahillが2019年に加入している。

磐石の体制で制作された本作、オープニングの「Absence of Remorse」から現代スラム最高峰とも言える切れ味鋭いヘヴィネスを見せてくれる。それだけでも満足なのだが、多彩なシンバルワークとスラムのパンチ力を増幅させる小技も満載で、ドラミングだけ見るとその影響はNileなどといったテクニカル・ブルータル・デスメタルからKnocked LooseやSnuffed on Sightといったハードコア/ビートダウンからの影響も感じる。Danのガテラルもピッグスクイールから、先ほども名前を挙げたKnocked Looseにあるような”Arf Arf”といったフレーズを巧みに繰り出しながら、サウンドの中心の座を他に譲らない。全体的には同じような楽曲で構成されているが、OrganectomyのAlex Paulが参加した「Secreted and Eated」やEmbrace Your PunishmentのVivien Rueが参加した「Epitaph of the Seraphim」などゲストによって彩りが添えられた楽曲も間に組み込まれている。

 

▶︎Grotesque Desecration 『Dawn Of Abomination』

Country : Russia
Label : Inherited Suffering Records
Streaming : https://inheritedsufferingrecords.bandcamp.com/album/grotesque-desecration-dawn-of-abomination

2022年、人口112万人を超えるロシアでも有数の大都市であるウファで結成されたトリオのデビュー・アルバム。ギター、ベース、そしてドラムを担当するVsevolod “Slaughterborn”、ギタリストのDanil Ilishkin、ボーカリストErick Valiyakhmetovという編成で、ミックス/マスタリングなども全て自分たちで行なっている。メンバー写真なども公開されておらず、メンバーそれぞれに掛け持ちしているバンドもないようで、ミステリアスな雰囲気も漂っている。

Grotesque Desecrationのサウンドは、Extermination Dismembermentを彷彿とさせるスタイルで、ソニックブームと呼ばれる巨大なベースドロップをこれでもかと炸裂させてくる。東欧のスラムはやはりExtermination Dismembermentの影響がかなり大きく、彼らに続いて世界へと進出を狙うルーキーたちがひしめき合っている。プログラミングされたドラムの独特の無機質さはソリッドなリフワークを得意とするGrotesque Desecrationのサウンドにうまくマッチしていて、シンバルワークも人力では不可能な程に細かく施されている。ベースドロップの上にうっすらとフィードバックノイズを被せているのも面白い試みだ。Cranial Bifurcation、Insect Inside、Surgical Abnormalization、Cephareaとゲストも豪華で、最後まで眩暈がするほどのヘヴィリフをカマし続けてくれる強烈な一枚。

 

▶︎Manifesting Obscenity 『Attempts To Death』

Country : Russia
Label : Independent
Streaming : https://manifestingobscenity.bandcamp.com/album/attempts-to-death-reimagined

2014年にSpice Mutated Corpseという名前でスタートし、2017年にManifesting Obscenityへと改名したユニットの、前身名義でリリースしたアルバム『Attempts To Death』のReimagined盤。先のExtermination Dismembermentの”Revamp”との違いは、楽曲はそのままで、それを再録した形になる。イントロとWalking The Cadaverのカバーを除く8曲が収録され、アートワークも新たにボーカルのGrigoryが描き下ろした。

全ての楽曲を手掛けるArtem Shirmanは、CovidectomyやDeprecationというプロジェクトでも同じように全ての楽曲を務めている。そのキラー・スラム・メーカーとしての才能をフルで発揮しているManifesting Obscenityでは、強度の高いドラミングとソリッドなリフによって生み出される現代東欧スラムのスタンダードとも言えるサウンドを披露。ブレイクダウンの導入部分はやはり爆発音やベースドロップが多様されている。関係があるとは思えないが、戦争の影響もあるのか。爆発音のようなベースドロップを多様するバンドが今年は多かった印象だ。

 

▶︎Rendered Helpless 『From Nothing Comes All』

Country : New Zealand
Label : Lacerated Enemy Records
Streaming : https://renderedhelpless.bandcamp.com/album/from-nothing-comes-all

Organectomyのメンバーとしても知られるマルチ・インストゥルメンタリストAlexander Paulによるワンマン・プロジェクトRendered Helplessの5年振り4枚目フルレングス。ミックス/マスタリング以外の録音作業は全てAlexanderひとりで行なっており、湧き上がる創作意欲のままに、バンド形式の作品では聴くことの出来ない、そしてフロアをモッシュで埋め尽くすためでないスラムを追求している。

冒頭のスネアのロールから、ただものならぬ雰囲気が感じられるだろう。人力ではおそらく再現不可能なドラミング、そしてテクニカル・デスメタルにも接近していくリフやベースライン。スラムパートはほとんどの場合、端的に言えばダンス・ミュージックに近いテイストがあると思うが、Rendered Helplessはドゥーミーな世界観を持ち、Djentで言うThallにも似た音像で、聴くものを引き込んでいく。もちろんモッシャブルであるには違いないが、簡単にそれでモッシュ出来ないような複雑性がある。こうした音楽がスラミング・ブルータルデスメタルにも出来ると言うのをリスナーに見せつけるような、深みのある作品と言えるだろう。

【2024年下半期】ブルータル・デスメタルの名盤 10選 アルバムレビュー

下半期にまとめてアルバムレビューする時間を少しでも削減するべく、今年は上半期に11枚のレビューを投稿しましたが、まさかの「ブルデス当たり年」で、多くの優れたアルバムが登場しましたので、10枚をピックアップし、アルバムレビューしました。これまで書いてきたブルータル・デスメタルのレビューや、プレイリストも合わせてフォローお願い致します。

▶︎過去の年間ベスト一覧

・2020年の名盤
・2021年の名盤
・2022年上半期の名盤
・2022年下半期の名盤 (前編)
・2022年下半期の名盤 (後編)
・2024年上半期の名盤

▶︎Spotifyプレイリスト

▶︎Nile 『The Underworld Awaits Us All』

Country : United States
Label : Napalm Records / Chaos Reigns
Streaming : https://lnk.to/NILE-TUAUA

前作『Vile Nilotic Rites』から5年振り、通算10枚目となるスタジオ・アルバム。本作から新たにMorbid AngelのDan Vadim Vonがベース/ボーカル、Lecherous NocturneのZach Jeterがギター/ボーカルとして加入し、トリプルギターの5人体制となっている。ミックス/マスタリングはMark Lewisが担当し、アートワークはポーランド出身の画家Michał “Xaay” Lorancが務めた。

Karl Sandersが手掛けた楽曲が大半を占めるが、KarlとGeorge Kolliasによって共作されたオープニング・トラック「Stelae of Vultures」や2017年に加入したギタリストBrian Kingslandが3曲を作曲、うち2曲の作詞も手掛けるなど、これまでNileの中心人物であるKarl以外のメンバーが楽曲制作を手掛けることはあったものの、Karl以外で作詞を行なったのはBrianが初だと思われる。とは言え、劇的にNileサウンドから逸脱したスタイルかと言えばそうでもなく、Brianが手掛ける楽曲もNileの伝統に沿ったダイナミックなデスメタルであり、ややグルーヴメタル気味な雰囲気のある「True Gods of the Desert」、エンディングにふさわしい、じわじわと盛り立てる「Lament for the Destruction of Time」はギタリストらしいソロパートの映えるフレーズが多めだ。

Nile (2024)

一貫した世界観は変わらぬNileの魅力だが、いつにも増してローの効いたブルータル・パートが多く、よってプログレッシヴなギターフレーズの数々が立ち上がってくる。リリックビデオにもなっている先行シングル「Under the Curse of the One God」はこのアルバムの中でもブルータル・デスメタルなNileが好きな方にオススメの楽曲で、George Kolliasのテクニカルなドラミングにダークなリフが絡み付いていく (途中のオペラ調のコーラスも素晴らしい!)。結成から30年を超え、さらにヘヴィになっていくNileに感動。

 

▶︎Despondency 『Matriphagy』

Country : Germany
Label : New Standard Elite
Streaming : https://newstandardelite.bandcamp.com/album/despondency-matriphagy

2010年の活動休止以来、15年振りとなる通算3枚目のスタジオ・アルバム。結成は1999年と古いものの、リリースペースが遅く、故に神格化されてきたバンドでもある。2015年に活動を再開してからもリリースはなかったが、Deeds of Fleshのブレインであり、Unique Leader Records の創始者でもある故Erik Lindmarkの追悼の意を込めたEP『Excruciating Metamorphosis』を2019年にリリース。2022年にギタリストEduardo Camargo、2024年にはベーシストKieren Allanが加入 (*本作ではベースはEduardoが兼任している) し、再びラインナップを固めた。新しく加入した2人は、2024年に活動を再開したMastication of Brutality Uncontrolledでも一緒で、そこにはDespondencyの創設メンバーであるKonstantin Lühringも在籍している。

本作『Matriphagy』は長いブランクを感じさせないDespondencyサウンドそのままで、前作『Revelation IV』と本質的な違いはないが、新しいDespondencyはKonstantinのガテラルがローに振り切って、終始地を這うようなブルータルなものになった。ド派手なスラムパートはないが、Defeated Sanityを彷彿とさせるようなドラミングの小技やベースのスラップを巧みに組み合わせながら、楽曲にドラマ性をもたらしていくスタイルはベテランならでは。「Inherited Animosity」はこのアルバムのキートラックとも言えるだろう。

 

▶︎Sanguinary Consummation 『Hymns Of Dismal Agony』

Country : United States / Sweden
Label : Vile Tapes Records
Streaming : https://sanguinaryconsummation.bandcamp.com/album/hymns-of-dismal-agony

2023年アメリカ・ミズーリ在住のメンバーとスウェーデン在住のメンバーによって結成されたSanguinary Consummation。本作は、2024年にデモ音源の後に発表されたデビュー・アルバムとなる。Sanguinary Consummationのサウンドの特徴はなんと言ってもスネア。発売元であるVile Tapes Recordsはこのスネア・サウンドを「Ping Snare」と形容しているが、その名の通り”短く高音の音を出す”スネアで、ハイピッチとか言っていたものだ。

Sanguinary Consummationのロゴ

すっかり元来のブルータル・デスメタルと呼ばれていたジャンルは、スラミング・スタイルに主流を取って変わってしまった為、「ブラスティング」と名乗るようになったが、それ以降、この手のスタイルがスラミング・ブルータル・デスメタルとは別軸で激化しているように思う。リフやガテラルの凄味を消し去ってしまうほど、巨大なインパクトを放つ独特なスネアを思う存分味わえる。

 

▶︎Vomit The Soul 『Massive Incineration』

Country : Italy
Label : Unique Leader Records
Streaming : https://orcd.co/VTSMASSIVEINCINERATION

2021年にリリースしたアルバム『Cold』からおよそ3年振りのリリースとなった通算4枚目のスタジオ・アルバム。新たにドラマーとして元PutridityAntropofagusBeheadedにも在籍するDavide Billia、ベーシストにPosthuman AbominationAndrea Pillituが加入。前作から参加しているBloodtruthStefano Rossi Ciucciは本作からギタリストへのパートチェンジし、バンドのファウンダーMax Santarelliとのコンビネーションが強化された。

2024年のVomit The Soul

イタリアのミュージシャンは独特の美的感覚を持っている。それはブルータル・デスメタルだけでなく、パンクやメタルコアにも言えることで、ふわりとした芸術性を香らせる。それはメロディにもそうだし、デスメタルの場合、Putridityもそうだが、楽曲展開に感じることが多い。Vomit The Soulは前作でも見られたスラミング・スタイルが本作では大幅に増加しているが、元来のVomit The Soulらしいブラスティング・スタイルと、まるで溶接したかのような、いびつな連なりを見せている。

ミュージックビデオになっている「Bloodtime」や「Endless Dark Solstice」のような楽曲は、Vomit The Soulがこれから得意にしていくスタイルだと思う。ドラマーDavideのプレイが注目されがちだが、楽曲展開に隠された芸術性に着目して聴いてみると、さらに面白いと思う。

 

▶︎Theurgy 『Emanations Of Unconscious Luminescence』


Country : Italy / Thailand / United States / Canada
Label : New Standard Elite
Streaming : https://newstandardelite.bandcamp.com/album/theurgy-emanations-of-unconscious-luminescence

タイ出身で来日経験もあるEcchymosisのドラマーであり多くのバンドを兼任するPolwach Beokhaimookがボーカルを務め、イタリア出身でDeprecatoryのメンバーであるMarco Fincoとカナダ出身でThe Ritual Auraに在籍するBrandon Iacovella (日本語も話せるらしい) がギター、アメリカ出身でソロプロジェクトAnal Stabwoundで知られるNikhil Talwalkarがベース/ドラム/ボーカルを担当する4人組多国籍バンド、Theurgyのデビュー・アルバム。

Theurgyのロゴ

このバンドは、まるで大腸のレントゲン写真のような奇怪なバンドロゴで一部のマニアの間でデビュー前から話題となっていたが、2021年のデモ音源で、ロゴ以上にそのサウンドでも多くのブルータル・デスメタル・ファンを釘付けにした。2023年に加入したBrandonの影響もあり、New Standard Eliteらしいブラスティング・ブルータル・デスメタルとプログレッシヴなギタープレイのクロスオーバーという新たなスタイルを創出。ドラマ性のある展開が感じられ、言うなれば「プログレッシヴ・ブラスティング・ブルータル・デスメタル」という超マイクロ・ジャンルを完成させた。「Miracles of Absolute Hedonism」はアルバムの中でもTheurgyがチャレンジしていることを理解しやすい楽曲なので、まずはこれを聴いてみて欲しい。

 

▶︎Pathology 『Unholy Descent』

Country : United States
Label : Agonia Records
Streaming : https://bit.ly/subs-agonia-yt

カリフォルニア・サンディエゴのベテラン・ブルータル・デスメタル・バンド、Pathologyの3年振り通算12枚目(!!) のスタジオ・アルバム。彼らの沸き続ける創作意欲には、アルバムがドロップされる度に驚かされる。アルバムが12枚あるということは、このような複雑なスタイルの楽曲を100曲以上は作り続けているということ……。それもNuclear Blast といったメタル名門をはじめ、Comatose Music、Severed Records、Victory Recordsとあらゆるエクストリーム・メタルの人気レーベルを渡り歩く形で。今回はブラック/デスメタル・レーベルでポーランドを拠点とするAgonia Recordsからということでこちらも素晴らしいレーベルだ。もしかしたら、「一度でいいからPathologyのアルバムをうちからもリリースしてみたい」という、ある種メタルレーベルのステータス見たいなものになっているのかも知れない。

さて本作は、ここ最近メンバーラインナップが固定されてきたが、2019年から参加していたDan Richardsonの脱退前ラスト作となっている。これは、『Awaken to the Suffering』や『The Time of Great Purification』といったPathologyの人気作品でギターを担当したKevin Schwartzの復帰に伴うものなのかも知れない。

Kevin Schwartz

2018年に復帰したボーカリストObie Flettと共にOG Pathologyなラインナップとなり、アルバムツアーに出る模様。このアルバムはミックスをZack Ohren、マスタリングをAlan Douches、そしてアートワークはPär Olofssonが手掛けた、エクストリーム・メタルの凄腕エンジニア達と共に完成させられた1枚で、ピュアなブルータル・グルーヴが聴きどころだ。ミュージックビデオにもなっており、イントロ明けのオープニングトラックである「Cult of the Black Triangle」は、難しい小技をなるべく削ぎ落として、メインリフがあり、核となるパートでブラストビートが威力を発揮するような展開が組まれていて、ベテランらしい楽曲の良さを感じる。それがほとんど全ての楽曲に貫かれていることで、コアなリスナーを寄せ付けないところはあるものの、オーガニックなデスメタルの良さがあり、何度も聴きたくなる作品に仕上がっている。

 

▶︎Extrathesia 『Animism』


Country : United States
Label : Independent
Streaming : https://extrathesia.bandcamp.com/album/animism

Divinite HiveCourtland Griffinによるソロ・プロジェクトで、これがデビュー作。Extrathesiaもソロ・プロジェクトであるが、これら2つのプロジェクトの棲み分けとしては、Extrathesiaの方がブラスティング・スタイルにフォーカスしている (感じがする)。Divinite Hive名義でも今年フルアルバム『Stellar Fusion Genesis』をリリースしているので気になる方は聴き比べてみても面白いと思う。

Extrathesiaのロゴ

Extrathesiaは、リフの細やかな刻み、スラミング・パートも交えながら忙しなくテンポを上げ下げする展開の複雑さが聴きどころ。全6曲収録、トータル・タイム12:48と短い作品ながら、非常に作り込まれた作品です。ソロ・プロジェクトらしいスタイルの楽曲は、デトロイトのSyphilicを彷彿とさせてくれる。

 

▶︎Emasculator 『The Disfigured And The Divine』


Country : Prague, Czechia / United States
Label : New Standard Elite
Streaming : https://emasculatorbdm.bandcamp.com/album/the-disfigured-and-the-divine

AbnormallityMallika Sundaramurthyがボーカルを務める全員女性メンバーによるブルータル・デスメタル・バンドEmasculatorのデビューEP。CartilageのギタリストTeresa Wallace、PoonTicklerのギタリストMorgan Elle (ベースも兼任)、フォークメタル・バンドOak, Ash & Thornに在籍するドラマーCierra Whiteによる4ピース。

オリエンタルなイントロで始まるリードトラック「Eradication of the Asuras」はミュージックビデオにもなっており、ドライでガリガリとしたリフワークに、オールドスクールなデスメタル・ドラミング、そしてMallikaのガテラルが渦巻のように展開していく。わずかに導入されるブレイクもセンス有。

 

▶︎Indecent Excision 『Into The Absurd』

Country : Italy
Label : New Standard Elite
Streaming : https://indecentexcision.bandcamp.com/album/into-the-absurd

2006年にイタリアで結成されたIndecent Excisionは、2011年に『Deification of the Grotesque』、2015年に『Aberration』と2枚のアルバムをリリースしており、本作が9年振りのサード・アルバムとなる。オリジナル・メンバーは不在だが、2008年から在籍するNeurogenicのMatteo Bazzanellaがボーカルを務め、Shockwave ExtinctionのHannes Gamperがギター、PutridityのGiancarlo Mendoがベース、UnkreatedのDavide Farabegoliがドラムというのが現在のラインナップ。

Indecent Excisionの良いところは、アヴァンギャルドでプログレッシヴなGiancarloのベースプレイを軸としながら、ストップ&ゴーを駆使したアクセルとブレーキの踏み分けが鮮やかな楽曲の構築美にある。それらはマスコアにも通ずる雰囲気があるが、MatteoのロングブレスのガテラルとDavideのドラミングが見せる疾走感によって、ブルータル・デスメタルとして結実している。Indecent Excisionを聴いていると、強烈な山道をとてつもないスピードで疾走するレーシングカーを思い起こさせる。「アクセルとブレーキ」をキーワードにアルバムを聴いてみると、驚くほど面白く感じるはずだ。

 

▶︎Lumpur 『Aku Dan Tuhanku』


Country : Indonesia
Label : Brutal Mind
Streaming : https://brutalmind.bandcamp.com/album/aku-dan-tuhanku

1994年に結成され、2024年に30周年を迎えたインドネシアン・デスメタルの重鎮、Lumpurのセカンド・アルバム。アルバムタイトルは「Me and my God」を意味する。2度の活動休止を挟んでおり、ファースト・アルバムも2003年の『Escape Your Punishment』でカセットテープフォーマットであった為、インドネシア以外に知る人は少ないかも知れない。

アルバムの最初から最後まで、ほとんど踏み込まれ続けるツインペダルは、本当に煙が立ち上がるほど、Lumpurサウンドの根底をずっしりと支えている。その上を細やかなリフワークで蠢くようにして鳴り続けるリフも凄まじく、これもインドネシアらしいスタイルだと言える。時折差し込まれるブレイクも程良く、基本はブラスティングというのも清くカッコいい。彼らの新作が聴けることにありがたみを感じる。次は2040年までにはアルバムが出る計算だが、それまでずっとインドネシアでブルータルデスメタルのシーンが盛り上がり続けていたらと願う。

【2024年】テクニカル・デスメタルの名盤 10選 アルバムレビュー

 

▶︎Intro

今年は『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』を出版することが出来ました。『ブルータルデスメタルガイドブック』の出版後、いつかテクニカル・デスメタルの本を出版するときの為に執筆を保留していた作品を改めて聴き直し、ブルータル・デスメタルをはじめとする近接ジャンルとの線引きの為にそれらの歴史も今一度おさらいしたりしながら、余裕を持って作業を進めていましたが、10年以上前から患っている難病の影響もあり、結局ギリギリでの入稿に。なんとか手術の前に全ての作業を終えましたが、詰めの作業のほとんどは入院中の病室で行い、寝静まった病棟の面会室を特別に開けてもらい、身体中に管をぶら下げながら毎晩深夜まで作業。苦しくなったら鎮痛剤を入れてもらえるし、急な発作も対応してもらえる安心感があったからか、普段よりも集中力を高めて作業が出来たので、結果的に良かったのかも、と今では思います。

『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』はその後、無事に出版され、日本全国 (海外にも) 届けられ、大きなミスもなく、売り行きも良いようで、一安心。しばらくはデスメタルを聴く気にはならなかったですが、やはり新譜だけは追いかけたいという気持ちがあり、毎年書いている年間ベスト記事でしっかりチェック。よそに書く原稿ではないし、文字制限もない。本当にそういう感覚でのびのびと今年の下半期にかけて様々アルバムをチェックしましたが……今年はテクデス当たり年でしたね。名作ばかりで最高でした。

色々と、執筆当時の思い出が湧き上がってきてしまうので、このくらいにして、2024年のベスト・テクニカル・デスメタル・アルバムのレビューをまとめていきます。中にはプログレッシヴやアヴァンギャルドに分類されるものもありますが、それらもひっくるめています。

 

▶︎Fleshgod Apocalypse 『Opera』

Country : Italy
Label : Nuclear Blast
Streaming : https://fga.bfan.link/opera

2007年イタリアで結成されたシンフォニック・テクニカル・デスメタル・バンド、Fleshgod Apocalypseの前作『Veleno』以来、約5年振りとなる通算6枚目のスタジオ・アルバム。本作はボーカリストであり、ギター、ベースも兼任するバンドのブレインFrancesco Paoliが、2021年8月に登山中の滑落事故で生死の境を彷徨ったことにインスパイアされて制作されたという。

まず初めに、前作から異なるメンバーラインナップをおさらいしておこう。2010年からピアノ/オーケストレーションを担当するFrancesco Ferriniに加え、2020年からドラマーとしてPosthumous BlasphemerやBelphegor、Decapitated、Vital Remainsのライブドラマーを務めてきたEugene Ryabchenko、Hideous DivinityやDeceptionistに在籍してきた経歴を持つギタリストFabio Bartoletti、そして女性ボーカリストでソプラノ/クリーンを担当するVeronica Bordacchiniが加わり5人体制となっている。アルバムのプロデュースはPaoriとFerriniが担当し、ミックス/マスタリングはJacob Hansenが手掛けた。

ほとんど、多くのリスナーが持っているFleshgod Apocalypleのイメージからかけ離れることのない、シンフォニックなテクニカル・デスメタル・サウンドであるが、音楽的なスケールは他を圧倒する綿密さとダイナミズムを持っており、テクニカル・デスメタルという音楽が持つ魅力の一つである「忙しなさ」という部分がイタリアン・オペラの展開美というところと上手くマッチしており、その融合具合の革新性もシンフォニックを取り入れる広域のメタル・バンドの中でも突出して優れている。例を挙げてみると、「Pendulum」はメロディック・デスメタルにも近しいシンプルなサウンドで幕を開けると、テクニカルなフレーズを飾り付けていくようにして、持ち味を発揮していく。細かなリフを追いかけるピアノの旋律、呼吸する音を差し込み緊張感を高めていくアイデア、本格的なオペラのシンフォニックなメロディ、PaoliとVeronicaのシャウト、クリーン (ソプラノ) の掛け合いによって、まずで演劇のような没入感を生み出していく。特にピアノの使われ方は新鮮で、未来のシンフォニック・スタイルのメタル・シーンに多くのヒントを与えるだろう。

先行シングルとして公開されている「Morphine Waltz」もアルバムの中でキーとなる楽曲と言えるだろう。テクニカル・デスメタルのスピードの中で、幾つものクラシカルな管楽器弦楽器が生き物のようにして存在感を示し、ドラマ性 (または演劇性) を加速させていく。いわゆる歌物とも言えるようなVeronicaのクリーン・ボーカルのインパクト、キャッチーさも素晴らしく、決してテクニックの博覧会のようなもので終わっていないことを誇示しているかのようである。

オープニングからエンディングまで一つの連なりを感じるかといえば、一つ一つの楽曲に物語があり、その詰め合わせのような作品に仕上がっていると言えるだろう。アルバムタイトルの『Opera』はややシンプルすぎるように感じるが、端的に彼らの現在地がどれほど素晴らしいかとシーンに届けるには、このほかに付けようのないタイトルなのかもしれない。

 

▶︎Ulcerate 『Cutting The Throat Of God』

Country : New Zealand
Label : Debemur Morti Productions
Streaming : https://ulcerate.bandcamp.com/album/cutting-the-throat-of-god

2000年に母体となるBloodwreathを結成してから24年。今では世界中にファンを持つ、ニュージーランドで最も有名なメタル・バンドとしても知られる存在へと成長したUlcerateの前作『Stare into Death and Be Still』から4年振りとなる通算7枚目のスタジオ・アルバム。本作はバンドのオリジナルメンバーでありドラマーのJamie Saint Meratがアートワーク、そしてレコーディング、ミックスを担当し、マスタリングはMagnus Lindbergが手掛けた。

彼らをテクニカル・デスメタルとすることに、ずっと抵抗があったし、『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』にも彼らのレビューは掲載されていない。彼らはプログレッシヴやアヴァンギャルドの文脈で評価されるべき芸術性を持つバンドであり、本作も徹底的にダークで、漆黒よりも黒い世界観を聴覚的に、そしてミュージックビデオという形で視覚的にも表現し、とにかく多くの多様なメタル・リスナーから高く評価されている作品である。そんな作品をテクニカル・デスメタルの眼差しから捉えると言うことは、不可能、ナンセンスであるように感じるが、やはりそう言う視点で聴いてみると、キャリア20年を超えるベテランである彼らのテクニックには驚かされるし、その視点で聴くことも間違っていないと感じさせられる。

観る人によっては非常に耐えがたい、幻覚のようなミュージックビデオとして先に発表されたアルバムのオープニングトラック「To Flow Through Ashen Hearts」は、柔らかく儚げなメロディと共にゆっくりとスタートし、激化していくというUlcerateとその周辺の類似スタイルを持つバンドの典型的なスタイルであるが、こうした楽曲の多くの空白には、聴こえないかのような音の連なり、破壊音などが詰め込まれている。UlcerateのブレインでもあるドラマーJamieの豊かなドラミングはプロダクションとしても素晴らしいが、そうでなかったとしても、やはりこの記事でレビューしている他のテクニカル・デスメタル・バンドには感じられない、技術以上の鳴りがある。

同じくミュージックビデオになっている「The Dawn is Hollow」も楽曲の仕組み自体は同じであり、貫かれてきたスタイルへの自信を感じる。私は今年、持病で大きな手術をしたのだが、医療麻薬の幻覚作用は本当に強烈で、そのタイミングでしか味わえない心地を、最初の手術からそれまでずっと引きずってきた、というかその時を楽しみにしていたのだが、Ulcerateのミュージックビデオに近い、物体が溶けて結合していく感覚が麻薬にはあって、このミュージックビデオらを観るたびに、あの感覚に近づく気がして妙に没入していってしまう。

これほど深く、暗い、テクニカル・デスメタルのアルバムは他にはないだろう。このジャンルで捉えるだけで収まらないポテンシャルを持つバンドであり、それは承知の上であるが、やはり今年聴いた中で、最も素晴らしいと感じた作品の一つ。

 

▶︎Wormed 『Omegon』

Country : Spain
Label : Season of Mist
Streaming : https://wormed.bandcamp.com/album/omegon

スペイン・マドリードを拠点に活動するテクニカル・ブルータル・デスメタル・バンドWormedの前作『Krighsu』からおよそ8年振りとなる4枚目スタジオ・アルバム。2018年にスラッシュメタル・バンドCancerに在籍するドラマーGabriel Valcázar、2021年にギタリストDaniel Valcázarが加入。5人体制となったWormedは、プロデューサーにスラッシュメタルを得意とするEkaitz Garmendiaを起用、ミックス/マスタリングはColin Marstonが担当した。また、これまでのWormed、そして本作のコンセプトの大きな源となっているアートワークは、1998年からベーシストGuillermo Garciaと共にWormedのオリジナル・メンバーとして舵を取るJose Luis Rey Sanchezによってデザインされている。これは、これまでと同じでありアートワークはWormedの音楽と同様に重要な要素である。

これまでのWormedはプログレッシヴなスタイルを大きく打ち出してきたバンドで、ブルータル・デスメタルとしても、テクニカル・デスメタルとしても評価されてきた。本作においては、Sci-Fiというキーワード、他にもCosmic Death Metalなどと形容されるスタイルへと系統した雰囲気がある。類似バンドで言えば、Blood IncantationVektorといったところから、近しいところで言えば、Rings of SaturnCoexistenceなども名前があがってくるだろう。これはミックス/マスタリングを担当しているColin Marstonが得意としているスタイルであり、彼はGorgutsのメンバーであり、多くのアヴァンギャルド・デスメタルでプレイするマルチ・インストゥルメンタリストでもあり、Wormedのやりたいこと、作り上げたいものに対する大きな理解があったではと考えられる。

全体的に複雑な構成が貫かれており、楽曲の要と言えるようなキラーフレーズはほとんど存在しない。それはほとんど、このスタイルのバンドに言えることかもしれないが、本作において各パートのテクニック、Sci-Fiなアレンジの新鮮さだけでも聴きごたえはある。ギターリフは、時折スラムやDjentにも接近するほどヘヴィでソリッドなものもあるが、その響き自体はブラックメタル的な感覚がある。不協和音のコードもなく、ピッキング・ハーモニクスといったものも使われていないのは、現代となっては新鮮に聴こえる。最も新しいWormedにおいて素晴らしいのは、ドラマーGabriel Valcázarのジャズに近いプレイスタイルだ。絶妙な揺れ、ノートとズレたシンバルのアクセントは、Wormedサウンドを不気味に、それこそ宇宙的に聴かせる。全体的なまとまりもあり、彼らが作りたいと目指し試行錯誤された展開の痕跡も見られ、聴くたびに面白く、発見がある。

 

▶︎Replacire 『The Center That Cannot Hold』

Country : United States
Label : Season of Mist
Streaming : https://orcd.co/replacirethecenterthatcannotholdpresave

マサチューセッツ州ボストンを拠点に活動するテクニカル・デスメタル中堅、Replacireの前作『Do Not Deviate』から7年振りとなるサード・アルバム。Replacireはファースト、セカンドとBrendon Flynnという素晴らしい画家がアートワークを手掛けてきたが、本作はAndrew TremblayというImperial TriumphantやPestilent Empireなどとの仕事で知られる別の画家にシフト。Andrewはもちろん素晴らしいが、Replacireの持つ世界観のうち、アートワークが占めていた要素はかなり大きいし、今回の変更は残念。

前作からの変更点としてはボーカリストがBlack Crown InitiateやThe Facelessで知られるJames Dortonに変わったことも大きい。彼の加入は、Replacireのサウンドをダンサブルにし、トリッキーなプログレッシヴ・フレーズが増加したことにも影響しているだろう。肌感覚で近いのが、2010年代にマスコア・バンドとしてブレイクし、The Facelessとも交流があっただろうArsonists Get All The Girls。彼らのような、いうなら「変態」も言うようなフレーズの組み合わせに、元来の神秘性を持たせた、一見地味にも聴こえるが実はとても新しいと言えるスタイルのサウンドで全体感が構成されている。この組み合わせのバランスは、Black Crown Initiate的であるとも言えるし、それこそOpethのようなバンドのスタイリッシュな雰囲気にも似ている。Opethも新譜を出したし、その流れでReplacireまだチェックしていない人は聴いてみると面白いだろう。本当にしつこいが、アートワーカーはBrendonが良かった……。

 

▶︎Gigan 『Anomalous Abstractigate Infinitessimus』

Country : United States
Label : Willowtip Records
Streaming : https://gigan.bandcamp.com/album/anomalous-abstractigate-infinitessimus

2006年フロリダ州タンパで結成され、後にシカゴへと拠点を移したアヴァンギャルド/プログレッシヴ・テクニカル・デスメタル・バンド、Giganの前作『Undulating Waves of Rainbiotic Iridescence』から7年振りとなる通算5枚目となるスタジオ・アルバム。バンド名は1972年公開の日本映画「地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン」から名付けられた。これだけ聞くとやはり、ぜひ日本でフランスのGojiraと日本で一緒にツアーしてもらいたいと思ってしまう。

さて、本作だが前作『Undulating Waves of Rainbiotic Iridescence』と同じラインナップで制作されており、アートワークもほとんど同じコンセプト。サウンドもほとんどぶれていない。初期のGiganに比べると、この2作でGiganは完璧にGigan固有のスタイルを完成させ、それを強烈に表現していると言えるだろう。アヴァンギャルドさは単に忙しなく、トリッキーであるだけでは成立しないし、エクスペリメンタルな不協和音も、あちこちに散りばめるだけではまとまりのない、退屈なアルバムになってしまう。Giganはテクニカル・デスメタルであり、プログレッシヴでアヴァンギャルドなスタイルを、どのようにして組み込むかと言うところへの情熱を加速させ、構造的に分かりやすい不協和音の導入、ドラミングの強度の揺さぶり、全体的なバランス感覚と芸術的な感性を磨き続けているように感じる。中でもオープニングを飾る8分越えの楽曲「Trans-Dimensional Crossing of the Alta-Tenuis」で感じられるGiganの魅力は全編に貫かれている。『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』では彼らについては触れなかったが、彼らのプログレッシヴでアヴァンギャルドなスタイルにおける光り輝く才能はまた別の形で書きたいと思う。

 

▶︎Vale Of Pnath 『Between The Worlds Of Life And Death』

Country : United States
Label : Willowtip Records
Streaming : https://valeofpnath.bandcamp.com/album/between-the-worlds-of-life-and-death

2006年からコロラド州デンバーを拠点に活動するプログレッシヴ/テクニカル・デスメタル・バンドVale Of Pnathの前作『II』以来、8年振りの新作となるサード・アルバム。バンドのブレインであるギタリストVance Valenzuela以外のメンバーが代わり、本作にはVanceと共にAbigail Williamsで活躍したボーカリストKen Sorceron、ドラマーGabe Seeberが加入している。アルバムの制作ラインナップにはクレジットされていないが、ベーシストとしてAnthrocideのAustin Rollaも加入しており4人体制となっている。アルバムではKenがベースを兼任、プロデュースからミックス/マスタリングまでを手掛けている。

重厚なオーケストレーションをまとい、スタイリッシュに引き締まったサウンド・プロダクションは、Willowtip Recordsに相応しい、テクニックとプログレッシヴさが感じられる。ミュージックビデオにもなっており先行シングルとして発表された「Soul Offering」からは、彼らがAbigail Williamsのメンバーであることを思い起こさせるようなシンフォニック/ブラッケンドなオーケストレーションをふんだんにまとい、Lorna ShoreWorm Shepherdといった現代ブラッケンド・デスコアにも近いブレイクダウンも搭載した、ハイブリッドな楽曲に仕上がっている。しかし、デスコアではなく、メロディック・デスメタルに近い雰囲気がある。これがまた面白い。

アルバム収録の他の楽曲は「Soul Suffering」ほどキャッチーではないにしても、ところどころツボをついてくるフックがたっぷりと組み込まれており、とても聴きやすい。Lorna Shoreなどから更に深いブラッケンド・スタイルのデスメタルに興味を持っている人、またはFleshgod Apocalypseなどからシンフォニック/エピック・メタルといったシーンから、デスメタルに興味を持った人達におすすめしたくなる、中庸的なサウンドが、痒いところに手が届くような、そんなアルバムである。

 

▶︎Deivos 『Apophenia』

Country : Poland
Label : Selfmadegod Records
Streaming : https://deivos.bandcamp.com/album/apophenia

ポーランドのテクニカル・デスメタル重鎮、Deivosの前作『Casus Belli』以来、5年振りとなる通算7枚目のフルアルバム。2024年5月に出版した自著『テクニカル・デスメタル・ガイドブック』の執筆において、私自身Deivosの魅力に取り憑かれ、すべてのアルバムのレビューを掲載し、インタビューもしたかったがページ数の都合により実現しなかった。

彼らに関しては、ここが他のどのバンドよりも優れている、といったところではなく、やはりテクニカル・デスメタルとしての純粋な輝き、エネルギーがアルバムを通じて溢れているところに好感が持てる。1997年の結成から一度も活動ペースを落とすこともなく、非常に計画的にリリースを続けているし、唯一のオリジナル・メンバーであるTomasz Kołcońも毎回何かアップデートするでなく、トレンドに流されるでもなく、自身のテクニカル・デスメタルを追求し続けている。アルバムごとに明確なコンセプトを打ち出しているわけでなく、淡々と創作し続ける姿勢に魅了されている。アルバムのアートワークが毎回似たようなものが多いのも、逆に良い。

「My Sacrifice」のようにパーカッションを取り入れた (と言っても本当に少し) 実験的なフレーズはあるものの、基本的には全球ストレート、ど真ん中。Morbid Angel的とも言える。中には古臭いと感じるリスナーも多いかもしれないが、これが本当に良質なテクニカル・デスメタルなのだと思ってもらいたい。

 

▶︎Cognitive 『Abhorrence』

Country : United States
Label : Metal Blade Records
Streaming : https://www.metalblade.com/cognitive/

これまでUnique Leader Records に所属していたニュージャージー出身のCognitiveが名門Metal Blade Recordsと契約を発表してから初めてリリースするアルバムは、前作『Malevolent Thoughts of a Hastened Extinction』から3年振りとなる通算5枚目フルレングス。Cognitiveの評価がこれほど高まってきているとは驚きで、Unique Leader Records からMetal Blade Recordsへと移籍するルートはこれまでもあったと思うが、大出世と言えるだろう。前作からメンバーチェンジもなく、レコーディング/ミックスはドラマーのAJ Vianaが手掛け、マスタリングはBart Williamsが担当した。

『Malevolent Thoughts of a Hastened Extinction』のツアー中にはすでに本作の制作をスタートさせ、前作とは違うリフをとにかく書き続けたと言う。AJはドラマーとしての他に、レコーディングエンジニアとしての顔も持っており、HathなどMetal Blade Recordsと共に仕事をする機会もあったそうで、今回のMetal Blade Recordsとの契約は、そうしたAJのエンジニアとしての経験も大いに役立っただろう。

デスメタルのダイナミズムをソリッドに、クリアに打ち出すCognitiveサウンドの要はドラムであり、ギターであり、そしてボーカルでもある。ド派手な転調はないが、じわじわとボルテージを上げながら、火花を上げるようなギターソロを組み込んだサウンドは、やはりアンダーグラウンド・レベルではないと言える。アルバムのタイトルトラックでありミュージックビデオにもなっている「Abhorrence」は非常に優れた楽曲で耳馴染みの良いプロダクションがクセになる。

 

▶︎Carnophage 『Matter Of A Darker Nature』

Country : Turkey
Label : Transcending Obscurity Records
Streaming : https://carnophage.bandcamp.com/album/matter-of-a-darker-nature

2006年からトルコ・アンカラで活動を続けるベテラン、Carnophageの前作『Monument』から8年振りとなるサード・アルバム。この『Monument』がリリースされた2016年に『ブルータルデスメタルガイドブック』を出版したこともあって、あれから8年という時間が経過したことに対する驚きと、彼らが8年と言う間隔でアルバムのリリースを続けていることのシンクロニシティ、共時性に驚きながら、特別な感覚でレビューを書いてみようと思う。

本作のミックス/マスタリングはAlexander Borovykhが担当、彼は近年本当に精力的にブルータル・デスメタル・シーンのあらゆる作品に参加し、デスメタルのオーガニックな重さ、残忍さを大切にした仕事で評価されている。Carnophageのサウンド、特にギターリフのすりつぶされるような音は素晴らしいし、その全体に覆い被さってくるような迫力の中で鮮明にテクニックがわかるドラムのプロダクションも素晴らしい。ダイナミズムを求めるが故に、多くのレイヤーが重ねられる現代の音楽の中で、こういう感覚もまた素晴らしいのだと感じさせてくれる。

アルバムの中でも最も印象的だった楽曲は「Matter Of A Darker Nature」。楽曲構成、中途に差し込まれるクリーントーンのフレーズやベースラインの働きによって魅力を何倍にも放つメロディが心地良い。思わずデスメタルを聴いていることを忘れるような、不思議な感覚がある。Carnophageはこれまで大きなスタイルチェンジを続けてきたバンドではないし、今後もそのような変化には挑戦しないだろうが、そういうバンドの良さと言うのは、こういう形であっても伝えていきたいと思う。

 

▶︎Malignancy 『…Discontinued』

Country : United States
Label : Willowtip Records
Streaming : https://malignancy.bandcamp.com/album/discontinued

1992年ニューヨークで結成されたテクニカル・ブルータル・デスメタルの重鎮、Malignancyの前作『Intrauterine Cannibalism』から5年振りとなる通算5枚目のスタジオ・アルバム。1999年のデビュー・アルバム『Intrauterine Cannibalism』のアートワークに登場した胎内の赤ん坊は、一時期アルバムアートワークから姿を消したが、前作と本作に再び登場している。これをテーマに30年以上楽曲を書き続けることが出来ると言うのが、恐ろしいと思う。そして、これがいくつかのアルバムに渡って貫かれていることに気付いてしまうことにも、なんとも言えない気持ちになる。

本作はオリジナル・メンバーのDanny Nelson、1995年から在籍するギタリストRon Kachnic、2004年から在籍するドラマーMike Hellerの3名と、ゲスト・ベーシストとしてDefeated SanityのJacob Schmidtがレコーディングに参加している。このJacobの参加が本作において非常にポイントで、彼のプレイによってMalignancyが30年以上に渡って鳴らし続けてきたグルーヴに新たな息吹をもたらしている。Mikeのドラミングも細やかなフレーズを随所に差し込み、うねるベースラインと相互に作用しながらMalignancyの世界観を作り出していく。荒っぽいリフと変わらないDannyのガテラルも力強く迫力満点。

【2024年】グラインドコアの名盤15選 アルバムレビュー

▶︎Intro

グラインドコア・シーンにビッグバンが起こる事はそうそうないが、グラインドコアとは別軸でエクストリームを加速させ、スピードを追いかけてきたデスメタルから派生したマイクロ・ジャンルが、グラインドコアの真髄に接近することで、結果的にグラインドコア的なものが誕生することはある。例えば、2010年代にカオティック・ハードコア/マスコアを激化させ、スクリーモやメタルコア、デスコアにまで触手を伸ばしたSee You Next Tuesdayの存在は、グラインドコア・リスナーの間でも名の知れたものであり、彼らをグラインドコアとして自然に耳にしている2020年代の新規リスナーもいるだろう。

シーンという捉え方から一旦距離を置き、エクストリーム・メタルにおける「グラインドコア的」なスタイルという曖昧な捉え方に立ってみれば、大きな変革を起こさず、アンダーグラウンドの中で歴史を積み重ねているグラインドコアという音楽に、いくつものビッグバンというべきスタイルがすでに誕生してきており、それは時にNapalm Deathなどといったクラシックなものよりも速く、重いサウンドであることもある。RIFF CULTとしては、エクストリーム・メタルというキーワードを軸として、グラインドコア的なものをグラインドコアとして捉え、明確な線引き、すでに確立されたグラインドコアを構成するいくつかの要素を解き放ち、「速く、激しく、劇的な」エクストリーム・メタルをグラインドコアとして、年間ベストとしてアルバムレビューしていく。

 

▶︎Escuela Grind 『Dreams on Algorithms』

Country : United States
Label : MNRK Heavy
Streaming : https://escuelagrind.bandcamp.com/album/dreams-on-algorithms

2016年に母体となるEscuelaを結成、2019年からEscuela Grindを名乗る彼/彼女らは、女性メンバーのボーカリストKaterina Economouと女性ギタリストKris Morash、男性メンバーのドラマーJesse FuentesとベーシストJustin Altamiranoからなる4人組で、本作は大手レーベルMNRK Heavyからの2作目となる。

Katerina Economou

 

Kris Morash

表情豊かにステージを駆け回るKaterinaのパワフルなパフォーマンスがライブ映像、ミュージックビデオから人気に火が付き、オールドスクール・デスメタルなどとクロスオーバーしながら突進していく難しい部分のないグラインドコアで、すでにNapalm DeathCarcassとの共演も果たしている。

アルバムは、「目に見えない、プログラムされた、サブリミナル的な力による私たちの行動や精神状態のコントロールの探求」と言うコンセプトの元、夢、睡眠、潜在意識をキーワードに、これらのターゲットとなるアルゴリズムの影響下で私たちを一体化させるものに触れようとしていく。 いくつかの曲は、ソーシャルメディアが私たちの生活にどのような影響を及ぼしてきたかについて直接的なアプローチを行い、いくつかの曲は間接的で、個人的な目標や経験に関連したテーマが掲げられている。 戦争批判、政府や警察の暴力批判というグラインドコアの一般的なテーマから、より現代社会で身近に感じられる事象に沿ったのも面白いし、同世代からの評価を得やすいのかも知れない。Kurt Ballouがレコーディングを指揮し、「Constant Passenger」にはThe Acacia StrainのVincent Bennettと言うグラインドコア・シーンの外から有名人を起用していることも興味深い。

Jesse Fuentes

 

▶︎See You Next Tuesday 『Relapses』

Country : United States
Label : Good Fight Music
Streaming : https://cunexttuesdaygrind.bandcamp.com/album/relapses

2023年に15年振りとなるニュー・アルバム『Distractions』をリリースしたSee You Next Tuesday。この作品を多くのゲストを迎えてエレクトロニックにリミックスしたのが『Relapses』だ。この作品は、1997年にリリースされたFear Factoryのリミックス・アルバム『Remanufacture』に大きなインスピレーションを受け、エクスペリメンタル・グラインドコア/マスコアの中でもエクストリームなスタイルを持つSee You Next Tuesdayの楽曲をインダストリアル、ノイズ、アヴァンギャルド/エクスペリメンタルなエレクトロニックな要素をブレンドさせることによって、さらにエクストリームなクリエイティヴィティを発揮すると言うのがこの作品の趣旨だ。

バンドのブレインでありマルチ・インストゥルメンタリストのDrew Slavikによって指揮が取られ、Thotcrime、ZOMBIESHARK!、John Cxnnor、Black Magnetなど多くのアーティストがリミックスに参加し、『Distractions』の持つポテンシャルをジャンルレスに拡張している。アルバムのエンディングを飾る「The Gold Room」は、Frontiererと共に制作した全く新しい楽曲で、See You Next Tuesday & Frontiererと共作名義になっている。See You Next Tuesdayが人気を集めたのも、グラインドコア・シーンからというよりは、2000年代後期のカオティック・ハードコア・ムーヴメントの中で、エモ、スクリーモが混ざり合う混沌の中から飛び出してきたという印象。今回参加しているアーティストは、それらを聴いて青年期を過ごしただろうし、このようにして新旧のエクストリーム・メタルを追求する異端児たちがSee You Next Tuesdayを通じて、その才能を発揮し世に放つと言うことは非常に有意義なことである。グラインドコアとして聴くには難しい作品であるが、グラインドコアのポテンシャルはこのように拡張される可能性を秘めていることにメタルの底知れなさを感じることが出来るだろう。

 

▶︎See You Next Tuesday & meth. 『Asymmetrics』

Country : United States
Label : Good Fight Music
Streaming : https://cunexttuesdaygrind.bandcamp.com/album/asymmetrics

『Relapses』と言う、グラインドコア、See You Next Tuesdayの可能性を拡張させるようなリミックス・アルバムを完成させた後も、Drew SlavikはSee You Next Tuesdayとしての創作活動を止めなかった。See You Next Tuesdayの後継者とも言えるmeth.と共に共同で作品を作るというアイデアを思いつき、そしてそのレコーディングをかなり珍しい方法で作り上げた。

See You Next Tuesday

お互いが3曲書いてレコーディングし、ドラム・トラックだけを他のバンドと共有。 それぞれのバンドは、交換したトラックの上に新しい曲と歌詞を書いていく。一方のバンドが、もう一方のバンドに影響を与えないようにするため、すべてが完成するまで、どちらのバンドももう一方のバンドから何も聞くことはせず完成させる。See You Next Tuesdayもmeth.も最終的に完成した作品には驚き、興奮したという。この作品は4つのパートに分かれており、「THE ROAD TO DOOM (feat. Guy Kozowyk of The Red Chord)」と題された3曲のパート、「EUPHORIA」と題されたSee You Next Tuesdayのパート、「SNARE TRAP」と題されたmeth.のパート、そして「PSALMS OF PAIN (feat. Billy Bottom of Nights Like These)」と題されたmeth.のパート、合計12曲が収録されている。

それぞれに異なるテイストをもちながらも、それと分かる個性も溢れており、特に奇抜な方法で制作された「EUPHORIA」と「SNARE TRAP」は、狂気さえ感じるノイズまみれのグラインドコア、と言うかマスコア、と言うべきか……。個性が確立されたジャンルでトップを走る二組の奇怪なアイデアによって完成した芸術的な作品、創作背景を意識しながら聴いてみると、新しい発見があるかも知れない。

 

▶︎Nails 『Every Bridge Burning』

Country : United States
Label : Nuclear Blast Records
Streaming : https://nails.bfan.link/every-bridge-burning.yde

2007年カリフォルニアで結成されたNailsの前作『You Will Never Be One of Us』から8年振りとなる通算4枚目のスタジオ・アルバム。長きに渡りNailsに在籍してきたドラマーTaylor Young、ベーシストのJohn Gianelliが脱退し、ギター/ボーカルのTodd Jones以外のメンバーが総入れ替えとなった。本作はブラック/デスメタル・バンドUltharをはじめ、多くのプロジェクトを持つギタリストShelby Lermo、Despise YouやApparitionに在籍するベーシストAndrew Solis (本職はギターのよう)、Skeletal RemainsやPower Tripのライブドラマーを務めた経歴を持つCarlos Cruzが加入し、4人体制となった。

プロデューサーも前作同様Kurt Ballouが担当しており、Toddがメインボーカルを務めており、ほとんど前作の延長線上にあるが、3人入れ替わるだけでかなり違う。これはNailsでやりたいことが変わったからと言うのもあるかも知れないが、本作のプロダクションはかなり良い。前作のNailsのソングライティングにMotörheadのヴァイブスを注入、一見無理矢理にも感じるが、これがかなり素晴らしい。『UNSILENT DEATH』のようなものを求めるリスナーも楽しめるパワーがあるし、新しいNailsも素晴らしいものになると感じさせてくれる。「Give Me The Painkiller」とかはギターソロで笑っちゃうけど、普通にカッコ良い。

 

▶︎Feind 『Ambulante Hirnamputation』

Country : Germany
Label : Independent
Streaming : https://feind.bandcamp.com/album/ambulante-hirnamputation

2021年にドイツ・ボーフムで結成された彼らのセカンド・アルバム。2023年にリリースされたデビューEP『Moloch』は、2023年下半期のグラインドコア年間ベスト・アルバムとしてアルバムレビューしており、この作品への期待は特別高かった。ユニークなボーカルワークはメンバー全員がメインを張れる個性が溢れており、忙しない展開に拍車をかけていく。決してグラインドコアからだけの影響でなく、デスコア、マスコア、時にノイズへと接近したり、Dream Theater顔負けのプログレッシヴ/オペラ調のフレーズまでも差し込みながら (それはRuinsや高円寺百景、BAZOOKA JOEにも聴こえるのが最高! “Planet der Affen”を聴いてほしい)、トリッキーなグルーヴでエンディングまで全力疾走。See You Next TuesdayからWormmrotまで、かなりおすすめの一枚。(Ambulante Hirnamputationのイントロもすごい笑)

 

▶︎Houkago Grind Time 『Koncertos of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book by Andrew Lee』

Country : United States
Label : Obliteration Records
Streaming : https://houkagogrindtime2.bandcamp.com/album/koncertos-of-kawaiiness-stealing-jon-changs-ideas-a-book-by-andrew-lee

2023年12月に来日し、横浜、東京、大阪でライブを行ったAndrew Leeによるワンマン・アニメグラインド・プロジェクト、その名もHoukago Grind Timeによるサード・アルバム。筋金入りのアニメオタクであることは来日公演を目撃した人は分かるだろうが、本物のアニメオタクから見て、彼のサンプリングのチョイスはどのくらい優れているのか、伺いたいところ。私は全く分からないが、アニメグラインドというと、関西のNo.305が思い浮かぶ。グラインドではないが、アニメをコンセプトにしたアンダーグラウンド・プロジェクトはほとんどが音楽的な要素において厳しいものがあるが、Houkago Grind Timeはアニメ要素を取り払ったとしても、音楽的に優れているし、ブルータル・デスメタルからデスコア、ビートダウン・ハードコアまで通ずる鋭いリフワークがある。Andrew、絶対ナイスガイだと思う。

 

▶︎Exorbitant Prices Must Diminish 『For A Limited Time』

Country : Switzerland
Label : Lixiviat Records/Jungle Noise Records
Streaming : https://exorbitantpricesmustdiminish.bandcamp.com/album/for-a-limited-time

90年代の終わりから2000年代の初頭にイングランドのKastratedというブルータル・デスメタル・バンドで活躍し、現在はスイスでNasty Face、The Afternoon Gentlemeなどで活躍中のElliot Smithがベーシストを務めるExorbitant Prices Must Diminishのデビュー・アルバム。ドラマーには活動休止中のスイスの有名グラインドコア、MumakilのMaxime Hänsenberger、Elliotと共にNasty Faceに在籍するギタリストのLionel Testaz、2020年には女性ボーカリストAlessia Mercadoが加入している。

Disruptを彷彿とさせるクラストパンク/グラインドコアを下地としながらも、奇抜なブラストビートを荒っぽくストップ&ゴーさせながら、多彩なグルーヴを超高速で展開していく。Mumakilを彷彿とさせるブルータル・デスメタルにも近いテクニカルなドラミングは非常に素晴らしく、ノイジーなリフとの相性も抜群だ。

 

▶︎Full of Hell 『Coagulated Bliss』

Country : United States
Label : Closed Casket Activities
Streaming : https://orcd.co/coagulatedbliss

2021年にRelapse Recordsからリリースした『Garden of Burning Apparitions』以来、3年振りとなる通算6枚目となるスタジオ・アルバム。これまでもNailsとのスプリット作品などを手掛けてきたClosed Casket Activitiesへと移籍してリリースされた本作は、聴く人によって抱く感覚がかなり異なる作品ではないだろうか。この作品に漂い続けるアトモスフィアは、いったいどこから来ていて、Full of Hellがどこに向かっているのかを分からなくさせる。そういう何者か分からなさが、彼らの魅力の一つかも知れないし、今年はシーンにこんなトレンドがあって〜とか、来年はこんなバンドがブレイクする!とか、そんな事を全く気にしない姿勢でバンドがキャリアを積み重ねていくことの大切さや魅力が感じられる作品になっていると言えるだろう。

「グラインドコア」と言う言葉だけでは彼らの音楽を捉えることはもちろん出来ない。ステージのど真ん中に巨大なエフェクトボードを置き、奇抜なエレクトロニック・ビートやノイズを構築しながら、ブラストビートの雪崩を起こしていく、私たちが知っているFull of Hellの姿もあれば、古めかしいニューウェーヴのようなビートの上に奇怪なノイズを覆い被せていったり、時にエモ・ヴァイオレンス的な悲哀なメロディを炸裂させたかと思うと、懐かしいマスコア的な楽曲をストレートにぶつけてくる。直球のハードコアパンクをやっているかと思えば、それはU.G. MANを思い起こさせる、どこか絶妙なクセがある。彼らがこのアルバムでやっていることに一つの明確なコンセプトはないだろうし、ファンは形容出来ないFull of Hellのサウンドの芸術性を楽しみにしているはずだ。そう言う好奇心からすれば、このアルバムは最初から最後まで、目が離せない作品に仕上がっていると言えるだろう。

 

▶︎Groin 『Paid in Flesh』

Country : United States
Label : No Time Records
Streaming : https://groinaz.bandcamp.com/album/paid-in-flesh

Groinは、アリゾナを拠点に活動するグラインドコア/パワーヴァイオレンス・トリオでボーカリストLois Ferre、ドラマーJosh Goodwin、ギター/ベースを兼任するAustin Kellyからなる。本作はファースト・アルバムとして発表されているが、2020年に『Greatest Hits』、2022年に『Groin』と2枚のEP (どちらもアルバム並みのボリュームであるが)を発表している。20曲入りの本作は、パワーヴァイオレンスとグラインドコアのそれぞれの良さをショートチューンに巧みに組み合わせつつ、ドゥーミーなフレーズを適度に組み合わせながら、強弱の幅の広さでリスナーを夢中にさせていく。唐突にやってくるブレイクダウンも面白い。

 

▶︎ACXDC 『G.O.A.T.』

Country : United States
Label : Prosthetic Records
Streaming : https://acxdc.bandcamp.com/album/g-o-a-t

2003年カリフォルニア州ロサンゼルスで結成され、キャリア20年が経過したワーヴァイオレンス・バンド、ACXDCの前作『Satan Is King』以来、4年振りのサード・アルバム。スプリット作品やEPなどはたくさん出ていて、特にテープ・フォーマットがかなり流通しているイメージがある。グラインドコアというよりはハードコアパンク・シーンでの認知度が高い彼らだが、Prosthetic Recordsと言うメタル中心のリリースを行うレーベルからと言うこともあり、本作はグラインドコア・リスナーの食いつきも良さそうだ。

アルバム通じてギターリフが凄まじい。Amebixのようなクラスト・ルーツのプロダクションから、デスメタリックな分厚いリフまで変幻自在に繰り広げられていく。その裏でジリジリとノイジーなベースラインも個性豊かだ。ボーカルについて言及されることが多いみたいだが、素晴らしい以外に感想がない。

 

▶︎Eraser 『Harmony Dies』

Country : Italy
Label : Rødel Records/Septic Aroma of Reeking Stench/Despise The Sun Records
Streaming : https://erasergrind.bandcamp.com/album/harmony-dies

イタリア・シチリア島の都市であるパレルモを拠点に2014年から活動するEraserの2020年のアルバム『Mutual Overkill Deterrence』以来、4年振りとなるスタジオ・アルバム。Napalm Death、General Surgeryなどを彷彿とさせるオールドスクール・グラインドコアで、キレのある展開とObscene Extremeのステージが眼に浮かぶキャッチーなグルーヴがオープニングからエンディングまで心地良く鳴り響く。分かりやすさで言えば2024年トップアルバムかも知れない。

 

▶︎Vile Species 『Disqualified As a Human』

Country : Greece
Label : Nothing To Harvest Records and more
Streaming : https://vilespecies.bandcamp.com/album/disqualified-as-a-human

2019年にギリシャ・アテネで結成された4人組 (レコーディング当初はトリオ編成だった模様)、Vile Speciesの前作『Against the Values of Civilization』以来、2年振りとなるスタジオ・アルバム。アーティスト写真を見る限りかなりベテラン、ライブも精力的に行っているようだ。ところどころデスメタリックなリフの展開やドラミング (ほとんどブラストビートだが) もあり、”Deathgrind”とタグ付けされている作品が好きな人はチェックしてほしい作品だ。荒っぽいプロダクションでも分かる熱気、アートワークを見て、芸術派かなと思ったが、そのサウンドのストレートさとのギャップにやられた。

 

▶︎Controlled Existence 『Out Of Control』

Country : Czechia
Label : Psychocontrol Records/Calvos73 Records/Wise Grinds Records
Streaming : https://controlledexistence.bandcamp.com/album/out-of-control

2011年チェコ・プラハで結成された4人組。13年というキャリアがありながらも本作がバンドのファースト・アルバムで、これまでにMindfuck、Alea Iacta Est、Days of Desolation、Desperate Pigs、Shitbrainsといったバンドらとのスプリット作品を多数リリースしてきた。カラッと乾いたノイズまみれのギターリフにパキッとクリアなプロダクションで叩き込まれるパワフルなドラミング、Wormrotほどの忙しい展開はないものの、数多く挿入される不協和音やカオスなタッチは聴きごたえ十分。

 

▶︎Morgue Dweller 『Corpse EROTika』

Country : United States
Label : Independent
Streaming : https://morguedweller.bandcamp.com/album/corpse-erotika

Graveyard Lurkerによるワンマン・グラインドコア・プロジェクト。2022年にそれまでに制作された楽曲をリマスターしたディスコグラフィー盤『Till Death Do We Start (Complete Discography Remastered)』をリリースしているが、それからは初となるアルバムで、アートワークからも分かるように、HaemorrhageNecronyRegurgitate初期Carcassといったクラシックなゴアグラインド・サウンドに親近感が湧く。完全に腐敗し切ったボーカルが地を這うようにして、ノイズまみれのブラストビートに細菌をなすり付けていく。

 

▶︎Sunshine Friendship Club 『Two Minute』

Country : Czechia
Label : Independent
Streaming : https://sunshinefriendshipclub.bandcamp.com/album/two-minute-lp

チェコ・プラハ在住のMike Iannucciによるワンマン・プロジェクトSunshine Friendship Clubによる7曲入り合計2分と言うショートチューンEP。こういう作品を見かけると聴かずにはいられない。数十年前 (もしかしたら20年前くらいかも) ショートカット・グラインドとか、ショートカット・ゴアグラインドとかが流行っていた (のか、ただ個人的に夢中になっていたのか) 。自分でも100曲入り15分のノイズグラインド作品を作ったこともあるが、こう言うのは曲数より短さの方が大事。こういう作品をたとえば、年間100枚とかリリースしたら、それで話題になるし、なんかそう言うバンドいないかな。そして意外と曲も良かった。

 

【2024年上半期】デスコアの名盤10選 アルバムレビュー

2024年の上半期にリリースされたデスコアの中から、アルバム、EPを中心に優れた作品をピックアップし、アルバムレビューしました。国内外からベテラン、若手問わず10枚をセレクト!新しいお気に入りを見つけてください。

 

The Last Ten Seconds Of Life 『No Name Graves』

2022年にセルフタイトル・アルバムをリリースした後、ギタリストのWyatt McLaughlin以外のメンバーが脱退してしまったものの、元々メンバーの入れ替わりが激しいバンドであったし、すぐに新体制となって動き出したのには驚いた。ボーカリストにはPromise BreakerのTyler Beam、ベーシストAndrew Petway、ドラマーDylan Pottsの4人体制となり、ペースを落とすことなく、10曲入りのフルアルバムをUnique Leader Records からリリースした。

DisgorgeSuffocationでの活躍で知られるRicky Myersをフィーチャーした「Letania Ingernalis」やSanguisugaboggのDevin Swankが参加したアルバムタイトル曲「No Name Graves」など、The Last Ten Seconds Of Lifeのダウンテンポ・スタイルが復活したストレートな作風が心地良い。2015年に脱退したStorm Strope以降の作品は、ニューメタルをやってみたりとやや迷走気味であったが、ここへ来てこのスタイルに戻ってきたのは嬉しいことだ。本作は彼らの通算7枚目のフルアルバムだが、ここからリリースペースも上がってきそうな雰囲気もある。まだまだThe Last Ten Seconds Of LIfeはこれからだ。再びダークで不気味なダウンテンポ・デスコアがリバイバルしたら、面白いことになりそう。

 

Extortionist 『Devoid of Love & Light』

アイダホ州カー・ダレーンを拠点に活動するデスコア・バンド、Extortionistのサード・アルバム。2019年にリリースした『Sever the Cord』から5年も経過していたとは……。それまでにEPやシングルリリースはあったものの、ここ数年はあまり名前を聞かないと思っていた。コロナ禍でメンバーラインナップに大きな変化があり、オリジナルメンバーであるBen Hoaglandがボーカルを務め、2022年にギタリストClayton Blue、2024年にドラマーVince Alvarezが加入している。

ダークで不気味な不協和音を静かに漂わせながら、オルタナティヴ/ニューメタルに通ずるクリーンパートを導入してExtortionistらしい世界観を見事に作り出している。本作のタイトルトラック「Devoid Of Love & Light」は間違いなく2024年上半期のデスコアの中でも印象に残った楽曲だ。

TraitorsやThe Last Ten Seconds Of LIfeといった2010年代初頭にデスコアを過激化した重鎮達が2024年も元気なことは素晴らしい。血が沸くような危険な香りが漂うデスコアがExtortionistのように独自性を持ちつつ現れ続けてくれたらデスコアは面白いものであり続けると思う。

 

Filth 『Southern Hostility』

ノース・カロライナ州シェルビーを拠点に活動する4人組、Filthのサード・アルバム。前作『The Ignorance』から3年、Gutter Music RecordsからCrowdKill Recordsへと移籍した彼らは、初期のダウンテンポ・デスコアスタイルを保ちながらもヒップホップのエレメンツを盛り込んだり、ニューメタルコアにヒントを得たり、実験的な要素も随所に組み込んだ。しかし、持ち前の狂気的なモッシュの熱狂を生むバウンシーなパートは健在で、フロントマンDustin Mitchellの存在感も抜群だ。

ダウンテンポ・デスコアへの注目は、デスコア自体が年々ヘヴィになって、ダウンテンポ・フレーズを組み込むことが珍しいことではなくなったことなどからここ数年は落ち着いているように感じる。2010年代中期から後期にかけてアメリカを中心に続々と誕生したそれらのバンドの中でもFilthの存在は圧倒だった。本作はミュージックビデオを見ても分かるようにヒップホップの影響が色濃く反映されており、Filth元来のダウンテンポと上手く調和して不気味で危険な香りを漂わせている。例えば「STAY GUTTER」は超ロー・チューンのリフとDustinのラップもバッチリ決まっている (MVのディレクションも最高) 。

 

Enterprise Earth 『Death: An Anthology』

今年結成10周年を迎えたワシントン州スポーカン出身のデスコア・バンド、Enterprise Earthの通算5枚目となるフルアルバム。バンドのオリジナルメンバーでカリスマ的な人気を誇ったボーカリストDan Watsonが2022年に脱退してからは初のアルバムで、現在はボーカリストにBite//Down、Aethereに在籍するTravis Worland、ギタリストGabe Mangold、テクニカル・デスメタル・バンドEssomenicで活躍するベーシストDakota Johnson (こちらも新加入)、そしてドラマーBrandon Zackeyの4人体制で活動している。残念ながらオリジナルメンバーはもういない。

MNRKからのリリースとなった本作で、Enterprise Earthは新たなチャプターをスタートさせた。全体的にプログレッシヴなアプローチが増え、時にTriviumにも接近するようなメロディック・メタルコアやプログレッシヴ・デスメタルな雰囲気も醸し出すようになった。新たなボーカリストであるTravisもここ数年、Enterprise Earthでライブ・ボーカリストを務めていたこともあり、大きな違和感なく、Enterprise Earthのサウンドに馴染んでいる。Danと比べるのは野暮だが、Travisのクリーンやシャウトの対比は優れていると感じる。

前述の通り、Triviumにも似た雰囲気があると書いたが、Matt Heafyが参加している「Curse of Flesh」や、SpiteのDarius Tehraniが参加した「The Reaper’s Servant」、Shadow of Intentなどで知られるBen Duerrをフィーチャーした「King of Ruination」、 AlluvialのWes Hauchが参加している「Malevolent Force」など豪華なゲスト陣も良い仕事をしている。キャリアが10年を超えるベテラン・デスコア・バンドも増えてきた中で、Enterprise Earthのようにプログレッシヴ/メロディックなアプローチを増やしていくバンドも今後増えそうだ。彼らのサウンドは紛れもないデスコアでありながら、バンドとしてはメタル・バンドとして成長していく。デスコアの未来を考える上でも重要な姿勢ではないだろうか。Enterprise Earthの今後の躍進に注目したい。

 

Divinitist 『BLOOD DRIPPING FROM THE KNIFE ON THE CHEST REFLECT YOUR TRUTH』

新潟を拠点に活動するDivinitistは、結成から現在までEPのリリースやコラボ、シングルリリースに加え、ソーシャルメディアでも存在感を見せつけてきた日本のバンドの一つだ。デビュー・アルバムとなる本作は、BEYOND DEVIATIONのドラマーであるKris ChayerのレーベルShattered Earth Recordsからのリリースで、日本を拠点としていながらもすでにグローバルな知名度も獲得している。

強烈なビートダウン・パートと血管がブチギレそうなボーカルが生み出す不気味なアトモスフィアに包まれた「KINGBREED」やHostile EyesのToshikiをフィーチャーした「HAIL BARBATOS」はアルバムのキートラックで、Divinitistのユニークな個性を感じることができ、またフロアでの凶悪なモッシュの光景が頭に浮かぶようなフックの効いたグルーヴがあちこちで炸裂している。国内からこうした高品質のデスコアが続々と登場している昨今、Divinitistは中でも特筆すべきバンドとしてグローバルな人気を獲得していくに違いない。

 

Alluvial 『Death Is But A Door』 EP

ジョージア州アトランタを拠点に活動するNuclear Blast Records所属のAlluvialのファーストEP。これまでに2枚のアルバムをリリースしており、初期はプログレッシヴ・デスメタルであったが、現在までにプログレッシヴ・デスコアへとそのスタイルを変化させてきた。バンドの中心人物であるギタリストのWes Hauchは、元The Facelessのメンバーであり、過去にはBlack Crown InitiateThy Art Is Murderのライブ・ギタリストとして活躍し、現在はAlluvialの他に、Glass Casketにも在籍している。ベーシストのTim Walkerは元Entheosのライブメンバーで、ボーカルのKevin Mullerはブルータル・デスメタル・シーン出身で元Pyrexia、Suffocationのライブでサポートを務めた経歴も持つ。2022年にドラマーZach Deanが新加入し、現在のようなスタイルを確立した。

Alluvial自体はプログレッシヴ・デスメタルとしてスタートしたが、Wesの経歴と続々と新加入するタレント・ミュージシャンの経歴から考えて、現在のスタイルは彼らにぴったりなものであると言えるだろう。「Bog Dweller」のような現代デスコアのスタンダードとも言えるものから、EPのタイトル曲「Death Is But A Door」のようにプログレッシヴ・デスメタルの名残とも言える楽曲もあり、その魅力は多彩だ (“Death Is But A DoorのMVは必見です) 。Nuclear Blast Records所属ということを考えれば、このままヘヴィなデスコアへと変貌していく姿は想像しにくいが、ピュアなプログレッシヴ・メタルをそのままデスコアに注入したようなサウンドは貴重なので、Alluvialがその先頭に立ってシーンを切り開いていってほしい。

 

And Hell Followed With 『Untoward Perpetuity』 EP

2022年に12年振りとなるセカンド・アルバム『Quietus』をリリースし、長いブランクから復活を遂げたミシガン州デトロイトのAnd Hell Followed With、本作は4曲入りであるが、ブラッケンド・デスコアの影響を受けつつもクラシックなデスコアの構築美を持つ作品に仕上がっており、全てがリード曲といっていいほどの完成度を誇る。

何度かのメンバーチェンジを繰り返し、本作は公開オーディションから加入へ至った新しいボーカリストPon Zimora、バンドのコンポーザーでありギタリストのPatrick Hahn、2019年から加入しているギタリストDaniel Gomez、AegaeonやEngutturalment CephaloslamectomyのベーシストNick Scott、そしてCrown MagnetarからドラマーByron London、ギタリストNick Burnettというラインナップで制作されている。

最も印象的なのは3曲目の「Kaleidoscope of Tenebrosity」だ。ブラッケンド・デスコアへとやや接近しつつも予測不可能な展開を繰り広げていきつつも、雷のようなブレイクダウンを打ち付けていくという、玄人向けの楽曲。ただ、テクニカルなベース、ブラストビート、ヒロイックなギターソロはテクニカル・デスメタル/メロディック・デスメタル・リスナーも楽しめると思う。地味な存在であることは変わりないが、アメリカのアンダーグランド・デスコア・シーンでは誰よりも長いキャリアを持ち、ブランクを感じさせない完成度を誇る本作、チェックしておくべき1枚だ。

 

Bonecarver 『Unholy Dissolution』 EP

スペイン出身のBonecarverのEPが凄いことになっていた。彼らがUnique Leader Records と契約した時には気づかなかったが、彼らはかなりテクニカルなことをやっている。そして、Brand of Sacrificeのようなブルータル・デスコアに影響を受けつつも、ブラッケンド/メロディックなアプローチにも磨きをかけ、「テクニカル・ブラッケンド/メロディック・デスコア」とも形容したくなる、容赦ないEPを作り上げた。トータルは15分であるが、内容の濃さは1時間のアルバムと変わらないくらいではないだろうか。

収録されている5曲全てにゲストが参加しており、The Last Ten Seconds Of LifeのTyler、VulvodyniaのKris、DistantのAlan、AngelmakerのMike、Signs Of The SwarmのDavidといったデスコア・トップシーンの人気者達がBonecarverサウンドをさらにユニークなものに仕立ててくれる。特にDistantのAlanが参加している「Purgatory’s Embrace」はシンプルな作りながらデスコアの旨みだたっぷりと詰まった楽曲で、ブルータル・デスメタル、テクニカル・デスメタルも好きならたまらない楽曲だろう。さまざまな装飾によってダイナミズムを増すバンドが多いが、Bonecarverのようにシンプルに楽曲の良さで勝負してくるバンドは好感が持てる。ソングライティングも良ければ尚更だ。かなり聴き込む価値のあるEPであると言えるだろう。

 

Drown in Sulphur 『Dark Secrets Of The Soul』

イタリア・ロンバルディア州を拠点に活動するデスコア・バンド、Drown in Sulphurの2021年にリリースしたデビュー・アルバム『Sulphur Cvlt』以来3年振りのセカンド・アルバム。かなりの頻度でシングル・リリースを続けてきたこともあり、3年という時間が空いたようには感じられないほど、彼らの名前はデスコア・リスナーの間では身近なものではないだろうか。

本作は、彼らはデスコアから脱却を図っているかのようなサウンドで話題になった。もちろん、切れ味鋭いブレイクダウン、ダウンテンポ・デスコアに接近するかのような強烈なブレイクはあるものの、最も注目したいのが、シンフォニック・ブラックなオーケストレーションだ。それは全編に渡って重厚で、『Dark Secrets Of The Soul』のムードを担う重要な要素と言える。Anorexia NervosaDimmu Borgirのようなブラックメタルからの影響が顕著であることは、デスコアという小さなジャンルだけでなく、さらに多くのファンベースへアプローチ出来る可能性を秘めているということである。アートワーク、タイトル、ヴィジュアル、Drown in Sulphurがデスコア・バンドとしてではなく、シンフォニック・ブラックメタル・バンドとして広く認知される日も近いかもしれない。イタリア出身というのも、今後のブレイクやバンドの方向性の鍵となってくるだろう。

「Lotus」といった6分越えのバラード調の楽曲から、デビュー当時のデスコア・スタイルと今のスタイルを上手くクロスオーバーさせた「Eclipse of the Sun of Eden」など、アルバム通してDwon in Sulphurの過去と未来が感じられる作品に仕上がっていると言えるだろう。ぜひ一度じっくりと聴き込んでみて欲しい作品だ。Lorna ShoreファンからDimmu Borgirファンまで、受け入れられる作品。

 

Nights Of Malice 『Unholy Genesis』 EP

2009年にニュージャージー州で結成されたNights of MaliceのセカンドEP。2019年にセカンド・アルバム『Sonnets of Ruin』をリリースしてからはグッとブラッケンド・スタイルへと移行し、メンバーラインナップもボーカリストBrendan McGrath、ギタリストXavier Quiles、ベーシストRick Smith、ドラマーJoe Capassoの4人組へとチェンジ。結成から15年、『Sonnets of Ruin』以降はメンバーは全員黒いマントをまとい、雰囲気たっぷりのミュージックビデオでファンを魅了してきた。

『Unholy Genesis』はメロディックデスメタルとしても優れており、ミュージックビデオになっている「Hell Stirs For Me Below」ではツインリードをエンディングに据え、ドラマ性の高い楽曲に仕上げている。先行シングルとして発表された「Hubris and Retribution」もセンチメンタルなメロディを爪弾くアルペジオから幕を開け、荘厳さを纏いながらダイナミックなデスコアをプレイしている。メロディック/ブラッケンド・デスコアでありながら、メロディック・デスメタルでもあり、ブラックメタルでもあるNights of Maliceは、その多様性からか大ブレイクとまでいかない存在であるが、彼らのソングライティングの良さは本物だ。

【2024年上半期】ポストハードコアの名盤10選 アルバムレビュー

ニュース記事としてはRIFF CULTでも頻繁に取り上げてきたが、「ポストハードコア」のタグはアクセスも少なく、Spotifyプレイリストのフォロワーも伸びにくかった。メタルコアとの境目が曖昧ではあるが、やはりポストハードコアについて発信し続けなくてはいけないと思った。それには二つの理由がある。

一つは、このジャンルのトップを走ってきたToo Close To TouchのシンガーKeaton Pierceの訃報、そしてそれに伴うバンド活動の終焉だ。このあとアルバムレビューをしているが、やはり訃報によるバンドの活動終了のニュースはダメージが大きい。Keatonが残した音楽を文章という形でこれから残していくことが重要であることは間違いないが、やはり、生きている時にその魅力を広げていくことがこのブログの役割なのではないだろうか。そういう意味でもToo Close To Touchをはじめ、ポストハードコアの魅力を出来る限り文字で残していくことを決めた。

もう一つの理由としてはRIFF CULTのチームが運営しているRNR TOURSで積極的に招聘しているポストハードコア・バンド達の存在だ。今年はSoftspokenといった現行アメリカン・ポストハードコア・シーンで高い注目を集めているバンドから、Tidebringer、Across The White Water Towerなどメタルコア/ポストハードコア・バンドなど、とても良いバンドに恵まれ、良いツアーが出来た。今でこそ、毎月のように多くの「メタルコア」バンドが来日しているが、ポストハードコア・バンドはある程度人気が確立されているバンドでないと、来日しない。共演するアーティストも国内のポストハードコア、と呼べるシーンがないことから、難しい。でも、難しいからやらないのか?RNR TOURS、RIFF CULTが良いと思ったミュージシャンならオファーがあればやるべきではないのか?その下地をしっかり作っていく意味でも、日々ポストハードコアという音楽ジャンルの今について、発信していくべきではないのか。RIFF CULTに出来ることをやってないのに、言い訳じみたことは言いたくない。個人的な思いで申し訳ないが、こうした二つの出来事がきっかけで、しっかりRIFF CULTでもポストハードコアという音楽ジャンルについて発信し直していこうと決めた。その第1弾として、2024年の上半期にリリースされたポストハードコアに分類可能な音楽の中から優れた作品をレビューしていきたいと思う。長くなってしまったが、毎日少しずつでも、レビューの作品を聴いてみて、新しいお気に入りを見つけて欲しい。

 


 

Hands Like Houses 『STRATO』 & 『TROPO』

オーストラリアを代表するポストハードコア・バンド、Hands Like Housesが2024年上半期だけで、2枚のEPをリリースした。それぞれ4曲入りの作品で、Hands Like Housesの新章幕開けに相応しい作品として印象に残っている。

2023年にオリジナル・ボーカリストとして長年に渡ってHands Like Housesのフロントマンを務めたTrenton Woodleyが脱退。バンドは新たにThe FaimというバンドのボーカリストJosh Ravenをフロントマンに迎え、活動を継続することを発表した。15年のキャリアを経て、このタイミングで新しいフロントマンを迎えるというのは、バンドにとって大きな決断であったことは間違いない。同年12月にJoshとの最初のシングル「Heaven」を発表。Hands Like Housesはこのシングル・リリースに際し「Joshとの出会いは、私たちの魂の探求の重要なポイントであり、彼は私たちの中にポジティブな変化をもたらしてくれた。 私たちは、ここに辿り着くまでの道のりを深く掘り下げ、この新鮮なエネルギーと熱意によって、どのような姿とサウンドになるかを想像した。 私たちは、創造することへの深い愛と、アイデアを共有するための前向きな環境を再発見した。 私たちは一歩引いて、そもそもなぜこれを始めたのかという根本に立ち返りました。 次の章では、私たちにインスピレーションを与え、やる気を起こさせるようなサウンドやアイデアを探求し、このプロセスを皆さんと共有できることを楽しみにしています」とコメントしており、Joshとの出会いをきっかけに更なる想像を続けたいというクリエイティヴな想いが伝わってくる。

3月に『Tropo』、6月に『Strato』とリリースされたこれらのEPは、バンドのコンポーザーであるギタリストAlexander Pearsonとオーストラリアを代表するプロデューサーでTrophy Eyes、Deez Nuts、Tonight AliveからStepsonまでを手掛けた経歴を持つCallan Orrがタッグを組んで制作された。UnderoathのAaron Gillespieをフィーチャーした「Better Before」、RedHookの女性ボーカリストEmmy Mackをフィーチャーした「BLOODRUSH」、The Getaway PlanのMatthew Wrightをフィーチャーした「Paradise」など、伝統的なHands Like Housesのエレクトロニックなポストハードコア・サウンドに彩りを添えるようなゲストが参加しており、Hands Like Housesの未知なる魅力が垣間見える楽曲がずらりと並んでいる。アルバムという形式をとらなかったのも、これらゲストの個性をより際立たせるのが狙いだったのかもしれない。それほど、楽曲ごとの個性が違った煌めきを放っているのが、『Strato』と『Tropo』だ。Joshのボーカルは、Trentonと比べるとかなり違ったタイプだが、例えばBeartoothのCalebなどにも似た声質でありながら、Hands Like Housesらしい滑らかなポストハードコアにもマッチしている。バンドが創造できる音楽性の幅もグッと広がり、これからさらに多くの音楽を生み出してくれるに違いない。彼らの再出発を歓迎したい。

 

Too Close To Touch 『For Keeps』

ケンタッキー州レキシントンで2013年に結成されたToo Close To Touchのファイナル・アルバム。2022年3月、フロントマンであるKeaton Pierceが急逝、Epitaph Recordsに所属し、ポストハードコア・リスナーで知らない人はいないという程の有名シンガーの訃報に、シーンはどよめき悲しみに包まれた。本作のタイトル『For Keeps』は、残されたメンバーであるギタリストのMason Marble、ドラマーKenny DowneyがKeatonのニックネーム「Keeps」をもじって名付けたもので、未完成の楽曲などに彼らの友人である仲間達をフィーチャーして作り上げられた、Too Close To Touchからファンへの「最後の贈り物」だ。

このアルバムは、従来のアルバムのようなものとして聴くことは難しいだろう。2023年秋、Keatonの誕生日に合わせてリリースした本作からの先行シングル「Hopeless」には、The Word AliveのTelle Smithが参加、他にもアルバムのオープニングを飾る「Novocaine」にはBad Omens、「Designer Decay」にはCane Hillがゲスト参加し、未完だったToo Close To Touchの楽曲に新たな息吹を吹き込んでいる。これまでBillboard Chartへラインクイン、さまざまなフェスティバル、ツアーでファンを魅了してきたToo Close To Touchはこのようにして活動を終了することはとても悲しいが、彼らが残してくれた音楽をこれからも大切に聴いていきたい。Keatonの書いてきた歌詞をこれからもじっくりと味わい、彼らの存在を忘れないように胸に刻みたい。R.I.P. Keaton Pierce。

 

Sienna Skies 『Only Change Is Permanent』 EP

2007年シドニーで結成され、これまで実直に活動を続けてきている実力派ポストハードコア・バンド、Sienna Skiesの久しぶりの新作。2016年にアルバム『A Darker Shade of Truth』をリリースしてからは作品のリリースがなかったので実に8年振りのカムバックとなる。個人的には、彼らの初来日ツアーを担当させてもらい、Sailing Before The Windとの全国ツアーなど2度一緒にツアーさせてもらったが、オーストラリア人らしい周りをポジティヴな気持ちにさせてくれる陽気なメンバー達で深く思い出に残っている。あれからメンバーチェンジもなく、厳しいコロナ禍を乗り越えてリリースされた『Only Change Is Permanent』はEPでありながら、これまでリリースしてきたアルバムにも引けを取らない充実感がある作品だ。

ThomasはSienna Skiesのボーカリストとして加入してから今年で10年ということで、オリジナル・ボーカリストのキャリアも超えて完璧なバンドのフロントマンへと成長した。そんな彼の歌声の持つ力強さ、繊細さが感じられるのがミュージックビデオになっている「Mess」「Don’t Let Me Go」の2曲だろう。どちらもタイプの違う曲であり、「Mess」は初期Sienna Skiesが多くのバンドと一緒に作り上げてきたオーストラリアン・ポストハードコアのクラシック・スタイルを下地にしつつ、ベテランらしいドラマ性溢れる一曲で、「Don’t Let Me Go」は胸を打つバラードだ。もちろんEP収録の全ての楽曲が素晴らしく「Cut Me Off」「Let It Burn」といったハードな楽曲もあるが、Sienna Skiesはやっぱりバラードが上手いと思う。これは、ベテラン・ポストハードコア・バンドにしか出せない魅力だ。Sienna Skiesは今年で結成17年。オージー・エモ/ポストハードコアのパイオニアとしての影響力はこれからさらに高まっていくはずだ。

 

Imminence 『The Black』

2009年スウェーデン最南端の町トレレボリで結成され、今年結成15年目を迎えるベテラン・ポストハードコア・バンド、Imminenceの前作『Heaven in Hiding』からおよそ3年振りとなる通算5枚目のフルアルバム。Arising Empireを離れ、自主制作で発表された本作は、バンドの中心人物であるギタリスト/バックボーカルのHarald Barrett、そしてボーカル/ヴァイオリンを担当するEddie Bergのタッグでプロデュースされている。

Imminenceと言えば、「Eddieのヴァイオリンの音色によって立ち上がる美麗なポストハードコア/メタルコア」というイメージが強いが、やはりメタルコア・バンドとしても非常に優れたソングライティングをしているということが、本作では今まで以上に伝わってくる仕上がりとなっている。そして、歌詞がめっぽう暗いのも印象的だった。アルバムタイトルの「The Black」は、一貫した本作のヴィジュアルイメージであり、歌詞においてもキーとなる単語である。「Desolation」ほか、この「Black」というイメージを通じて苦しみ、悲しみ、怒りなどさまざまな感情を吐き出していく。そしてそれは自然とダークで深みのある激情的なものとなり、これまで以上にパワフルなメタルコア・サウンドが占める割合も増えている。「Death by a Thousand Cuts」はアルバムの中で最も胸を打つ歌詞とサウンドで、ファンからもこの曲がアルバムの中で最も気に入っているというコメントがソーシャルメディアでも散見される。絶望の淵から、痛みや苦しみを嘆きながら、生きるとは、死ぬとは、そういう答えのない問いを溢れ出てくる感情のまま詩的に表現する歌詞世界には思わず息をのむ。

 

If Not for Me 『Everything You Wanted』

ペンシルベニア州ハリスバーグを拠点に活動するメタルコア/ポストハードコア・バンド、If Not for Meのセカンド・アルバム。前作『Eulogy (InVogue Records)』から2年振りとなる本作は、ボーカリストPatrick Glover、ベーシストZac Allen、ギタリストHayden Calhoun、ドラマーCody Frainという新ラインナップで制作され、プロデュースはIce Nine Killsのギタリストでありペンシルベニアの多くのバンドを手掛けるRicky Armellinoが担当している。

Patrickの伸びやかなクローンボーカルをスタイルのメインに据え、Until I WakeCatch Your Breathなどと比べられることが多いが、いわゆる2010年代Rise Records以降に育まれたきたサウンドがベースとなっており、If Not for Meの特徴としては、ヘヴィなメタルコア・ブレイクダウンと滑らかなクリーンパートのバランス感覚が優れていることにあるだろう。ドラマーのCodyはA Scent Like Wolvesのドラマーとしても知られ、SoftspokenやEyes Set To Killらが在籍するアメリカ屈指の美メロ・ポストハードコア・レーベルとして知られるTheoria Recordsのヘッドを務めている。InVogue RecordsからThriller Recordsへと移籍しても、同レーベルのDark DivineやRain City Driveなどと肩を並べる存在として、現在人気急上昇中だ。甘いハイトーンとヘヴィなメタルコア、どちらも好きならIf Not for Meはおすすめ。

 

A Scent Like Wolves 『Distant Dystopia』

ペンシルバニア州ランカスターのメタルコア/ポストハードコア・バンド、A Scent Like Wolvesの3年振り通算4枚目のフルアルバム。来日経験も豊富で、本作のエンディングを飾る「Escape Hatch」にはフィーチャリング・アーティストとしてSailing Before The Windがクレジットされていたり、過去にはRyo Kinoshitaをフィーチャーしたシングルをリリースしている。コロナ禍前後でメンバーチェンジが相次ぎ、一時期7人組になったりしたものの、現在は5人体制で落ち着いている。ツインボーカルのBoltz兄弟は二人ともラインナップされているが、シャウト・ボーカルを担当するNickがランカスターを離れた為、本作はオンラインベースで制作され、最近はなかなかライブも出来ていないようだ。ドラムのCodyもIf Not For MeのブレイクやTheoria Recordsの仕事で忙しそうである。

メンバーそれぞれに状況が変わりながらも、A Scent Like Wolvesが続いていることは幸せなことだ。アメリカン・メタルコアのリアルさは彼らのようなバンドにこそあるし、アンダーグラウンドであっても情熱を絶やさずにバンド、レーベル、そして友人のバンドのサポート (A Scent Like WolvesのAlは先日、Softspokenのカナダ公演でSam不在の穴を見事に埋めた) にも積極的なのは見習うべき姿勢だろう。

さて肝心の『Distant Dystapia』だが、彼らが得意とするプログレッシヴ・メタルコアのアトモスフィアと力強いブレイクダウン、そして突き抜けるようなクリーンは健在でリードシングルとしてミュージックビデオにもなっている「Sunscape」や「Spell Caster」は必聴である。特に「Spell Caster」はこれまでにないA Scent Like Wolvesのメロディメイカーとしての才能が表れた良曲であり、アルバムのプレ・エンディングを飾るに相応しい楽曲と言えるだろう。彼らが元気に活動しているということだけでも嬉しいが、やはり本作も素晴らしい出来で、とても楽しんで聴くことが出来た。「Reach Into Hell」で友情フィーチャーしているZOMBIESHARK!は彼らの地元の仲間で、初来日時に帯同していつもクルーを笑わせてくれたナイスガイ。

 

Eidola 『Eviscerate』

2011年ユタ州ソルトレークシティを拠点に結成されたEidolaの通算5枚目のフルアルバム。前作『The Architect (2021年)』から引き続きRise Records / Blue Swan Recordsからのリリースで、プロデュースはGrayWeatherのギタリストとして知られるMike Sahmが担当している。

Blue Swan Recordsと言えば、Dance Gavin Danceのギタリストであり、プログレッシヴ・ポストハードコア (=Swancore / スワンコア) の産みの親として知られるWilliam SwanがRise Recordsのレーベル内レーベルとして設立したレーベルだ。所属アーティストもWilliamのSecret Band、元Dance Gavin DanceのKurt TravisなどDance Gavin Danceをルーツに持つバンドに限られている。そんなBlue Swan Recordsの中でも一際独立した人気を持ち、Dance Gavin Danceをも凌駕するユニークな創造性を持つのがEidolaだ。

本作は、これまでEidolaが鳴らしてきたスワンコアに、元来Eidolaが持っていたプログレッシヴメタルのパワフルなアンサンブルを復活させ、高次元融合させた快作である。オリエンタルな音色が印象的なイントロ「Atman: An Introduction to Suffering」で幕を開けると、「A Bridge of Iron and Blood」「No Weapon Formed Shall Prosper」とテクニカルなタッピングフレーズが飛び交うパワフルな楽曲が続いている。続く「Who of You Will Persevere」は本作の中でも最も優れた楽曲であり、Andrew WellsとMatthew Dommer のボーカルの掛け合いも素晴らしく、エレクトロニックなエレメンツやダンサブルなビートを交えながら、ライブ映えする展開がエンディングまで途切れない。「Fistful of Hornets」「Kali Yuga」と個性的な楽曲がいくつも収録されている。特に「Kali Yuga」では女性ボーカリストChantelle Wellsをフィーチャーし、力強いボーカルワークに引き込まれる。ほとんどがDance Gavin Danceクローンとも言えるマイクロジャンル「スワンコア」の持つ可能性を拡大するEidolaの溢れんばかりの創造性が感じられる一枚だ。

 

Makari 『Wave Machine』

2011年フロリダ州オーランドで結成されたMakariのおよそ5年振りとなるフルアルバムは、InVogue Recordsを離脱しインディペンデントでリリースされた。Makariと言えば2019年、それこそデビュー・アルバム『Hyperreal』を発表した年にフロントマンのAndy Cizekがプログレッシヴ・メタルコア/Djentの著名バンドMonumentsに加入して大きな話題となった。Makariを脱退してMonumentsに加入したわけではなく、その活動は並行して行われており、Makariも2020年にEP『Continuum』を発表するなど、決して5年間音沙汰がなかった訳ではなかった。

Monumentsとは違い、Makariではポストハードコア、というよりもオルタナティヴロック/プログレッシヴロックとも言える、ソフトなスタイルへと舵を切り、アルバムからのリードシングルとしてミュージックビデオにもなっている「Closer」のようなAndyの伸びやかなハイトーンを生かした楽曲が多く収録されている。サウンドプロダクションの質感で言えば、来日が決定しているFLOYAに近いものがある。「Soulstealer」といったハードな楽曲との対比でアルバムの中では「Closer」のような楽曲がしとやかに瑞々しい輝きを放ち、まるでアートワークのようなアトモスフィアの中にいるような錯覚を聴くものに与えてくれる。Andyという優れたボーカリストが二つのバンドを同時に動かし、それぞれ違った個性でリスナーを楽しませてくれるのは幸せなことだ。彼はソロ名義でもコラボ・シングルを頻繁にリリースしているので、Makari、Monumentsとも違ったサウンドはソロ名義の楽曲をチェックしてみると面白いだろう。

 

Saving Vice 『Good Days, Dead Eyes』

バーモンド州を拠点に活動するSaving Viceのおよそ4年振りのリリースとなるセカンド・アルバム。前作『Hello There』のアートワークに登場した不気味な女性二人組は本作のアートワークにも登場。彼らが貫くホラーコンセプトを象徴するアイコンとして、そのサウンド以上に強烈なインパクトを放っている。

アートワーク、そしてヴィジュアル、ミュージックビデオに至るまで一貫したホラーテイストで貫く彼らだが、そのサウンドは逆にバラエティに富んだもので、ポストハードコアからニューメタルコアに接近するかのようなヘヴィな楽曲まで『Good Days, Dead Eyes』には収録されている。Saving Viceのバンドサウンドの根底に流れているのは、一聴すれば分かるようにMy Chemical RomanceやAlesanaといったバンドであり、それはTyler SmallとChase Paparielloのクリーンとシャウトのツインボーカルの掛け合いにも表れている。「Cry, Wolf」や「Haec Est Ars Moriendi」といった楽曲では、彼らが目指している世界観が細部に至るまで作り込まれており、特に「Haec Est Ars Moriendi」はアルバムの中でもキーリングになっていると言えるだろう。「Blood or Wine?」のようなヘヴィなテイストの楽曲も粗っぽい部分はあるものの彼らの既存曲のラインナップを考えれば、ライブで光り輝く楽曲だと言えるだろう。まだまだ彼らはこんなもんじゃないだろう。『Good Days, Dead Eyes』は、アメリカン・メタルコア/ポストハードコアの過去と未来を繋ぐ、そんな作品であるように感じる。

 

Dream State 『Still Dreaming』 EP

今年結成10周年を迎えたイギリス・ウェールズ出身の女性ボーカル・メタルコア/ポストハードコア・バンド、Dream Stateの通算4枚目のEP。2019年にアルバム『 Dream State』をUNFDからリリースしてからは、トップシーンの仲間入りを果たし、精力的な活動でファンを魅了してきた。本作は、2023年のEP『Untethered』からわずか1年足らずで完成させた作品で、インディペンデントでリリースしている。本作はプロデューサーにEnter Shikariなどを手がけたことで知られるDan Wellerを迎えレコーディングされており、DanがDream Stateサウンドに大きな変化をもたらしているようにも感じる。

この作品のラストに収録されている「Day Seeker」はダンサブルなアレンジがふんだんに施されており、エレクトロニックなビートと流麗なポストハードコアの融合がフレッシュにクロスオーバーしている。2022年に加入した女性ボーカルJessie Powellもメロディックなシャウトを交えたクリーンで聴き手の注目を一挙に集める存在感で新しいフロントマンとしてのポテンシャルを最大限に発揮している。タイトル曲でありミュージックビデオにもなっている「Still Dreaming」はJessieはDream Stateの可能性を何百倍にもしたといっていい働きをしており、全ポストハードコア・リスナーが聴くべき2024年上半期の注目トラックと言える。UNFD時代とは全く違う魅力を放つ今のDream State、必ずチェックしておいてほしい。

【2024年上半期】スラミング・ブルータル・デスメタルの名盤10選 アルバムレビュー

ブルータル・デスメタルとスラミング・ブルータル・デスメタルを意識的に分けて聴くようにしている。それは、ブルータル・デスメタルというジャンルが元来の魅力として持っているスピード、重さ、それらを掛け合わせて放たれるブルータルさを忘れないようにしたいという思いからだ。Internal BleedingやDevourment、Kraaniumといったバンドはこれらの間にあるようなバンドであるが、よりビートダウン・ハードコアやデスコアというものとの結びつきが強かったり、スラムパートに特化したソングライティングにフォーカスしているバンドをスラミング・ブルータル・デスメタルとして聴いている。そうするとやはりビートダウンの破壊力であったり、速くなくても重さであったりというところで、良さがくっきりと立ち上がって聴こえてくる。どちらも好きな音楽であり、同じジャンルの音楽であるが、その微妙な違いを意識しながら聴くことで、このジャンルがこれからどのようにして進化していくのか、どのようなバンドやそのバンドの作品、楽曲、ミュージックビデオがこれらのジャンルに影響をもたらすかがより微細に感じられると信じている。下記にアルバムレビューした作品は、どれもブルータル・デスメタルであり、中にはビートダウン・ハードコア、またはスラミング・デスコアというさらに細かくタグ付けできるものもあるが、ここではスラミング・ブルータル・デスメタルとしてまとめていく。スラミングという言葉が、ブルータル・デスメタルやデスコア、ビートダウン・ハードコアに与えている影響を感じながら、さらにはブルータル・デスメタルとの違いを感じながら、レビューを元にいろんな音楽を聴いてみて欲しい。

 


 

Ingested 『The Tide Of Death And Fractured Dreams』

イングランド・マンチェスター出身の結成18年目”Ingested”。Metal Blade Recordsと契約してリリースされた2022年のアルバムから2年振りとなる通算7枚目フルレングス。Unique Leader Records と契約したのも衝撃的だった記憶はまだ新しいが、彼らはさらに上を目指し、精力的なツアー活動、スラミング・ブルータル・デスメタルでありながらマイクロ・ジャンルを超え、メインストリームでも通用するダイナミックなサウンドを完成させ、着実にファンベースを拡大してきた。デスコア・シーンでも彼らの名は広く浸透していて、デスメタル・リスナーだけがファンベースの核を担っていないのも強みの一つなのだろう。

本作はパンデミック期からIngestedのプロデュースを担当しているNico Beninatoが再びレコーディングに参加し、エンジニアリングまでを担当。ゲスト参加しているミュージシャンも豪華で、「Expect to Fail」にはSylosisのJosh Middleton、「In Nothingness」にはChimairaのMark Hunterがフィーチャーされている。スラミング畑とはほとんど無縁な彼らを選んだのも、今のIngested人気無くしては実現しなかった興味深い選択なのでは無いだろうか。正直、彼らのポテンシャルを考えれば、「スラミング・ブルータル・デスメタル」などといったマイクロ・ジャンルで括ること自体、あまり歓迎されないことかもしれないが、このスタイルがメインストリームでも受け入れられる可能性があることを体現していること、複雑なフックは無いにしても、純度の高いスラミング・スタイルが根っこにある上で完成させられているアルバムであることはイメージしながら聴くべき作品であるだろう。シュルレアリズム画家David Seidmanの手がけたアートワークも印象的。

 

Enemy 906 『Through The Hell』

「西部の真珠」と呼ばれるメキシコ第二の都市グアダラハラ出身のEnemy 906によるデビュー・アルバム (Vile Tapes Recordsからのリリース)。2020年からボーカリストRodrigo Martinez、ギタリストのDaniel FreyとEdgar Gomez、ドラマーGerardo Lopez、ベーシストSalvador Coronaの5人で活動しており、アーティスト写真を見るに”いかにもメキシコ”というような危険な香りが漂っており、それはサウンドからも放たれている。暴力的なサンプリングから急激にビートダウンする「Deathwish」や、ダウンテンポ・デスコア最高峰Bodysnatcherをフィーチャーした「Agony」、Kraaniumが参加している「Finish You」まで血みどろのモッシュピットを展開するスラミング・ビートダウンが炸裂。危なげなストリートで撮影されたアルバムのリードトラック「Mercilessly」のミュージックビデオは必見。リアルなギャングなしでここまで危ない雰囲気なのは、さすがメキシコ。

 

Axiomatic Dematerialization 『Absolute Elimination Of Existence』

ロシア・モスクワにて2020年に結成されたトリオ”Axiomatic Dematerialization”待望のデビュー・アルバム。彼らのシングルはずっとチェックしていて、明らかに他のスラミング・バンドを圧倒するエネルギーに圧倒されてきた。そのエネルギーの源と言えるドラムを担うのは、 Humaniacに在籍し、これまでAbnormityやEnemy Crucifixionで叩いてきたKirill Chumachek。ボーカルはSergey Kulikov、ギタリストはRoman Yakushevとこれまでにキャリアのないフレッシュなメンバーであるが、彼らのテクニックはかなり高い。Romanは時折ニューメタルコアにあるようなワーミーも効かせたプレイで、卓越されたスラムリフを切り刻んでいく。それを盛り立てるようなボーカルとドラミングはパワフルで、我々がスラミング・ブルータル・デスメタルに求めるものを形にしてくれる。スタジオ・ミュージシャンが彼らの他に3人おり、音源の破壊力という意味ではしっかり作り込まれているが、ライブはどうだろうか。ライブ動画はなさそうなので、今は音源制作メインなのだろう。ぜひフォローしておきたい現代スラム注目のバンドの一つ。

 

Atoll 『Inhuman Implants』

アリゾナ州フェニックスのデスメタル・バンド、AtollがUnique Leader Records からリリースした通算5枚目のフルアルバム。Avarice、Eyes of Perdition、Grofbólに在籍するボーカリストWade Taylor、元IconocaustのMatt MarkleとSpencer Fergusonがギター、ベースはCameron Broomfieldで、Rising Pain、Searching for Reasonにも在籍するAndy Luffeyがドラマー、という一見そこまで有名とは思えない経歴からなるバンドであるが、何故かUnique Leader Records と前作から引き続き契約してアルバムをリリースしている。

一聴しても、Atollのサウンドのどこにデスメタル・リスナーを惹き続ける魅力があるのか分かりにくい。スラミング/ブルータル・デスメタルというにはやや中途半端であるし、ストレートなデスメタルとも言えない。彼らのソーシャルメディアを見てみると、かなりのライブをこなし、いくつか聞き覚えのあるフェスにもラインナップされていることから、この手のジャンルでは決して多くない貴重なライブバンドであるということが分かる。全員長髪で大きな髭を蓄え、熊のようにデカいという全体のビジュアルもインパクトがあり、ライブ映像をみるとかなりスラムリフでモッシュを煽りまくっているので、ライブに定評があるのだと思う。

それを意識して聴くとやはり、ステージ向けのスラムリフが目立つ。エクスペリメンタルな小技も随所にあり、フィンガーピッキングのベースラインも時折テクニカルに唸る。スラム主体でありながら、各パートが奇妙なことをやっている、そういうポリフォニーがAtollの魅力なのかもしれない。決して目立つ存在ではないが、”アメリカのデスメタルでライブバンド”って感じは最近のバンドには珍しいところなのかもしれない。

 

Cranial Bifurcation 『Junkie Of Necrosadism』

ロシアとウクライナに在住するデスメタル・ミュージシャンによるユニット、Cranial Bifurcation。2024年にそんなユニットは、他のジャンルには無いと思う。ギター、ベース、そしてドラム・プログラミングを担当するウクライナ出身のNazar Pashkevichは、最近Regurgitation Excrementというユニットも立ち上げて、東欧アンダーグラウンドデスメタルを盛り上げている。ロシア在住のArtem Nefedovはこの他に何かバンドをやっているわけでは無いようだ。一聴するとそこまで優れたスラミング・ブルータル・デスメタルでは無いように感じるが、ライブなんかで聴くとモッシュが起こりそうなシンプルなスラムリフがかなり強烈だ。戦争状態にある国のミュージシャンが「Limb Removal」といった楽曲をプレイしていることにデスメタル・リスナーとしては不思議な感動がある。感動というか違和感というか。アートワークもよくみると、ウクライナの国旗のカラーリングをモチーフにしているようである。レーベルのBandcampからNYPでダウンロードも可。

 

Embodiment Elimination 『Metamorphosis Incarnate Through Genetic Devastation』

ロシアのブルータル・デスメタル・シーンの実力者達によるサイド・プロジェクト”Embodiment Elimination”のデビュー・アルバムは、同郷の人気レーベルInherited Suffering Recordsからのリリース。

ドラマーのRoman Tyutinは世界最高峰のアヴァンギャルド・ブルータル・デスメタル・バンドByoNoiseGeneratorの中心人物で、ボーカルのArtem ShirmanはCovidectomyやDeprecationといったソロプロジェクトを持ち、Manifesting Obscenityというテクニカル・デスメタル・ユニットではギタリストとしても活躍する実力派。個人的にはByoNoiseGeneratorはデスメタル・シーンの幅広いマイクロ・ジャンルで評価されるべきバンドだと思っていて、このバンドのメンバーのプロジェクトは必ずチェックするようにしている。テクニック、フレーズのアイデアなどにおいて何か必ず印象に残るチャームポイントがあるのだ。

Embodiment EliminationもほとんどRomanのドラミングだけで聴く価値があるが、多くのプロジェクトを掛け持ち、日夜リリースに明け暮れるような創作意欲とテクニックを持ち合わせているArtemのボーカルとしての才能もここでは一つ聴きどころになっている。

 

Mass Killings 『The Coed Murders』

イングランド出身でBlood Rage、Clinician、Flaxといった誰も知らないデスメタル・ユニット (またはFlaxではすべての楽器を担当)で日夜創作に励むTom HughesのプロジェクトとしてスタートしたMass Killings。本作からは新たに相棒としてアメリカ出身で、1Diazidocarbamoyl5Azidotetrazole、Abducted and Brutalized、Beidl、Penectomy、Radiologist、Sodomizing Amputation、Syndactyly、Teratology、Trazodon、Vaultなどなど多数のプロジェクトに参加するLouis Simmerをボーカリストに迎え、ユニット体制で制作されたデビュー・アルバム。

殺人鬼をテーマに実際に起こった事件の写真をコラージュした物々しさ漂う作品で、決して打ち込みプロジェクトとして乱雑にリリースされ忘れ去られていくようなB級感はない。ブルータル・デスメタルといっても良いが、ブラストビートの疾走から華麗にブレイクする様は、スラミングの才能があるように思う。スラミングパート自体は少ないし、楽曲の単調さがあるものの、その中で光るスラムリフの一つ一つが持つ残忍性の高さは素晴らしいと感じる。

 

Repulsive Humanity 『Purge The Grotesque Consequences Of Humanity』

2022年、チリの都市バルパライソを拠点に結成された3人組。ドラマーMiguel Ruiz、
ギターとベースを兼任するErnesto Córdova、ボーカリストNiko SolarからなるRepulsive Humanity、今年2月にちょうどチリから来日したパンクバンドのツアーを少し担当させてもらったのですが、一人がバルパライソ出身だった。「英語はほとんど通じない街だと思うよ」と話していたが、彼らはどうだろうか。

本作でまず目を引くのがFrancisco Fez Leivaというチリ出身のアーティストが担当したアートワークだ。巨大なミキサーに向かって人間が悲鳴をあげながら降り注いでいる様はなんとも残酷な描写だ。これはYouTubeにアップされているヴィジュアライザーでも多くのブルータル・デスメタル・リスナーを惹きつける。

さて彼らのサウンドであるが、ベースドロップを随所に施し、生臭い血液のミストの中で重々しいリフを刻み込んでいくというクラシックなスラミング・ブルータル・デスメタル・スタイル。時にメンバー全員でのコーラスパートもあったり、どこかビートダウン・ハードコア的な要素も感じられる。EPというすっきりとしたサイズも聴きやすく、作品として楽しみやすいと思う。

 

Maimed 『Propagate Onslaught』

Between the Killings、Necessary Death、Severed Headshopといったバンドで一緒に活動するベーシストのIan DygulskiとドラマーJustin Wallisch、Apophatic、Solar Flare & the Sperm Whales of Passionなど、幾つものアンダーグラウンド・バンドを兼任する、同じくアメリカ出身のボーカリストKyle Messick、そして前述のMass Killingsにも在籍するイギリス出身のTom Hughesがギタリストを務めるウェブベースの4人組”Maimed”によるデビュー・アルバム。コロナ禍でこうしたプロジェクトは一気に増えて、10を超えるバンドを兼任するような、創作意欲溢れるデスメタル・ミュージシャン達が一気に増えたように感じる。彼らに関連するバンドをいくつもリリースしているレーベルSewer Rot Recordsからリリースされた本作は、紫と青を基調としたけばけばしいアートワークが目を引く。こうしたアートワークはオールドスクールなデスメタル・バンドの近作に多く見られる。彼らもそうしたオールドスクールな流れの中にあるように感じるフレーズが随所に感じられる。

例えばKyleのボーカルの湿っぽさはドロドロしたデスメタルのそれだし、乾いたスネア、ゴツゴツとしたサウンドプロダクションも決して現代的なスラミングぽさではない。ただ、そうしたプロダクションから放たれる強烈なブレイクがMaimedの場合、非常に心地良く鳴らされている。また、ほとんどの楽曲でさまざまなギタリストがフィーチャリング・ゲストとしてギターソロを提供しているのも面白い。Tomが在籍していたCrypt Rotが好きなら、Maimedもチェックしておいた方が良さそうだ。

 

Osteonecrosis 『Necrotizing Marrows Vol. I』

フィンランド出身の男女ユニット、Osteonecrosisによるデビュー・アルバム。ボーカリストのJennikaはBashedやUnearthly Ritesにも在籍していて、それらのバンドではベースを担当しているので、ボーカルとしての才能を発揮しているのはこのOsteonecrosisだけだ。ギタリストのEerikがおそらく他の楽器をすべて担当しているものと思われる。イントロからも感じられるように、Hennikaが在籍しているデスメタル、グラインドコア・バンドにはない、ギャングスタ・スラムの雰囲気が全編に渡って漂っており、ヘヴィなスラムリフが刻み込まれ続ける本作をグッと危険なスタイルにしている。その要素はアートワークからも感じられるはずだ。基本的にテンポの遅いスラミング・スタイルなのだが、それでも曲の後半部分ではさらに深部へと落とし込む強烈なパートが待ち構えている。ボーカルのスタイルもLorna ShoreのWill Ramosを彷彿とさせるものや、Knockled Looseのようなバンドにも近いものが節々にある。ハードコア・リスナーも必聴の作品と言えるだろう。

【2024年上半期】ブルータル・デスメタルの名盤 11選 アルバムレビュー

スラミング・ブルータル・デスメタルやテクニカル・デスメタル、さらにはゴアグラインドやゴアノイズ、さらに言えばメタルコアやハードコアにまで言えることだが、どのジャンルもミュージシャンの演奏技術がここ数年でとんでもなく進化している。みんな本当に演奏が上手い。もちろん、レコーディング技術の進化も音源の完成度の平均的な高さを上昇させた要因ではあるが、ブラストビートを取り入れるハードコアやデスコア・バンドも普通にいて、この手の技術がブルータル・デスメタルだけに限られたものではなくなってしまった。

隣接するテクニカル・デスメタルは例外として、やはりブルータル・デスメタルはどのジャンルよりも速く、そして重い音楽であってほしい。そうした音楽を作り出すためには高い演奏技術がいる。2024年にブルータル・デスメタルに求めることは、他のジャンルとクロスオーバーすることでも、ブレイクダウンを導入することでもなく、元来の魅力に立ち返り、簡単には理解出来ないエクストリームなデスメタルを演奏してほしいということだ。今回はそんなことを意識しながらアルバムレビューする作品を選んでみた。簡単には理解されないぞ! と言うような、確固たる信念が感じられるものを中心に選んでいるので、毎年やっているブルータル・デスメタルのレビューとは少し違ったテイストの作品も含まれているかもしれないが、上記をふまえて聴いてみて欲しい。素晴らしい作品がたくさんリリースされて、楽しい半年でした!

 


 

▶︎Brodequin 『Harbinger Of Woe』

1998年結成、テネシーのブルータル・デスメタル・レジェンドであるBrodequinの20年振りとなるニュー・アルバムはSeason of Mistからのリリースとなった。ドラマーJon Engmanが健康問題からドラムを長時間叩くことが出来なくなってしまい、一時期サンプラーを使用しそれをハンドドラムでプレイするというライブ・パフォーマンスをしていたが、残念ながらJonは2016年に脱退してしまった。

2020年にバンドとほぼ同い年、弱冠27歳のドラマーBrennan Shacklfordが加入。彼はLiturgyNacazculにも在籍し、元Cesspool of Corruptionのメンバーでもあり、Brodequinのブラスティング・スタイルを引き継ぐにはぴったりの技巧派だ。Brodequinの伝統的スタイルはほとんど変わっていないものの、メロディック・ブラックメタルの影響を感じさせる「Of Pillars and Trees」やオペラ調のサンプリングを施した「Theresiana」など新しい試みも感じられる。古代の拷問、というバンドの長年のコンセプトはそのまま。

 

▶︎Brutalism 『Solace In Absurdity』

2020年アイダホ州ボイシーにて結成。Brutalismは、ボーカリストCameron Bass、ギタリストLondon HowellとJason Taylor、ベーシストIan Dodd、ドラマーDante Haasというラインナップの若手5人組だ。メンバーはBrutalismの他にもBarn、Texas Ketamine、Bombedといったプロジェクトもやっていて、ローカルのデスメタル仲間のような雰囲気がある。デビュー・アルバムとなる本作はとにかく2024年にリリースされたとは思えないサウンド・プロダクションで、2000年代初頭のリアルなUSブルータル・デスメタルの混沌さに溢れている。これにはかなり痺れた。楽曲展開はPutridityなどを彷彿とさせる複雑で展開の予想が全くつかないブラストとリフの交錯が続き、スラップなどを取り入れながら存在感たっぷりに弾きまくるベースラインもユニークだ。アヴァンギャルドなエレメンツなども交え、決して飽きることなく最後まで楽しめる一枚。

 

▶︎Hypergammaglobulinemia 『狂』

京都出身のスラミング・ブルータル・デスメタル・トリオ、HypergammaglobulinemiaのデビューEP。異次元のピッグスクイールの使い手であるボーカリストMizuki “GoreCry” Watanabe、ギターとベースを兼任するRiku “Frenzy” Watanabe、ドラマーKaito “Strangle” Itoという編成 (人間ではないかもしれない) で、とにかくMizukiのピッグスクイールが凄まじい。加工されているとはいえ、人間の声帯から出される音が基になっているとは信じられない。あらゆるデスメタル、ゴアグラインド、ブルータル・デスメタルの歴史の中でもここまで個性的なピッグスクイールが炸裂するのは聴いたことがない。強烈なアートワーク、そしてアーティスト写真、彼らが日本国内だけでなく、世界で評価されるのは時間の問題だろう (日本人じゃないかもしれない!!!) 。もちろんサウンドも非常にレベルの高いスラミング・ブルータル・デスメタルで、サンプリングを随所に盛り込み雰囲気たっぷりだ。

 

▶︎Effluence 『Necrobiology』

アメリカ・カリフォルニア在住のソロ・プロジェクト。ほとんど詳細が不明で、BandcampによればMatt Stephensという人物が全ての楽器とボーカルを担当していて、この他にスケバンという謎のフリーインプロ・プロジェクトであったり、Tantric Bile、Neural Indentなど様々創作活動を行っているようだ。そしてそれらのほとんどが、ハーシュノイズ、ゴアノイズといったどちらかというとテクニカル・スタイルとは真逆のものばかりであるが、Effluenceではそれなりの演奏技術があることを証明している。そして何よりインプロ、エクスペリメンタル、フリージャズ/アヴァンギャルド・ジャズ、ハーシュノイズからゴアノイズまでを通過した異様な臭気がEddluence全体を包み込んでいる。これをブルータル・デスメタルとして聴くか、はたまたただのノイズグラインドやゴアノイズとして聴くかは人それぞれであるが、個人的にはNew Standard Elite系、ブラスティング・ブルータル・デスメタルが地底深くでエクストリームを極めていった結果誕生したようなサウンドであると評価したい。

 

▶︎猿轡 『曼陀羅』

東京を拠点に活動するブルータル・デスメタル・バンド、猿轡のセカンド・アルバム。「愚者共の 開かんとするは 地獄之門 大日本残虐絵巻 第二章」というキャッチの通り、全曲日本語タイトルでアートワーク、トラックリストとインパクトは絶大。このあたりのコンセプトは決してデスメタル・ファンだけでなく、アンダーグラウンドな日本語ハードコア、殺害塩化ビニールやもっと80年代ハードコアの雰囲気が好きなら興味をそそるはずだ。オープニングを飾るタイトルトラック「曼​陀​羅」は、ガテラル念仏からドゥーミーなブルータル・サウンドで恐怖感をじわりじわりと煽り、急激にアクセルを踏み込むようなブラストビートで聴くものを地獄之門へと引き込んでいく。明らかに日本国外のブルータル・デスメタルには出せない独特のジャパニーズ・ホラーテイストが随所に感じられる好盤。

 

▶︎Post Mortal Possession 『The Dead Space Between The Stars』

2023年ペンシルベニア州ピッツバーグで結成。本作は3年振りとなる4枚目フルレングスで、ベーシストにShattered SoulやVictims of Contagionで知られるBob Geisler、ドラマーにErgodicやNokturnelで活躍するMatt Francisが新加入。ボーカルのJake MunsonとギタリストのJake McMullenはスラミング・ブルータル・デスメタル・バンドRepulsive Creationでも活動しており、グループのリーダーであるギタリストBrian Cremeensを除くメンバーはそれぞれに多くのデスメタル・バンドで並行して活動しているが、その中でもPost Mortal Possessionは近年めきめきと知名度を上げており、彼らが在籍するバンドの中で最もアクティヴであると言っていいだろう。

アルバムタイトルやイントロ「2053」からも感じられるように、絶望的に向かい破滅していく世界をテーマに描いたSF風味の作品となっており、映画「Blade Runner 2049」からのサウンドクリップが挿入されていたりして面白い。決して派手さはないものの、楽曲にドラマ性を与えるような微細なテンポチェンジやDecrepit Birthを彷彿とさせるメロディアスなギターソロ、ピッグスクイールやハイとローを巧みにスウィッチするガテラルもアグレッシヴ。

 

▶︎Vertiginous 『Reek Of Putrefaction Of The Excruciating Lust』

インドネシア・東ジャワ州出身。結成年月日は不明だが、Devouring CarnageやHephaestusほか10以上のバンドを掛け持ちするギタリストHendika Dwi Prasetyoと、同じくPerverationやInnocent Decomposureといった様々なバンドで活躍するボーカリストJossi Bimaによるユニットで、これがデビュー・アルバム。

数年前までは聴いた瞬間インドネシアと分かる何かがあったが、ここ数年は本当に分からない。めちゃくちゃ良くて調べたらインドネシアであることが多い。プログラミングではあるが、変幻自在に転調、拍の調子にも細かく変化を加えながら疾走するブラストビートを軸に、ノイジーなチェーンソーリフをゴリゴリと刻み続けていく。ただひたすらにそれを繰り返し続ける残忍さがもしかしたら今のインドネシアン・ブルータル・デスメタルなのかもしれない。

 

▶︎Masticated Whores 『Meat Hook Hookers』

アーカンソーから登場したニュー・バンド。ギタリストBrandon Holderly、ベーシストZac Dunn、担当パートは不明だがDallas Howellが在籍しているトリオ編成と取っている。Masticated Whoresの基礎にあるのは打ち込みのスプラッター・テーマのブルータル・デスメタルで、一聴するとどこにでもあるようなタイプのバンドなのだが、ところどころ挿入される奇天烈なサンプリング、たとえば宇宙人の拳銃から放たれるビームのような音、執拗なホラー映画からの引用を楽曲間に挟みまくるなど、かなり変わった作りの楽曲が次々と押し寄せてくる。作り込みが足りたい部分もあるが、それでも楽しく聴くことが出来る作品だ。ラストの「WOMB TOMB」にはリック・アストリーが1秒登場するので耳を凝らして聴いてみてほしい。

 

▶︎Desecation 『Left To The Trogs』

2020年にカリフォルニア・サンディエゴでスタート。Putrid Tombを脱退したギタリストMarc NovoaとボーカリストAlex Siskoを中心に、ギタリストからドラマーへとパートチェンジしたTodd Novoaのトリオ体制をとっており、彼らはDecorticateというバンドでも一緒だったメンバーだ (*Putrid Tombはボーカル/ドラマーKian Abullhosn以外のメンバーが脱退しており、2022年に解散を発表している)。映画「トマホーク ガンマンvs食人族」のサンプリングで幕開け。雪崩のようにBPMを操り、粘着質なリフが腐った体液のとろみをあちこち飛び散らせながらスラムリフを切り刻んでいく様はまさにブルータル。スラミングとも言えるが、ブラスティングパートが軸になっているように聴こえる。

 

▶︎Genophobic Perversion 『Amassed Putrefied Remains』

マサチューセッツ州ボストン在住のColin J. Buchananによるソロ・プロジェクトで、2020年に活動を開始してわずか4年足らずで32枚もアルバムをリリースしている狂人。これに加えておかしな量のEPやシングルも発表している。ブルータル・デスメタルというジャンルは10年単位でアルバムをリリースするバンドもごろごろいる中、彼の創作意欲には驚くばかりだ。

内容はカチカチのブルータル・デスメタルというより、ブラスティング・ブルータル・デスメタルをさらにスピードアップさせ、ゴアノイズ的ハーシュノイズウォールのレイヤーを重ねまくったもので、「これはブルータルデスメタルではないだろう」というリスナーも多いかもしれない。確かにこれはゴアグラインドでもあるし、ゴアノイズでもあるかもしれないが、プログラミングドラム、輪郭のボヤけたノイジーなリフであろうと、Genophobic Perversionのサウンドの根底にはブルータル・デスメタルの血が流れているように感じる。こういう作品が広く一般的に (とはいえエクストリームメタル・シーンの中で) 楽しめるようになると、さらにブルータル・デスメタルは面白いものになっていくだろうし、他ジャンルからの影響をどんどん取り入れてクリエイティヴに拡張していってほしい。そんなことをGenophobic Perversionを聴いて思った。

 

▶︎Restlessly 『Unforeseen Consequences』

インドネシア・ジョグジャカルタのトリオ、Restlesslyのデビュー・アルバム。Anthropophagus DepravityGerogotといったブルータル・デスメタルの人気バンドに在籍するRama Maulanaがドラマーを務め、同じくAnthropophagus DepravityのギタリストであるEko Aryo Widodo、Gory、Maggoth、Necrotic Catastrophism、Vile DesolationのボーカリストYudhaによって制作されている。ここ数年、特に2024年上半期のブルータル・デスメタルを追いかけていて感じたことは、ブルータル・デスメタルにも多様性のあるスタイルを持つバンドが増え、従来のブルータル・デスメタルというジャンルの持つ固定概念をぶち壊すような作品が多くリリースされていることだ。

このリストにもあるHypergammaglobulinemia、Effluence、Masticated Whoresもそうだし、アヴァンギャルド/エクスペリメント方面では Gorgutsのベーシストとして知られ、Behold the ArctopusのブレインであるColin Marstonの存在もブルータル・デスメタルをさらにエクストリームに推し進める可能性をシーンに示し衝撃を与えてくれているように思う。とはいえ、やはりストレートなブルータル・デスメタル、つまりはブラスティング・ブルータル・デスメタルを鳴らすバンドがいないことには、彼らの存在価値はそこまで重要視されなくなってしまう。そこでRestlesslyのようなバンドは貴重であると言える。規則性のないブラストビートはそこまで大きな転調を持たず、ひたすらに、ひたすらに叩き込む。そして多少のブラッケンドなメロディは盛り込みつつも、じっくりじっくりブルータルなリフを刻む。ハイピッチなシャウトやピッグスクイールもなく、ローガテラルを吹き込んでいく。ただそれだけのサウンドがどれだけブルータルなのか、再確認させてくれた作品。

【2024年上半期】ニューメタルコアの名盤10選 アルバムレビュー

2024年の上半期にリリースされたアルバム (EPを含む) を中心に、素晴らしかった作品を10枚ピックアップし、アルバムレビューしました。「ニューメタルコア」というメタルコアのサブジャンルの中心的存在であるAlpha WolfやDarko US、Diamond ConstructやDefocusといった新たなトップバンド達の待望の新作に加え、デビューしたばかりの新しいバンドのEPなど、良質なリリースが盛りだくさんでした。ぜひ新しいお気に入りを見つけてください。

RIFF CULTでは、ウィークリーで更新しているSpotifyプレイリストで毎週新しい楽曲をまとめたプレイリストを更新しています。この機会にぜひフォローして下さい。このプレイリストをフォローすれば、トレンドが必ず掴めます!

 


▶︎Alpha Wolf 『Half Living Things』

オーストラリア・メルボルンを拠点に活動するニュー・メタルコア・バンド、Alpha Wolfのサード・アルバム。大ブレイクのきっかけとなった前作『A Quiet Place to Die』から4年、「ニューメタルコア」というサブジャンルの草分け的存在としてシーンのトップを走り続けてきた彼らが、どれだけ驚異的なスピードで成長してきたかは日本のメタルコア・ファンが良く知っているのではないだろうか。セカンド・アルバム前、Emmureの『Look at Yourself (2017年)』を発端に本格的にニューメタルとメタルコアのクロスオーバー・ジャンルが立ち上がり、その後リリースされたEP『Fault』でAlpha Wolfはニューメタルコアを確立。リリースを記念したアジアツアーは2019年に行われ、Suggestionsが帯同し、ニューメタルコア・シーンの影響を国内で最も早く取り入れたPROMPTSやPaleduskなどが出演、ヘッドライナーツアーを盛り上げた。200-300キャパで行われたこの日本ツアーから4年が経ち、再来日を果たしたAlpha WolfはPaleduskの「INTO THE PALE HELL TOUR FINAL SERIES」に出演し、SiMFear, and Loathing in Las Vegas、coldrain、PROMPTSと共演を果たしている。この飛躍的な人気の拡大は決しては日本だけでは起こったものではなく、母国オーストラリアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパでも同様に起こった。

本作はニューメタルコアとしてシーンのトップを牽引し、後続に道筋を作り続けてきたAlpha Wolfが、更に独自性を拡大することにチャレンジした作品だと言えるだろう。いくつかの挑戦は、刺激を求めるメタルコア・リスナーにとっては受け入れられないものであったかもしれないが、ニューメタルコアというジャンルの成熟にとっても、Alpha Wolfが次のフェーズに進むためにも必要な挑戦であったと言えるだろう。中でもミュージックビデオになり、ヒップホップ・シーンの重鎮Ice-Tをフィーチャーした「Sucks 2 Suck」は、ニューメタルという音楽の核を見つめ直し、SlipknotLimp Bizkitといったクラシックなスタイルからの影響をバランスよく配合しつつも革新的なメタルコアを鳴らしている。同じくミュージックビデオにもなっている「Whenever You’re Ready」では、オーストラリアのメタルコア、Northlane初期Void of Visionの影響が色濃く反映された楽曲でニューメタルコアとは言えない楽曲にも挑戦している。

「Sub Zero」でAlpha Wolfを知り、ヘヴィでバウンシーなメタルコアを望むリスナーにとってはマイルドすぎる作品かもしれないが、彼らの現在地を考えれば、チューニングの重さとか、いかにワーミーを詰め込むかを追求かと、そういう立場にはない。このアルバムは、バンドにとって次のアルバムまでにこれまで以上の成長を遂げる、簡単に言えばスタジアムや大きなフェスティバルに出演出来る可能性を高めるものであるべきだ。そしてバンドの目的は達成されているように感じる素晴らしいフィードバックを得ているのはソーシャルメディアからも伝わってくる。どこへ辿り着くのか、彼らの初来日を企画させてもらったものとしても興味深いし応援したい。個人的な思いも含めて2024年上半期の印象的な作品。

 

▶︎Diamond Construct 『Angel Killer Zero』

2014年オーストラリア・ニューサウスウェールズ州で結成された4人組。2019年のバンド名を冠したサード・アルバム『Diamond Construct』から5年振りとなる本作は、間違いなく2024年のトップ・ニューメタルコア・アルバムに違いないだろう。2019年、Alpha Wolfが「Sub Zero」でやったこと、Dealerが「Grotesque」でやったことを、2024年にDiamond Constructが『Angel Killer Zero』でやっている。このアルバムの圧倒的な完成度、確立されたコンセプトとヴィジュアルイメージ、そして「これが2024年のニューメタルコア」だと誇示するような存在感は圧倒的だ。

アートワークは日本の漫画のようで、アルバムタイトルのロゴもカタカナでふりがながふってある。ガンダム、AKIRAなどは彼らの楽曲、ヴィジュアルイメージの重要な要素として「Switchblade OST」のミュージックビデオでも確認することが出来る。驚くべきはそれらのインプットをニューメタルコア/デスコアの感覚を非常に上手く融合出来ていることで、多彩な音楽からの影響をDiamond Construstらしく散りばめている。

もっとも優れた楽曲、といってもほとんどの楽曲がリードトラックと言っても過言でないほどのインパクトを放っているが、「I Don’t」はすべてのメタル・リスナーが聴くべき革新的な楽曲だ。エレクトロニックな装飾はもちろん、ほとんどダンス・ミュージックと言えるビートが次々と繰り出されていく。もっとも驚いたのはヘヴィ過ぎて完全にノイズとなったリフだ。Code OrangeCrystal Lakeの挑戦的なサウンド・プロダクションでさえ、ここまでノイズ化したリフは鳴らしてこなかったと思う。ずっと、メタルにとってノイズが重要になってくると思っていたが、「I Don’t」で証明されたと言っていいかもしれない。本当にこの曲を聴いた時は驚いた。アルバムすべて聴かなくても、この曲だけでもまずは聴いてほしい。そして私と同じように衝撃を受けたのであれば、今のDiamond Constructに夢中になるはずだ。

 

▶︎silverlake murder 『Still Unknown』 EP

スウェーデンの首都ストックホルムを拠点に活動する5人組、silverlake murderのデビュー作。わずか12分という短いトータルタイムの中に5曲のヘヴィなニューメタルコアが詰まっており、silverlake murderの魅力を端的に把握出来る名刺代わりの作品として100点の仕上がりだと思う。良い意味での物足りなさ、余白を感じるEPになっており、こうした作品でデビューするバンドはかなりの確率で優れたレーベルとの契約し、ステップアップしていくように感じている。先のAlpha Wolfがそうであったように。

Emmureを始祖とし、Alpha WolfやDealerをニューメタルコアの第1世代と捉えるのであれば、彼らは第3世代のトップに躍り出るポテンシャルを持ったバンドではないだろうか。Darko USやAlpha Wolf直系とも言えるDiamond Constructなどに比べれば、まだまだデビューしたばかりの新人だが、やってることはそれらのバンドに匹敵する才能溢れたものだと感じる。デスコアにも接近するヘヴィネス&ビートダウン、ほとんどハーシュノイズウォールにも聞こえる歪んだワーミー、Slipknotが下地にあることがほんのりと感じられるフレーズ、HAILROSEを彷彿とさせるハードコアテクノやガバ、ブレイクビーツといったエクストリームなエレクトロ・ミュージックからの影響など、ここ最近のニューメタルコアとタグ付けされるバンドの中では頭一つ抜きん出た才能溢れるアレンジが随所に施されている (やや一辺倒な感じがしなくもないが)。The Hate Projectのサポートとしてライブが決まっているなど、まだまだライブ・シーンにおいては始まったばかり。今後の成長が楽しみなバンドだ。今からチェックすべし。

 

▶︎Darko US 『Starfire』

Chelsea GrinのボーカリストTom BarberとドラマーJosh Millerによるユニット、Darko US。有観客のライブをしない音源制作メインの活動方針をとり、2020年のデビューから毎月のように音源リリースを続けてきた彼らのサード・アルバムとなる本作は、驚異の19曲入り、トータルタイムが71分と濃密過ぎる内容となっている。

Silent PlanetのGarrett Russellをフィーチャーした「Atomic Origin」やNorthlaneのMarcus Bridgeをフィーチャーした「Sora」、VolumesのMichael Barrやトラップメタル・シーンの代表格Scarlxrdなど、ゲストリストだけみてもニューメタルコアを軸に、さらに多くのジャンルからの影響をクロスオーバーさせていくエクスペリメンタルな側面が強いので、アルバムとしてのまとまり、ドラマ性はほとんどない。言い方を変えれば、19曲それぞれに違った魅力があり、ドラマ性がある。Darko USは度々、持ち前のヘヴィネスから完全に離れ、スローなバラードをやったりしてきた経験がある。彼らは自由であり、バンドという共同体では決して作り出せない楽曲をやるために存在している。Chelsea GrinでDarko USのような挑戦、または実験とも言うべき創作は出来ない。本作にも「Cry Baby」などといったアコースティック曲が収録されており、これはこれで素晴らしい。そうしてメタルとバラードを境なしに味わえるリスナーが2024年にはたくさんいる。Darko USが『Starfire』でやっていることが、もっとありふれたものになっていくだろう。

彼らに実験的な面白さを求めているのであれば、「Chrone Moon」をチェックしてみるのがいいだろう。微細にエディットされたチャギングリフとインダストリアルな装飾が生み出す不気味なアトモスフィアは、ミュージシャンには大きなインスピレーションを与えるはずだ。そしてScarlxrdをフィーチャーした「Virtual Function」は、メタルコアとダークなヒップホップの可能性が無限大であることを感じさせる印象的なトラックと言えるだろう。一気に全部聴くのもいいし、2,3曲ずつ聴いても楽しいアルバムだ。

 

▶︎UnityTX 『Playing Favorites』 EP

2014年にテキサス州ダラスで結成され、ボーカリストJay Webster、ギタリストAlberto Vazquez、ベーシストAustin Elliott、ドラマーMiguel Angelという不動のメンバーで活動を続けている。彼らはThe Story So Farなどが在籍するPure Noise Recordsに所属しており、「ニューメタルコア」というよりは「ラップメタル」とか「ラップコア」と呼ばれることが多い。

本作はシングル「Playing Favorites」と他3曲収録のEP (昔はこのくらいのボリュームならシングルだったかもしれない) で、プロデュースはA Day To Rememberの『Homesick』や『Common Courtesy』、そのほかThe Ghost InsideやWage Warを手掛けるAndrew Wadeが担当している。Andrewが手がけたことでも分かるように、ハードコアのパッション溢れるフックが彼らのヒップホップのDNAと化学反応を起こしている。「Playing Favorites」で言えば、ブルータル・デスコア・バンド、PeelingFleshをも彷彿とさせるヘヴィなリフとスクラッチ、クラシックなニューメタル・ワーミーを交えたシンプルでありながらブルータルなトラックの上でJayがラップする、極上のラップメタルに仕上がっている。ニューメタルコア・リスナーも見逃せないUnityTXから、ラップメタルも掘り下げてみると面白いだろう。

 

▶︎cohen_noise 『Some Things Aren’t Forever, But For A Reason: Vol. 1』 EP

アメリカ・ケンタッキー州の4人組、cohen_noise。2022年のデビュー・アルバム『HAPPY.wav』は耳の早いメタルコア・リスナーの間では話題となったが、まだまだアンダーグラウンドな存在と言えるだろう。この作品もさらっとすごいことをやってしまっていること、ソーシャルメディアでの神秘性を大事に”し過ぎている”ことから、ミュージックビデオの再生回数が公開から1ヶ月で1000回にも到達していないのは勿体無い。こうしたバンドはRIFF CULTのような小さなメディアでなく、大手メタルメディアこそ取り上げて評価するなりしなくてはいけない。しかしイメージを大切にし過ぎる昨今のソーシャルメディア戦略ではそこに届くには大金を払うかよっぽど刺激的でないと無理だ。

cohen_noiseはいわゆるニューメタルとメタルコアをクロスオーバーさせたニューメタルコアに加えて、LoatheIce Sealed Eyesといったオルタナティヴ・メタルコアの影響も感じさせてくれる。彼らのプレイスルー映像を見れば、音からだけでなく、ヴィジュアルや使用機材からもそれが感じられるだろう。「オルタナ」はずっとメタルコア・シーン全体を底上げするのに重要なキーワードであり続けているが、先にも使った神秘性を守り過ぎると、誰にも聴かれないまま終わってしまう。cohen_noiseにはその壁を打ち破れるポテンシャルがあるし、「Fantasy」のような楽曲はRise Records黄金期を感じさせるキャッチなクリーンパートがあり、とっかかりとしてキーと言える楽曲だ。次々登場する新しい、刺激的なバンドの勢いに押しつぶされないよう頑張ってほしい。かなり未来があるバンドだとこの作品で確信した。

 

▶︎Defocus 『there is a place for me on earth』

2019年ドイツ・アーレンを拠点にスタートしたDefocus、2021年の『In the Eye of Death We Are All the Same』以来、3年振りとなるセカンド・アルバム。本作はArising Empireからリリースされ、AvianaやAbbie Fallsといったヨーロッパのヘヴィ・メタルコア・バンドを多数手掛けるVojta Pacesnyによってプロデュースされた。10曲32分とコンパクトな仕上がりながら、その内容は非常に充実しており、想像以上の満足感が得られるはずだ。けばけばしいワーミーやベースドロップを削ぎ落とし、現行ユーロ・メタルコアのヘヴィネスを下地としたサウンドを展開している。だからこそ映えるブレイクビーツやエレクトロニック・パートがDefocusを特別なニューメタルコアたらしめる魅力を放っている。After the BurialCurrents、そしてPROMPTSといったバンドの系譜にあるようなヘヴィさがあり、多方面のメタルコア・リスナー、さらにはデスコア・リスナーにも引っかかるようなブレイクダウンを搭載した楽曲もいくつか収録されている。中でも「flatlines」のエンディングはブルータルだ。

シンプルでスタイリッシュな彼らのヴィジュアルが映える「crooked mind」は「flatlines」などと併せてDefocusとは一体どんなバンドかを把握するのにピッタリな入門的楽曲に仕上がっている。ドイツらしいメタルコアの伝統も感じさせつつ、何よりも新しさがある。確立したDefocusのスタイルがこれからどのように進化していくのか楽しみである。

 

▶︎SPLEEN 『It Can(‘t) Be Worse』 EP

2023年にデビューしたフランス出身の5人組。およそ1年掛けてじっくりと制作され、途中メンバーチェンジもありながら完成させたデビューEPとなる本作は、ニューメタルコアの中にプログレッシヴ/Djentな香りも忍ばせた、興味深い仕上がりで注目を集めた。

フランスでこの手のサウンドと言うと真っ先に思い浮かぶのはten 56.だろうか。ヨーロッパまで拡大すれば、thrownなどが思い浮かぶが、SPLEENは彼らよりもシンプルに「ニューメタルコア+プログレッシヴ・メタルコア/Djent」と言うクロスオーバー・サウンドを鳴らしている。本作リリース直前に公開された最後の先行シングル「Natra」は、本作の中でもプログレッシヴ感の強い楽曲で、クロスオーバーのバランス感覚も優れている。まだまだSpotifyのフォロワーやミュージックビデオの再生回数は少ないものの、オリジナリティがあるし、毎日のようにリリースされていくメタルコア・シングルの中でも印象に残ってリリースを楽しみにしていたくらい印象に残ったバンドなので、これから更なる進化が期待出来ると思う。

 

▶︎Dealer 『New Order Of Mind』

2018年にオーストラリア・メルボルンで結成され、Alpha Wolfと共にニューメタルコアのトップバンドとして注目を集めたDealerであったが、度重なるメンバーチェンジによって安定しない活動が続いた。彼らの諸問題については度々指摘されてきたものの、2024年にギタリストJack Leggett、ベーシストMatthew Brida、ドラマーBrad Lipsettが加わり遂にデビューアルバムとなる本作を発表した (これまでに11名のメンバーが脱退、再加入を繰り返していた) 。

『New Order Of Mind』は、2019年の『Soul Burn』や翌年の『Saint』 (*いずれもEP) のスタイルとほとんど一緒の楽曲構成、フックで満たされており、大きなサウンドプロダクションの変化などはない。「HYPERREAL DEATH SCENE」「THE HATE YOU TRY TO HIDE」といったリードシングルも2019年〜2020年のDealerからほとんど変わっていない。それだけ先進的なサウンドをコロナ禍前に作り出していたということも凄いが、ほとんど変わっていないにも関わらずやはり細やかなところにDealerのソングライティングの良さが感じられる。「THE HATE YOU TRY TO HIDE」は2分強の短い楽曲であるが、イントロの狂気じみたインダストリアル・サウンドからニューメタルへと自然に繋がっていくところや簡単にビートダウンしない、ひねくれたところは評価出来る。不安的な精神状況を描写するミュージックビデオの数々は見る人を選ぶが、やはり2024年、ニューメタルコア・シーンにとってDealerは無視できないと思う。

 

▶︎Bite Down 『Decolorized』 EP

2019年、スウェーデンのヨンショーピングで結成されたBite DownのサードEP。これまでアルバムリリースはなく、2020年に『Trial // Error』、2022年に『Damage Control』とコンスタントにEP (またはシングル) をリリースし続けている。常にシーンにおいて存在感があり、じわじわとその名を浸透させてきた彼らの最新作は、We Are Triumphantからのリリースされたこともあり、ヨーロッパのみならず、アメリカのアンダーグラウンド・メタルコア・シーンでも注目を集めた。

ミュージックビデオにもなっており、EPのオープニングを飾る「Ynoga」は、ファストで切れ味鋭いチャギングリフをハンマーのように打ち続けていく。そしてほとんどゼロを刻み、転調も全くしないスタイルは、同郷のHumanity’s Last BreathのようなThallっぽさがあるように感じる。「Beautiful Gloom」ではDrop Eのうねるリフに吸い込まれていくような錯覚さえ感じるが、ニューメタルコアとは言い難い、プログレッシヴメタルコアを鳴らしている。良い意味でスウェーデンらしいメタルコアであり、ニューメタルコア・フレーバーを程良くブレンドしているタイプと言えるだろう。