コロラド州コロラドスプリングスのデスコア・バンド、Crown MagnetarによるUnique Leader Records からのデビュー・アルバム。2021年に発表した『The Codex Of Flesh』は壮絶なテクニカル・デスメタル/デスコアを鳴らしシーンに大きな衝撃を与えた。今でもあの衝撃を覚えているくらいだ。そんな彼らが2023年、ブラッケンド/ブルータル・デスコアの登竜門レーベルになってきているUnique Leader Records と契約。彼らをこのレーベルが放っておくわけがない。
SLAM WORLDWIDEという異次元のワンマン・プロモーティング・マシーン・チャンネルが育んできたブルータル・デスメタルとデスコアのクロスオーバー・メディアという、誰もやったことがなかったふたつの異なるリスナーが集まる場所として機能して、Crown Magnetarのような化け物が正しく評価される地場を作った。この功績の偉大さまでも感じさせてくれる彼らのニュー・アルバム、未聴の方は食らって欲しい。
そろそろ年間ベストをまとめないとといけないと下半期にリリースを振り返っていたところにサプライズ・リリースされた、スロベニアのデスコア・バンド、Within Destructionのミニ・アルバム『Rebirth』は、オープンワールドのアクションRPG「ELDEN RING (エルデンリング) 」の世界観に魅了されたメンバーが、歌詞、ヴィジュアルにそれを落とし込んで制作した作品に仕上がっている。
わずか6曲のEPであるが、内容は非常に濃い。彼らは自身のデスコアを「Nu Deathcore」を表現したり、ニュー・メタルコアとの繋がりを意識しながら、クリエイティヴに新しいデスコアを追い求めている。スラミング・ブルータル・デスメタルのエレメンツも彼らのサウンドの暴虐性、ブレイクダウンの強度をグッと上げているのも個人的には熱いポイントだし、ピッグ・スクイールしまくりながらビートダウンするのには思わず笑ってしまった。ただ、いわゆるNo Face No Caseのようなスラミング・ビートダウンとは言い切れない、デスコア的構築美がある。Signs of the SwarmやDistantのメンバーがゲスト参加しており、それぞれのファンであれば明確なWithin Destructionのサウンドの特徴も感じられるはずだ。結構作り込まれてて驚いた作品。
バンドの声明には今回の件だけが解雇の原因でないこと、彼の抱える様々な問題とバンドとの方向性の違いについて様々述べられていた (現在オフィシャルからは削除されている)。その怖いくらいの冷静な声明文からはバンドがカリスマと呼ばれ、神格化されたThy Art is Murderのフロントマンを抱えて活動してきたあらゆる苦悩から解放された清々しさすら感じた。単なるCJのバックバンドでないことを証明しなければいけないプレッシャー、それは残酷だが新曲のミュージックビデオに書き込まれるリスナーからのコメントを見れば相当なものである。
Tylerは素晴らしいボーカリストであり、Thy Art is Murderにフィットする最良の後任ボーカルであることは間違いないし、バンドの決断は間違っていないと思う。アルバム・リリース前のミュージックビデオに関してはCJをフロントに据えたディレクションが施されているが、「Destroyer Of Dreams」には登場せず、音源も差し替えたもので作り直されている。キーとなるブレイクダウンもThy Art is Murderらしいダイナミズムがあり、ヒロイックなギターワークは一時期のWhitechapelを彷彿とさせるようでもある。Thy Art is Murderのこれからに期待したいと思う。『Godlike』はいいアルバムだが、彼らはすぐに次作に取り掛かる必要があるかも知れない。
2023年11月に再来日を果たしたポルトガルのシンフォニック/ブラッケンド・デスコア・バンド、The Voynich CodeのUnique Leader Records契約後のグローバル・デビュー作。ツアーの準備中、それは確かリリースの1年以上前であったが、契約が決まったと連絡があった。そこで色々とUnique Leader Records 周辺のデスコア・シーンの状況やつながりについて詳細な話を聞けたのは非常に興味深かった (ここでは書けないが…) 。ポルトガルという、メタル・バンドにとってはまだまだ未知の国ではあるが、彼らはヨーロッパを中心にツアーを行い、実績十分だ。このアルバムでは、彼らはアルバムのソングライティングを行なっている際にメンバー全員でハマっていたというHumanity’s Last Breathの影響も感じることが出来る。本作のミックス/マスタリングを手掛けたのはChristian Donaldsonなので、クオリティはお墨付きだ。こぼれ話だが、RIFF CULTのチームが運営するRNR TOURSで今年6月に来日したメロディックパンク・バンド、MUTEのギタリストがツアー中使っていたのはChristianから直接購入したギターだった。不思議なつながりを感じた瞬間であった。
さて内容であるが、彼らのライブ・パフォーマンスを観た人なら分かるだろうが、現代デスコアのトレンドとも言える、Lorna Shoreを彷彿とさせるブラッケンド・スタイルを、これまでThe Voynich Codeが育んできたBorn of Osirisからヒントを得たオリエンタルな音色を”染み込ませた”サウンドへとアップデートしている。新加入のドラマーDaniel Torgal (彼もRNR TOURSで過去に来日を手がけたAnalepsyの元メンバーである!) によるマシンガン・ブラストビートを下地に敷いたメロディアスなデスコアは、一見そのプログレッシヴさにとっつきにくい印象を受けるかもしれないが、フックの効いたテクニカル・リフの波がベストなタイミングで展開してくるのでご安心を。「The Art of War」で魅せるThe Voynich Codeの新スタイルは、デスコア・リスナーはもちろん、プログ/Djent、そしてThallといったニッチなジャンルのリスナーまでを虜にする要素がたっぷりと詰まっている。聴き込みが重要な作品。
Signs of the Swarmが名門Century Media Recordsへと移籍して発表した通算5枚目のフル・アルバム。Lorna Shoreの成功によって、メタルのメインストリームに向かって更にデスコア・シーンを拡大するための門戸が開かれたと言えるだろう。Lorna Shoreの衝撃についてSigns of the Swarmというチョイスは完全に間違っていない。そしてバンドもその期待を超えるものを『Amongst The Low & Empty』で作り上げている。その自信は、アルバムのオープニングを飾るタイトル・トラックでミュージックビデオにもなっている「Amongst the Low & Empty」に現れている。この楽曲は前半こそ、これまでSigns of the Swarmが築き上げてきたブルータル・デスコアに微細なプログレッシヴ/マス・エレメンツを散りばめ、ブレイクダウン・パートへ向かってその熱を加熱させていく。驚くべきは更に底から、2段、3段、4段とビートダウンしていくパートであり、正直言葉を失ってしまうほど、驚いた。もうこの曲の衝撃が凄すぎて、他の曲の感想はありません。
と、言いたいところだがすごい曲が多すぎる。「Tower of Torsos」はニューメタルコアのワーミー、Djentな細かいリフの刻み、エレクトロニックなノイズを見事に散りばめた。無論、この楽曲もエンディングのビートダウンは言葉にならないほどヘヴィだ。次いで「Dreamkiller」はSigns of the Swarmが更に上のステージへと階段を上がっていくために作られたような曲で、これまでキーになることはなかったプログレッシヴなスタイルを全面に押し出し、クリーンパートも少しだか組み込まれた興味深い仕上がりとなっている。この曲が彼らを、これまでリーチ出来なかったところへ導いてくれるものになるかどうか、それはやはりCentury Media Recordsが仕事をするはずだ。これだけ高いポテンシャルを兼ね備え、それを見事に、ブルータル・デスコアとして最高の形に仕上げた彼らの更なる成長が楽しみである。
2009年、Vildhjartaのメンバーによる新バンドという触れ込みでスウェーデンから世界へ向けて衝撃的なデビューを果たしたHumanity’s Last Breathも気付けば本作が4枚目のフル・アルバムだ。このアルバムについてバンドは、このようなコメントを発表している。
「10年以上にわたり、Humanity’s Last Breathは、迫り来る黙示録を警告するかのような不吉なメッセージを音楽で伝えてきた。表現を必要とする場所から音楽を作りたいという果てしない衝動で、常にモダン・メタルの可能性の限界を押し広げてきた。4枚目のアルバム「Ashen」のリリースとともに、このサウンドを体験してほしい。世界は絶望の中で歌おう」
直訳なので絶妙なニュアンスはやや異なるかもしれないが、気になるのはHumanity’s Last Breathがモダン・メタルを自称しその可能性の限界を追求していることをバンド活動の大きなテーマとしているところである。実際にバンドの主要メンバーであるBuster Odeholmはプレイヤーとしてだけでなく、多くのデスコア・バンドのプロデュース、ミックス、マスタリングなどを手がけており、シーンきってのプロデューサーとしての側面も持ち合わせている。彼が自身がヘッドを務めるバンドにおいてどのようなスタイルを作り上げるのか、それはこれまでプロデュースしてきたバンドへ「自分とはなんたるか」を提示することにもなり、『Ashens』で想像も出来ないほどの創意工夫と挑戦、限界の追求を果たしている。そしてそれは、プログレッシヴ、Djent、Thallという概念すらも自ら打ち壊してしまうような、衝撃的なものになっている。
オリエンタルな女性コーラスが永遠とバックトラックとして流れる「Instill」のDual Guitar Playthroughのビデオがアップされているので観てみよう。ギタリストにとって、これほど参考にならないプレイスルー・ビデオはあるだろうか! Busterはレフティであるが、弦は逆張りしていて、「E B E A Ab A」という奇妙なチューニングを施しプレイしている。このプレイスタイルについては自著『Djentガイドブック』で直接Busterについてインタビューをしているので是非手に取って読んでみてほしい。この楽曲からも分かるように (インスト・バージョンであるが)、聴くものを飲み込んでいくようなリフの恐るべきパワーに圧倒されるし、ヘヴィ、以上に”ダークネス”という部分の追求をしているようなところもあり、闇より深い黒を探し続けているような、常人では考えもつかないアイデアでHumanity’s Last Breathをアップデートしてくれている。
また、メンバーにはラインナップされていないが1曲を除き、本作はBusterとVildhjartaのCalle Thomérがソングライティングを手掛けている。元々彼は参加しないつもりであったし、メンバーでもないが、BusterがColleの才能を認めていて、いくつかのHumanity’s Last Breathの楽曲アイデアを彼に送り、アレンジしてもらったと言う。このコラボレーションはHumanity’s Last Breathというバンドにとってこのアルバムで未知のサウンドを生み出すのに大きな力になっているようにも感じる。また、このアルバムで初めて(!) プログラミングしたドラムではなく、ドラマーが実際に録音している。このドラム録音はリハーサル・スペースで録音してツアー中にラップトップで編集したとのこと……。さらにボーカルはAudiomoversというソフトを使い、ボーカルのFilip Danielssonが自宅スタジオで録音、それがBusterのDawにそのまま録音されるようにセットアップして時間の節約をしたそうだ。クリエイターの環境も日々アップデートしているが、さすがBusterといった具合だ。
アルバムからの先行シングル「Labyrinthian」は非常に高い評価を得た。先ほども彼らのサウンドを説明するとき、「闇よりも黒い黒」といったが、この楽曲でそれを完全に表現している。もちろん、中盤にはモッシュでも起こそうかというようなキャッチーなフレーズもあるが、そこからまたずるずると、リスナーを闇深くへ引き摺り込んでいく。バンドはこんな完成度の高いアルバムを作って、次一体、何を作ってしまうのだろうか。Lorna Shoreが「To The Hellfire」を出したとき、もうデスコアがこれ以上ヘヴィになることはないかもしれないと思ったが、彼らはまだ、さらにヘヴィになっていくだろう。
次点TOP 10
Osiah – Kairos
As Beings – Slave to the Sickness
VØID – Everything is Nothing
Nylist – The Room
Lonewolf – The Rhythm of Existence
Teralit – The Trinitarian
Acranius – Amoral
Monasteries – Ominous
Worm Shepherd – The Sleeping Sun
DJINN-GHÜL – Opulence
2021年に自主制作で発表したアルバム『The Codex Of Flesh』でブラッケンド・デスコア・シーンのニューカマーとして世界的な注目を浴びた彼らはUnique Leader Records との契約を発表。「The Level Beneath」、「Prismatic Tomb」とその世界観を拡大したダイナミックなデスコア・サウンドでファンの期待を超える先行シングルを発表してきた彼らの新作となれば、非常に高い注目が集まっていることだろう。
プログレッシヴとアヴァンギャルドの中間をいくミドルテンポの楽曲が中心で、ガリガリとリフを刻みつつもメロディアスであるのがCathexisの魅力だ。Willowtip Recordsらしいサウンドであるので、レーベルのフォロワーでまだチェックできていない方がいたら年末に向けて聴き込んでいただきたい。おすすめの曲は「Mortuus in Perpetuum」。
2021年テネシー州ナッシュビルを拠点に結成されたテクニカル/メロディック・デスメタルバンド。While You Were Asleepで活躍するベーシストTommy FireovidとドラマーRikky Hernandez、Kryptik EmbraceのギタリストだったRikk Hernandez、そして伝説のサタニック・デスメタルバンドNunslaughterのギタリストとして2014年から活躍するNoah Nuchananがリード・ボーカルを務める。
リードトラック「The Sun Eaters」はChristianのギターソロが炸裂、Victorのボーカルもインパクトが強く聴きどころと言えるが、やはりHannesのドラミングが最も輝いて聴こえる。このドラミングが他を牽引しながら楽曲が展開しているように感じるのは、ソロの楽曲だという先入観を抜きにしても感じられるはずだ。Hannesの叩きっぷりを感じながらアルバムに酔いしれて欲しい。
Ronnie Björnströmをプロデューサーに迎えた本作は、漆黒のオーケストレーションをまとったデスメタル・サウンドをベースに、プログレッシヴなエレメントを要所要所に散りばめたベテランらしい小技が光る仕上がりになっており、タイトルトラックでありミュージックビデオにもなっている「God Ends Here」では、Behemothなんかにも匹敵する悪魔的な狂気に満ちていて思わず世界観に引き込まれていく。20年以上のキャリアを持つメタル・ミュージシャンらしい引き出しの多さが聴くものを圧倒する堂々の一枚。
本作は、2016年コロラド・スプリングスを拠点に活動をスタートさせたCrown Magnetarのデビュー・アルバム。2018年にEP『The Prophet of Disgust』リリース後、コアなデスコア・リスナーから支持を集め、カルト的な人気を博していた。本作もレーベル未契約で発表されたものの、クオリティは世界トップクラス。
ペンシルバニア州リーディングを拠点に活動するプログレッシヴ/テクニカル・デスメタルバンド、Rivers of Nihilの3年振り通算4枚目となるスタジオ・アルバム。ギタリストであり、オーケストレーションのプログラミングやキーボードを兼任するBrody Uttleyがプロデュースを担当、Galaxtic EmpireのGrantとCarsonがそれをサポートする形で制作が行われた。シーンにおける有名アートワーカーDan Seagraveが描いた幻想的な世界観はプログレッシヴ・デスメタルシーンでも特異な存在感を放つRivers of Nihilにぴったりだ。
本作もBurial In The Skyのサックスフォン奏者Zach Strouseをフィーチャー、アルバム収録曲の半分に彼のサックスが挿入されている。様々サブジャンルが存在するメタルの中でもサックスとの親和性があるのは、プログレッシヴなものが多い。もちろんアヴァンギャルドなシーンではNaked Cityを彷彿とさせるようなエクスペリメンタル・ジャズ、フリージャズ的なサックスは導入されてきた事例があるが、とろけるようなサックスの音色とヘヴィ・ミュージックのブレンドはセンスが必要だ。