アルバムを除けば、2022年上半期のデスコア・シーンは、Lorna Shoreの話題で持ちきりだった。リアクション・ビデオとして恰好の楽曲となった「To The Hellfire」(*2021年リリース)、「Sun//Eater」はデスコア・リスナーだけでなく、オーバーグラウンドのメタル・シーンにも衝撃を与えた。そこからデスコア、ブラッケンド・デスコア・シーンへどのくらい新しいリスナーが流入したかは分かりかねるが、アンダーグラウンド・デスコア・シーンは次のLorna Shoreになるべくブラッケンドなスタイルが本格的にトレンド化していった。半数くらいは正直ブラッケンド・デスコアを上手く表現しきれていないが、デスコアの中のマイクロ・ジャンルとして成立するくらいにはブラッケンド・デスコアを自称するバンドが増えてきたように思う。
このアルバムをオープニングからエンディングまで聴いた時、メンバーが現代メタルコアやデスコア、その他周辺ジャンルのトレンドをしっかりとキャッチしていることがよく分かる。NorthlaneやErraといったプログレッシヴ・メタルコアのリフ・ワーク、Lorna ShoreやShadow of Intentに代表されるシンフォニック/ブラッケンド・デスコアのオーケストレーション、加えて、日本のラウド・シーンで育まれてきたメインストリーム・ラウドの様式美、ニューメタルコアの尖ったサウンド・プロダクション。細部に至るまでこだわりを貫いたアレンジが組み込まれており、何度聴くたびに発見があり、時代の感覚をしっかりとキャッチしていることが感じられる。
シンフォニック・デスコアと言えばShadow of Intentという人も多いだろう。結成以来レーベルに所属せず、D.I.Yのスタイルを取るバンドとして他のデスコア・バンドへ与えた影響は大きい。そんな彼らの鳴らすサウンドにデスコアのトレンドが追いつき始めた2022年、この『Elegy』がもたらした衝撃は凄まじいものがあった。デスコアにシンフォニックなエレメンツを加えたというよりは、シンフォニック・メタルとデスコアのクロスオーバーと表現するのが言い得て妙だろう。そのバランス感覚は頭ひとつ抜きん出た才能によって作られるものであり、決して簡単にフォロワーを生み出せるようなスタイルではない。アルバム収録曲で先行シングル/ミュージックビデオとして発表された「Intensified Genocide」に彼らの魅力がたっぷりと詰まっている。
アメリカン・アンダーグラウンド・デスコアの王者とでも言うべきBodysnatcher。ダウンテンポ・デスコアのポテンシャルを最大限に発揮したタフなサウンドは、これまでに幾多のフロアで殺人級のモッシュを巻き起こし、その殺傷能力に磨きをかけてきた。Lorna Shoreを筆頭に、シンフォニック/ブラッケンド・デスコア・ムーヴメントが巻き起こる今、全くメタルの影響を受けず、ハードコア・ルーツのモッシュパートを武器とするサウンド・デザインに振り切っているのが清々しい。「Absolved of the Strings and Stone」や「Flatline」といった楽曲はそんな彼らの持ち味が発揮されたキラーチューン。
数々のデスコア歴史的名盤を手掛けてきたWill Putney率いるFit For An Autopsy。オーバーグラウンドのメタルシーンのメタル勢に引けを取らないサウンド・プロダクションで他のデスコア勢を圧倒する本作は、ミドルテンポ主体かつオルタナティヴ・メタルのエッセンスを取り入れた挑戦的な仕上がりとなっている。先行シングル/ミュージックビデオとして公開された「Far From Heaven」では、雄大なコーラスワークを携えたクリーンパートとミドルテンポからでしか作り出せないダイナミックなブレイクダウン/ビートダウン・パートが印象的。
Bodysnatcher同様、長きにわたりアメリカン・アンダーグラウンド・デスコアの番長的存在感を見せてきたThe Last Ten Seconds of Life。アルバムリリース後にWyatt McLaughlin以外のメンバーが脱退するという事件が起きてしまったものの、バンドの歴史を振り返った時、この作品は歴代トップに匹敵する作品だと感じる。
Paleface : スイスを拠点に活動するスラミング・ビートダウンバンド、Paleface (ペイルフェイス)がニューアルバム『Fear & Dagger』をリリースしました。前作『Chapter 3 : The Last Selection』から2年振りとなる新作は、全16曲入り1時間超えの大作で、先行シングル&ミュージックビデオとして公開されてきた「DEATHTOUTH」、「DEAD MAN’S DIARY」、「THE ORPHAN」も収録されている。
スラミング・ビートダウンと言えば、彼らの他にNo Face No Caceなど東欧のバンドが挙げられるが、彼らはそのジャンルを牽引する存在として、ここ数年トップを直走ってきた。特に優れたミュージックビデオのディレクションによってファンを拡大し、リアクション・ビデオなどの効果もあり、デスコアシーンでも人気が高いバンドの一つだ。
ゲスト陣も多彩で、LANDMVRKS、Traitors、Justice For The Damnedらが楽曲を彩る。彼らのパートもしっかりとPaleface色に染められているのが面白いし、特にラスト2曲は6分越えの大曲で、今後のスラミング・ビートダウンのスタイルにも影響を与える挑戦的な仕上がりとなっている。
1. 666
2. Pain
3. Suppressing Times
4. Make A Deal With The Devil
5. Deathtouch
6. Nail To The Tooth
7. Dead Man’s Diary (feat. LANDMVRKS)
8. God Looks The Other Way
9. Chaos Theory (feat. Traitors)
10. The Orphan
11. My Grave / Lay With Me
12. Hellhole (feat. Justice For The Damned)
13. No Room Left In Hell
14. Bite The Curb
15. Fear & Dagger
16. Judgement Day
スラミング・ビートダウンと呼ばれるサウンドを鳴らすバンドと言えば、No Face No CaseとPalefaceが現在2強と言っていいでしょう。ヘヴィ化するデスコア、Lorna ShoreやBrand of Sacrificeなんかとはまた別の人気がある彼ら。ミュージックビデオに相当金かけてるのも現代っぽいプロモーション。曲はもちろんですが、こういうスタイルのバンドが世界のトップシーンでどれくらい評価されていくのか、気になるところ。