グラインドコア 2023年下半期の名盤 TOP10

2023年上半期のベスト・アルバム記事はこちら

2023年の上半期は、The HIRS CollectiveSee You Next Tuesdayなど、一般的なメタルの年間ベストにも入り込めそうな作品がリリースされ、グラインドコアが熱い一年だったように感じる。ただ、そこはやはりアンダーグラウンド。決していきなりバズってメジャーになったりするような音楽ジャンルではありません。ただ、例年よりも活気に満ち溢れていたのは間違いない。

グラインドコア・バンドが楽曲で描く大きなテーマは、政府や社会への怒りというものが多い。2023年、世界がコロナを乗り越えた先に、こんなにも戦争が勃発するとは思わなかったし、連日ソーシャルメディアにアップされる痛ましい写真に胸を痛めていた人も多いだろう。彼らの創作意欲が巨大に怒りに駆り立てられたのも、グラインドコアが熱いと感じた理由かもしれない。そして、しばらくは厳しい社会情勢が続き、彼らのメッセージも熱を帯び、シーン全体の注目度も上がってきそうな気がする。ひどくならないことを祈りつつも、どんな風に社会情勢とリンクしながらグラインドコア・バンドが作品を生み出していくのかは気になるところである。

グラインドコアの規模は他の音楽ジャンルに比べて小さいながらも、世界中から来日バンドが毎月のようにやってきて、日本在住、特に東京近郊にお住まいの方であれば、彼らの熱演を体感出来るチャンスは他の国より格段に多いだろう。このシーンにアンテナを貼り続けているリスナーの数も世界屈指なはず。最近だと、年間ベストには入っていないが、男女混合のグラインドコア・バンド、Escuela GrindNapalm DeathBarney Greenway をフィーチャーした「Meat Magnet」のミュージックビデオを公開してファンの度肝を抜いた。彼/彼女たちは間違いなく、2024年のグラインドコア・シーンのトップをいくバンドであるし、深掘りすれば非常に面白いジャンルだ。下記に書いた年間ベストと一緒にチェックして、2024年のグラインドコアの動向を見逃さないようにしておこう。

 


 

▶︎Gridlink 『Coronet Juniper』

9年間の活動休止を経て、アメリカ・ニュージャージーを拠点とする日米混成グラインドコア・バンド、Gridlink が復活。MortalizedやHayaino Daisuki、Gridlink休止中はFormless Masterなどで活躍した日本人ギタリストTakafumi Matsubara、そして90年代初頭にニュージャージーを拠点にグラインドコア・シーンで大いに活躍したDiscordance AxisのボーカリストJon Chang、そしてex.PhobiaでRotten Soundのライブ・ドラマーという経歴を持つBryan Fajardoを中心とするこのグループは、2022年にベーシストMauro Cordobaを迎え入れ、Willowtip Recordsと契約を果たした。

非常に叙情的でメロディアスなシュレッド・リフが印象的で、それらは悲哀に満ちており、ブラックメタルやシューゲイズの影響すら感じさせる。収録曲「Ocean Vertigo」はグラインドコアの枠を飛び越え、スタジアム級の観衆を飲み込んでいくかのようなドラマ性を持ち合わせている。ハードコアパンクやクラストの影を忍ばせるようなフレーズや、時にブラストビートをも追い越すメロディックなツインリードも、他のグラインドコア・バンドにないGridlinkの個性と言えるだろう。

Jonの咆哮は血を滲ませながら喉をふり絞るようにハイピッチ・シャウトを炸裂させ、グラインド・ボーカリストとしてのカリスマ性で存在感を示す。しなるドラムスティックが目に浮かぶようなドラミングはGridlinkが本作で魅せるドラマ性をスピードを持って表現しているし、不気味なアヴァン・プログ/カオティック/マス・エレメンツを綿密に構築し、予想だにしない急ブレーキ、そして急発進パートを組み込んでいく。見事な復活を遂げた快心の一枚と言えるだろう。

 

▶︎Brujería 『Esto es Brujería』

メキシコのデスメタル/グラインドコア・バンド、Brujeria。「正体不明」を貫くにはそろそろ限界が来てしまった彼ら、ベースはお馴染みNapalm DeathのShane Embury、ギターはThe HauntedWitcheryで活躍するPatrik Jensen、チリ産カルトメタル・バンドPentagramのAnton Reisenegger、、ドラムはDimmu BorgirCradle of Filthと渡り歩いたNicholas Barkerという超豪華ラインナップ (という、噂)。現在は8人組の大所帯 (+ファーストLP『Matando Güeros』のジャケに出てきた生首という8.5人組と言っておこうか)で、そのサウンドは不気味なスペイン語が飛び交うエクスペリメンタル・グラインドコア。『Esto Es Brujeria (これは魔術だ)』というタイトル通り、時折呪術的なサウンプリングや南米未開の地の危険な民族達の打楽器の舞、みたいな曲もあって面白い。

Brujeriaの最新アーティスト写真。インパクト強すぎる。

 

全編スペイン語ながら「コカイン」とか「マリファナ」とか危ないワードだけは聞き取れる。ミュージックビデオになっている「Bruja Encabronada (ムカつく魔女)」は男女ツイン・ボーカルがスクリームする、というかもはや煽り倒しているみたいなボーカルがおどろおどろしい雰囲気を作り出している。この曲は完全にNapalm Deathって感じでShaneが作ったのかな。もう隠す必要あるのかというレベルです笑。未だ人気衰えない、シーンに愛されているのが実感できる一枚だ。

 

▶︎The Arson Project 『God Bless』

スウェーデン・マルメのポリティカル・グラインドコア・バンド、The Aeson Project。2005年頃から活動を開始し、本作がセカンド・アルバムでHere And Now!、Lixiviat Records、De:Nihil Recordsによる共同リリースとなっている。2010年にNoisearとのスプリットがRelapse Recordsから出ていて、そこで名前を知ったという人もいるかもしれない。

2023年、ポリティカルな姿勢で活動する多くのハードコア/パンク・バンドが怒りをぶちまけた作品をリリースしたが、彼らもそんなエナジーをたっぷりと詰め込んだノンストップ・爆裂グラインドコア・アルバムを完成させた。ローが効きすぎてもはやノイズにまで接近したブルータルなベースラインが凄まじく、それに呼応するかのようなドラミング、ギター、ボーカルと、どれも研ぎ澄まされた怒りのエナジーが溢れている。時折D-BEATに接近しつつも基本はNasum、Wormrot、Trap Them、Dead in the Dirt、そしてNailsあたりのグラインドコアの音像を想像してもらえればと。グラインドコア好きなら、絶対チェックした方が良い作品。

 

▶︎Closet Witch 『Chiaroscuro』

10年近いキャリアを持つアメリカ・アイオワの女性ボーカル暗黒グラインドコア・バンド、Closet Witchのセカンド・アルバム。Zegema Beach Records、Moment of Collapse Records、Circus Of The Macabre Recordsからの共同リリース。

ボーカルのMollie Piatetsky。ライブ中に流血しても、お構いなし。

 

Full of HellのDyran Walkerやジャズ・グラインドThe CentralのFrankie Furilloなどがフィーチャリング・ゲストとして参加している楽曲もあり、この手のシーンの人たちからの信頼は厚い。女性ボーカルのグラインドコア、といえばFuck The Factsがパッと思い浮かぶが、彼/彼女らのような知的な雰囲気に加え、パワー・ヴァイオレンス、クラストのカオスや程良い程度のハーシュノイズのアトモスフィアがよりCloset Witchの芸術性を高めてくれる。Discordance AxisやFull of HellといったエクスペリメンタルでノイジーなグラインドコアからInsect Warfare、Phobia、Nasumといった正統派まで、シリアスなタッチのグラインドを好むリスナーにおすすめ。

 

▶︎Blind Equation 『Death Awaits』

イリノイ州シカゴのエモーショナル・サイバーグラインド・バンド、Blind Equationのセカンド・アルバム『Death Awaits』は、Prosthetic Recordsからリリースされたことにまず驚いたが、2023年にこれだけ高い情熱を持ってサイバー・グラインドの可能性を追求し、『Death Awaits』を完成させたことにまず賞賛を贈りたい。このマイクロ・ジャンルは局地的なシーンを持つわけでないが、グラインドコア・シーンの隅で、あるいはゴアグラインド・シーンの隅で、はたまたカオティック/マスコア・シーンの隅っこで、刺激的なエクストリーム・メタルを求めるミュージシャン、そしてリスナーによって定期的に面白いアーティストが出ては消えてきた。思い出せる印象的なサイバー・グラインド、と言えばゴア系のS.M.E.S.やKOTS、そしてLibido Airbag、いわゆるマス・グラインドと言われるようなところだとThe Captain Kirk on LSD Experience、Preschool Tea Party Massacre、Cutting Pink With Knivesとかだろうか。いずれも短命 (または長すぎるブランクが空いたり) 。

Blind Equationは、グラインドコア、アトモスフェリック・ブラックメタル、そして8bitサウンドやユーロ・トランス、さらにはハイパーポップまでも飲み込んだかなり異質なサウンドであるが、それは間違いなく彼らが自称する「エモーショナル・サイバーグラインド」として正確に鳴らされている。HEALTHやAuthor & Punisher、The Callous Daoboysといったバンドらから共演オファーを受けるなど、ライブシーンにおいても従来のサイバー・グラインド・アーティスト達とは全く異なる存在であることが分かる。実際にライブでシンガロングが巻き起こるんだから、何かファンの胸を打つパワーが秘められていることは間違いない。

リード・シングル「never getting better」の脈打つ8ビット・エレクトロニクスとブラストビート、サビではタイトルにちなんだポジティヴなアンセミックへと爆発していく。「you betrayed the ones you love」ではエレクトロニックなストリングスが、”Real Emotional Cybergrind”を自称する彼らの真髄と言える世界観を表現し、先行シングル/ミュージックビデオとして話題となった。彼らと同世代のZOMBIESHARK!も併せてチェックしておけば、2020年代式のサイバーグラインドの最新形を網羅出来る。

 

▶︎Cognizant 『Inexorable Nature of Adversity』

テキサス・ダラスの5人組テクニカル・グラインドコア・バンド、Cognizant。Nerve Altar Records、Selfmadegod Records、Rescued From Life Recordsからの共同リリース。

純粋なグラインドコア・ファンからしたら、ここまでテクニカルで難解なスタイルは邪道なのかもしれない。マス・グラインド、テック・グラインド、デス・グラインド…… グラインドと名の付くマイクロ・ジャンルは多数あるが、どれも非常に曖昧で「これこそマス・グラインド」みたいなものって、ほとんどない。こういうマイクロ・ジャンル内でのクロスオーバーは、モダン・メタルの限界を追求する姿勢によって挑戦的なものが多く、ジャンルとして確立してきたものはあまりないのが現状。Cognizantのようなスタイルのバンドはどのようにして後世に残されていくべきなのだろうか……。

オープニングを飾る「Paralysis」を再生して1秒もしない間にこのアルバムがどのような狂気にはらんだものであるか、耳の肥えたメタル・リスナーなら分かるだろう。いわゆる”Dissonant Death Metal”(不協和音デスメタル)のタッチを得意としながら、ノイズの塊みたいなリフの蠢きが、抜けの良いブラストビートに絡みついていく。本人達はデビュー時、Antigama的なSci-Fiスタイルを目指していたようだが、このアルバムで完全に本家を超えてしまっているように案じる。VOIVODからAntigamaまで、今年で言えばGridlinkなんかと一緒にチェックすべき名作だと思います。

 

▶︎Misanthropic War 『Utter Human Annihilation』

2021年にドイツを拠点に活動を開始した正体不明の暗黒デス・グラインド、Misanthropic Warから衝撃的なアルバムが登場。アートワークのおっかなさ、そのまんまのサウンドでかなり喰らいました。

いわゆるウォーメタルっぽいスタイルではあるが、やってることはフルスロットルで炸裂し続ける猛烈なグラインドコア。徹底的にローなサウンド・プロダクションは殺気に満ちており、戦争が絶えなかった2023年を象徴するような、残酷さとも言える。人間は戦争を避けられないのだろうか。人間という生き物の難しさ、残忍さ、戦争によって生まれる憎しみ、悲しみ、怒りをそのまま表現したこのアルバムに考えさせられるものは多い。BlasphemyからInfernal Curse、Black Witcheryといったバンドにインスパイアされただろうサウンドであり、グラインドコア・ファンだけでなくブラックメタル・ファンもチェックしておくべき作品と言えるだろう。一切メロディがないという点ではブルータル・デスメタル・リスナーもいけるかも。

 

▶︎Feind 『Moloch』

ドイツ・ボーフムで2021年コロナ禍に結成された3ピース・グラインドコア・バンド、FeindのデビューEP。Halenoise Records、Erdkern Recordsから共同リリースとなっている。

全員がボーカルを取る珍しいスタイルを取る彼ら、忙しなく掛け合うボーカルと刃物のように切れ味鋭いシュレッダー・リフがタイトなドラミングとうねりを生み出しながら、予想だに出来ない展開をフルスロットルで続けていく。ストップ&ゴーもかなり組み込まれていて、思わず没頭して聴き入ってしまうくらい、集中力が必要な作品だ。Wormrotファンは必聴でしょう!

 

▶︎Lycanthrophy 『On The Verge Of Apocalypse』

1998年にチェコで結成されたグラインドコア/ファストコア・ベテラン、Lycanthrophy。結成25周年を記念し、まさかのセカンド・アルバムがHorror Pain Gore Death Productionsから登場! ファースト・アルバムの頃は女性ボーカルで、YouTubeにアップされている古いライブ映像では彼女の熱演を見ることが出来ます。残念ながら2019年に脱退、本作ではギター/ボーカル・スタイルの4人編成となっています (ベースには元Malignant Tumour,のOttoが参加してます)。

チェコからしか生まれない、ゴアグラインディングなフックを持ち合わせたグラインド・サウンドが特徴で、時折ファストコア/パワー・ヴァイオレンスなスピードとノイズの竜巻を起こします。「Dependence」は収録曲の中でも最も優れた楽曲で超高速で転調しながらわずか1分間でここまでやるか!と思わず唸ること間違いなし。約16分で18曲。ノンストップで聴き続けたくなる作品だ。また25年後とかにアルバム・リリース! みたいなのは無しにして、コンスタントに活動してほしい!笑

 

▶︎Dripping Decay 『Festering Grotesqueries』

おそらく2023年にリリースされたデスメタル/グラインドコア・アルバムの中で、最も腐敗臭を漂わせていたアートワークでシーンに一撃を喰らわせたアメリカ・オレゴンのDripping Decay、Satanik Royalty Recordsからのデビュー・アルバム。デスメタル年間ベスト・アルバムのリストは作成出来るほど聴き込んだ作品がなく、軽く下調べしたくらいでリストは作りたくなかったのですが、Dripping Decayは意外とグラインディング・フレーズをモリモリに詰め込んだデスメタルだったので、こちらでレビューしたいと思います。

「Abundant Cadaveric Waste」から「Gut Muncher」の流れなんかは、ブラスト寸前の超高速2ビートが雪崩の如く崩壊しながら、ジリジリとノイジーなリフの巻き起こす嵐に飲み込まれていくかのようで最高にエネルギッシュ。老人が落下してから2週間くらいが経過した腐乱臭立ち込める井戸の奥深くから鳴り響いてくるかのような生臭いボーカルが呼吸困難に陥りながらグロウルするのもサウンドにフィットしてます。ライブの絶妙なダサさも愛らしい。

 

今年もグラインドコアを追いかけるのは、とても楽しかった! もしお気に入りのバンドが見つかったら、ソーシャルメディアをフォローしたり、グッズを買ったり、そしてもし日本に来ることがあれば、ライブを観に行って欲しいです。