【2024年下半期】スラミング・ブルータル・デスメタルの名盤 6選 アルバムレビュー

2024年の6月から12月にかけて発表されたスラミング・ブルータル・デスメタル (スラミング・ビートダウン、スラミング・デスコアを含む) の中から、RIFF CULT的に高く評価した6枚の作品をアルバムレビューしました。今年は上半期に10枚のアルバムをすでにレビュー、記事として公開していますので、そちらも合わせて読んでみてください。新しいお気に入りのアーティスト、そして作品が見つかりますように。

📍【2024年上半期】スラミング・ブルータル・デスメタルの名盤10選 アルバムレビュー

 

▶︎Peeling Flesh 『The G Code』

Country : United States
Label : Unique Leader Records
Streaming : https://uniqueleaderrecords.bandcamp.com/album/the-g-code

オクラホマ出身のバンド、Peeling Fleshのデビュー・アルバム。「スラミング」の可能性を大きく拡大していく存在として、デスメタル、デスコア、ハードコア・シーンから絶大な人気を誇る彼ら、メンバーはSnuffed on Sightのライブサポートも務めたりビートダウン・ハードコアとの繋がりもありながら、ドラマーJoe Pelleterは元Strangledであり、Vile Impregnationにも在籍中というハードコアとデスコアを行き来する人気ドラマー。どちらのシーンにも密接な彼らだからこそ作り出されるスクラッチをフィーチャーしたスラムパートやピンスネアに合わせて挿入されるラップパートなど、斬新なパートでフロアを熱気を高めていく。

アルバムのタイトルトラック「The G Code」にはブルータル・デスメタル/デスコア、そしてハードコア・バンドの元祖とも言えるDespised IconからAlex Erian と Steve Marois をフィーチャーしているところからも、Peeling Fleshが2024年のブルータル・デスメタルとハードコアを未来的にクロスオーバーさせていることを象徴しているように感じる。これはこの楽曲のミュージックビデオのイントロでも視覚的に捉えられていて、ギターのヘッドアンプのローのつまみをMAXに振り切るところ、スケート、マリファナ、OGヒップホップ・デザインのヴィンテージTシャツ、スピーカーアンプに施されたスラミング・スタイルのPeelingFleshロゴとオンライン・スラムまたはゴアノイズ的とも呼べる別のロゴ (ゴールドで色調されているのも重要)、Ping Snareをさらに高く調整するドラマー……。ここに彼らのスタイルの全てが凝縮されていると言ってもいいかも知れない。

世界中のハードコア・モッシャーがフォローしているだろう197 MediaのYouTubeチャンネルで頻繁にフルセット映像が公開されているのもポイントだ。具体的にスラムとビートダウン、どちらの要素もこれほどまでに多様であり、クロスオーバーから生まれる可能性が無限であることを誇示するこの作品、間違いなく2024年以前以後で「スラミング・ビートダウン」の持つ意味まで変えてしまうかのような重要な一枚であると言えるだろう。

 

▶︎Extermination Dismemberment 『Butcher Basement (Revamp)』

Country : Belarus
Label : Unique Leader Records
Streaming : https://uniqueleaderrecords.bandcamp.com/album/butcher-basement-revamp

ベラルーシ・ミンスクを拠点に活動するスラミング・ブルータル・デスメタル・バンド、Extermination Dismembermentが、2010年にリリースしたデビュー・アルバム『Butcher Basement』を再構築したRevamp盤をUnique Leader Records からリリース。Revampは元々の楽曲を元に新たに改良するという意味があり、この作品は2017年にMorbid Generation Recordsからリイシューされていたが、アートワークも新たにUS TOUR前に発売となった。

元々アルバムをコンスタントにリリースするバンドではなかったし、2023年に10年振りとなるアルバム『Dehumanization Protocol』をUnique Leader Records からリリースしたばかりであったが、ここ数年の活発さを見ると、何か動きを見せたかったのかも知れない。Extermination Dismembermentはスラミング・ブルータル・デスメタルというマイクロジャンルありながら、(あくまでメタルにおける) メインストリームを意識したPRや映画のようなミュージックビデオ制作という取り組みにもここ数年熱心だったし、一気にキャリアアップを目指している可能性が高いし、過去作の再構築ではあるものの、ほとんど新譜と言っていい仕上がりとなっている。スラミング・スタイルの持つ魅力を彼らなりに追求していく中で、ブレイクダウンの導入に挿入されるベースドロップを他のパートの楽曲をかき消すようにして炸裂させるソニックブームは間違いなく武器と言える。そしてこのRevamp盤でも通常ではあり得ないベースドロップを組み込んでいる。

オリジナル・バージョンと聴き比べてみれば一聴瞭然、スラムパートの破壊力が増し、メロディックなフレーズもダイナミズムを増し、スラミング・ブルータル・デスメタルというジャンルでは収まりきらない魅力を放っている。そして7分にもなる「SLAUGHTERER CHAINSAW」は、スプラッター映画ファンも唸らせる仕上がりで、こちらも必見。国外ツアーをこなし、メキメキ成長していく彼らの未来は明るい。そしてこれからどんな景色を見せてくれるのか、ワクワクさせてくれる。

 

▶︎Visions Of Disfigurement 『Vile Mutation』

Country : United Kingdom
Label : Reality Fade Records
Streaming : https://realityfade.bandcamp.com/album/vile-mutation-2

2013年にマンチェスターで結成された4人組、Visions of Disfigurementの前作『Aeons of Misery』から4年振りとなるサード・アルバム。デスコア・バンドHymn for the Fallenの解散と共に活動を本格化したドラマーBenとベーシストAdam、Begging for IncestやChainsaw Castrationでライブ・ボーカルを務めたDan Bramleyに、DanとThe Mythic Dawnというバンドで共に活動していたギタリストTom Cahillが2019年に加入している。

磐石の体制で制作された本作、オープニングの「Absence of Remorse」から現代スラム最高峰とも言える切れ味鋭いヘヴィネスを見せてくれる。それだけでも満足なのだが、多彩なシンバルワークとスラムのパンチ力を増幅させる小技も満載で、ドラミングだけ見るとその影響はNileなどといったテクニカル・ブルータル・デスメタルからKnocked LooseやSnuffed on Sightといったハードコア/ビートダウンからの影響も感じる。Danのガテラルもピッグスクイールから、先ほども名前を挙げたKnocked Looseにあるような”Arf Arf”といったフレーズを巧みに繰り出しながら、サウンドの中心の座を他に譲らない。全体的には同じような楽曲で構成されているが、OrganectomyのAlex Paulが参加した「Secreted and Eated」やEmbrace Your PunishmentのVivien Rueが参加した「Epitaph of the Seraphim」などゲストによって彩りが添えられた楽曲も間に組み込まれている。

 

▶︎Grotesque Desecration 『Dawn Of Abomination』

Country : Russia
Label : Inherited Suffering Records
Streaming : https://inheritedsufferingrecords.bandcamp.com/album/grotesque-desecration-dawn-of-abomination

2022年、人口112万人を超えるロシアでも有数の大都市であるウファで結成されたトリオのデビュー・アルバム。ギター、ベース、そしてドラムを担当するVsevolod “Slaughterborn”、ギタリストのDanil Ilishkin、ボーカリストErick Valiyakhmetovという編成で、ミックス/マスタリングなども全て自分たちで行なっている。メンバー写真なども公開されておらず、メンバーそれぞれに掛け持ちしているバンドもないようで、ミステリアスな雰囲気も漂っている。

Grotesque Desecrationのサウンドは、Extermination Dismembermentを彷彿とさせるスタイルで、ソニックブームと呼ばれる巨大なベースドロップをこれでもかと炸裂させてくる。東欧のスラムはやはりExtermination Dismembermentの影響がかなり大きく、彼らに続いて世界へと進出を狙うルーキーたちがひしめき合っている。プログラミングされたドラムの独特の無機質さはソリッドなリフワークを得意とするGrotesque Desecrationのサウンドにうまくマッチしていて、シンバルワークも人力では不可能な程に細かく施されている。ベースドロップの上にうっすらとフィードバックノイズを被せているのも面白い試みだ。Cranial Bifurcation、Insect Inside、Surgical Abnormalization、Cephareaとゲストも豪華で、最後まで眩暈がするほどのヘヴィリフをカマし続けてくれる強烈な一枚。

 

▶︎Manifesting Obscenity 『Attempts To Death』

Country : Russia
Label : Independent
Streaming : https://manifestingobscenity.bandcamp.com/album/attempts-to-death-reimagined

2014年にSpice Mutated Corpseという名前でスタートし、2017年にManifesting Obscenityへと改名したユニットの、前身名義でリリースしたアルバム『Attempts To Death』のReimagined盤。先のExtermination Dismembermentの”Revamp”との違いは、楽曲はそのままで、それを再録した形になる。イントロとWalking The Cadaverのカバーを除く8曲が収録され、アートワークも新たにボーカルのGrigoryが描き下ろした。

全ての楽曲を手掛けるArtem Shirmanは、CovidectomyやDeprecationというプロジェクトでも同じように全ての楽曲を務めている。そのキラー・スラム・メーカーとしての才能をフルで発揮しているManifesting Obscenityでは、強度の高いドラミングとソリッドなリフによって生み出される現代東欧スラムのスタンダードとも言えるサウンドを披露。ブレイクダウンの導入部分はやはり爆発音やベースドロップが多様されている。関係があるとは思えないが、戦争の影響もあるのか。爆発音のようなベースドロップを多様するバンドが今年は多かった印象だ。

 

▶︎Rendered Helpless 『From Nothing Comes All』

Country : New Zealand
Label : Lacerated Enemy Records
Streaming : https://renderedhelpless.bandcamp.com/album/from-nothing-comes-all

Organectomyのメンバーとしても知られるマルチ・インストゥルメンタリストAlexander Paulによるワンマン・プロジェクトRendered Helplessの5年振り4枚目フルレングス。ミックス/マスタリング以外の録音作業は全てAlexanderひとりで行なっており、湧き上がる創作意欲のままに、バンド形式の作品では聴くことの出来ない、そしてフロアをモッシュで埋め尽くすためでないスラムを追求している。

冒頭のスネアのロールから、ただものならぬ雰囲気が感じられるだろう。人力ではおそらく再現不可能なドラミング、そしてテクニカル・デスメタルにも接近していくリフやベースライン。スラムパートはほとんどの場合、端的に言えばダンス・ミュージックに近いテイストがあると思うが、Rendered Helplessはドゥーミーな世界観を持ち、Djentで言うThallにも似た音像で、聴くものを引き込んでいく。もちろんモッシャブルであるには違いないが、簡単にそれでモッシュ出来ないような複雑性がある。こうした音楽がスラミング・ブルータルデスメタルにも出来ると言うのをリスナーに見せつけるような、深みのある作品と言えるだろう。

スラミング・ブルータル・デスメタル 名盤TOP5 (2022年上半期)

 

すっかりブルータル・デスメタルの主流スタイルとなったスラミング・ブルータル・デスメタル。もはやブラストビートで突進し続けテクニカルなリフを詰め込んだサウンドは希少種となっている。ただ、スラミング・スタイルが主流となったことで、デスコアやビートダウン・ハードコアとの結びつきが深まったことは、ブルータル・デスメタル全体の活性化にとって良いことだと思う。クラシックなブルータル・デスメタルが好きな方には少し寂しい状況かと思うが、この流れに乗って世界各地でブルータルなサウンドが盛り上がるのが一番大切だ。

 

自著『ブルータルデスメタルガイドブック』の中でスラミングとはどのようなものなのかについて書いているが、ありがたいことになかなか手に入りづらい状況で購入できない方も多いと聞く。またの機会にスラミングについて解説するが、今回紹介する5枚を聴けば、自ずとそれがなんなのか、そしてその魅力や特徴はなんなのかが掴めるはずだ。

 

そして、このサイトの読者の皆さんで「こんなのも良かったよ」というオススメがあれば、ぜひコメントで紹介してみて下さい。

 

 

Gutrectomy 『Manifestation Of Human Suffering』

出身地 : ドイツ
▶︎https://gutrectomy.bandcamp.com/album/manifestation-of-human-suffering

衝撃的だったデビュー・アルバム『Slampocalypse』から5年。その間、EP『Slaughter the Innocent』のリリースや、SLAM WORLDWIDEを通じシングルを発表し続けており、シーンにおいての存在感はずっとあった。新たにベーシストLouis Weber、ドラマーSimon Wernertが加入してからのGutrectomyは、Simonの高いドラミング・スキルによってスラムパートへの導入部分のリズム・パターンがバラエティ豊かになったように感じる。ビートダウンしてからも重量感のあるリフの上を転がるようにハイピッチ・スネアを差し込んだり、アクセントとなるシンバルワークによって、各楽曲に新たな個性を与えてくれる。天性のリフ・センスでモッシーに展開し続ける本作、一押しは「Scorched Earth (ft. Dustin Mitchell of Filth)」、「Cranial Excavation」、「Apocalyptic Squirt Tsunami」の3曲。

 

 

Analepsy 『Quiescence』

出身地 : ポルトガル
▶︎https://analepsy.bandcamp.com/album/quiescence

Gutrectomyと並んで、ワールドワイドな人気を誇るAnalepsyのセカンド・アルバム。前作『Atrocities from Beyond』発表後、私が運営するRNR TOURSで来日ツアーも果たし、数少ない現代スラム・リスナーが各地公演に訪れていたのは嬉しかった。当時のメンバー全員がナイスガイで、ツアーも素晴らしい思い出になっている。残念ながらAnalepsyのリーダーでありMiasma RecordsのオーナーMarco Martins以外のメンバーが本作前に脱退。新体制で制作された本作は、デスメタリックな魅力を改めて追求し、自身が鳴らしてきたスラミング・ブルータル・デスメタルに注入したような仕上がりで、個人的にはAnalepsy史上最高傑作。引き締まったサウンド・プロダクションによって殺傷能力を増したスラムリフは、しっかりデスメタリック。ビートダウン・ハードコア・リスナーには受けないかもしれないが、メタル・リスナーのスラム入門アルバムとして今後その重要度が高まってくる可能性がある。

 

 

 

Kraanium & Existential Dissipation – Polymorphic Chamber of Human Consumption

出身地 : ノルウェー/カナダ
▶︎https://www.youtube.com/watch?v=iL_k6V5Vndc

北欧スラム・キング Kraaniumとカナディアン・スラム・カルト、Existential Dissipationのスプリットは、Existential DissipationのボーカルだったBob Shawの遺作。BobはCuffなどマニアックなスラムバンドで活躍し、シーンの人気者だった。両者共に血生臭いブルータル・デスメタルをベースにダイナミックなスラムリフを刻み続けていくスタイルで、現代スラムの礎とも言えるクラシック感がある。GutrectomyやAnalepsyといった正統派とは違うデスメタルの荒々しさを味わうには最適な作品と言えるだろう。それにしてもこの作品で聴けるBobのボーカル、すでに人間味がなく良い意味で不気味だ。

 

 

 

Peeling Flesh 『Human Pudding』

出身地 : アメリカ・オクラホマ州
▶︎https://viletapesrecords.bandcamp.com/album/human-pudding

2021年結成、スラム・シーンの超新星Peeling Fleshのデビュー・アルバム。昨年発表したEP『Slamaholics Mixtape』でシーンの話題をかっさらった彼ら、ドラマーはVile Impregnationでも活躍する23歳のJoe Pelleter、そしてAberrant Constructのメンバーもいるというから聴く前からどんなに凶悪なスラムか想像出来る。ヴィジュアルを見る限り、ノリはビートダウン・ハードコアやデスコアっぽく、ボーカルのDamonteal Harrisに関してはヒップホップ的なヴァイブスもある。しかしアートワークやリフから滲み出てくる強烈なブルータルさは本物で、かなりディープなブルータルデスメタルの世界観を理解していないと表現できないツボを押さえている。RIFF CULT的には上半期スラムはPeeling Fleshがダントツでナンバーワン。

 

 

Vile Impregnation 『SLAVE』

出身地 : アメリカ・テキサス州/オクラホマ州/アリゾナ州
▶︎https://realityfade.bandcamp.com/album/slave

2009年からスタートしたVile Impregnationであるが、すでにオリジナルメンバーは脱退済み。現体制で動き出したのは2016年ごろからになる。それぞれにいくつものサイドプロジェクトを持つ若きミュージシャンらが集結、Devour the Unbornなどで知られるJosh、InfantectomyのTriston、そしてPeeling FleshをはじめStranguledにも在籍したJosephのトリオ体制で、かなりマニアックなことをやっている。いわゆる溺死系と言われるガテラルで、ゴアグラインド/ゴアノイズ的な面白さもありつつ、基本はスラムリフを刻み続けていく無慈悲なスタイル。個人的なツボとしてライブメインでなく、音源制作に重きを置いたバンドが好きで、このバンドはロゴから楽曲スタイルからツボにハマる要素がたっぷり。若干のシンフォニックなアレンジも全然良くないが良い。

 

 

 

いかがでしたでしょうか?すでに聴いたものもあったと思いますが、最後の2枚はまだチェックしていないという人もいるかと思います。マニアックなバンドをたくさん知っているとか、いち早く新譜をチェックしていることは関係なく、自分のお気に入りのスラミング・スタイルのバンドがどんな影響があるのか、どんなシーンに属しているのか、どんなメンバーがいるのか、そういうところをもっと知っていくことを極めていけば、さらにディグが楽しくなると思います。この記事はコメントが出来るので、みなさんのおすすめがあればぜひ書き込んでみてください。

 

スラミング・ブルータル・デスメタル 名盤TOP15 (2022年下半期)