【2024年上半期】ブルータル・デスメタルの名盤 11選 アルバムレビュー

スラミング・ブルータル・デスメタルやテクニカル・デスメタル、さらにはゴアグラインドやゴアノイズ、さらに言えばメタルコアやハードコアにまで言えることだが、どのジャンルもミュージシャンの演奏技術がここ数年でとんでもなく進化している。みんな本当に演奏が上手い。もちろん、レコーディング技術の進化も音源の完成度の平均的な高さを上昇させた要因ではあるが、ブラストビートを取り入れるハードコアやデスコア・バンドも普通にいて、この手の技術がブルータル・デスメタルだけに限られたものではなくなってしまった。

隣接するテクニカル・デスメタルは例外として、やはりブルータル・デスメタルはどのジャンルよりも速く、そして重い音楽であってほしい。そうした音楽を作り出すためには高い演奏技術がいる。2024年にブルータル・デスメタルに求めることは、他のジャンルとクロスオーバーすることでも、ブレイクダウンを導入することでもなく、元来の魅力に立ち返り、簡単には理解出来ないエクストリームなデスメタルを演奏してほしいということだ。今回はそんなことを意識しながらアルバムレビューする作品を選んでみた。簡単には理解されないぞ! と言うような、確固たる信念が感じられるものを中心に選んでいるので、毎年やっているブルータル・デスメタルのレビューとは少し違ったテイストの作品も含まれているかもしれないが、上記をふまえて聴いてみて欲しい。素晴らしい作品がたくさんリリースされて、楽しい半年でした!

 


 

▶︎Brodequin 『Harbinger Of Woe』

1998年結成、テネシーのブルータル・デスメタル・レジェンドであるBrodequinの20年振りとなるニュー・アルバムはSeason of Mistからのリリースとなった。ドラマーJon Engmanが健康問題からドラムを長時間叩くことが出来なくなってしまい、一時期サンプラーを使用しそれをハンドドラムでプレイするというライブ・パフォーマンスをしていたが、残念ながらJonは2016年に脱退してしまった。

2020年にバンドとほぼ同い年、弱冠27歳のドラマーBrennan Shacklfordが加入。彼はLiturgyNacazculにも在籍し、元Cesspool of Corruptionのメンバーでもあり、Brodequinのブラスティング・スタイルを引き継ぐにはぴったりの技巧派だ。Brodequinの伝統的スタイルはほとんど変わっていないものの、メロディック・ブラックメタルの影響を感じさせる「Of Pillars and Trees」やオペラ調のサンプリングを施した「Theresiana」など新しい試みも感じられる。古代の拷問、というバンドの長年のコンセプトはそのまま。

 

▶︎Brutalism 『Solace In Absurdity』

2020年アイダホ州ボイシーにて結成。Brutalismは、ボーカリストCameron Bass、ギタリストLondon HowellとJason Taylor、ベーシストIan Dodd、ドラマーDante Haasというラインナップの若手5人組だ。メンバーはBrutalismの他にもBarn、Texas Ketamine、Bombedといったプロジェクトもやっていて、ローカルのデスメタル仲間のような雰囲気がある。デビュー・アルバムとなる本作はとにかく2024年にリリースされたとは思えないサウンド・プロダクションで、2000年代初頭のリアルなUSブルータル・デスメタルの混沌さに溢れている。これにはかなり痺れた。楽曲展開はPutridityなどを彷彿とさせる複雑で展開の予想が全くつかないブラストとリフの交錯が続き、スラップなどを取り入れながら存在感たっぷりに弾きまくるベースラインもユニークだ。アヴァンギャルドなエレメンツなども交え、決して飽きることなく最後まで楽しめる一枚。

 

▶︎Hypergammaglobulinemia 『狂』

京都出身のスラミング・ブルータル・デスメタル・トリオ、HypergammaglobulinemiaのデビューEP。異次元のピッグスクイールの使い手であるボーカリストMizuki “GoreCry” Watanabe、ギターとベースを兼任するRiku “Frenzy” Watanabe、ドラマーKaito “Strangle” Itoという編成 (人間ではないかもしれない) で、とにかくMizukiのピッグスクイールが凄まじい。加工されているとはいえ、人間の声帯から出される音が基になっているとは信じられない。あらゆるデスメタル、ゴアグラインド、ブルータル・デスメタルの歴史の中でもここまで個性的なピッグスクイールが炸裂するのは聴いたことがない。強烈なアートワーク、そしてアーティスト写真、彼らが日本国内だけでなく、世界で評価されるのは時間の問題だろう (日本人じゃないかもしれない!!!) 。もちろんサウンドも非常にレベルの高いスラミング・ブルータル・デスメタルで、サンプリングを随所に盛り込み雰囲気たっぷりだ。

 

▶︎Effluence 『Necrobiology』

アメリカ・カリフォルニア在住のソロ・プロジェクト。ほとんど詳細が不明で、BandcampによればMatt Stephensという人物が全ての楽器とボーカルを担当していて、この他にスケバンという謎のフリーインプロ・プロジェクトであったり、Tantric Bile、Neural Indentなど様々創作活動を行っているようだ。そしてそれらのほとんどが、ハーシュノイズ、ゴアノイズといったどちらかというとテクニカル・スタイルとは真逆のものばかりであるが、Effluenceではそれなりの演奏技術があることを証明している。そして何よりインプロ、エクスペリメンタル、フリージャズ/アヴァンギャルド・ジャズ、ハーシュノイズからゴアノイズまでを通過した異様な臭気がEddluence全体を包み込んでいる。これをブルータル・デスメタルとして聴くか、はたまたただのノイズグラインドやゴアノイズとして聴くかは人それぞれであるが、個人的にはNew Standard Elite系、ブラスティング・ブルータル・デスメタルが地底深くでエクストリームを極めていった結果誕生したようなサウンドであると評価したい。

 

▶︎猿轡 『曼陀羅』

東京を拠点に活動するブルータル・デスメタル・バンド、猿轡のセカンド・アルバム。「愚者共の 開かんとするは 地獄之門 大日本残虐絵巻 第二章」というキャッチの通り、全曲日本語タイトルでアートワーク、トラックリストとインパクトは絶大。このあたりのコンセプトは決してデスメタル・ファンだけでなく、アンダーグラウンドな日本語ハードコア、殺害塩化ビニールやもっと80年代ハードコアの雰囲気が好きなら興味をそそるはずだ。オープニングを飾るタイトルトラック「曼​陀​羅」は、ガテラル念仏からドゥーミーなブルータル・サウンドで恐怖感をじわりじわりと煽り、急激にアクセルを踏み込むようなブラストビートで聴くものを地獄之門へと引き込んでいく。明らかに日本国外のブルータル・デスメタルには出せない独特のジャパニーズ・ホラーテイストが随所に感じられる好盤。

 

▶︎Post Mortal Possession 『The Dead Space Between The Stars』

2023年ペンシルベニア州ピッツバーグで結成。本作は3年振りとなる4枚目フルレングスで、ベーシストにShattered SoulやVictims of Contagionで知られるBob Geisler、ドラマーにErgodicやNokturnelで活躍するMatt Francisが新加入。ボーカルのJake MunsonとギタリストのJake McMullenはスラミング・ブルータル・デスメタル・バンドRepulsive Creationでも活動しており、グループのリーダーであるギタリストBrian Cremeensを除くメンバーはそれぞれに多くのデスメタル・バンドで並行して活動しているが、その中でもPost Mortal Possessionは近年めきめきと知名度を上げており、彼らが在籍するバンドの中で最もアクティヴであると言っていいだろう。

アルバムタイトルやイントロ「2053」からも感じられるように、絶望的に向かい破滅していく世界をテーマに描いたSF風味の作品となっており、映画「Blade Runner 2049」からのサウンドクリップが挿入されていたりして面白い。決して派手さはないものの、楽曲にドラマ性を与えるような微細なテンポチェンジやDecrepit Birthを彷彿とさせるメロディアスなギターソロ、ピッグスクイールやハイとローを巧みにスウィッチするガテラルもアグレッシヴ。

 

▶︎Vertiginous 『Reek Of Putrefaction Of The Excruciating Lust』

インドネシア・東ジャワ州出身。結成年月日は不明だが、Devouring CarnageやHephaestusほか10以上のバンドを掛け持ちするギタリストHendika Dwi Prasetyoと、同じくPerverationやInnocent Decomposureといった様々なバンドで活躍するボーカリストJossi Bimaによるユニットで、これがデビュー・アルバム。

数年前までは聴いた瞬間インドネシアと分かる何かがあったが、ここ数年は本当に分からない。めちゃくちゃ良くて調べたらインドネシアであることが多い。プログラミングではあるが、変幻自在に転調、拍の調子にも細かく変化を加えながら疾走するブラストビートを軸に、ノイジーなチェーンソーリフをゴリゴリと刻み続けていく。ただひたすらにそれを繰り返し続ける残忍さがもしかしたら今のインドネシアン・ブルータル・デスメタルなのかもしれない。

 

▶︎Masticated Whores 『Meat Hook Hookers』

アーカンソーから登場したニュー・バンド。ギタリストBrandon Holderly、ベーシストZac Dunn、担当パートは不明だがDallas Howellが在籍しているトリオ編成と取っている。Masticated Whoresの基礎にあるのは打ち込みのスプラッター・テーマのブルータル・デスメタルで、一聴するとどこにでもあるようなタイプのバンドなのだが、ところどころ挿入される奇天烈なサンプリング、たとえば宇宙人の拳銃から放たれるビームのような音、執拗なホラー映画からの引用を楽曲間に挟みまくるなど、かなり変わった作りの楽曲が次々と押し寄せてくる。作り込みが足りたい部分もあるが、それでも楽しく聴くことが出来る作品だ。ラストの「WOMB TOMB」にはリック・アストリーが1秒登場するので耳を凝らして聴いてみてほしい。

 

▶︎Desecation 『Left To The Trogs』

2020年にカリフォルニア・サンディエゴでスタート。Putrid Tombを脱退したギタリストMarc NovoaとボーカリストAlex Siskoを中心に、ギタリストからドラマーへとパートチェンジしたTodd Novoaのトリオ体制をとっており、彼らはDecorticateというバンドでも一緒だったメンバーだ (*Putrid Tombはボーカル/ドラマーKian Abullhosn以外のメンバーが脱退しており、2022年に解散を発表している)。映画「トマホーク ガンマンvs食人族」のサンプリングで幕開け。雪崩のようにBPMを操り、粘着質なリフが腐った体液のとろみをあちこち飛び散らせながらスラムリフを切り刻んでいく様はまさにブルータル。スラミングとも言えるが、ブラスティングパートが軸になっているように聴こえる。

 

▶︎Genophobic Perversion 『Amassed Putrefied Remains』

マサチューセッツ州ボストン在住のColin J. Buchananによるソロ・プロジェクトで、2020年に活動を開始してわずか4年足らずで32枚もアルバムをリリースしている狂人。これに加えておかしな量のEPやシングルも発表している。ブルータル・デスメタルというジャンルは10年単位でアルバムをリリースするバンドもごろごろいる中、彼の創作意欲には驚くばかりだ。

内容はカチカチのブルータル・デスメタルというより、ブラスティング・ブルータル・デスメタルをさらにスピードアップさせ、ゴアノイズ的ハーシュノイズウォールのレイヤーを重ねまくったもので、「これはブルータルデスメタルではないだろう」というリスナーも多いかもしれない。確かにこれはゴアグラインドでもあるし、ゴアノイズでもあるかもしれないが、プログラミングドラム、輪郭のボヤけたノイジーなリフであろうと、Genophobic Perversionのサウンドの根底にはブルータル・デスメタルの血が流れているように感じる。こういう作品が広く一般的に (とはいえエクストリームメタル・シーンの中で) 楽しめるようになると、さらにブルータル・デスメタルは面白いものになっていくだろうし、他ジャンルからの影響をどんどん取り入れてクリエイティヴに拡張していってほしい。そんなことをGenophobic Perversionを聴いて思った。

 

▶︎Restlessly 『Unforeseen Consequences』

インドネシア・ジョグジャカルタのトリオ、Restlesslyのデビュー・アルバム。Anthropophagus DepravityGerogotといったブルータル・デスメタルの人気バンドに在籍するRama Maulanaがドラマーを務め、同じくAnthropophagus DepravityのギタリストであるEko Aryo Widodo、Gory、Maggoth、Necrotic Catastrophism、Vile DesolationのボーカリストYudhaによって制作されている。ここ数年、特に2024年上半期のブルータル・デスメタルを追いかけていて感じたことは、ブルータル・デスメタルにも多様性のあるスタイルを持つバンドが増え、従来のブルータル・デスメタルというジャンルの持つ固定概念をぶち壊すような作品が多くリリースされていることだ。

このリストにもあるHypergammaglobulinemia、Effluence、Masticated Whoresもそうだし、アヴァンギャルド/エクスペリメント方面では Gorgutsのベーシストとして知られ、Behold the ArctopusのブレインであるColin Marstonの存在もブルータル・デスメタルをさらにエクストリームに推し進める可能性をシーンに示し衝撃を与えてくれているように思う。とはいえ、やはりストレートなブルータル・デスメタル、つまりはブラスティング・ブルータル・デスメタルを鳴らすバンドがいないことには、彼らの存在価値はそこまで重要視されなくなってしまう。そこでRestlesslyのようなバンドは貴重であると言える。規則性のないブラストビートはそこまで大きな転調を持たず、ひたすらに、ひたすらに叩き込む。そして多少のブラッケンドなメロディは盛り込みつつも、じっくりじっくりブルータルなリフを刻む。ハイピッチなシャウトやピッグスクイールもなく、ローガテラルを吹き込んでいく。ただそれだけのサウンドがどれだけブルータルなのか、再確認させてくれた作品。

USブルータル・デスメタル・ゴッド、BrodequinがSeason of Mistとの契約を発表

 

テネシー州ノックスビル出身のブルータル・デスメタル・バンド、BrodequinがSeason of Mistとの契約を発表しました。バンドは2023年に4枚目のフルレングスをリリースする予定で、これはバンドにとってレーベルへのデビュー作となります。

 

今回の契約締結に際し、Brodequinはバックカタログである『Methods of Execution』(2004)、『Festival of Death』(2001)、『Instruments of Torture』(2000)をサブスクにて配信開始しました。

 

https://orcd.co/brodequin-methods

https://orcd.co/brodequin-festival

https://orcd.co/brodequin-torture

 

今回の契約に際し、バンドからのコメントは下記の通りです。

 

BrodequinはSeason of Mistファミリーの一員になったことを発表できてとても嬉しく、光栄に思っています! Season of Mistのアーティスト・リストには、1349、Abbath、Benighted、Wormed、Tsjuder、Severe Tortureなど、様々なジャンルの有名アーティストが名を連ねており、多くのメタル・リスナーが知っているバンドばかりです。

僕たちのSeason of Mistとのパートナーシップは、Brodequinのブルータリティをより多くの人々に広めることになると確信しています。Season of Mistのあらゆるレベルでの素晴らしいサポートに加え、我々はアメリカとヨーロッパの両方で、これまでで最高の流通を得ることになります。これは、米国からヨーロッパの友人たちへの高い輸送費を軽減するだけでなく、全体的にリーチを広げることができます。Season of Mistは僕らと同じようにニューアルバムのリリースに興奮しているし、バックカタログ、デジタル、フィジカル、そして関連グッズの供給元にもなってくれます。

この夏の終わりにはレコーディングを行い、2023年のリリースを楽しみにしています。アルバム・タイトルなど、さらなるニュースは近日中に発表します。

 

ブルータル・デスメタル 2021年の名盤 9選

 

今年もこの時期がやってきました。RIFF CULTで1年間紹介してきたブルータルデスメタルのニュースを改めて自分で読み直し、良かった作品を聴き直し、ピックアップしてみました。

 

ジャンルの特性というか、ブルータルデスメタルを通過して誕生した様々なサブジャンルはあれど、基本的に大きな進化や変化のあるジャンルではないので、かなり個人的な好みが強いリストに毎年なってしまいます。なるべく客観的に2021年のブルータルデスメタルとして素晴らしいと感じたものを選んでいます。アルバムに絞らず、作品としてピックアップしているのでEPやライブアルバムも混じっていますがコンピレーションやボックスセットなどは省いています。知らない作品があれば、ぜひチェックしてみてください。冒頭には普段、ディグのメモとして活用しているYouTubeプレイリストも貼り付けて置くので、聴きながらリストを見ると面白いと思います。今年も素晴らしいブルータルデスメタルの作品にたくさん出会えて良かったです!

 

上記のYouTubeプレイリストで 2021年のブルータル・デスメタルをまとめてチェック。

 

 

第9位 : Perverted Dexterity 『Alacrity for Contemptuous Dissonance』

 

レーベル : Brutal Mind
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Perverted_Dexterity/3540346286

 

一言コメント : 「一人でもここまで作れるんだ」ということを世界に知らしめた一枚

 

インドネシアのワンマン・ブルデス、Perverted Dexterityの最新作。アルバムとしては2017年の『Spiritual Awakening』以来4年振り。これまでボーカル、ギター、ベース、ドラム・プログラミングと全てをJanuaryoひとりでやってきたが、本作はゲストにGorguts、Behold The ArctopusのギタリストColin Marston、ByoNoiseGeneratorのドラマーRoman Tyutinがゲスト参加している。

前作に比べダイナミズムを増したサウンド・プロダクションによって引き締まった印象を持つが、ハイスピードな前作にあった”インドネシア感”はやや薄れたように感じる。それでも垢抜けたといえるし、ワンランクレベルアップしたサウンドへと進化したと考えられる。先行シングルとしてリリースされた「The Arcane Profanity」は、バンド・アンサンブルの妙をワンマンながら上手く表現しているし、ワンマンでありながら、ここまでの作品を作ることが出来るということを世界に知らしめた意味で重要な作品だ。

 

 

第8位 : Omnioid – Regurgitated Inexistential Pestilence

レーベル : Amputed Vein Records
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Omnioid/3540376519

 

一言コメント : 轟音の中でキラリと光るクリエイティヴなフレーズ

 

西オーストラリアのマンジュラを拠点とするブルータルデスメタル・ユニット、Omnioidの4年振り3枚目フルレングス。前作『Hex Dimensional Paralysis』からチェックしていますが非常にポテンシャルの高いユニットで、Amputed Vein Recordsと契約したのも頷ける。

ギター、ベース、そしてドラム・プログラミングを兼任するSamboは、ボーカルのEwzaと共にCorpsefleshのメンバーとして活躍し、Anthropos VirosisというユニットからOmnioidへと転身。ユニットだからこその自由な作風がOmnioidらしさとして形になっている。クラシックなスタイルでありながら、現代的な感覚で鮮やかに転調しながら加速、時折みせるヘヴィなスラムリフも豪快かつ残忍でまさにブルータルなデスメタル。

 

 

第7位 : Cenotaph – Precognition to Eradicate

レーベル : Tentacles Industries / Coyote Records
info : https://www.metal-archives.com/bands/Cenotaph/1255

 

一言コメント : 程良いプログレッシヴ・フレーバー、ベテランの貫禄

 

1993年からトルコ/アンカラを拠点に活動するブルータルデスメタル・ベテラン、Cenotaphの4年振り7枚目のスタジオ・アルバムは、Tentacles Industries / Coyote Recordsからの共同リリース。もっと老舗と契約してるのかと思いきや、アングラ中のアングラ・レーベルから。やはりスラムが台頭して、クラシックなブルータルデスメタルの人気はやや落ちてきてるのかもしれません……。

 

だとしても、それでスタイルを変えるということは結成20年超えの大ベテランの選択肢にはないでしょう。オリジナルメンバーでありボーカルのBatu以外は2019年に加入していて、弱冠21歳のベーシストErenに、スイス出身のドラマーFlorent、フランス出身のMattisというラインナップ。程良いプログレッシヴ・フレーバーを交えながら基本疾走、適度に速度チェンジしながら暗黒のブルデス・サウンドを淡々とプレイ。ドラムのもたつき具合も味があるというか、おどろおどろしくさせている要因になっているかもしれません。Batuのボーカルも素晴らしい。

 

余談ですが、Metal ArchivesでCenotaphというバンドは14組登録されてました。なんか、また時間あるときにまとめて紹介しても面白そう。

 

 

第6位 : Post Mortal Possession – Valley of the Starving

レーベル : Lord of Sick Recordings
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Post_Mortal_Possession/3540388505

 

一言コメント : 確かなテクニックと表現力 一皮向けた出世作

 

ピッツバーグを拠点に活動するブルータルデスメタルバンド、Post Mortal Possessionの1年振り3枚目フルレングス。コンスタントにリリースを重ね、近年ブルータルデスメタルシーンにおける存在感を増している彼ら。ピュアなブラストビート一直線ではなく、Deeds of FleshやSevered Saviorあたりを彷彿とさせるテクニカルさと知的さ、現行スラム勢に劣らぬヘヴィネスを兼ね備え、ドラマティックな展開美をみせてくれる。

 

特に評価すべきはギターソロ。Post Mortal Possessionらしさとして一番輝きを放っているように感じる。ところどころかなりディープなアンダーグラウンドのエッセンスが散りばめられているのもポイントだ。これまで「あと少し」と感じていたB級感から脱却し、重鎮デスメタル勢のツアーサポートなども出来そうなポテンシャルをみせてくれた一枚。

 

 

 

第5位 : Vomit The Soul – Cold

レーベル : Unique Leader Records
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Vomit_the_Soul/13688

 

一言コメント : 見事なカムバック! Dying Fetusインスパイアの痺れるヘヴィネス

 

イタリアが誇るブルータルデスメタル・レジェンド、Vomit The Soulによる12年振りのニューアルバム。オリジナルメンバーであるドラマーYcio、ギター/ボーカルMaxが再び手を組み、同郷のレーベルメイトであるBloodtruthのギタリストがベーシストとして加入し、トリオ編成で本作をレコーディング。

アルバム収録曲「The Lost Aurea」のミュージックビデオを観ればより感じられると思うが、Dying Fetusへのリスペクトは強いものがあり、演奏スタイルも影響を受けているように感じる。といってもハードコアやスラッシュメタル的なノリは皆無だが、かなりヴィンテージスタイルのスラム・ヴァイブスに溢れている。彼らのカムバックに痺れたリスナーも多いだろう。文句なしの良盤!

 

 

 

第4位 : Pyrexia – Gravitas Maximus

レーベル : Unique Leader Records
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Pyrexia/363

 

一言コメント : ニューヨーク・デスメタル・プライドが感じられる一枚

 

ニューヨークを拠点に1990年から活動する老舗ブルータルデスメタルバンド、Pyrexiaの通算6枚目フルレングス。近年はコンスタントにリリースを続けていて、直近のリリースも2018年の『Unholy Requiem』と記憶に深く残る作品を発表している。現在進行形バンドとして、過去のレガシーを考えないにしても、この作品が現代に与える影響は割と強いかもしれない。

 

再生ボタンを押した瞬間に彼らがニューヨーク出身であることが分かるほどで、『Sermon of Mockery』からバンドサウンドの根底にあるスラム要素が現代的にアップデートされていて心地良さがある。Internal Bleedingと共にクラシック・スラムの代表的バンドとしてPyrexiaを捉えているリスナーも今は多いと思うし、そんな彼らが派手な装飾抜きにこうした作品を作ったことは高評価されるべきだ。

 

 

第3位 : Stabbing – Ravenous Psychotic Onslaught

レーベル : Comatose Music
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Stabbing/3540490072

 

一言コメント : 衝撃のニューカマー、テキサスから登場!

 

今年結成されたばかりのニューカマーで、Scattered RemainsのベーシストMerylとドラマーRene (二人は夫婦)が中心となり、女性ボーカリストBridget、ギタリストMarvinの4人体制で動き出している。本作は4曲入りのEPでコンパクトな内容ではあるが、ブルータルデスメタルとして完璧な仕上がりといえる。粒の細かいシンバルワークに抜けの良いスネアが疾走、粘着質なヘヴィリフ、獰猛なガテラル、サウンド・プロダクションは100点満点。Jon Zig先生のアートワークもStabbingサウンドを上手く表現しています。これは聴き逃していたら今すぐチェックして欲しい。

 

 

第2位 : Twitch of the Death Nerve – Beset By False Prophets

レーベル : Comatose Music
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Twitch_of_the_Death_Nerve/46813

 

一言コメント : これがブルータルデスメタルの完成形

 

イングランド/ロンドンを拠点に2004年から活動するブルータルデスメタルバンド。「そんなにベテランだったのか」と驚く人も多いと思うが、ちゃんと動き出したのは2014年ごろ。昨年にはセカンドアルバム『A Resting Place for the Wrathful』をリリースしていて、本作は新曲4曲とライブ音源が収録されたEPとして発表されている。この4曲が本当に素晴らしくて、あまりこういう形態の作品をベストリストには入れないんですが、必聴ということでランクイン。

スピード重視というわけでなく、緩急のあるグルーヴィなスタイルは持ち味で、その転調具合が絶妙。そしてそれを可能にするアイデア、テクニック、どれにおいても素晴らしくのめり込んで聴き入ってしまう。正直言って近年の中ではトップ3レベルでハマった作品。これまであまりチェックしてこなかったバンドだけに驚きも加味してこの順位に。ライブ音源も良い。

 

 

第1位 : Brodequin – Perpetuation of Suffering

レーベル : Unmatched Brutality Records
Metal Archives : https://www.metal-archives.com/bands/Brodequin/241

 

一言コメント : 復活の狼煙、伝説のBrodequin17年振りの新曲!

 

1998年に結成されたテネシー州ノックスビルを拠点とするブルータルデスメタル・ベテラン、Brodequinの久々の新作。2曲入り、デジタルリリースではあるものの、今年はやっぱりBrodequinの新曲を聴けた事だけで2021年はブルータルデスメタルにとって良い年だったと言い切れる。彼らの旧譜については自著『ブルータルデスメタルガイドブック』を参照していただくとして、簡単に最近のBrodequinを振り返りつつ、この作品の良さを書いてみたいと思う。

 

2004年にUnmatched Brutality Recordsからリリースしたアルバム『Methods of Execution』以降アルバムリリースはなく、2008年に活動休止。2015年に復活したものの、オリジナルメンバーであるギタリストのMikeが正式に復帰したのは最近になってのことだ。2020年にはCesspool of CorruptionやMortifying Deformityに在籍する若干24歳のドラマーBrennanが加入し、制作活動が動き出す。レーベルの公式YouTubeチャンネルには「VII Nails」のスタジオ・レコーディング・セッションがアップされていて、動くBrodequinに結構感動した。ギブソンのレスポールでブルデスやってるのは見たことないけど、意外とクラシックなスピード重視のブルデスには合うかもしれないと思ったり。奇跡の2曲だけでも聴けて幸せだが、来年2022年には何かアルバムが出たりしないのかなと気になっています。