【2024年】グラインドコアの名盤15選 アルバムレビュー

▶︎Intro

グラインドコア・シーンにビッグバンが起こる事はそうそうないが、グラインドコアとは別軸でエクストリームを加速させ、スピードを追いかけてきたデスメタルから派生したマイクロ・ジャンルが、グラインドコアの真髄に接近することで、結果的にグラインドコア的なものが誕生することはある。例えば、2010年代にカオティック・ハードコア/マスコアを激化させ、スクリーモやメタルコア、デスコアにまで触手を伸ばしたSee You Next Tuesdayの存在は、グラインドコア・リスナーの間でも名の知れたものであり、彼らをグラインドコアとして自然に耳にしている2020年代の新規リスナーもいるだろう。

シーンという捉え方から一旦距離を置き、エクストリーム・メタルにおける「グラインドコア的」なスタイルという曖昧な捉え方に立ってみれば、大きな変革を起こさず、アンダーグラウンドの中で歴史を積み重ねているグラインドコアという音楽に、いくつものビッグバンというべきスタイルがすでに誕生してきており、それは時にNapalm Deathなどといったクラシックなものよりも速く、重いサウンドであることもある。RIFF CULTとしては、エクストリーム・メタルというキーワードを軸として、グラインドコア的なものをグラインドコアとして捉え、明確な線引き、すでに確立されたグラインドコアを構成するいくつかの要素を解き放ち、「速く、激しく、劇的な」エクストリーム・メタルをグラインドコアとして、年間ベストとしてアルバムレビューしていく。

 

▶︎Escuela Grind 『Dreams on Algorithms』

Country : United States
Label : MNRK Heavy
Streaming : https://escuelagrind.bandcamp.com/album/dreams-on-algorithms

2016年に母体となるEscuelaを結成、2019年からEscuela Grindを名乗る彼/彼女らは、女性メンバーのボーカリストKaterina Economouと女性ギタリストKris Morash、男性メンバーのドラマーJesse FuentesとベーシストJustin Altamiranoからなる4人組で、本作は大手レーベルMNRK Heavyからの2作目となる。

Katerina Economou

 

Kris Morash

表情豊かにステージを駆け回るKaterinaのパワフルなパフォーマンスがライブ映像、ミュージックビデオから人気に火が付き、オールドスクール・デスメタルなどとクロスオーバーしながら突進していく難しい部分のないグラインドコアで、すでにNapalm DeathCarcassとの共演も果たしている。

アルバムは、「目に見えない、プログラムされた、サブリミナル的な力による私たちの行動や精神状態のコントロールの探求」と言うコンセプトの元、夢、睡眠、潜在意識をキーワードに、これらのターゲットとなるアルゴリズムの影響下で私たちを一体化させるものに触れようとしていく。 いくつかの曲は、ソーシャルメディアが私たちの生活にどのような影響を及ぼしてきたかについて直接的なアプローチを行い、いくつかの曲は間接的で、個人的な目標や経験に関連したテーマが掲げられている。 戦争批判、政府や警察の暴力批判というグラインドコアの一般的なテーマから、より現代社会で身近に感じられる事象に沿ったのも面白いし、同世代からの評価を得やすいのかも知れない。Kurt Ballouがレコーディングを指揮し、「Constant Passenger」にはThe Acacia StrainのVincent Bennettと言うグラインドコア・シーンの外から有名人を起用していることも興味深い。

Jesse Fuentes

 

▶︎See You Next Tuesday 『Relapses』

Country : United States
Label : Good Fight Music
Streaming : https://cunexttuesdaygrind.bandcamp.com/album/relapses

2023年に15年振りとなるニュー・アルバム『Distractions』をリリースしたSee You Next Tuesday。この作品を多くのゲストを迎えてエレクトロニックにリミックスしたのが『Relapses』だ。この作品は、1997年にリリースされたFear Factoryのリミックス・アルバム『Remanufacture』に大きなインスピレーションを受け、エクスペリメンタル・グラインドコア/マスコアの中でもエクストリームなスタイルを持つSee You Next Tuesdayの楽曲をインダストリアル、ノイズ、アヴァンギャルド/エクスペリメンタルなエレクトロニックな要素をブレンドさせることによって、さらにエクストリームなクリエイティヴィティを発揮すると言うのがこの作品の趣旨だ。

バンドのブレインでありマルチ・インストゥルメンタリストのDrew Slavikによって指揮が取られ、Thotcrime、ZOMBIESHARK!、John Cxnnor、Black Magnetなど多くのアーティストがリミックスに参加し、『Distractions』の持つポテンシャルをジャンルレスに拡張している。アルバムのエンディングを飾る「The Gold Room」は、Frontiererと共に制作した全く新しい楽曲で、See You Next Tuesday & Frontiererと共作名義になっている。See You Next Tuesdayが人気を集めたのも、グラインドコア・シーンからというよりは、2000年代後期のカオティック・ハードコア・ムーヴメントの中で、エモ、スクリーモが混ざり合う混沌の中から飛び出してきたという印象。今回参加しているアーティストは、それらを聴いて青年期を過ごしただろうし、このようにして新旧のエクストリーム・メタルを追求する異端児たちがSee You Next Tuesdayを通じて、その才能を発揮し世に放つと言うことは非常に有意義なことである。グラインドコアとして聴くには難しい作品であるが、グラインドコアのポテンシャルはこのように拡張される可能性を秘めていることにメタルの底知れなさを感じることが出来るだろう。

 

▶︎See You Next Tuesday & meth. 『Asymmetrics』

Country : United States
Label : Good Fight Music
Streaming : https://cunexttuesdaygrind.bandcamp.com/album/asymmetrics

『Relapses』と言う、グラインドコア、See You Next Tuesdayの可能性を拡張させるようなリミックス・アルバムを完成させた後も、Drew SlavikはSee You Next Tuesdayとしての創作活動を止めなかった。See You Next Tuesdayの後継者とも言えるmeth.と共に共同で作品を作るというアイデアを思いつき、そしてそのレコーディングをかなり珍しい方法で作り上げた。

See You Next Tuesday

お互いが3曲書いてレコーディングし、ドラム・トラックだけを他のバンドと共有。 それぞれのバンドは、交換したトラックの上に新しい曲と歌詞を書いていく。一方のバンドが、もう一方のバンドに影響を与えないようにするため、すべてが完成するまで、どちらのバンドももう一方のバンドから何も聞くことはせず完成させる。See You Next Tuesdayもmeth.も最終的に完成した作品には驚き、興奮したという。この作品は4つのパートに分かれており、「THE ROAD TO DOOM (feat. Guy Kozowyk of The Red Chord)」と題された3曲のパート、「EUPHORIA」と題されたSee You Next Tuesdayのパート、「SNARE TRAP」と題されたmeth.のパート、そして「PSALMS OF PAIN (feat. Billy Bottom of Nights Like These)」と題されたmeth.のパート、合計12曲が収録されている。

それぞれに異なるテイストをもちながらも、それと分かる個性も溢れており、特に奇抜な方法で制作された「EUPHORIA」と「SNARE TRAP」は、狂気さえ感じるノイズまみれのグラインドコア、と言うかマスコア、と言うべきか……。個性が確立されたジャンルでトップを走る二組の奇怪なアイデアによって完成した芸術的な作品、創作背景を意識しながら聴いてみると、新しい発見があるかも知れない。

 

▶︎Nails 『Every Bridge Burning』

Country : United States
Label : Nuclear Blast Records
Streaming : https://nails.bfan.link/every-bridge-burning.yde

2007年カリフォルニアで結成されたNailsの前作『You Will Never Be One of Us』から8年振りとなる通算4枚目のスタジオ・アルバム。長きに渡りNailsに在籍してきたドラマーTaylor Young、ベーシストのJohn Gianelliが脱退し、ギター/ボーカルのTodd Jones以外のメンバーが総入れ替えとなった。本作はブラック/デスメタル・バンドUltharをはじめ、多くのプロジェクトを持つギタリストShelby Lermo、Despise YouやApparitionに在籍するベーシストAndrew Solis (本職はギターのよう)、Skeletal RemainsやPower Tripのライブドラマーを務めた経歴を持つCarlos Cruzが加入し、4人体制となった。

プロデューサーも前作同様Kurt Ballouが担当しており、Toddがメインボーカルを務めており、ほとんど前作の延長線上にあるが、3人入れ替わるだけでかなり違う。これはNailsでやりたいことが変わったからと言うのもあるかも知れないが、本作のプロダクションはかなり良い。前作のNailsのソングライティングにMotörheadのヴァイブスを注入、一見無理矢理にも感じるが、これがかなり素晴らしい。『UNSILENT DEATH』のようなものを求めるリスナーも楽しめるパワーがあるし、新しいNailsも素晴らしいものになると感じさせてくれる。「Give Me The Painkiller」とかはギターソロで笑っちゃうけど、普通にカッコ良い。

 

▶︎Feind 『Ambulante Hirnamputation』

Country : Germany
Label : Independent
Streaming : https://feind.bandcamp.com/album/ambulante-hirnamputation

2021年にドイツ・ボーフムで結成された彼らのセカンド・アルバム。2023年にリリースされたデビューEP『Moloch』は、2023年下半期のグラインドコア年間ベスト・アルバムとしてアルバムレビューしており、この作品への期待は特別高かった。ユニークなボーカルワークはメンバー全員がメインを張れる個性が溢れており、忙しない展開に拍車をかけていく。決してグラインドコアからだけの影響でなく、デスコア、マスコア、時にノイズへと接近したり、Dream Theater顔負けのプログレッシヴ/オペラ調のフレーズまでも差し込みながら (それはRuinsや高円寺百景、BAZOOKA JOEにも聴こえるのが最高! “Planet der Affen”を聴いてほしい)、トリッキーなグルーヴでエンディングまで全力疾走。See You Next TuesdayからWormmrotまで、かなりおすすめの一枚。(Ambulante Hirnamputationのイントロもすごい笑)

 

▶︎Houkago Grind Time 『Koncertos of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book by Andrew Lee』

Country : United States
Label : Obliteration Records
Streaming : https://houkagogrindtime2.bandcamp.com/album/koncertos-of-kawaiiness-stealing-jon-changs-ideas-a-book-by-andrew-lee

2023年12月に来日し、横浜、東京、大阪でライブを行ったAndrew Leeによるワンマン・アニメグラインド・プロジェクト、その名もHoukago Grind Timeによるサード・アルバム。筋金入りのアニメオタクであることは来日公演を目撃した人は分かるだろうが、本物のアニメオタクから見て、彼のサンプリングのチョイスはどのくらい優れているのか、伺いたいところ。私は全く分からないが、アニメグラインドというと、関西のNo.305が思い浮かぶ。グラインドではないが、アニメをコンセプトにしたアンダーグラウンド・プロジェクトはほとんどが音楽的な要素において厳しいものがあるが、Houkago Grind Timeはアニメ要素を取り払ったとしても、音楽的に優れているし、ブルータル・デスメタルからデスコア、ビートダウン・ハードコアまで通ずる鋭いリフワークがある。Andrew、絶対ナイスガイだと思う。

 

▶︎Exorbitant Prices Must Diminish 『For A Limited Time』

Country : Switzerland
Label : Lixiviat Records/Jungle Noise Records
Streaming : https://exorbitantpricesmustdiminish.bandcamp.com/album/for-a-limited-time

90年代の終わりから2000年代の初頭にイングランドのKastratedというブルータル・デスメタル・バンドで活躍し、現在はスイスでNasty Face、The Afternoon Gentlemeなどで活躍中のElliot Smithがベーシストを務めるExorbitant Prices Must Diminishのデビュー・アルバム。ドラマーには活動休止中のスイスの有名グラインドコア、MumakilのMaxime Hänsenberger、Elliotと共にNasty Faceに在籍するギタリストのLionel Testaz、2020年には女性ボーカリストAlessia Mercadoが加入している。

Disruptを彷彿とさせるクラストパンク/グラインドコアを下地としながらも、奇抜なブラストビートを荒っぽくストップ&ゴーさせながら、多彩なグルーヴを超高速で展開していく。Mumakilを彷彿とさせるブルータル・デスメタルにも近いテクニカルなドラミングは非常に素晴らしく、ノイジーなリフとの相性も抜群だ。

 

▶︎Full of Hell 『Coagulated Bliss』

Country : United States
Label : Closed Casket Activities
Streaming : https://orcd.co/coagulatedbliss

2021年にRelapse Recordsからリリースした『Garden of Burning Apparitions』以来、3年振りとなる通算6枚目となるスタジオ・アルバム。これまでもNailsとのスプリット作品などを手掛けてきたClosed Casket Activitiesへと移籍してリリースされた本作は、聴く人によって抱く感覚がかなり異なる作品ではないだろうか。この作品に漂い続けるアトモスフィアは、いったいどこから来ていて、Full of Hellがどこに向かっているのかを分からなくさせる。そういう何者か分からなさが、彼らの魅力の一つかも知れないし、今年はシーンにこんなトレンドがあって〜とか、来年はこんなバンドがブレイクする!とか、そんな事を全く気にしない姿勢でバンドがキャリアを積み重ねていくことの大切さや魅力が感じられる作品になっていると言えるだろう。

「グラインドコア」と言う言葉だけでは彼らの音楽を捉えることはもちろん出来ない。ステージのど真ん中に巨大なエフェクトボードを置き、奇抜なエレクトロニック・ビートやノイズを構築しながら、ブラストビートの雪崩を起こしていく、私たちが知っているFull of Hellの姿もあれば、古めかしいニューウェーヴのようなビートの上に奇怪なノイズを覆い被せていったり、時にエモ・ヴァイオレンス的な悲哀なメロディを炸裂させたかと思うと、懐かしいマスコア的な楽曲をストレートにぶつけてくる。直球のハードコアパンクをやっているかと思えば、それはU.G. MANを思い起こさせる、どこか絶妙なクセがある。彼らがこのアルバムでやっていることに一つの明確なコンセプトはないだろうし、ファンは形容出来ないFull of Hellのサウンドの芸術性を楽しみにしているはずだ。そう言う好奇心からすれば、このアルバムは最初から最後まで、目が離せない作品に仕上がっていると言えるだろう。

 

▶︎Groin 『Paid in Flesh』

Country : United States
Label : No Time Records
Streaming : https://groinaz.bandcamp.com/album/paid-in-flesh

Groinは、アリゾナを拠点に活動するグラインドコア/パワーヴァイオレンス・トリオでボーカリストLois Ferre、ドラマーJosh Goodwin、ギター/ベースを兼任するAustin Kellyからなる。本作はファースト・アルバムとして発表されているが、2020年に『Greatest Hits』、2022年に『Groin』と2枚のEP (どちらもアルバム並みのボリュームであるが)を発表している。20曲入りの本作は、パワーヴァイオレンスとグラインドコアのそれぞれの良さをショートチューンに巧みに組み合わせつつ、ドゥーミーなフレーズを適度に組み合わせながら、強弱の幅の広さでリスナーを夢中にさせていく。唐突にやってくるブレイクダウンも面白い。

 

▶︎ACXDC 『G.O.A.T.』

Country : United States
Label : Prosthetic Records
Streaming : https://acxdc.bandcamp.com/album/g-o-a-t

2003年カリフォルニア州ロサンゼルスで結成され、キャリア20年が経過したワーヴァイオレンス・バンド、ACXDCの前作『Satan Is King』以来、4年振りのサード・アルバム。スプリット作品やEPなどはたくさん出ていて、特にテープ・フォーマットがかなり流通しているイメージがある。グラインドコアというよりはハードコアパンク・シーンでの認知度が高い彼らだが、Prosthetic Recordsと言うメタル中心のリリースを行うレーベルからと言うこともあり、本作はグラインドコア・リスナーの食いつきも良さそうだ。

アルバム通じてギターリフが凄まじい。Amebixのようなクラスト・ルーツのプロダクションから、デスメタリックな分厚いリフまで変幻自在に繰り広げられていく。その裏でジリジリとノイジーなベースラインも個性豊かだ。ボーカルについて言及されることが多いみたいだが、素晴らしい以外に感想がない。

 

▶︎Eraser 『Harmony Dies』

Country : Italy
Label : Rødel Records/Septic Aroma of Reeking Stench/Despise The Sun Records
Streaming : https://erasergrind.bandcamp.com/album/harmony-dies

イタリア・シチリア島の都市であるパレルモを拠点に2014年から活動するEraserの2020年のアルバム『Mutual Overkill Deterrence』以来、4年振りとなるスタジオ・アルバム。Napalm Death、General Surgeryなどを彷彿とさせるオールドスクール・グラインドコアで、キレのある展開とObscene Extremeのステージが眼に浮かぶキャッチーなグルーヴがオープニングからエンディングまで心地良く鳴り響く。分かりやすさで言えば2024年トップアルバムかも知れない。

 

▶︎Vile Species 『Disqualified As a Human』

Country : Greece
Label : Nothing To Harvest Records and more
Streaming : https://vilespecies.bandcamp.com/album/disqualified-as-a-human

2019年にギリシャ・アテネで結成された4人組 (レコーディング当初はトリオ編成だった模様)、Vile Speciesの前作『Against the Values of Civilization』以来、2年振りとなるスタジオ・アルバム。アーティスト写真を見る限りかなりベテラン、ライブも精力的に行っているようだ。ところどころデスメタリックなリフの展開やドラミング (ほとんどブラストビートだが) もあり、”Deathgrind”とタグ付けされている作品が好きな人はチェックしてほしい作品だ。荒っぽいプロダクションでも分かる熱気、アートワークを見て、芸術派かなと思ったが、そのサウンドのストレートさとのギャップにやられた。

 

▶︎Controlled Existence 『Out Of Control』

Country : Czechia
Label : Psychocontrol Records/Calvos73 Records/Wise Grinds Records
Streaming : https://controlledexistence.bandcamp.com/album/out-of-control

2011年チェコ・プラハで結成された4人組。13年というキャリアがありながらも本作がバンドのファースト・アルバムで、これまでにMindfuck、Alea Iacta Est、Days of Desolation、Desperate Pigs、Shitbrainsといったバンドらとのスプリット作品を多数リリースしてきた。カラッと乾いたノイズまみれのギターリフにパキッとクリアなプロダクションで叩き込まれるパワフルなドラミング、Wormrotほどの忙しい展開はないものの、数多く挿入される不協和音やカオスなタッチは聴きごたえ十分。

 

▶︎Morgue Dweller 『Corpse EROTika』

Country : United States
Label : Independent
Streaming : https://morguedweller.bandcamp.com/album/corpse-erotika

Graveyard Lurkerによるワンマン・グラインドコア・プロジェクト。2022年にそれまでに制作された楽曲をリマスターしたディスコグラフィー盤『Till Death Do We Start (Complete Discography Remastered)』をリリースしているが、それからは初となるアルバムで、アートワークからも分かるように、HaemorrhageNecronyRegurgitate初期Carcassといったクラシックなゴアグラインド・サウンドに親近感が湧く。完全に腐敗し切ったボーカルが地を這うようにして、ノイズまみれのブラストビートに細菌をなすり付けていく。

 

▶︎Sunshine Friendship Club 『Two Minute』

Country : Czechia
Label : Independent
Streaming : https://sunshinefriendshipclub.bandcamp.com/album/two-minute-lp

チェコ・プラハ在住のMike Iannucciによるワンマン・プロジェクトSunshine Friendship Clubによる7曲入り合計2分と言うショートチューンEP。こういう作品を見かけると聴かずにはいられない。数十年前 (もしかしたら20年前くらいかも) ショートカット・グラインドとか、ショートカット・ゴアグラインドとかが流行っていた (のか、ただ個人的に夢中になっていたのか) 。自分でも100曲入り15分のノイズグラインド作品を作ったこともあるが、こう言うのは曲数より短さの方が大事。こういう作品をたとえば、年間100枚とかリリースしたら、それで話題になるし、なんかそう言うバンドいないかな。そして意外と曲も良かった。

 

グラインドコア 2023年下半期の名盤 TOP10

2023年上半期のベスト・アルバム記事はこちら

2023年の上半期は、The HIRS CollectiveSee You Next Tuesdayなど、一般的なメタルの年間ベストにも入り込めそうな作品がリリースされ、グラインドコアが熱い一年だったように感じる。ただ、そこはやはりアンダーグラウンド。決していきなりバズってメジャーになったりするような音楽ジャンルではありません。ただ、例年よりも活気に満ち溢れていたのは間違いない。

グラインドコア・バンドが楽曲で描く大きなテーマは、政府や社会への怒りというものが多い。2023年、世界がコロナを乗り越えた先に、こんなにも戦争が勃発するとは思わなかったし、連日ソーシャルメディアにアップされる痛ましい写真に胸を痛めていた人も多いだろう。彼らの創作意欲が巨大に怒りに駆り立てられたのも、グラインドコアが熱いと感じた理由かもしれない。そして、しばらくは厳しい社会情勢が続き、彼らのメッセージも熱を帯び、シーン全体の注目度も上がってきそうな気がする。ひどくならないことを祈りつつも、どんな風に社会情勢とリンクしながらグラインドコア・バンドが作品を生み出していくのかは気になるところである。

グラインドコアの規模は他の音楽ジャンルに比べて小さいながらも、世界中から来日バンドが毎月のようにやってきて、日本在住、特に東京近郊にお住まいの方であれば、彼らの熱演を体感出来るチャンスは他の国より格段に多いだろう。このシーンにアンテナを貼り続けているリスナーの数も世界屈指なはず。最近だと、年間ベストには入っていないが、男女混合のグラインドコア・バンド、Escuela GrindNapalm DeathBarney Greenway をフィーチャーした「Meat Magnet」のミュージックビデオを公開してファンの度肝を抜いた。彼/彼女たちは間違いなく、2024年のグラインドコア・シーンのトップをいくバンドであるし、深掘りすれば非常に面白いジャンルだ。下記に書いた年間ベストと一緒にチェックして、2024年のグラインドコアの動向を見逃さないようにしておこう。

 


 

▶︎Gridlink 『Coronet Juniper』

9年間の活動休止を経て、アメリカ・ニュージャージーを拠点とする日米混成グラインドコア・バンド、Gridlink が復活。MortalizedやHayaino Daisuki、Gridlink休止中はFormless Masterなどで活躍した日本人ギタリストTakafumi Matsubara、そして90年代初頭にニュージャージーを拠点にグラインドコア・シーンで大いに活躍したDiscordance AxisのボーカリストJon Chang、そしてex.PhobiaでRotten Soundのライブ・ドラマーという経歴を持つBryan Fajardoを中心とするこのグループは、2022年にベーシストMauro Cordobaを迎え入れ、Willowtip Recordsと契約を果たした。

非常に叙情的でメロディアスなシュレッド・リフが印象的で、それらは悲哀に満ちており、ブラックメタルやシューゲイズの影響すら感じさせる。収録曲「Ocean Vertigo」はグラインドコアの枠を飛び越え、スタジアム級の観衆を飲み込んでいくかのようなドラマ性を持ち合わせている。ハードコアパンクやクラストの影を忍ばせるようなフレーズや、時にブラストビートをも追い越すメロディックなツインリードも、他のグラインドコア・バンドにないGridlinkの個性と言えるだろう。

Jonの咆哮は血を滲ませながら喉をふり絞るようにハイピッチ・シャウトを炸裂させ、グラインド・ボーカリストとしてのカリスマ性で存在感を示す。しなるドラムスティックが目に浮かぶようなドラミングはGridlinkが本作で魅せるドラマ性をスピードを持って表現しているし、不気味なアヴァン・プログ/カオティック/マス・エレメンツを綿密に構築し、予想だにしない急ブレーキ、そして急発進パートを組み込んでいく。見事な復活を遂げた快心の一枚と言えるだろう。

 

▶︎Brujería 『Esto es Brujería』

メキシコのデスメタル/グラインドコア・バンド、Brujeria。「正体不明」を貫くにはそろそろ限界が来てしまった彼ら、ベースはお馴染みNapalm DeathのShane Embury、ギターはThe HauntedWitcheryで活躍するPatrik Jensen、チリ産カルトメタル・バンドPentagramのAnton Reisenegger、、ドラムはDimmu BorgirCradle of Filthと渡り歩いたNicholas Barkerという超豪華ラインナップ (という、噂)。現在は8人組の大所帯 (+ファーストLP『Matando Güeros』のジャケに出てきた生首という8.5人組と言っておこうか)で、そのサウンドは不気味なスペイン語が飛び交うエクスペリメンタル・グラインドコア。『Esto Es Brujeria (これは魔術だ)』というタイトル通り、時折呪術的なサウンプリングや南米未開の地の危険な民族達の打楽器の舞、みたいな曲もあって面白い。

Brujeriaの最新アーティスト写真。インパクト強すぎる。

 

全編スペイン語ながら「コカイン」とか「マリファナ」とか危ないワードだけは聞き取れる。ミュージックビデオになっている「Bruja Encabronada (ムカつく魔女)」は男女ツイン・ボーカルがスクリームする、というかもはや煽り倒しているみたいなボーカルがおどろおどろしい雰囲気を作り出している。この曲は完全にNapalm Deathって感じでShaneが作ったのかな。もう隠す必要あるのかというレベルです笑。未だ人気衰えない、シーンに愛されているのが実感できる一枚だ。

 

▶︎The Arson Project 『God Bless』

スウェーデン・マルメのポリティカル・グラインドコア・バンド、The Aeson Project。2005年頃から活動を開始し、本作がセカンド・アルバムでHere And Now!、Lixiviat Records、De:Nihil Recordsによる共同リリースとなっている。2010年にNoisearとのスプリットがRelapse Recordsから出ていて、そこで名前を知ったという人もいるかもしれない。

2023年、ポリティカルな姿勢で活動する多くのハードコア/パンク・バンドが怒りをぶちまけた作品をリリースしたが、彼らもそんなエナジーをたっぷりと詰め込んだノンストップ・爆裂グラインドコア・アルバムを完成させた。ローが効きすぎてもはやノイズにまで接近したブルータルなベースラインが凄まじく、それに呼応するかのようなドラミング、ギター、ボーカルと、どれも研ぎ澄まされた怒りのエナジーが溢れている。時折D-BEATに接近しつつも基本はNasum、Wormrot、Trap Them、Dead in the Dirt、そしてNailsあたりのグラインドコアの音像を想像してもらえればと。グラインドコア好きなら、絶対チェックした方が良い作品。

 

▶︎Closet Witch 『Chiaroscuro』

10年近いキャリアを持つアメリカ・アイオワの女性ボーカル暗黒グラインドコア・バンド、Closet Witchのセカンド・アルバム。Zegema Beach Records、Moment of Collapse Records、Circus Of The Macabre Recordsからの共同リリース。

ボーカルのMollie Piatetsky。ライブ中に流血しても、お構いなし。

 

Full of HellのDyran Walkerやジャズ・グラインドThe CentralのFrankie Furilloなどがフィーチャリング・ゲストとして参加している楽曲もあり、この手のシーンの人たちからの信頼は厚い。女性ボーカルのグラインドコア、といえばFuck The Factsがパッと思い浮かぶが、彼/彼女らのような知的な雰囲気に加え、パワー・ヴァイオレンス、クラストのカオスや程良い程度のハーシュノイズのアトモスフィアがよりCloset Witchの芸術性を高めてくれる。Discordance AxisやFull of HellといったエクスペリメンタルでノイジーなグラインドコアからInsect Warfare、Phobia、Nasumといった正統派まで、シリアスなタッチのグラインドを好むリスナーにおすすめ。

 

▶︎Blind Equation 『Death Awaits』

イリノイ州シカゴのエモーショナル・サイバーグラインド・バンド、Blind Equationのセカンド・アルバム『Death Awaits』は、Prosthetic Recordsからリリースされたことにまず驚いたが、2023年にこれだけ高い情熱を持ってサイバー・グラインドの可能性を追求し、『Death Awaits』を完成させたことにまず賞賛を贈りたい。このマイクロ・ジャンルは局地的なシーンを持つわけでないが、グラインドコア・シーンの隅で、あるいはゴアグラインド・シーンの隅で、はたまたカオティック/マスコア・シーンの隅っこで、刺激的なエクストリーム・メタルを求めるミュージシャン、そしてリスナーによって定期的に面白いアーティストが出ては消えてきた。思い出せる印象的なサイバー・グラインド、と言えばゴア系のS.M.E.S.やKOTS、そしてLibido Airbag、いわゆるマス・グラインドと言われるようなところだとThe Captain Kirk on LSD Experience、Preschool Tea Party Massacre、Cutting Pink With Knivesとかだろうか。いずれも短命 (または長すぎるブランクが空いたり) 。

Blind Equationは、グラインドコア、アトモスフェリック・ブラックメタル、そして8bitサウンドやユーロ・トランス、さらにはハイパーポップまでも飲み込んだかなり異質なサウンドであるが、それは間違いなく彼らが自称する「エモーショナル・サイバーグラインド」として正確に鳴らされている。HEALTHやAuthor & Punisher、The Callous Daoboysといったバンドらから共演オファーを受けるなど、ライブシーンにおいても従来のサイバー・グラインド・アーティスト達とは全く異なる存在であることが分かる。実際にライブでシンガロングが巻き起こるんだから、何かファンの胸を打つパワーが秘められていることは間違いない。

リード・シングル「never getting better」の脈打つ8ビット・エレクトロニクスとブラストビート、サビではタイトルにちなんだポジティヴなアンセミックへと爆発していく。「you betrayed the ones you love」ではエレクトロニックなストリングスが、”Real Emotional Cybergrind”を自称する彼らの真髄と言える世界観を表現し、先行シングル/ミュージックビデオとして話題となった。彼らと同世代のZOMBIESHARK!も併せてチェックしておけば、2020年代式のサイバーグラインドの最新形を網羅出来る。

 

▶︎Cognizant 『Inexorable Nature of Adversity』

テキサス・ダラスの5人組テクニカル・グラインドコア・バンド、Cognizant。Nerve Altar Records、Selfmadegod Records、Rescued From Life Recordsからの共同リリース。

純粋なグラインドコア・ファンからしたら、ここまでテクニカルで難解なスタイルは邪道なのかもしれない。マス・グラインド、テック・グラインド、デス・グラインド…… グラインドと名の付くマイクロ・ジャンルは多数あるが、どれも非常に曖昧で「これこそマス・グラインド」みたいなものって、ほとんどない。こういうマイクロ・ジャンル内でのクロスオーバーは、モダン・メタルの限界を追求する姿勢によって挑戦的なものが多く、ジャンルとして確立してきたものはあまりないのが現状。Cognizantのようなスタイルのバンドはどのようにして後世に残されていくべきなのだろうか……。

オープニングを飾る「Paralysis」を再生して1秒もしない間にこのアルバムがどのような狂気にはらんだものであるか、耳の肥えたメタル・リスナーなら分かるだろう。いわゆる”Dissonant Death Metal”(不協和音デスメタル)のタッチを得意としながら、ノイズの塊みたいなリフの蠢きが、抜けの良いブラストビートに絡みついていく。本人達はデビュー時、Antigama的なSci-Fiスタイルを目指していたようだが、このアルバムで完全に本家を超えてしまっているように案じる。VOIVODからAntigamaまで、今年で言えばGridlinkなんかと一緒にチェックすべき名作だと思います。

 

▶︎Misanthropic War 『Utter Human Annihilation』

2021年にドイツを拠点に活動を開始した正体不明の暗黒デス・グラインド、Misanthropic Warから衝撃的なアルバムが登場。アートワークのおっかなさ、そのまんまのサウンドでかなり喰らいました。

いわゆるウォーメタルっぽいスタイルではあるが、やってることはフルスロットルで炸裂し続ける猛烈なグラインドコア。徹底的にローなサウンド・プロダクションは殺気に満ちており、戦争が絶えなかった2023年を象徴するような、残酷さとも言える。人間は戦争を避けられないのだろうか。人間という生き物の難しさ、残忍さ、戦争によって生まれる憎しみ、悲しみ、怒りをそのまま表現したこのアルバムに考えさせられるものは多い。BlasphemyからInfernal Curse、Black Witcheryといったバンドにインスパイアされただろうサウンドであり、グラインドコア・ファンだけでなくブラックメタル・ファンもチェックしておくべき作品と言えるだろう。一切メロディがないという点ではブルータル・デスメタル・リスナーもいけるかも。

 

▶︎Feind 『Moloch』

ドイツ・ボーフムで2021年コロナ禍に結成された3ピース・グラインドコア・バンド、FeindのデビューEP。Halenoise Records、Erdkern Recordsから共同リリースとなっている。

全員がボーカルを取る珍しいスタイルを取る彼ら、忙しなく掛け合うボーカルと刃物のように切れ味鋭いシュレッダー・リフがタイトなドラミングとうねりを生み出しながら、予想だに出来ない展開をフルスロットルで続けていく。ストップ&ゴーもかなり組み込まれていて、思わず没頭して聴き入ってしまうくらい、集中力が必要な作品だ。Wormrotファンは必聴でしょう!

 

▶︎Lycanthrophy 『On The Verge Of Apocalypse』

1998年にチェコで結成されたグラインドコア/ファストコア・ベテラン、Lycanthrophy。結成25周年を記念し、まさかのセカンド・アルバムがHorror Pain Gore Death Productionsから登場! ファースト・アルバムの頃は女性ボーカルで、YouTubeにアップされている古いライブ映像では彼女の熱演を見ることが出来ます。残念ながら2019年に脱退、本作ではギター/ボーカル・スタイルの4人編成となっています (ベースには元Malignant Tumour,のOttoが参加してます)。

チェコからしか生まれない、ゴアグラインディングなフックを持ち合わせたグラインド・サウンドが特徴で、時折ファストコア/パワー・ヴァイオレンスなスピードとノイズの竜巻を起こします。「Dependence」は収録曲の中でも最も優れた楽曲で超高速で転調しながらわずか1分間でここまでやるか!と思わず唸ること間違いなし。約16分で18曲。ノンストップで聴き続けたくなる作品だ。また25年後とかにアルバム・リリース! みたいなのは無しにして、コンスタントに活動してほしい!笑

 

▶︎Dripping Decay 『Festering Grotesqueries』

おそらく2023年にリリースされたデスメタル/グラインドコア・アルバムの中で、最も腐敗臭を漂わせていたアートワークでシーンに一撃を喰らわせたアメリカ・オレゴンのDripping Decay、Satanik Royalty Recordsからのデビュー・アルバム。デスメタル年間ベスト・アルバムのリストは作成出来るほど聴き込んだ作品がなく、軽く下調べしたくらいでリストは作りたくなかったのですが、Dripping Decayは意外とグラインディング・フレーズをモリモリに詰め込んだデスメタルだったので、こちらでレビューしたいと思います。

「Abundant Cadaveric Waste」から「Gut Muncher」の流れなんかは、ブラスト寸前の超高速2ビートが雪崩の如く崩壊しながら、ジリジリとノイジーなリフの巻き起こす嵐に飲み込まれていくかのようで最高にエネルギッシュ。老人が落下してから2週間くらいが経過した腐乱臭立ち込める井戸の奥深くから鳴り響いてくるかのような生臭いボーカルが呼吸困難に陥りながらグロウルするのもサウンドにフィットしてます。ライブの絶妙なダサさも愛らしい。

 

今年もグラインドコアを追いかけるのは、とても楽しかった! もしお気に入りのバンドが見つかったら、ソーシャルメディアをフォローしたり、グッズを買ったり、そしてもし日本に来ることがあれば、ライブを観に行って欲しいです。