メタルコア 2022年下半期のベスト・アルバム (前編)

2022年にリリースされたメタルコアの作品の中からRIFF CULTが気に入ったものを年間ベスト・アルバムとしてアルバムレビューしました。素晴らしい作品が多く、前編、後編に分けて記事を書いていますので、上半期のレビューと合わせてチェックしてください (リンクは記事の最後に掲載しています)

 

RIFF CULT Spotify プレイリスト : https://open.spotify.com/playlist/280unJx37YbHbRvPDlZxPi?si=3d0db24716c648cb

RIFF CULT YouTube プレイリスト : https://www.youtube.com/playlist?list=PLLijetcgxQ4PZZMlhlpExxiNrr5wSYBjj

 

 

We Came As Romans – Darkbloom

5年振り通算6枚目フル。2018年にWe Came As Romansのクリーンボーカルを務めたKyle Pavoneが急逝。新たなシンガーを迎えることはなく、これまでスクリームを担当してきたDaveがクリーンパートを兼任する形で制作が行われた。Kyleへのトリビュート・アルバムであるものの、そのサウンドに悲壮感はなく、むしろ現代的なエディットを施し、攻撃的なリフのうねるようなグルーヴが明暗表現を加速させている。Caleb Shomoをフィーチャーした「Black Hole」ほか暗い色彩の中に輝きを映し出す楽曲がひしめき、歩みを止めないバンドの真摯な気持ちを表している。

 

 

 

Miss May I – Curse Of Existence

Miss May Iは名作『Monument』以降、メタルコア史に自ら打ち立てた金字塔を越えられていないというコアなファンからの声もちらほらあった (といってもセールス的にはずっと成功してきた)。個人的にはそうは思わないが、『Monument』が今後数十年に渡り語り継がれていくアルバムであること、そして彼らがシーンに与えたインパクトが強烈だったことは間違いない。そんな『Monument』に匹敵する凄まじいサウンドで、2022年にMiss May Iは再びシーンに戻り、そして今バンド史上最高傑作と言える『Curse Of Existence』を発表した。

 

Miss May I にファンが求めるのは、ソリッド&メロディックなリフアンセム的なコーラス、そして強烈なブレイクダウンといったところだろうか。オープニングを飾る「A Smile That Does Not Exist」を聴けば、すぐにこのアルバムの力強さに圧倒されるはずだ。ブラストビートにシュレッダーリフ、Leviのスクリームが炸裂していく。続く先行シングルとしてリリースされた「Earth Shaker」や「Bleed Together」とファストなキラーチューンが立て続けに繰り広げられていく。特にこの2曲のブレイクダウンがアルバムのハイライトとも言えるパワーがある。シュレッドなギターと印象的なコーラスのハーモニー、クラシックなメタルコア・ブレイクダウンを搭載した「Into Oblivion」は、個人的にアルバムのベスト・トラックで、Bring Me The HorizonArchitectsなどに匹敵するスタジアム・ロック的なスケールがたまらない。思わず「INTOOO OBLIVIOOON!!!」と叫ばずにはいられないはず。

 

 

正直言って、全曲キラーチューン過ぎる。ミュージックビデオとして先に公開されている「Free Fall」、「Unconquered」は余裕があれば歌詞にも注目して欲しい。「Free Fall」はインポスター症候群について歌った曲であり、恐怖心を押し殺し飛躍を遂げた人たちのアンセムだ。インポスター症候群とは、自分の能力や実績を認められない状態を指し、仕事やプライベートを問わず成功していても、「これは自分の能力や実力ではなく、運が良かっただけ」「周囲のサポートがあったからにすぎない」と思い込んでしまい、自分の力を信じられない状態に陥っている心理傾向のこと。フレーズがまるで会話のように掛け合いながら展開していく。完璧なエンディングを聴き終えた後、『Curse of Existence』がMiss May Iの過去最高傑作だ!と思うリスナーは多いはずだ。久々にモダンなメタルコア・アルバムでガツンとくる作品だったと思う。彼らは「あの頃のバンド」ではなく、永遠のメタルコア・ヒーローだ。

 

 

Varials – Scars For You To Remember

3年振りとなるサード・アルバム。これまでアルバム毎に異なるスタイルを提示してきたVarials、本作はニューメタル/インダストリアル・メタルのエレメンツをスタイリッシュにメタルコア/ハードコアに注入している。ミュージックビデオになっている「.50」はSlipknotから細胞分裂したかのような強靭なグルーヴを見せ、ほとんどマシンガンとも言える鋭利なドラミングが「Phantom Power」ではドラムンベースに置き換わる瞬間も。鋭さを追求しメタルコアの造形表現を極めつつも、これまでの実験的なアイデアもVarialsらしさの強いアクセントとなっている。

 

 

 

I Prevail – TRUE POWER

3年振りとなるサード・アルバム。前作『Trauma』はグラミー賞2部門にノミネートされ、シーンを牽引するアリーナ・バンドへと成長を遂げた。I Prevailの基本的スタイルとも言えるエレガントに装飾されたシンセサイザー/オーケストレーションとハードロックに接近しながらソリッドに刻み込まれるリフ、そしてBrianとEricによるツインボーカルの圧倒的な存在感は本作でも聴くことが出来、Beartoothに代表されるようなロックンロールのフックが何より素晴らしい。「Body Bag」といったヘヴィに振り切った楽曲からスタジアム級のスケールを誇る「Bad Things」ほか、彼らの現在地が分かる一枚。

 

 

 

Oceans Ate Alaska – Disparity

前作『Hikari』から5年、2016年に脱退したオリジナル・ボーカリストJames Harrisonが2020年に復帰し制作された通算3枚目フルレングス。シングル「Metamorph」、「New Dawn」、「Nova」はもちろん、I, PrevailのEric Vanlerbergheをフィーチャーした楽曲「Dead Behind The Eyes」など、期待を裏切らない楽曲がたっぷりと収録されている。正直、Oceans Ate Alaskaにとっても、我々リスナーにとっても、『Hikari』から5年という時間はとても長かった。それは単純な長さに加えて、パンデミックなどによるダメージも大きい。センセーショナルなFearless Recordsからデビューであったからこそ、「次、いったいどんな作品を仕上げてくるのか」という高まった期待が一度落ち着いてしまうと、なかなかそれを超えてくる作品は出てこない。

 

しかしどうだろう、今このレビューを読みながら『Disparity』を聴いている方は、オープニング・トラックの「Paradigm」を再生した瞬間、Oceans Ate Alaskaに期待するものを得られた喜びを噛み締めていることだろう。5年をかけて作り上げたと言われれば納得 (おそらくそれよりももっと短期間で完成させられている) の作品で、個人的には楽曲「Sol」の完成度の高さには驚いた。アルバム収録曲の総時間は30分。そこに詰め込まれたOceans Ate Alaskaらしいアイデア、ドラマーChrisの卓越されたドラムプレイ。たとえ次のアルバムがさらに5年後だとしても、5年間聴き続けても飽きないような作品になっているように思う。じっくりじっくりと聴き返したい作品。

 

 

 

He Is Legend – Endless Hallway

通算7枚目となるフル・アルバム、先行シングルとして発表された「THE PROWLER」や「LIFELESS LEMONADE」といった楽曲は現代的なメタルコアのエッジ、ヘヴィネスと言う部分に溢れており、これまでのHe is Legendファンは驚いたことだろう。そして「He is Legendってこんなに凄いのか」と名前だけ知っていたようなリスナーの興味も引いたはずだ。彼らは日本において、そして世界的においてもその実力が高く評価されてこなかった。いわゆる過小評価バンドだった。ポテンシャルは十分で芸術的な存在感が「キャッチー」と言うキーとはやや離れていたからではないかと考える。このアルバムは彼らが長いキャリアの中で培ってきた芸術的なカオスも見せる快作、コアなファンにこそ聴いてほしい一枚。

 

 

 

Fit For A King – The Hell We Create

通算7枚目フル。ドラムにTrey Celayaが加入してから初となる作品は、プロデューサーにDrew Fulkを起用してレコーディングされた。コロナウイルスによるパンデミックにより生じた精神的な葛藤を描いた「Falling Through the Sky」など、アーティスティックな歌詞世界も魅力だ。オープニングを飾るタイトルトラック「The Hell We Create」に代表されるように、バウンシーなグルーヴはそのままにメロディックメタルコアへとそのスタイルを微細に変化。更なる高みを目指すFit For A Kingの野心溢れる仕上がり。

 

 

 

Stray From The Path – Euthanasia

2019年にリリースした前作『Internal Atomics』から3年振りとなる本作は、話題となった先行シングル「Guillotine」を含む強烈な全10曲入りだ。Stray From The Pathのメンバーは、「バンドは常に、抑圧に対して発言する場として自分たちの歌を使ってきた」と言う。アメリカの公安にまつわる多くの問題、特に警察活動への疑問や怒りをメッセージに長年ソングライティングを続けてきたバンドは、こうした問題が解決される兆しの見えない混沌とした現世への怒りの高まりに呼応するように、その勢いを加速させている。

 

ギロチンをバックにプレイするStray From The Pathが印象的な「Guillotine」のミュージックビデオ。結成から20年以上が経過し、積み上げてきたバンド・アンサンブルはまるで生き物のようにグルーヴィだ。ニューメタルとハードコア、そしてラップが巧みにクロスオーバー、音楽的にも現代のメタルコア・シーンにおいて彼らの存在は重要だ。同じくミュージックビデオになっている「III」では警察に扮したメンバーが皮肉めいたアクションでアメリカ警察を口撃する。まるでマシンガンのようにして放たれるラップのフロウがノイズに塗れたニューメタル/メタルコアによって何十にも攻撃力を増していく。

 

アメリカでの彼らの絶大な人気を見れば、市民の代弁者とでもいうべきスタイルを取るバンドであると言える。もちろん、音楽的にもニューメタルコアに非直接的ではあるが影響を与えており無視できないレジェンドだ。アルバムに込められたメッセージを紐解くことは、アメリカに生きるということの現実的な困難や不安を感じることだ。それは日本に住む僕らも共感できるものなのかもしれない。

 

 

 

The Callous Daoboys – Celebrity Therapist

The Callous Daoboysは、キーボーディスト、ヴァイオリニストを含む7人組、ライブによってはDJやサックスもいたりとそのメンバー・ラインナップはこれまで流動的だったが、現在は7人組とのこと。そのアーティスト写真からは一体どんなサウンドを鳴らすのか想像も出来ないが、2000年代中期から大きなムーヴメントとなったカオティック・ハードコア/マスコアのリバイバル的なサウンドを鳴らす。The Callous Daoboysは、The Dillinger Escape Plan、Norma Jean以降のiwrestledabearonceやArsonists Get All The Girls辺りのリバイバルを加速させる存在と言えるだろう。最も彼らに近いのがiwrestledabearonceで、特にベースラインのうねり、コーラスワークからは強い影響を感じる。

 

「What Is Delicious? Who Swarms?」はぜひミュージックビデオを見て欲しい。アルバムのキートラックでバンドの代表曲でありライブでもフロアの着火剤的な役割を担う楽曲。このビデオのディレクション、どこかで見たことがあるなと思ったのですが、Arshonists Get All The Girlsの「Shoeshine For Neptune」を若干意識しているのかもしれない。この「Shoeshine For Neptune」も15年前の名曲。マスコアも一周回ってリバイバルしてもおかしくないし、彼らがSeeYouSpaceCowboyやIf I Die First辺りと共にブレイクすれば十分盛り上がるだろう。彼らのブレイク次第では2023年のシーンの状況は大きく変わってくるかもしれない。

 

 

 

Crooked Royals – Quarter Life Daydream

ツイン・ボーカル有するニュージーランド・オークランド出身のプログレッシヴ・メタルコア、Crooked Royalsのデビュー作はPeripheryが運営する3DOT Recordingsからのリリース。「Glass Hands」や「Ill Manor」といった楽曲に代表されるAfter The BurialとPeripheryをクロスオーバーさせつつ、NorthlaneやErraの持つアトモスフィリックなエレメンツを燻らせたサウンドは、シャウトとクリーン・ヴォイスが鮮やかに交差、ハリと透明感に満ち溢れたサウンドに思わず聴き惚れてしまう。

 

 

メタルコア名盤 TOP10 (2022年上半期)